遺族年金判決 性別格差を正すときだ

朝日新聞 2013年11月28日

遺族年金判決 性別格差を正すときだ

地方公務員が業務上の災害で亡くなると、夫は55歳以上でないと遺族年金を受ける権利がない。妻にはそんな制限はない。

その法律の規定について、大阪地裁が憲法違反で無効だとする判決を出した。

「夫が外で働き、妻は専業主婦」。それがふつうだった昔の考え方に基づいており、もはや合理性がないと判断した。

時代の流れに沿った当然の判断といえる。国は、もっと早く対処しておくべきだった。

地方公務員だけでなく、民間労働者の労災保険や国家公務員の災害補償制度にも同様の規定がある。国は判決を受け入れ、法の改正を急ぐべきだ。

判決は、90年代のバブル崩壊後に加速した社会の変化を分析している。

夫婦が共稼ぎしている世帯の数は、90年代に専業主婦世帯を逆転した。現在は1千万世帯を超え、多数派になっている。

正社員として定年まで勤める日本型の雇用モデルも崩れた。いまは働いている男性の2割弱が非正規雇用となっている。

完全失業率も98年以降、女性より男性のほうが高い。

一方、高度成長期に整えられてきた日本の社会保障制度は、急激な変化に十分対応できているとはいいがたい。

例えば国民年金には、夫を亡くした妻のみが受給できる「寡婦(かふ)年金」がある。

会社員が加入する厚生年金や、公務員の共済年金にも、遺族の夫については60歳以上でないと年金が受け取れないという制限が設けられている。

憲法14条は性による差別を禁じ、最高裁は「合理的な根拠があるときだけ法的格差は許される」との基準を示している。

かつて夫婦の間で稼ぐ力に明らかな差があった時代は、妻を優遇することで平等をもたらす合理性はあったかもしれない。

だが、家庭のありようや夫婦の役割も変わったいま、性別のみを根拠とした格差は逆に不平等をもたらしている。

時代の感覚に照らし、見直していくべきだ。

改善の動きもないではない。母子家庭のみが支給対象だった国民年金の遺族基礎年金は来春から父子家庭にも広げられる。児童扶養手当は3年前から父子家庭にも支給されている。

もちろん、今でも女性の平均経済力の方が低いのも確かで、保育サービスの充実など女性の就労を支える施策は必要だ。

だが、年金など社会保障について「男か女か」で一様に差をつけることはもはや時代遅れの発想というほかない。

毎日新聞 2013年12月01日

遺族年金で違憲 男女差なくす対策急げ

公務災害で地方公務員の夫を亡くした妻には年齢を問わずに遺族補償年金が支給されるのに、妻が死亡した夫だと55歳以上でなければ支給されない。地方公務員災害補償法の男女差を設けた規定について、大阪地裁は、法の下の平等を定めた憲法に違反するという判決を出した。

この年齢制限規定は「夫は正社員、妻は専業主婦」という家庭モデルが一般的だった1960年代にできた。だが、その後、女性の社会進出で共働き世帯が上回り、終身雇用や年功序列といった雇用慣行も崩れてきた。「性別で受給権の有無を分ける差別的取り扱いに合理的な理由はない」という判断は当然だ。

原告の男性は教諭の妻を亡くした後、勤めていた会社を辞め、退職金や蓄えで生活してきた。遺族補償年金を申請したが、妻の死亡時に51歳だったため不支給とされた。国などは裁判で、高齢でない夫は一人で生計を維持できるが、妻は就労が難しいことが多い実情を踏まえた規定であり、今でも合理的だと主張した。

しかし、バブル崩壊後の企業のリストラなどで労働環境は不安定になってきた。中高年だけでなく若い男性でも失業や非正規労働が増え、生計を立てるのが苦しくなっている。就労の機会や労働条件が厳しい事情は、男女いずれにも言えることだ。

欧州の主要国では受給資格の男女差は既に撤廃されている。一方、日本では同様の規定が労災保険や厚生年金などで維持されている。国民年金にも夫を亡くした妻だけに支給される寡婦年金がある。夫が安定した正社員であることを前提とした社会保障制度を点検し、社会情勢に対応できるよう見直していくべきだ。

国が何の手立ても講じてこなかったわけではない。母子家庭のみに支給されていた児童扶養手当は父子家庭に対象を広げた。国民年金の遺族基礎年金も来年から、父子家庭にも支給されることになった。

こうした男女差の規定をなくす動きは評価できる。だが、そもそもの問題は、国が主張するように、女性の就労が難しく、男性より不利な状況が解消されていないことにある。

一般労働者の女性の平均賃金水準は男性の7割しかない。第1子を出産した女性の6割は退職し、再び働くには派遣社員やパートなどに就かざるをえない。子育ての面でも、保育所に入れない待機児童の問題などを抱えている。

女性が働きやすい環境を整備するのは国の責務である。国は、受給権に男女差を設けることがなお合理的だと言う前に、取り組むことがあるはずだ。女性の生活・就業を支援し、活躍できる場を広げる施策を急ぐべきである。

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