減反「廃止」 これで改革が進むのか

朝日新聞 2013年11月29日

減反「廃止」 これで改革が進むのか

政府は「画期的な政策転換」と胸を張る。

しかし、中身を見ると、抜本改革とは言いがたい。競争力はつかず、補助金ばかりが膨らむ恐れすらある。

コメの生産調整(減反)の見直しのことだ。

現在は、主食用のコメの年間消費見通しを政府がまとめ、都道府県を通じて各農家に生産量を割り当てている。減反に加わらなくても罰則はないが、参加すれば10アールあたり1・5万円のコメ交付金がもらえるため、多くの農家が参加している。

政府は「5年後をめどに生産数量の配分に頼らずにやっていく」とし、1970年に始まった減反を廃止する方向性は打ち出した。コメ交付金も、来年度は半額に減らし、5年後に廃止するという。

減反と高い関税で米価を下支えしてきたことが、消費者のコメ離れに拍車をかけた。じり貧に歯止めをかけるには、減反廃止、関税引き下げへとかじを切り、中核的な農家に絞って所得補償をする仕組みに改めていくしかない。私たちは社説でそう主張してきた。

その第一歩は、「消費見通しに合わせて生産を抑える」という従来の発想から抜け出すことだろう。では、農林水産省は路線を転換したのか。答えは「ノー」である。

農水省は、引き続き需給見通しをまとめ、都道府県ごとの販売・在庫状況や価格情報も加えて農家に提供する。同時に、主食用米からの転作支援を手厚くする。具体的には、飼料用米への補助金を現在の10アールあたり8万円から最大で10・5万円に引き上げる。

転作で、伸び悩みが目立つ麦や大豆より飼料用米に力を入れるのはわかる。水田にもっとも適しているのはコメ作りだし、需要も見込めるからだ。

ただ、手厚い補助金に誘われて飼料用米を作る農家が相次げば、減反廃止で目指す「農家自らの判断による作付け」は骨抜きになる。零細農家が残り続けて、経営規模の拡大も滞りかねない。肝心の主食用米にみがきをかける取り組みがおろそかになることも心配だ。

農水省はコメ交付金の削減で浮いた財源を使いつつ、新たな補助金も設けることで、「これまでより農家の所得は増える」とPRするのに忙しい。

農家の平均年齢は66歳を超え、耕作放棄地は増える一方。日本農業の中核であるコメ作りは崩壊しかねない――。農水省はそう訴えてきたはずだ。

危機感はどこへ行ったのか。

毎日新聞 2013年12月01日

減反政策の廃止 補助金で改革妨げるな

政府が5年後をめどにコメの生産調整(減反)を廃止する方針を決めた。コメ生産に競争原理を持ち込むことで、意欲ある農家の経営規模拡大を促す狙いがあるはずだ。

しかし、一方では競争力強化に逆行しかねない補助金も拡充される。これでは、何を目指しているのか分からない。国内農業を自立させるためには、整合性のある政策で将来像を示すべきだ。

政府は主食用のコメが供給過剰にならないよう、需要予測を基に生産量の上限目標を決め、都道府県を通じて各農家に配分している。2018年度をめどにこの配分をやめる。それに合わせて、減反に協力する農家に支給している一律補助金を来年度から半額の7500円に引き下げ、減反廃止とともに終了させる。

1970年に本格導入された減反でコメの価格が維持された結果、やる気のある農家への農地集約はなかなか進まなかった。生産性が向上しないことで産業としての魅力も損なわれ、農業の衰退が進んだ。

安倍晋三首相は、今後10年間で農家の所得を倍増させるという目標を掲げた。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)をにらんでも、農業の体力強化は欠かせない。減反をやめて自由競争に委ねれば、効率の高い大規模農家への生産集約が加速し、稼げる農業への脱皮が期待できる。減反廃止は農業自立のために避けられない選択と言えるだろう。

しかし、今回の方針には大きな疑問が残る。家畜のえさにする飼料用米などへの転作を促す補助金を増額し、主食用のコメを作るのとほぼ同等の収入を得られるようにするというのだ。

それによって、競争が厳しくなりそうな主食用から飼料用に切り替える農家が増えると、主食用の生産が抑えられ、減反と同様の効果が生まれる。生産量が増えなければ競争原理は働かない。コメの値段が維持され、やる気のある農家への農地集約が妨げられる可能性がある。そうなっては減反を廃止する意味がない。

水路、農道などの維持管理や環境保全のための共同活動に補助金を支払う制度も新設される。こうした補助金も地域でプールされ、バラマキ的な使われ方をされないよう注意しなければならない。

政府は補助金の拡充などで農業集落の所得は13%増えると説明している。しかし、補助金漬けを続けていては農業の自立は遅れるばかりだ。

政府は今国会に、農地を集約して生産者に貸し出す「農地中間管理機構」創設の関連法案を提出している。規模拡大による競争力強化に本腰を入れたはずだ。それを妨げる補助金は再考する必要がある。

産経新聞 2013年12月01日

減反廃止と補助金 新たなバラマキとするな

コメの生産を抑えて価格の維持をはかる生産調整(減反)制度が5年後をめどに廃止されることになった。

そもそも、作らないことで国が補助金を出す制度は、産業政策として極めていびつだ。生産意欲のある中核農家を育てていくためにも、自由な農業経営を支える環境づくりは当然だ。農業改革に向けた政府の決断を歓迎したい。

しかし、減反廃止にあわせて政府が導入を目指す新たな補助金制度については、新たなバラマキとの疑念も拭えない。

現在、減反に参加した農家に対し、10アール当たり1万5千円が支給されている定額補助金については、来年度に半減するとされたが、それ以降の全廃に至る具体的減額プロセスは明示されていない。早急に、はっきりさせる必要があるだろう。

減反廃止にともなって懸念される主食用米の過剰生産を回避するため、農林水産省は、飼料米などへの転作を促す補助金を増額する方針だ。予算は減反の廃止分が転用されるという。だが、コメ作りを中心とした今の農業のあり方のままでいいのかという議論は、今回も置き去りにされたままだ。

中山間地の農地保全などを目的に新設される「日本型直接支払制度」にも疑問は残る。

いまや滋賀県の総面積に相当する耕作放棄地を、これ以上増やさないようにする施策の必要性は理解できるが、あぜの草刈りなどにも支給し、結果として全農地(約460万ヘクタール)の9割近くが対象になるとあっては、制度の意味に首をかしげざるを得ない。

環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉が大詰めを迎える中で、日本農業は早急な競争力の強化が求められている。

日本農業の基本政策として40年以上も続いてきた減反だが、兼業・小規模農家の保護が、結果的に農村の疲弊を早め、耕作放棄地を増やしてきたのも事実だ。廃止は時代の要請でもあり、実施に移す中で再び農家の横並び保護策になるようでは本末転倒だ。

農業を成長産業と位置づける安倍晋三政権には、生産強化の経済対策と集落維持の社会対策を明確に分ける姿勢がほしい。

減反廃止本来の趣旨が失われることのないよう、政府は今後の具体的な制度設計で明確な答えを用意していく責務がある。

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