◆与野党は選挙制度改革を急げ◆
選挙制度を巡る国会の裁量権を最大限に尊重した司法判断である。
「1票の格差」が最大2・43倍だった昨年12月の衆院選について、最高裁は「違憲状態」にあったとの判決を言い渡した。国会は判決を重く受け止め、選挙制度改革に取り組まねばならない。
最高裁は「投票価値の平等は選挙制度の仕組みを決定する絶対の基準ではない」と指摘した。
小選挙区の区割りを決める際には、「住民構成、交通事情、地理的状況なども考慮し、投票価値の平等との調和を図ることが求められる」との見解も示した。
◆「0増5減」評価される◆
「1票の格差」の是正を絶対視せず、地域事情に配慮する必要性を認めたのは、現実的かつ極めて妥当な判断である。
最高裁は、最大2・30倍だった2009年の衆院選を「違憲状態」と判断していた。昨年の衆院選は格差が拡大していたことから、さらに踏み込み、「違憲」判断を示すとの見方もあった。
見過ごせないほど長期にわたり格差が放置されていると見るのかどうか。
それが、「違憲」か「違憲状態」かの司法判断を分けるポイントだった。
最高裁は今回、期間の長短だけでなく、是正措置の内容や、必要な手続きなどの事情を総合的に考慮すべきだとの判断も示した。今後の重要な指標となろう。
判決は、国会が今年6月に成立させた改正公職選挙法による「0増5減」の是正策について、「一定の前進」と評価した。これにより、格差が2倍未満に縮小されたからである。
区割りを変更するには、衆院選挙区画定審議会(区割り審)による改定案の首相への勧告と、それに基づく公選法改正などの手順を踏む必要があった。
最高裁が、格差是正に一定の時間を要すると理解を示したのもうなずける。
◆地方の声反映が必要◆
判決には、疑問点もある。小選挙区の定数配分で、まず各都道府県に1議席を割り振るとした「1人別枠方式」が事実上残っていることについて、「構造的な問題が最終的に解決されているとはいえない」と言及した。
しかし、この方式の考え方を完全に排除すると、人口減が進む地方の有権者の声は反映されにくくなるのではないだろうか。
最高裁判決を踏まえ、問われるのは国会の一層の取り組みだ。
違憲ではなく、違憲状態と判断されたことを理由に、選挙制度改革論議を鈍らせてはならない。違憲状態でも抜本的改革が必要な状況に変わりはない。
与野党は、精力的に議論を進めるべきである。その際、民意を集約し、安定した政治を実現する視点が欠かせない。
自民、公明の与党と民主党は今月上旬、衆院選挙制度改革について、現行の小選挙区比例代表並立制を当面維持しつつ、定数を削減することで合意した。
◆定数削減を絡めるな◆
だが、与党が、小選挙区の定数は維持して比例定数を30削減する方針を掲げているのに対して、民主党は小選挙区、比例定数の両方の削減を主張している。折り合いはついていない。
自公民3党は近く他の政党と協議を開始する方針だというが、日本維新の会は全体で144もの大幅な定数減を唱えている。
これでは合意は困難だ。そもそも日本の国会の定数は他国と比べても多すぎることはない。定数削減にこだわる必要はない。
定数削減は切り離して、制度のあり方を考え直すべきだ。
各党の利害がぶつかる選挙制度について、政党間で合意することは難しい。与野党は抜本改革の大きな方向性を早急にまとめた上で、安倍首相が提案するような、有識者による第三者機関に具体案づくりを委ねるべきだろう。
衆院議員の残り任期が3年余りとなる中、法改正作業や新制度の周知期間を考慮すると、残された時間は十分と言えない。
自公民3党が主張しているように、現行制度を基本的に維持しながら、1票の格差の是正を図るのも一案だろう。
参院も2016年の次期参院選から新制度に移行することを目指している。今年7月の参院選でも1票の格差を巡る訴訟が全国で提起され、各高裁・支部が今月末から順次判断を示す。それが改革論議にも影響を与えよう。
与野党は、衆参の役割分担を考慮し、同時に選挙制度改革を図るのが望ましい。
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