イラン核協議 外交解決への歴史的一歩だ

毎日新聞 2013年11月25日

イラン核協議 歴史的な合意を大切に

確かに歴史的である。10年余に及ぶイランの核問題解決への一歩であり、1980年に断交した米・イランの関係改善の足場にもなる。経済制裁の緩和はイラン国民の長年の苦しみを癒やすだろう。国連安保理常任理事国にドイツを加えた6カ国とイランの合意(「第1段階の措置」)を歓迎したい。中東の緊張緩和へ大きな可能性を秘めた合意である。

その半面、6カ月続く、この信頼醸成措置が頓挫すれば、米・イランの雪解けムードは一転、険しい対立に戻りかねず、「両刃の剣」の危うさがあることを再確認したい。合意の破壊を虎視眈々(たんたん)と狙う勢力は米・イランの国内外に存在する。貴重な合意を大切に守るべきである。

協議の眼目は、制裁緩和と引き換えにイランの核兵器開発の道を封じることだ。合意によればイランは濃縮度5%超のウラン製造をやめ、高濃縮ウランは核兵器に転用できないよう処理する。プルトニウムを抽出できるイラン中部アラクの重水炉は建設作業を実質的に止めるという。

ウラン濃縮についてイラン側は核拡散防止条約(NPT)に基づく固有の権利(原子力の平和利用)と強く主張した。欧米側はこれに一定の理解を示し、3・5%程度の低濃縮ウランには厳しい歯止めを設けないなどイランの体面に配慮した。

米政府によると、第1段階の措置により70億ドル(約7000億円)程度のイラン資産の凍結が解除されるという。高い失業率や財政難にあえぐイラン国民には明るい材料だ。

暗い材料は、イランと敵対するイスラエルのネタニヤフ首相が、今回の協議を「悪い取引」と非難し、場合によってはイランの核施設を空爆する構えを崩していないことだ。親イスラエルの議員が多い米議会では、イランに対する制裁強化法案を採択する動きもある。

アラブ諸国にも反発がある。サウジアラビアが安保理非常任理事国になるのを拒んだのは、オバマ政権の中東政策への不満の表明だろう。シーア派系イスラム教徒はイラン、イラク、シリアで政権を握っており、シリアのアサド政権が生き延びてイランが対米関係を改善すれば、シーア派の力はさらに強まる。そんな危機感がサウジなどスンニ派イスラム教徒主導の国には強いようだ。

だが、イランが核兵器開発と明確に一線を画すのは歓迎すべきことだ。米・イランの対立を終わらせるのも意義がある。アラブ諸国などの不満はイランが合意を順守すれば解消することもできよう。北朝鮮の核開発は、米朝の枠組み合意が崩壊し、6カ国協議も宙に浮いたままだが、そんな失敗を繰り返さぬよう注意深く着実に前進したい。

読売新聞 2013年11月25日

イラン核協議 外交解決への歴史的一歩だ

イラン核問題の外交的解決に向けて大きな前進である。合意を着実に履行し、中東の緊張緩和につなげねばならない。

イランの核兵器開発疑惑を巡り、イランと、国連安全保障理事会常任理事国(米英仏露中)にドイツを加えた6か国は、問題解決に向けた「第1段階」の措置で合意した。

履行期間は6か月で、その間に最終的な解決策を探る。

2008年に開始した協議で、初の合意である。イランは安保理で制裁決議を受けても、ウラン濃縮をやめず、中東の不安定要因となってきた。具体的措置を受け入れた意義は大きい。

今回合意した「第1段階」では、イランは、核爆弾製造につながる濃縮度20%ウランの生産を止める。核兵器の原料であるプルトニウムを生み出すことができる重水炉の建設も中断する。

措置の履行確認には、国際原子力機関(IAEA)の査察官が監視にあたる。

米欧側は経済制裁を一部緩和し、イランに対して、海外の金融機関で凍結されている、石油輸出代金42億ドル(約4200億円)などを受領できるようにする。

イランは、IAEAに協力し、合意を誠実に実行しなければならない。第1段階で、米欧との間で、信頼を醸成することが、国際的な制裁で疲弊した経済の立て直しへと続く唯一の道である。

今回の合意は、イランと33年前に断交し、敵対してきた米国には、中東外交の転換をもたらす歴史的な節目になる可能性があろう。

オバマ大統領は声明で、「(イラン核問題の)包括的解決に向けた重要な第一歩」と歓迎した。

イランは原子力の平和利用のためにウラン濃縮の権利があると主張しているが、今回の合意では結論が出なかった。イスラエルや、米議会強硬派からは、合意そのものへの強い反発が出ている。

これらの課題を一つずつ乗り越え、全面的な外交解決を目指す努力が、国際社会に今後求められよう。イランの核問題が解決に向かえば、北朝鮮に核放棄を迫る国際的な圧力を強める契機ともなるのではないか。

岸田外相は今月、イランを訪問し、ザリフ外相との会談で、日本向けタンカーの大半が通過する、ホルムズ海峡における航行の自由確保で合意した。

イラン情勢は、日本のエネルギー安全保障に直結する。核問題の外交的解決を目指し、日本も積極的に役割を果たすべきである。

産経新聞 2013年11月26日

イラン核協議 合意を中東安定の一歩に

イラン核問題をめぐる協議で、米欧などの6カ国とイランが全面解決に向けた「第1段階」の措置について合意した。

イランの核開発は着実に進んでいる。イスラエルが核施設への武力行使に踏み切れば、戦争に発展しかねないという危機が懸念されてきた。そうした状況をひとまず回避した今回の合意を歓迎したい。

ただし、第1段階は、本格交渉の前提として核開発に当面の歯止めをかけるにすぎない。イランの核兵器開発の完全阻止を目指す交渉には多くの難関が控えており、今後半年間が正念場だ。

合意では、イランが、核開発に至りやすい高濃縮ウランの製造や重水炉の建設などを凍結・中断するのと引き換えに、6カ国側が石油化学製品の禁輸の一時停止など対イラン制裁を緩和する。

イラン側は、一連の措置を検証可能な形で誠実に履行しなければならない。同時に、6カ国側は他の制裁を維持し圧力にして、包括的解決につなげてもらいたい。

一方で、オバマ米民主党政権は、イランと敵対するイスラエルやサウジアラビアの不満や不安を鎮め、米下院多数派の共和党に強い交渉への反発を抑えるという難しい舵(かじ)取りも求められる。これまで以上の説得が欠かせない。

第1段階合意の背景には、原油輸出や金融部門に対する国連安保理や米国主導の制裁が、イラン経済に打撃を与えたことがある。

加えて、今夏に就任したイランのロウハニ大統領とオバマ米大統領が33年前の断交後初めて電話による首脳対話を実現させるなど、米・イラン双方に年来の緊張を緩和しようという機運が兆した。

そのイランでは、米欧を敵視する保守強硬派の勢力が依然強い。交渉では圧力だけでなく、ロウハニ大統領を追い詰めない柔軟性も必要だ。核交渉は、孤立してきたイランを国際社会に引き戻すプロセスと位置づけることもできる。今回の合意をその第一歩としてほしい。

イランは中東の地域大国で、シリアのアサド政権にも大きな影響力を持つ。シリア内戦の事態打開をにらんでも、イランの国際社会復帰の意味は小さくない。

イランと伝統的な友好関係を持つ日本も、イランに積極的な働きかけができるのではないか。閣僚レベルでの接触などを重ね譲歩を促し続けるべきだろう。

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