CO2新削減目標 対策の好機を逃すな

毎日新聞 2013年11月16日

CO2新削減目標 対策の好機を逃すな

日本は地球温暖化対策に後ろ向きな国だ、というメッセージを世界に発することになるだろう。

政府の地球温暖化対策推進本部(本部長・安倍晋三首相)は、二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの新たな削減目標を「2020年までに05年比3・8%減」と決めた。

ポーランドで開催中の国連気候変動枠組み条約第19回締約国会議(COP19)で、石原伸晃環境相が表明する。原発ゼロと仮定した暫定値だが、京都議定書基準年の1990年比にすると3・1%増となる。

民主党政権は「20年に90年比で25%削減」を国際公約した。だが、東日本大震災で原発が相次いで停止し、火力発電が急増した。政権に返り咲いた安倍首相が見直しを打ち出したこと自体はやむを得ない。

問題は新目標の低さにある。

欧州連合(EU)の「20年までに90年比で20~30%減」や米国の「05年比17%減」と比べても見劣りする。しかも、3・8%のうち2・8%分は植林などによる森林のCO2吸収分をあてる。再生可能エネルギーの導入目標は明示していない。温室効果ガスの9割を占める化石燃料由来のCO2については排出増を見込む。これでは、世界の温暖化対策に水を差しかねない。

福島第1原発事故は、原発頼みの温暖化対策の危うさに警鐘をならした。それでも政府は、原発抜きの対策は難しいと言いたいのだろうか。

新目標の決定過程も不透明だ。

本来なら議論の過程を公表し、国民の意見も聞いて決めるべきだ。ところが今回は、原発再稼働が見通せない中での目標設定に反対する経済産業省と、温暖化対策を進めるには高い目標が必要だとする環境省が対立。首相サイドが調整に入ってまとめた妥協の産物だ。国民の声が反映されたと言えるものではない。

COP19は京都議定書後の排出削減の新枠組みづくりと20年までの削減目標の引き上げ、途上国への資金援助が主要課題となっている。政府は、途上国支援として15年までに総額約1兆6000億円を拠出し、日本の環境技術を普及させる方針も表明する。しかし、国内対策に本腰を入れない国が、どれほど国際社会から評価されるか疑問である。

安倍首相は前回在任時の07年、世界全体で排出量を半減する「美しい星50」を提唱した。先進国は「50年に8割削減」が世界の共通認識だ。

国内の稼働原発は再びゼロになっている。今こそ再生可能エネルギーの導入を加速し、省エネを拡大する好機だ。高い削減目標を掲げ、原発に頼らない温暖化対策に取り組んでいくことこそが、原発事故を経験した日本の使命ではないか。

読売新聞 2013年11月18日

温室ガス目標 やっと「25%減」が撤回された

発電の際、二酸化炭素(CO2)を出さない原子力発電所が一つも稼働していない現状では、温室効果ガスの排出量を減らすのは困難である。

政府が発表した温室効果ガスの新たな削減目標は、控えめながら現実的な数値と言えよう。

2020年度までに05年度比で3・8%削減する――。それが新たな目標だ。原発の再稼働が見通せない中、発電量における原発の比率をゼロとして算出した。

日本のこれまでの目標は、鳩山元首相が09年に打ち出した「1990年比25%削減」だった。国内の合意を得ないまま、唐突に掲げた非現実的な目標が、ようやく改められたことを評価したい。

ワルシャワで開かれている国連の気候変動枠組み条約第19回締約国会議(COP19)で、石原環境相が「3・8%削減」を国際公約として表明する。

不十分な目標という各国の批判は避けられないだろう。05年度比3・8%減は、90年度比にすると約3%増となる。米国の05年比17%減と比べても見劣りする。

安倍首相は、3・8%減について、「あくまで現時点での目標」だと位置付けた。今後、原発の再稼働とともに、より高い削減率へと修正していく方針だ。原発比率が5%上がれば、温室効果ガスは3%ほど削減できる。

各国の理解を得るため、政府は暫定的な目標であることを丁寧に説明せねばならない。

政府は今回、「攻めの地球温暖化外交戦略」もまとめた。

13年からの3年間で、途上国への支援として、官民合わせて160億ドル(約1兆6000億円)を拠出するのが柱だ。COPで途上国側が求めている支援額の3分の1に相当する。

中国などアジア諸国の温室効果ガス排出量を観測できる人工衛星の打ち上げなども盛り込んだ。

現時点では、高い削減目標は掲げられないものの、得意の技術力で世界全体の温室効果ガス削減に貢献する。この姿勢を積極的にアピールすることも大切だ。

削減目標で、より重要なのは、2020年以降の数値である。京都議定書に代わる新たな枠組みが20年に発効する予定だからだ。

COP19では、各国が新たな枠組みでの削減目標をいつまでに提出するかが焦点となっている。

日本政府が20年以降を見据えた温暖化対策を推進するためには、エネルギー基本計画などで原発の将来的な比率を明確にすることが求められる。

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