戦略特区法案 地域の要望吸い上げよ

毎日新聞 2013年11月10日

戦略特区法案 地域の要望吸い上げよ

アベノミクスの第三の矢である「成長戦略」の目玉とされた国家戦略特区法案の国会審議が始まった。安倍晋三首相の主導で異次元の規制改革を行い、世界で一番ビジネスをしやすい特区を作り、世界から人、モノ、金を呼び寄せるとの触れ込みで今春から検討されてきたものだ。

ところが法案は、経済再生につながる大胆な規制改革とは言えない小ぶりな内容となった。国主導で地域の先進的な取り組みを加速し、経済を活性化させるという言葉や意気込みが空回りした感は否めない。

法案は医療、雇用、都市再生、農業など6分野の規制改革が柱だ。国際医療拠点での外国人医師・看護師の業務解禁や病床の新設・増床の容認、雇用労働相談センター(仮称)の設置、雇用ガイドラインの策定、容積率・用途など土地利用規制の見直し、農業への信用保証制度の適用といった項目が並んだ。これをもとに名乗りを上げた自治体や民間事業者の提案を特区に指定していく。

だが、これで外国企業や海外資金を一気に呼び込めるかというと疑問だ。新しいビジネスが育ち雇用が拡大して日本経済が再生に進むイメージもわかない。規制改革は必要なことだが、国主導で大胆に改革するとの意欲が先行し、何でもできると幻想をふりまきすぎたのではないか。

すでに全国の自治体、民間事業者から特区指定に向け200近い提案が出されている。特区での法人税減税を求める提案が多いが、今回の法案には盛り込まれていない。税金は公平、中立が原則だ。簡単に特区だけまけるわけにはいかないからだ。

法案が成立すれば、担当大臣が任命され、安倍首相を議長とする戦略特区諮問会議が設置される。年明けにも数カ所の特区が指定される見通しだ。特区ごとに統合推進本部ができ、担当大臣や自治体の首長、民間事業者がメンバーとなり特区の具体案を策定する。

東京五輪に向けた都心の開発を念頭に置いた都市再生の分野では、統合推進本部が都市計画を決定し、国が戦略的に特区の街づくりを主導するとうたわれた。ただ、都市計画の主体はあくまで自治体だ。国主導と言っても限界がある。地域の意向に沿わない街づくりがうまくいくはずはない。医療、農業など他の分野も同じだ。

自治体や民間から200近い提案があったのは、規制緩和の要望が強い表れだ。その意向をくみ取り、実情に応じた規制改革をまとめ、国が実現を主導するのならわかる。担当大臣はその調整に力を発揮すべきだ。国家戦略特区が機能するかどうかは、上から目線での規制改革でなく、現場の要望を聞き、きめ細かい対応ができるかがカギになる。

読売新聞 2013年11月12日

国家戦略特区 「看板倒れ」に終わらせるな

国家戦略の名を冠しながら、こんな小粒な規制緩和のメニューでは「看板倒れ」と言われても仕方あるまい。

安倍政権の成長戦略の目玉として、地域を限定して規制緩和を行う国家戦略特区法案の国会審議が始まった。

安倍首相は「大胆な規制改革を実行し、世界で一番ビジネスがしやすい環境を作る」と戦略特区の意義を強調している。

与野党は突っ込んだ国会論戦を展開すべきである。

法案は首相を議長とする「特区諮問会議」を新設し、特区の地域指定や基本方針の決定を行うことを明記した。年明けにも首都圏など3~5か所を指定し、2014年度中に特区を始動させる。

戦略特区は、医療、都市再生、教育など6分野で用意した規制緩和の中から施策を選び、特区ごとに計画を作る仕組みだ。

例えば、高層マンション建設を促進する容積率緩和や外国人医師の受け入れ拡大などを行い、外国人の生活環境を向上させる、といったケースが想定される。

各特区の取り組みを後押しするため、政府は税制優遇など多角的な支援策を検討すべきだ。

問題なのは、特区で実施する規制緩和策の多くが、すでに各府省の抵抗で「骨抜き」にされていることである。

柔軟な雇用制度をはじめ、経済界の期待する規制緩和の多くが見送られた。医療や農業など関係団体の発言力が強い分野でも、緩和策の修正や縮小が相次いだ。

抵抗の強い規制に正面から挑むのを避けた印象は拭えない。

いい食材がないとおいしい料理が作れないように、肝心の緩和メニューが踏み込み不足では、いくら味付けを工夫しても、効果的な特区作りは望み薄だろう。

法案が成立すると、諮問会議が規制緩和の司令塔となる。規制を所管する閣僚は原則として外す方向だ。各府省に資料提出や説明を求める法的権限も持つ。

首相は諮問会議の権能を有効に活用し、既得権や府省縦割りを打破してもらいたい。今後、強固な岩盤規制に風穴を開けられるかどうかが問われよう。

戦略特区について自治体や企業から200件近い提案が寄せられたが、実現するのはごく一部に過ぎない。自治体や民間の声に丹念に耳を傾け、規制緩和をさらに深化させる必要がある。

戦略特区で効果が確認された規制緩和を、遅滞なく全国に広げる取り組みも忘れてはならない。

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