衆院選違憲状態 国会の裁量に配慮した最高裁

毎日新聞 2013年11月21日

衆院「違憲状態」 怠慢国会もう許されぬ

最大2.43倍だった昨年12月の衆院選の「1票の格差」をめぐる訴訟で、最高裁大法廷が「違憲状態だった」との判決を言い渡した。2009年の衆院選をめぐる判決に続く「違憲状態」の判断だ。

「違憲状態」とは、投票価値が不平等な状態での選挙ではあるが、それを正すにはもう少し時間がかかるので「違憲」としないことを意味する。それでも憲法の求める投票価値の平等が実現しない区割りでの衆院選が、2回続けて行われた事実に変わりはない。また、14人の裁判官のうち3人は「違憲」の判断だった。

こうした点を踏まえれば、国会や政府は「違憲」にまで踏み込まなかった最高裁の判断を軽くみるべきではない。国会は、抜本的な格差是正につながる選挙制度の改革に、今こそ本気で取り組むべきだ。

最高裁は11年3月、最大格差2.30倍の09年選挙を「違憲状態」とし、47都道府県に1議席ずつを割り振る1人別枠方式が格差の要因だとして、廃止を求めた。

だが、民主党政権下での是正への取り組みは進まなかった。昨年の衆院選は、最高裁が「違憲状態」とした区割りで、1人別枠方式も維持されたまま実施された。

一方、国会は昨年11月、小選挙区の定数を「0増5減」し、1人別枠方式を法律から削除する選挙制度の改革法を成立させた。だが、選挙には間に合わず、改正公職選挙法の成立で区割りが見直され、格差が2倍未満に縮小したのは今年6月だった。しかも、1人別枠方式は事実上温存されており、抜本的な制度の是正とはほど遠い内容だ。

今回の最高裁の判決は、こうした国会の取り組みをどう評価するかが最大の焦点となった。場合によっては、違憲・無効の厳しい判断もあり得たからだ。

最高裁の多数意見は、「0増5減」の法改正について「是正の実現に向けた一定の前進と評価し得る法改正が成立に至っていた」と前向きにとらえた。

また、「1人別枠方式の構造的な問題が解決されているとはいえない」としつつ、「(定数是正)問題への対応や合意の形成にさまざまな困難が伴うことを踏まえ、選挙制度の整備については、漸次的な見直しを重ねて実現していくことも国会の裁量として許容される」と述べた。

結局、是正のための時間に客観的な物差しがあるわけではない。国会の裁量権を広くとらえたことが、「違憲」に踏み込まない要因となった。だが、こうした最高裁の消極的な姿勢は疑問だ。政治への配慮が、国会の怠慢を許すことに明らかにつながっているからだ。

選挙権は、議会制民主主義の下で、主権者である国民がその意思を表明して国政に参加することを保障するものだ。

読売新聞 2013年11月21日

衆院選違憲状態 国会の裁量に配慮した最高裁

◆与野党は選挙制度改革を急げ◆

選挙制度を巡る国会の裁量権を最大限に尊重した司法判断である。

「1票の格差」が最大2・43倍だった昨年12月の衆院選について、最高裁は「違憲状態」にあったとの判決を言い渡した。国会は判決を重く受け止め、選挙制度改革に取り組まねばならない。

最高裁は「投票価値の平等は選挙制度の仕組みを決定する絶対の基準ではない」と指摘した。

小選挙区の区割りを決める際には、「住民構成、交通事情、地理的状況なども考慮し、投票価値の平等との調和を図ることが求められる」との見解も示した。

◆「0増5減」評価される◆

「1票の格差」の是正を絶対視せず、地域事情に配慮する必要性を認めたのは、現実的かつ極めて妥当な判断である。

最高裁は、最大2・30倍だった2009年の衆院選を「違憲状態」と判断していた。昨年の衆院選は格差が拡大していたことから、さらに踏み込み、「違憲」判断を示すとの見方もあった。

見過ごせないほど長期にわたり格差が放置されていると見るのかどうか。

それが、「違憲」か「違憲状態」かの司法判断を分けるポイントだった。

最高裁は今回、期間の長短だけでなく、是正措置の内容や、必要な手続きなどの事情を総合的に考慮すべきだとの判断も示した。今後の重要な指標となろう。

判決は、国会が今年6月に成立させた改正公職選挙法による「0増5減」の是正策について、「一定の前進」と評価した。これにより、格差が2倍未満に縮小されたからである。

区割りを変更するには、衆院選挙区画定審議会(区割り審)による改定案の首相への勧告と、それに基づく公選法改正などの手順を踏む必要があった。

最高裁が、格差是正に一定の時間を要すると理解を示したのもうなずける。

◆地方の声反映が必要◆

判決には、疑問点もある。小選挙区の定数配分で、まず各都道府県に1議席を割り振るとした「1人別枠方式」が事実上残っていることについて、「構造的な問題が最終的に解決されているとはいえない」と言及した。

しかし、この方式の考え方を完全に排除すると、人口減が進む地方の有権者の声は反映されにくくなるのではないだろうか。

最高裁判決を踏まえ、問われるのは国会の一層の取り組みだ。

違憲ではなく、違憲状態と判断されたことを理由に、選挙制度改革論議を鈍らせてはならない。違憲状態でも抜本的改革が必要な状況に変わりはない。

与野党は、精力的に議論を進めるべきである。その際、民意を集約し、安定した政治を実現する視点が欠かせない。

自民、公明の与党と民主党は今月上旬、衆院選挙制度改革について、現行の小選挙区比例代表並立制を当面維持しつつ、定数を削減することで合意した。

◆定数削減を絡めるな◆

だが、与党が、小選挙区の定数は維持して比例定数を30削減する方針を掲げているのに対して、民主党は小選挙区、比例定数の両方の削減を主張している。折り合いはついていない。

自公民3党は近く他の政党と協議を開始する方針だというが、日本維新の会は全体で144もの大幅な定数減を唱えている。

これでは合意は困難だ。そもそも日本の国会の定数は他国と比べても多すぎることはない。定数削減にこだわる必要はない。

定数削減は切り離して、制度のあり方を考え直すべきだ。

各党の利害がぶつかる選挙制度について、政党間で合意することは難しい。与野党は抜本改革の大きな方向性を早急にまとめた上で、安倍首相が提案するような、有識者による第三者機関に具体案づくりを委ねるべきだろう。

衆院議員の残り任期が3年余りとなる中、法改正作業や新制度の周知期間を考慮すると、残された時間は十分と言えない。

自公民3党が主張しているように、現行制度を基本的に維持しながら、1票の格差の是正を図るのも一案だろう。

参院も2016年の次期参院選から新制度に移行することを目指している。今年7月の参院選でも1票の格差を巡る訴訟が全国で提起され、各高裁・支部が今月末から順次判断を示す。それが改革論議にも影響を与えよう。

与野党は、衆参の役割分担を考慮し、同時に選挙制度改革を図るのが望ましい。

産経新聞 2013年11月21日

最高裁「違憲状態」 現状容認と思い違うな

■選挙制度の抜本的な改革を

最高裁大法廷は、昨年12月の衆院選の「一票の格差」をめぐる全国訴訟の上告審判決で、「違憲とまではいえず、違憲状態にとどまる」との判断を示した。選挙無効の請求は退けた。

国会はこれを、現状の容認と思い違いしてはいけない。

最高裁は昨年の選挙を「前回選挙と同様、投票価値は著しく不平等だった」と断じ、「選挙制度の整備に向けた取り組みを着実に続ける必要がある」とさらなる格差是正を求めている。

民主主義の土俵に対し、繰り返し司法から疑義を突き付けられる異常な状況を、国会は速やかに解消しなければならない。

≪第三者機関を活用せよ≫

選挙制度改革や定数是正が、党の存亡や自らの身分にかかわることを理由に国会議員自らが決断できないのであれば、政府や国会などの第三者機関に抜本改革の議論を託し、これを受け入れる覚悟も必要だろう。

判決は、最大格差が2・43倍だった昨年の衆院選は違憲として弁護士らが選挙無効を求めた計16件の訴訟の上告審だが、高裁判決は戦後初の「選挙無効」2件を含め、14件が違憲、2件が違憲状態としていた。最高裁大法廷でも、14人の裁判官のうち3人は、昨年衆院選の区割り規定は憲法違反だとする反対意見を述べた。

判決が「違憲」ではなく「違憲状態」にとどまったのは、昨年選挙の解散当日に「0増5減」の緊急是正法が成立し、今年6月にはこれに伴う改正公選法で格差が2倍未満となったことを「一定の前進と評価し得る」とし、情状を酌量されたにすぎない。

それにしても、司法の最後通告ともいえる「違憲判決」が相次ぎ、「選挙無効」の判断も2件あった一連の高裁判決から、後退したとの印象を持たれないか。

判決の多数意見は、この問題についての合意形成に困難が伴うことや、漸次的な見直しを重ねることへの理解も示している。国会がこれに安心して改革への歩みを止めることは許されない。

安倍晋三首相には、早急に与野党党首会談を呼びかけるなど具体的な行動をとってほしい。

判決は、最高裁が平成23年に速やかな廃止を求めた「1人別枠方式」について、「0増5減」の区割り改定によっても「構造的な問題は最終的に解決されていると言えない」とした。

都道府県にまず1議席を配分する「1人別枠方式」は、人口の少ない地域の定数が急激に減らないよう、激変緩和措置として取り入れられた。導入から長期間を経ても残され、格差拡大の元凶となっており、合理性は失われた-として廃止が求められた。

≪未来に通用する制度に≫

この方式を明記した関連法の条文を削除した上で新区割りは策定されたが、人口が最も少ない鳥取県で全県定数1とせず定数2としたことなどから「0増5減」では不十分との指摘も相次いだ。

この問題は、人口の少ない地域の定数を単に人口比例に従って例外なく減らすべきか、という、議員の選び方に直接かかわる。

最高裁は憲法が投票価値の平等を求めているとして一票の格差を抑えることは「もっとも重要かつ基本的な基準」とする一方、「選挙制度を決定する絶対の基準ではない」との立場をとってきた。

国会には人口比例にとどまらず、さまざまな目的、判断から選挙制度を構築する裁量権が与えられている。それが合理的なものであれば、投票価値の平等が一定の影響を受けるのはやむを得ないとの考え方からだ。

選挙区の面積や人口、交通や地理的状況など多くの要素を勘案し、いかに国政に民意を的確に反映させるか、知恵を絞らなくてはならない。国会は重要な裁量権を持っていながら見直しを怠ってきた。その責任は大きい。

都道府県単位の人口格差は、今後も広がることが想定される。「0増5減」的な、つぎはぎの策は早晩、立ちゆかなくなる。

自公民3党の協議では、現行の小選挙区比例代表並立制を当面維持しながら定数削減を目指す点で合意しているものの、削減方法では意見に開きがある。

第三者機関を有効に活用し、民意をどのように反映、集約していくか。参院の選挙制度改革もセットに未来に通用する制度構築へ、根本的な議論が求められる。

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