都知事に5000万円 明確に説明責任を果たせ

毎日新聞 2013年11月23日

猪瀬氏に5000万円 「借入金」は通用しない

何とも驚くべき事実が、猪瀬直樹東京都知事本人の口から明らかにされた。昨年12月の都知事選に立候補することを決めた猪瀬氏が11月中旬、医療法人「徳洲会」の徳田虎雄前理事長にあいさつ回りをしたのちに、前理事長の次男の徳田毅衆院議員から直接、5000万円を受け取ったというのである。

猪瀬氏は記者会見で、5000万円はあくまで個人的に借り入れたもので、亡くなった妻名義の貸金庫に入れたまま使わずに返済し、選挙資金とは無関係だったと強調した。しかし、選挙直前に5000万円もの大金の提供を受けながら、選挙と無縁とはとても世間に通用する話ではない。猪瀬氏の説明は納得できない。

公職選挙法は、候補者の選挙運動費用収支報告書の提出を義務づけ、その収入には借入金も含まれる。未記載も含め報告書に虚偽の記入をした場合は3年以下の禁錮または50万円以下の罰金だ。猪瀬氏側が都選管に提出した報告書には、収入は3050万円でこのうち3000万円は自己資金を充てたと記載され、5000万円の記入はない。猪瀬氏が選挙資金を否定するのも、公選法に抵触する恐れを認識しているからではないかと疑われてもやむを得まい。

猪瀬氏は5000万円を借り入れた理由についても「申し出を断るのもいけないと思った」などと、およそ理解に苦しむ説明に終始した。猪瀬氏が▽昨年12月の衆院選をめぐる徳田議員側の公選法違反(運動員買収)容疑で東京地検特捜部が徳洲会グループを強制捜査した後に返済した▽資産公開の際には5000万円の借入金を記載せず、問題が発覚した22日になって訂正を届け出た−−ことも、表に出せない金だったのではないかとの疑惑を深める要素だ。

それにしても、現職の国会議員と都知事選候補がじかに5000万円の現金をやり取りするとは、あまりに異様な光景だ。当時の石原慎太郎知事の突然の衆院選出馬で降ってわいた都知事選で、副知事だった猪瀬氏は史上最多の約434万票を得て初当選した。しかし、その選挙は金にまみれていたのではないかとの負のイメージを有権者に抱かれても仕方ないだろう。

徳田議員も、5000万円提供の経緯や動機、狙いについて正直に語るべきだ。

特捜部は、徳田議員の姉2人や徳洲会グループ幹部らを逮捕し、大がかりな組織ぐるみの選挙違反事件の捜査を進めている。徳田議員や前理事長からも事情聴取した。徳洲会は66の病院を擁する国内最大級の医療グループで、政治家や自治体幹部らとのつながりも深いとされる。特捜部には今回の5000万円も含め、金の流れの徹底解明を求めたい。

読売新聞 2013年11月24日

猪瀬氏に5000万 「個人の借り入れ」は通らない

極めて不自然な現金の授受である。

昨年12月の東京都知事選で初当選した猪瀬直樹知事が、強制捜査を受けた医療グループ「徳洲会」側から選挙前に5000万円を受け取っていた。

猪瀬知事は昨年11月、グループ創業者の徳田虎雄・元衆院議員を訪ね、知事選への支援を要請した。その後、徳洲会側から資金提供に応じるとの申し出があり、次男の徳田毅衆院議員から議員会館で5000万円を渡されたという。

現金の趣旨は何だったのか。

選挙運動のためであれば、公職選挙法に基づき、選挙運動費用収支報告書に記載しなければならない。知事の収支報告書に5000万円の記載はない。

知事は記者会見で「選挙活動で預金が底をつくかも分からず、個人として借りた」と述べた。選挙資金ではないから、公選法に抵触しないとの主張だろう。

だが、選挙運動に充てる可能性もあったと解釈するのが自然ではないか。支援を要請したのは告示が間近に迫った時期だった。

借用書を渡したと語ったものの、記載内容は明確でない。5000万円は無利子、無担保だったという。常識からかけ離れた現金のやり取りだったと言えよう。

猪瀬知事が主張するように、個人の借り入れだったとしても問題はある。都条例は、借入金などを資産報告書に記載するよう義務付けているが、知事は記載していなかった。問題が発覚した22日になって、資産報告書を訂正した。

返済時期も不自然である。知事は、東京地検特捜部が公選法違反容疑で徳洲会東京本部などの強制捜査に乗り出した直後の今年9月下旬、全額を返していた。

知事は「今年1~2月に返すと伝えたが、チャンスがなかった」と説明している。捜査の進展を受け、慌てて返済したのではないかとの疑念はぬぐえない。

都道府県知事は病院などの開設を許可する権限を持つ。開設後も指導監督する立場にある。

都内には徳洲会グループの病院と介護老人保健施設が存在する。猪瀬知事は、徳洲会側への便宜供与を否定したが、そもそも資金の受領自体、規範意識に欠ける。

都知事は、2020年東京五輪・パラリンピックの開催準備で、中心的役割を担う。今回の問題が、せっかくの五輪ムードに水を差したのは残念である。

問題が長引けば、都政にも支障を来しかねない。知事は早急に説明を尽くすべきである。

産経新聞 2013年11月23日

都知事に5000万円 明確に説明責任を果たせ

東京都の猪瀬直樹知事が昨年の都知事選前に、医療法人徳洲会グループから、現金5千万円の提供を受けていたことが分かった。猪瀬知事は「個人として借りた金」と説明し、すでに全額を返却したという。

返せばそれでいい、というものではない。

猪瀬氏は、首都の知事としての要職にとどまらず、2020年夏季オリンピック・パラリンピック開催都市の首長として、大会の準備を先導する立場にもある。疑惑を抱えたままの知事が、その任にふさわしいとは言い難い。明確に説明責任を果たすことを求める。

猪瀬氏が選挙管理委員会に提出した選挙運動費用収支報告書に「徳洲会」の記載はなかった。「選挙運動に関するすべての寄付」の記載を義務づけた公職選挙法違反の疑いもある。

公選法によると、報告書に虚偽の記載があれば、出納責任者に対して3年以下の禁錮、または50万円以下の罰金が科される。

猪瀬氏には、取材に対して「思ったほど選挙にお金が掛からず、早く返そうと思っていた」と、資金提供の趣旨が選挙目的だったことを暗に認める発言もあった。

ではなぜ、報告書に記載しなかったのか。

徳洲会グループは、徳田毅衆院議員の選挙運動をめぐる公選法違反容疑で、今年9月17日に東京地検特捜部などの家宅捜索を受けた。猪瀬氏が5千万円をグループ側に返却したのは、この後だったという。「たまたま返済の時期が重なった」とする猪瀬氏の説明も不十分だ。

5千万円は徳田議員から直接受け取り、返却に際しては、猪瀬氏の秘書が紙袋に入れてグループ側に手渡したのだという。多額の現金がこうした形で移動すること自体、異様ではないか。

猪瀬知事は昨年12月16日投開票の都知事選で、過去最多の約434万票を獲得して初当選した。都や国、スポーツ界、経済界などがオールジャパン体制で実現させた20年東京五輪招致でも、中心的役割を担った。

知事には今後も、五輪組織委員会のトップ人事や大会に向けたインフラ整備など、多くの分野でリーダーシップをとることが求められる。だからこそ、こうした事態が残念でならない。疑念を残さない徹底した説明が必要だ。

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