中国3中総会 力での安定は得られない

読売新聞 2013年11月15日

中国3中総会 力による社会安定図る習政権

内外で期待された経済改革には、ほど遠い内容といえよう。

中国の習近平政権が、1年前の共産党大会で発足して以来3回目の中央委員会総会(3中総会)を開いた。指導部人事が中心となった1、2回目に対し、今回は、政権の基本方針を打ち出した。

総会後に発表された声明は、焦点の経済改革について、「市場原理が決定的な役割を発揮する」とうたい、外資企業などへの規制を緩和する自由貿易区の建設を加速することを強調した。

一見すると、官中心の放漫投資による成長からの脱却を目指す、李克強首相の経済政策「リコノミクス」に沿った内容と言える。

だが、エネルギーや情報通信などの分野で、独占的に事業展開する国有企業については、従来通り「主導的な役割」を果たす、と明記した。

市場重視の経済改革路線とは明らかに相いれない。国有企業は、党組織と一体化している。その分厚い既得権益層の壁を打ち破れず、妥協を迫られたのだろう。

抜本的な改革抜きに、中国経済の安定成長は望めない。自由な競争を求める国際社会の期待にも応えられまい。

声明で目を引くのは、「最も重要なのは、党の指導の堅持」と述べ、治安維持の重要性を強調していることだ。民主化運動や人権擁護活動、自由な言論などに対する抑圧が一層懸念される。

「国家安全委員会」も新設される。党や政府、軍などが一体となり、テロや暴動に対処する司令塔との見方が強い。米国家安全保障会議(NSC)を意識しているとみられ、対外政策の意思決定に関与する可能性もある。

反日デモに迎合したり、国民の不満をそらしたりするために、尖閣諸島などで威圧行動を強める恐れがあるのではないか。新組織が何をするのか、警戒が必要だ。

中国では、貧富の差などへの不満から年間約18万件の集団抗議行動が起きているとされる。総会直前には、北京・天安門前への車の突入や、山西省党委員会前での連続爆発などの事件も発生した。

習政権が実力によって治安を維持しようとする背景には、これらの民衆の反発があるのだろう。

声明は、司法機関の独立性を向上させるとしているが、司法が党の指導下に置かれている状況には変わりなく、実現は疑わしい。

中国の社会や経済の不安定な状況が長期化する公算は、大きいと言わざるを得ない。

産経新聞 2013年11月14日

中国3中総会 力での安定は得られない

中国共産党の第18期中央委員会第3回総会(3中総会)は「改革深化」を唱える一方で、治安維持強化を打ち出した。

治安の司令塔とみられるのが今回、創設が決まった「国家安全委員会」だ。北京・天安門前の車突入、山西省の連続爆発などの事件を踏まえ、背景にあるさまざまな不満を、党・政府一体の力で押さえ込もうという狙いのようだ。

だが、習近平・李克強指導部は貧富の格差拡大、腐敗の蔓延(まんえん)、農地の収奪、少数民族の弾圧といった、不満の根底にある問題を解決しない限り、真の治安の安定は得られないと知るべきだろう。

3中総会で発表されるコミュニケは歴代政権の針路を示す重要文書で、市場経済化の加速を掲げる李首相の改革策がどの程度盛り込まれるか注目された。事前に公表された首相管轄下のシンクタンクの案には、民間投資家の事業参入や集団所有制の土地売買の容認など具体策が盛り込まれていた。

しかし、コミュニケは、「市場を資源配分の決め手とする改革の深化」などと抽象的な表現に終始し、「公有制を主体とし、国有経済の活力、影響力を不断に増強することで非公有制経済の発展を導く」と国有企業重視の立場を強調したものとなっている。

「改革」という言葉を60回近くちりばめながら、具体策にも欠ける。これでは「見せかけの改革」と評されても仕方あるまい。

それ以上の想定外は、「社会の統治水準を高めて矛盾を解消し、国家の安全を完全なものにするため」に創設するとされた国家安全委員会である。軍、警察、外交など各機関の情報・安保部署を統括した組織とされるが、治安維持に軸足を置くとの見方が強い。

実際、党・政府幹部の腐敗や農地収奪などに対する集団抗議や暴動は、「2006年に9万件超」(中国社会科学院)、11年には18万件に達したとの情報もある。

こうした事態に対応するため、今年の公共安全(治安維持)予算は、約7700億元(約12兆3千億円)と、国防費(公表)の約7400億元(約11兆8千億円)を3年連続で上回ったほどだ。

一連の内なる矛盾を外に転嫁する際の装置として、国家安全委員会が使われる懸念も十分ある。その場合、矛先は真っ先に日本に向かいかねない。習政権の動静はますます要警戒である。

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