泥沼の深さに言葉を失う。JR北海道の保線部署で、レール幅の検査値が改ざんされていたことがわかった。
国の特別保安監査が入る直前で、異常を指摘されるのを避けるためだったとみられる。「会社のためと思ってやった」と語った社員もいたという。
監査妨害は鉄道事業法に触れる可能性がある。いや、それ以前の問題として、レールの異常は放置し続ければ列車の脱線につながりかねないものだ。
現場社員が、何をおいても守るべき安全より会社の体面を優先したのであれば、もはや公共輸送を担う資格はない。
深刻なのは、JR北の経営陣が、事態に対処する能力を明らかに失っていることだ。
野島誠社長は、保線業務の改善策を検討する外部専門家の委員会を設ける方針を示した。
だが、レール異常の放置が発覚してからほぼ2カ月たつのに、まだ発足していない。対応の鈍さにあきれるが、経営陣が問題の根深さをいまだ理解していないように見えるのが、いっそう気にかかる。
JR北では今年だけでも、列車の出火・発煙や運転士の覚醒剤使用など、深刻な不祥事が続いている。今回の改ざんも、病根はつながっていると考えるべきだ。保線業務だけの問題とみなしているなら、根治はとうていおぼつかない。
05年にJR宝塚線脱線事故を起こしたJR西日本は、数々の批判を踏まえて、外部専門家がすべての安全策を見直す安全諮問委員会を設けた。
今のJR北は、いつ重大事故が起きてもおかしくないリスクを抱えている。国の指導で、JR東日本から社員8人を期間限定で受け入れたが、その程度ではまったく不十分だ。
経営の構造から社員のモラルまで、多くの分野に精通した外部専門家を集め、社内の問題点を徹底的に洗い直すべきだ。
野島社長は「安全な鉄道をつくりあげるのが私の使命」と述べ、辞任を否定した。10年ぶりの技術系出身トップとして6月に就任し、改革は緒についたばかりとの思いがあるのだろう。
ただ、毎日35万人以上が使う道民の足の立て直しは待ったなしだ。社内の人心一新は避けて通れまい。
経営基盤が弱いJR北は今も事実上の国有企業で、毎年の事業計画や役員選任は国が認可している。事故が起きれば、間違いなく国も責任を問われる。
禍根を残さないよう、国がもっと前に出て、一刻も早く経営陣を刷新すべきだ。
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