子供たちが学ぶ教科書には、自国の領土や歴史についての正しい記述が不可欠である。
下村文部科学相が、教科書検定基準を見直す方針を表明した。来年度の検定からの適用を目指す。
見直しの柱として、政府の統一見解があれば、必ず記述するよう求めた点はうなずける。
領土や歴史認識に関し、中国や韓国との対立が目立つ。日本の立場を教えることは、他国との関係を正しく理解する助けになる。国際社会で日本の正当性を発信する人材を育てる上でも重要だ。
日本固有の領土である竹島については、韓国が不法占拠している。日本が有効支配している尖閣諸島を巡っては、日中間に解決すべき領有権問題は存在しない。
韓国との間には、いわゆる従軍慰安婦問題や、戦時中に徴用された韓国人労働者の賠償請求権に絡むあつれきも生じている。
1965年に日韓両国政府が締結した日韓請求権協定には、請求権問題は「完全かつ最終的に解決された」と明記されている。個人請求権の問題は解決済みだ。
こうした日本政府の立場を教科書で伝えることは大切だ。
検定基準の見直しでは、通説が定まっていない事項について、断定的な記述をしないことも盛り込まれる。教科書の客観性を担保する上で適切な措置だろう。
例えば、1937年の南京事件の犠牲者数は確定していない。日本では数万人から20万人、中国では30万人以上など諸説がある。
このような事例を扱う際には、特定の歴史観に偏らないバランスのとれた記述が欠かせない。
教科書検定に関し、安倍首相は4月の国会答弁で、愛国心などの涵養をうたった改正教育基本法の精神が生きていないとの認識を示した。自民党の特別部会も「自虐史観の記述がある」として、検定基準の改善を要望していた。
ただ、近隣アジア諸国への配慮を求める近隣諸国条項については今回、見直しが見送られた。
1982年、教科書で旧日本軍の中国「侵略」が「進出」に書き換えられたとの誤報を機に、中国と韓国が反発し、それを沈静化させるために設けられた条項だ。
だが、その後、教科書会社や執筆者が自己規制するなどの副作用も出てきた。
グローバル化が進む現代社会では、近隣諸国に限らず、他国を尊重する姿勢が求められる。
近隣諸国条項は歴史的役割を終えつつあると言える。
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