地方公務員が業務上の災害で亡くなると、夫は55歳以上でないと遺族年金を受ける権利がない。妻にはそんな制限はない。
その法律の規定について、大阪地裁が憲法違反で無効だとする判決を出した。
「夫が外で働き、妻は専業主婦」。それがふつうだった昔の考え方に基づいており、もはや合理性がないと判断した。
時代の流れに沿った当然の判断といえる。国は、もっと早く対処しておくべきだった。
地方公務員だけでなく、民間労働者の労災保険や国家公務員の災害補償制度にも同様の規定がある。国は判決を受け入れ、法の改正を急ぐべきだ。
判決は、90年代のバブル崩壊後に加速した社会の変化を分析している。
夫婦が共稼ぎしている世帯の数は、90年代に専業主婦世帯を逆転した。現在は1千万世帯を超え、多数派になっている。
正社員として定年まで勤める日本型の雇用モデルも崩れた。いまは働いている男性の2割弱が非正規雇用となっている。
完全失業率も98年以降、女性より男性のほうが高い。
一方、高度成長期に整えられてきた日本の社会保障制度は、急激な変化に十分対応できているとはいいがたい。
例えば国民年金には、夫を亡くした妻のみが受給できる「寡婦(かふ)年金」がある。
会社員が加入する厚生年金や、公務員の共済年金にも、遺族の夫については60歳以上でないと年金が受け取れないという制限が設けられている。
憲法14条は性による差別を禁じ、最高裁は「合理的な根拠があるときだけ法的格差は許される」との基準を示している。
かつて夫婦の間で稼ぐ力に明らかな差があった時代は、妻を優遇することで平等をもたらす合理性はあったかもしれない。
だが、家庭のありようや夫婦の役割も変わったいま、性別のみを根拠とした格差は逆に不平等をもたらしている。
時代の感覚に照らし、見直していくべきだ。
改善の動きもないではない。母子家庭のみが支給対象だった国民年金の遺族基礎年金は来春から父子家庭にも広げられる。児童扶養手当は3年前から父子家庭にも支給されている。
もちろん、今でも女性の平均経済力の方が低いのも確かで、保育サービスの充実など女性の就労を支える施策は必要だ。
だが、年金など社会保障について「男か女か」で一様に差をつけることはもはや時代遅れの発想というほかない。
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