朝日新聞 2013年11月30日
学力調査公表 序列化解禁ではない
副作用の強い薬を使うなら、使用上の注意を徹底すべきだ。
全国学力調査の学校成績を公表するかどうかは、各校の判断に任されてきた。これを来年度から、市区町村の教育委員会の判断で公表できるようにする。文部科学省がそう決めた。
これは「学校ランキング」の解禁ではない。文科省はそう強調する。自ら決めた以上は自治体任せにせず、運用に目を光らせる責任がある。
これまでも、フライングをする自治体はあった。たとえば今年、静岡県は上位校の校長名を一覧にして公表した。
新ルールは、そうしたやり方にお墨付きを与えるものではない。むしろクギを刺す内容だ。
《学校の序列化や過度な競争を防ぐため、各校の平均点の一覧表や、順位をつけた公表はしない。点数だけでなく、結果の分析と改善策も示すこと》
公表するときは、学校と事前に相談することも求めている。学校の意向を無視した強引な公表は許されまい。
文科省の事前アンケートで、ルール改正に賛成が多数を占めたのは都道府県の知事だけだ。市町村の長や教委、学校は反対が圧倒的。保護者も賛否が割れ、反対がやや上回った。
学校や家庭の心配が根強いのに、なぜ「来年から」と急ぐのか、疑問が残る。各教委は、学校だけでなく保護者の意向も確かめて慎重に判断すべきだ。
公教育には、どの街のどの学校に通っても力がつくようにする使命がある。親や納税者への説明責任がある。だから情報公開が必要だと文科省はいう。
ならば、大切なのは情報を格差是正に役立てることだ。自治体は下位校の先生や予算を手厚くするなど改善の手を打ち、次からのテストで効果を確かめて市民に説明してほしい。
調査結果には日々の生活と学力の関係の分析データも含まれている。図書館に通う、ニュースに関心を持つなど、お金をかけずに学力を伸ばせることを説明すれば保護者の役に立つ。
成績が伸びた学校の授業実践例など、校名の必要な情報もあろう。だが、校名なしでも出せる情報は多いはずだ。まずそこから公開に取り組むべきだ。
昭和30年代の全国学力テストでは、成績のいい学校への越境入学が問題になった。今は、学区を越えて小中学校を選べる市区町村が15%もある。学校格差を広げるリスクは高い。
大学入試では「1点刻みの競争を改める」方向が打ち出されている。まして義務教育はなおさらだろう。
|
毎日新聞 2013年11月30日
学力テスト成績 学校別の公表は無用だ
学力向上のためのテストが、学校ランク付けの手段にすり替わりはしないか。文部科学省は、これまで学校が個別の自主判断で出す例以外は禁じてきた全国学力テストの学校別成績公表を、市区町村教育委員会の判断によってできると認めた。来年度のテストから実施される。
一律ではなく、教委が学校と話し合ったうえでとされているが、最終決定権は教委にある。
2007年度に始まった現行テストは小学6年生、中学3年生を対象に国語、算数(数学)の2教科について行われる。民主党政権下で抽出方式も採用されたが、現政権は全員参加方式を続けるとしている。
文科省がテスト実施要領で学校別成績(正答率)の公表を認めなかったのは、1960年代に廃止された旧学力テストで学校や地域間の競争が過熱し、対策補習や不正行為などで混乱した苦い歴史があるからだ。
学力の実態を探るはずのテストが、競争のために取り繕いやごまかしを誘う皮肉な構図になった。
今回、文科省は首長らの要望や「説明責任」などを理由に“解禁”に踏み切ったが、かつての混乱を招かぬという確証はどこにもない。そもそも、判断を教委にゆだねること自体、責任の丸投げではないか。
学校が板挟みになって苦悩する事態が今から懸念される。
またテスト本来の目的に照らしても、学校別成績公表は無用だ。子供たちの得手不得手の傾向や特徴をつかみ、個別の指導に生かすという趣旨からいえば、結果分析をどう指導に反映させ、先に向かって改善していくかが最も肝要だ。学校別数値の差異に一喜一憂することではない。
今回の改定でも文科省は、学校名と正答率だけの公表を認めず、結果の分析や改善策とともに示すよう求めている。正答率で学校を順位付けすることも禁じている。しかし、数値が出れば順位一覧表はできる。
むしろ正答率などより、結果に見る学力傾向と今後の指導計画を保護者や地域に説いた方がずっと理にかなう。そこを主眼とすべきだ。
また、傾向と課題を的確に掌握するには抽出調査で十分と専門家は指摘する。抽出なら学校間の成績競争はない。結果から子供たち全体の改善指導を工夫し、追跡調査で成果を検証していく。その方が、学校の成績順位よりはるかに重要だろう。
教委は、最終決定権者であることで実施を押し通すのではなく、学校や父母とも十分に話し合い、現場の意見をくみとってほしい。
文科省が実施要領に明記するように、テストの結果は「学力の特定の一部分」に過ぎない。決して学校を格づけするものではない。
|
読売新聞 2013年12月04日
国際学力調査 「脱ゆとり」が生んだV字回復
「脱ゆとり」教育によって、学力がV字回復を果たした。教育施策を見直した効果が表れたものと言えるだろう。
経済協力開発機構(OECD)が、義務教育修了段階の15歳を対象に、昨年実施した国際学習到達度調査(PISA)の結果を公表した。
平均得点で見ると、日本は参加65か国・地域の中で、「読解力」と「科学的応用力」が4位、「数学的応用力」が7位だった。
この調査は2000年以降、3年ごとに行われている。日本は1回目は好成績だったが、03年と06年の調査で読解力が14、15位に落ち込んだ。09年調査で改善の兆しが見られ、今回、3分野ともに平均得点、順位が上昇した。
成績アップの背景として考えられるのは、文部科学省が08年の学習指導要領改定で、ゆとり教育からの転換を目指し、学習内容と授業時間を増やしたことだ。
小中学校で討論形式やリポート作成といった、思考力や表現力を育む授業が重視されるようになった。教育現場に指導の検証・改善を促す目的で、07年以降、全国学力テストも実施されている。
こうした取り組みを着実に進め、学力の定着とさらなる向上を図ることが重要である。
今回注目したいのは、数学、読解力、科学のすべての分野で、成績上位層の割合が増え、下位層の割合が減った点だ。
生徒の理解度に応じてグループ分けする習熟度別指導の全国的な普及が、学力水準を底上げするのに役立ったのではないか、と文科省は分析している。
一方、同時に行われた意識調査では、日本の生徒の数学に対する関心が国際的に見て低い実態が浮かび上がった。
例えば、「数学で学ぶ内容に興味がある」と答えた生徒の割合は参加国中、下から4番目だった。「将来の仕事の可能性を広げるから数学は学びがいがある」と思う生徒の割合も2番目に少ない。
同様の傾向は、一昨年に実施された国際数学・理科教育動向調査でも確認されている。日本が「科学技術創造立国」を目指す上で気がかりな結果である。
数学・科学の面白さや、実社会における有用性を伝え、生徒の知的好奇心を刺激する授業を工夫してもらいたい。それが、科学技術分野で活躍する人材を数多く育てることにもつながろう。
教師の資質を高めるために、大学の教員養成課程や教育現場の研修を充実させることも大切だ。
|
この記事へのコメントはありません。