初の参院選無効 司法が発した強い警告

朝日新聞 2013年11月29日

選挙無効判決 当然の責務を果たせ

政治の怠慢に重い警告が突きつけられた。

ことし7月の参院選での一票の格差をめぐる最初の高裁判決である。格差は「違憲」、選挙は「無効」と断じた。

法の下の平等という立憲民主主義の根幹が問われているというのに、選挙制度の改革に向けた国会の動きは極めて鈍い。

そのため判決は、次の3年後の参院選に向けた是正の可能性についても「はなはだ不透明」と、厳しい見方を示した。

もっともな判決である。国会は、来年の最高裁の判断を待つことなく、当然の責務である格差の是正に腰を上げねばならない。

この夏の参院選の一票の格差は、衆院よりも大きい最大4・77倍。2010年の時の5倍からほとんど改善していない。

最高裁は昨年、その10年時点の参院選について「違憲状態」とし、抜本改革を促した。だが国会は定数の「4増4減」の数合わせでやり過ごした。

焦点は、都道府県単位の選挙区だ。各都道府県に最低二つの偶数議席を割り当てる現行制度では、格差をただすハードルはかなり高い。

最高裁はすでに09年時点の判決で、安直な選挙区間の定数ふりかえではなく、抜本的な制度改革を促していた。

きのうの判決は、それから今夏まで3年9カ月たっても改正法案の提出さえできなかった現実を重くみて、違憲とした。

そもそも当の参院がつくった改革協議会の委員会も8年前、現行制度を続ける限り、格差を1対4以内に抑えるのは難しい旨を報告していた。

制度の変更には時間がかかるという言い訳は通じない。

国会議員の選挙制度は、衆参それぞれの役割や権限と合わせて議論すべき問題である。

都道府県ごとの選挙区と比例代表の組み合わせという、衆参とも似通った制度でいいのか。都道府県より大きなブロック制や、比例区だけではどうか。改革するには、参院の存在理由を定義し、それを踏まえた選挙方法を設計する必要がある。

衆院の格差については、最高裁が先週、違憲や無効の高裁判決よりも甘く、「違憲状態」とする判決を出した。

それで国会内には安堵(あんど)が広がり、緊張感がうすれている。違憲状態とされて危機意識をもてない国会に自らをただす能力はあるのだろうか。

参院の格差をめぐっては、今後さらに年内に13の高裁・支部で判決が続く。司法には厳格な姿勢を貫いてもらいたい。

毎日新聞 2013年11月29日

初の参院選無効 司法が発した強い警告

選挙区定数を「4増4減」して実施された7月の参院選について、広島高裁岡山支部は「違憲・選挙無効」の判決を言い渡した。

判決は、現行制度そのものを改革しない限り、憲法が要請する投票価値の平等の実現はありえないと指摘した。1票の著しい格差を放置することに比べ、無効とすることの弊害が大きいとは言えないとも述べた。国会の怠慢への強い警告だ。

無効判断は参院選で初めてだが、2010年参院選を違憲状態とした最高裁判決では「13年選挙が現行法の枠組みで実施されるなら無効とすべきだ」と警鐘を鳴らす裁判官もいた。最大格差が5・00倍から4・77倍に縮小したとはいえ、小手先の対応は通用しない。年内に全国各地の高裁で同種訴訟の判決があるが、厳しい判断が続いてもおかしくない。

参院選で格差を生む最大の要因は、選挙区が都道府県単位になっていることだ。半数改選のため、各選挙区に最低2議席を割り振らねばならず、人口の少ない選挙区では定数を減らそうにも限界がある。あらかじめ選挙区に1議席を割り振る衆院の「1人別枠方式」と併せて、国会は制度見直しを迫られている。

国政選挙のたびに違憲か違憲状態と指摘される状況なのに、国会の動きは鈍い。「違憲の府」から脱するために猶予はないはずだ。

参院では、16年選挙に向けて制度を抜本的に見直し、来年中に改革案をとりまとめる予定だ。都道府県選挙区の見直しに踏み込まざるを得ない。地域ブロックを選挙区とすることも一つの案となろう。

だが、判決は、そういう国会の動きにも手厳しい。07年参院選の最高裁判決(09年9月)が制度見直しの検討を求めて以降、一部の手直しにとどまったとして、「16年選挙に向け、抜本的見直しをした法案が成立する見通しは甚だ不透明といわざるを得ない」と言及した。疑念というより、司法が国会の改革姿勢に強い不信感を表したものと言える。

7月の参院選で衆参両院の与野党ねじれ状態が解消され、「再考の府」としての参院の存在意義が問われている。2院制を有効に機能させるには、議員の選出方法と役割が異なることが必要だ。任期が長く解散もない参院には、長期的、多面的な視点から民意を反映することで安定した国政を継続する役割もある。

1票の格差是正を急がねばならない与野党にとって、中長期的に参院の役割をどう考えていくのかも重い課題だ。私たちは、参院を「地方代表の府」とすることも一つの選択肢と指摘してきた。衆院との機能分担のあり方について、政党は議論を深めるべきだろう。

読売新聞 2013年11月29日

参院1票の格差 選挙無効判決は乱暴に過ぎる

国会の裁量権に踏み込んだ独りよがりの判決と言わざるを得ない。

「1票の格差」が最大4・77倍だった7月の参院選について、広島高裁岡山支部は「違憲」と判断し、岡山選挙区の結果を「無効」とする判決を言い渡した。

参院選を無効とした司法判断は初めてである。

岡山支部は、3月にも衆院選の「1票の格差」訴訟で「無効」判決を出している。同じ裁判長による今回の判決にも、政治や国会への理解不足が目立つ。

判決は、投票価値の平等を憲法上の「最も基本的な要請」と断じ、格差是正を最優先すべきだとの見解を示した。

しかし、昨年12月の衆院小選挙区選を「違憲状態」とした20日の最高裁判決は、「投票価値の平等は選挙制度を決める絶対の基準ではない」と指摘した。

選挙区選は行政区画を基にしており、地理的状況や交通事情にも配慮する必要性を認めたものだ。これは参院選にも当てはまる。

参院では、3年ごとに半数が改選されるため、各選挙区に最低2人を割り振らねばならない。参院特有の事情をどこまで考慮したのか、甚だ疑問だ。

さらに問題なのは「無効」判断である。再選挙のルールも明確でないのに選挙のやり直しを命じるのは、無責任ではないか。

判決は、47選挙区の全てが無効になり、議員が失職しても、比例代表の議員と非改選の議員がいるため、参院の活動には問題がない、という独自の認識も示した。

比例選が民意の反映を重視しているのに対し、選挙区選には、民意を集約して政治の安定を図るという重要な機能がある。選挙区選の機能を軽んじる今回の判決は、参院の民意をゆがめる極論だ。

国会は昨年11月、選挙区定数を「4増4減」する改正公職選挙法を成立させ、最大格差は3年前の5・00倍から縮小した。

今年9月に発足した参院の各派実務者による協議会は、2016年の次回参院選までの制度改革を目指し、検討を重ねている。

岡山支部は、こうした対応を一顧だにしなかった。国会の裁量権をあまりに軽視している。

ただ、国会の取り組みも十分ではない。抜本改革に向けた議論を加速せねばならない。

今回は、参院選後に提起された訴訟の最初の判決だった。被告の岡山県選挙管理委員会は上告する見通しだ。最高裁には現実的な判断が求められる。

産経新聞 2013年11月29日

参院選無効判決 大改革で存在意義を示せ

「一票の格差」が最大4・77倍だった7月の参院選をめぐる判決で、広島高裁岡山支部は定数配分規定を違憲と判断し、岡山選挙区の選挙を無効とした。

参院選の無効判決は初めてで、司法に怠慢を指摘された国会には抜本的な選挙制度の見直しを行う責務がある。この際、「衆議院のカーボンコピー」とも揶揄(やゆ)される院のあり方を含め、大改革に乗り出すべきだ。

これは全国14の高裁・支部に起こされた一連の訴訟で最初の判決だ。今後も厳しい判断が続くと予想される。

昨年12月の衆院選をめぐっても16の高裁・支部で判決があり、選挙無効2件を含む14件が違憲と判断された。上告審で最高裁は判断を「違憲状態」にとどめたが、3人の裁判官は「違憲」の立場で反対意見を述べた。

司法が衆参両院に次々と最後通告を突きつけるありさまは、国の異常事態といってもいい。

格差が最大5・00倍だった平成22年参院選について「違憲状態」と判断した昨年10月の最高裁判決は、「都道府県単位の選挙区設定を改めるなどし、速やかに不平等を解消する必要がある」と指摘していた。

だが、国会は選挙区の議席配分を「4増4減」とする微修正のみで7月の選挙に臨んだ。抜本的な見直しは「次回28年選挙に向け結論を得る」と付則で規定するにとどめた。

その後の論議も活発とはいえず、結論を先送りした付則について、岡山支部が「見通しは、はなはだ不透明」と疑ったのも当然といえるだろう。

自らの身分にかかわる事柄のため、小手先の見直ししかできないなら、第三者機関にその任を託すしかないのではないか。

4月に産経新聞が公表した「国民の憲法」要綱は、参院選挙制度の抜本改革を提言した。現憲法は衆参の国会議員を国民が直接選挙するよう定めているが、要綱は参院議員に限り「直接選挙および間接選挙」で選出するとした。

衆院の権能を強めた上で、参院には「良識の府」の役割発揮を期待し、外交・安全保障などの国家的課題に取り組むほか、地方の意見を国政に反映させる人材を選ぶなどの考えからだ。

未来に向けた大改革の参考にしてほしい。

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