教科書検定基準 領土と歴史の理解に役立つ

朝日新聞 2013年11月19日

教科書検定 「重大な欠陥」の欠陥

執筆者と教科書会社を萎縮させる「改革」はやめるべきだ。

文部科学省が教科書検定の基準改定を打ち出した。

一番の問題は、「改正教育基本法の教育目標などに照らし、重大な欠陥がある場合」は不合格にできるという点だ。

その教育目標には、愛国心や郷土愛、国際協調の態度を養うといった項目がある。具体的には歴史や公民の教科書検定にかかわってくる。

「目標に照らして重大な欠陥があれば、個々の記述の適否を吟味するまでもなく不合格とする」と下村文科相は説明する。

個々の記述を吟味しないで、全体として重大な欠陥があるなどと判断できるのか。

一つ一つ記述を積み上げ、あれもこれも一つの史観に偏っているから不合格だと言われるならまだしも反論はできる。が、「全体に自虐的だ」とか「自国中心主義に過ぎる」とか切り捨てられてしまうならば、抗弁も検証もしようがない。恣意(しい)的な検定になる危険がある。

歴史学者の家永三郎氏との30年を超える教科書裁判で、国が史実の解釈に介入する是非が問われた。この経験から文科省は価値観への立ち入りを控え、学説に基づく客観的な指摘中心の検定姿勢にシフトした。日本の歴史教科書は他国より冷静で客観的だという評価が、海外の学者から出るようになった。

書き手や出版社が、指導要領の枠内で特色ある教科書を自由に作り、採択を競い合う。そのことが教科書の質を高め、記述の妥当さを支えてきた。

今回の改定方針は、その大転換になりかねない。抽象的な基準で不合格にされるかもしれないとなれば、執筆者や出版社は萎縮する。検定制度の根幹である多様さと客観主義が損なわれる。撤回すべきだ。

文科省は、政府見解がある場合はそれをふまえた記述にすることも求めている。

賛否にかかわらず自国の公式見解を知っておく必要はある。ただ、今でも、政府見解がある領土問題や、諸説ある南京大虐殺の犠牲者数の記述には、しばしば検定意見がつく。複数の説に目配りする定めがすでに検定基準にある。政府見解を強調する意図には首をかしげる。

「もちろん、政府見解と違う見解を併記することまで否定しない」と文科相は語る。

検定はこの一線を越えてはならないし、書く側も異論の併記をためらうべきではない。それが文科省のいう「バランスよく教えられる教科書」を作るために最も大切なことだからだ。

読売新聞 2013年11月16日

教科書検定基準 領土と歴史の理解に役立つ

子供たちが学ぶ教科書には、自国の領土や歴史についての正しい記述が不可欠である。

下村文部科学相が、教科書検定基準を見直す方針を表明した。来年度の検定からの適用を目指す。

見直しの柱として、政府の統一見解があれば、必ず記述するよう求めた点はうなずける。

領土や歴史認識に関し、中国や韓国との対立が目立つ。日本の立場を教えることは、他国との関係を正しく理解する助けになる。国際社会で日本の正当性を発信する人材を育てる上でも重要だ。

日本固有の領土である竹島については、韓国が不法占拠している。日本が有効支配している尖閣諸島を巡っては、日中間に解決すべき領有権問題は存在しない。

韓国との間には、いわゆる従軍慰安婦問題や、戦時中に徴用された韓国人労働者の賠償請求権に絡むあつれきも生じている。

1965年に日韓両国政府が締結した日韓請求権協定には、請求権問題は「完全かつ最終的に解決された」と明記されている。個人請求権の問題は解決済みだ。

こうした日本政府の立場を教科書で伝えることは大切だ。

検定基準の見直しでは、通説が定まっていない事項について、断定的な記述をしないことも盛り込まれる。教科書の客観性を担保する上で適切な措置だろう。

例えば、1937年の南京事件の犠牲者数は確定していない。日本では数万人から20万人、中国では30万人以上など諸説がある。

このような事例を扱う際には、特定の歴史観に偏らないバランスのとれた記述が欠かせない。

教科書検定に関し、安倍首相は4月の国会答弁で、愛国心などの涵養(かんよう)をうたった改正教育基本法の精神が生きていないとの認識を示した。自民党の特別部会も「自虐史観の記述がある」として、検定基準の改善を要望していた。

ただ、近隣アジア諸国への配慮を求める近隣諸国条項については今回、見直しが見送られた。

1982年、教科書で旧日本軍の中国「侵略」が「進出」に書き換えられたとの誤報を機に、中国と韓国が反発し、それを沈静化させるために設けられた条項だ。

だが、その後、教科書会社や執筆者が自己規制するなどの副作用も出てきた。

グローバル化が進む現代社会では、近隣諸国に限らず、他国を尊重する姿勢が求められる。

近隣諸国条項は歴史的役割を終えつつあると言える。

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