会計検査院報告 杜撰なインフラ管理を見直せ

朝日新聞 2013年11月10日

会計検査報告 国会の役割に自覚を

違法な契約に基づいて業者に金を支払う。予算の繰り越しで手続きを怠る。不要な資産の処分が進まない……。

会計検査院が12年度の決算検査報告を安倍首相に出した。「問題あり」は630件、総額4900億円に及ぶ。

来春には消費増税が控える。指摘された問題点を改め、国民負担を抑えることは、政府の最低限の務めである。

そのうえで国会が検査を要請した6件、とくに東日本大震災をめぐる2件に注目したい。

ひとつは原発事故に伴う東京電力への国の支援、もうひとつは被災地の復興事業である。

原発事故の賠償で、政府は原子力損害賠償支援機構を通じ、東電に5兆円まで支援できるようにした。東電を中心に電力業界が機構に負担金を納め、政府は機構から長期間にわたって資金を回収する仕組みだ。

東電はすでに3兆円超を使った。枠いっぱいの5兆円に達した場合、政府が資金を回収するのに最長で31年かかる。そんな試算を示しながら、検査院は賠償の総額や時期、財政負担の見通しを示すよう政府に求めた。

被災者への賠償のほか、東電は除染費も負担する。支援はいくら必要なのか。本当に回収できるのか。懸念は当然だろう。

政府・自民党は除染事業への国費の投入へ動き始めた。検査院の動きが、先送りしてきた問題と向き合うきっかけになったのなら、国会が検査院に働きかけた意義はあったと言えよう。

復興事業では、実施の遅れが指摘された。12年度末時点で、約20兆円を確保した復興予算の執行率は77%。国の補助金を積んだ基金(計3兆1千億円)では、8事業で復興事業と他の事業との区分経理が行われておらず、90事業での執行率は3割に及ばない。改善は急務だ。

一方、被災地とは関係の薄い事業への「予算流用」問題に、検査院は無力だった。全国各地の防災対策、日本経済を下支えする事業とも、復興基本法とその後の基本方針で対象とされ、違法とは言えないからだ。

検査院の分析では、約1400の事業のうち、被災地復旧や被災者の生活再建に直結する事業は900件余。3分の1は直接の関係はない。「流用」を許す復興基本法を議員立法で成立させた国会の責任は重い。

検査院をどんどん動かし、予算のムダや国民負担の芽をあぶり出す。浮かび上がった自らの問題点はしっかり受け止め、国民への説明を尽くす。

国会は果たすべき役割を自覚してほしい。

読売新聞 2013年11月10日

会計検査院報告 杜撰なインフラ管理を見直せ

税金が有効に使われていないケースが、相変わらず目立つ。

会計検査院は2012年度の決算検査報告書で630件、4907億円の問題点を指摘した。

日本は先進国で最悪の財政赤字を抱えている。財政再建は待ったなしだ。検査院から改善を求められた各省庁は、予算の適正な執行に取り組まねばならない。

検査院は今回、公共インフラの維持・管理の調査に力を入れた。国民の安全にかかわるからだ。その調査で、杜撰(ずさん)な実態が浮かび上がったことは看過できない。

例えば、高速道路をまたぐ陸橋(()道橋)の管理だ。全国の約4500か所すべてを調べたところ、635橋で点検が実施されていなかった。548橋では点検をしたかどうかすら不明だった。

30年以上経過した陸橋のうち968橋で、コンクリート片の剥落防止措置がとられていなかったことにも驚く。通行中の自動車を直撃すれば、惨事を招きかねない。過去には東名高速道路にコンクリ片が落下した事例もある。

大地震の際、陸橋が崩落すると、高速道路が寸断され、緊急輸送路としての機能を果たせなくなる事態が懸念される。

陸橋は、高速道路による地域の分断対策として、高速道路会社側が建造し、所在地の自治体が管理している。自治体が自らの予算で造った施設でないことが、当事者意識を欠いた対応につながっているのではないか。

高速道路会社と自治体は連携し、安全対策を進めるべきだ。

国道トンネルにも問題が多い。少なくとも11か所で約10年間、定期点検が行われていなかった。

20人が犠牲になった1996年の北海道・豊浜トンネル崩落事故の教訓が生かされていない。検査院が国土交通省に対し、点検の徹底を求めたのは当然である。

JR四国の鉄道橋では、補修の必要性を把握しながら、3年以上修繕していない橋が56か所に上った。中には23年間、放置された橋もあった。安全への認識が希薄だと批判されても仕方あるまい。

国や自治体のお粗末な耐震補強工事にもあきれるばかりだ。橋脚の柱部分に鉄筋コンクリートを巻き付ける工事で、重量の増加を適切に考慮しなかったため、橋脚を支える基礎部分の耐震性がかえって低下したケースがあった。

安倍政権は、国土強靱(きょうじん)化の方針を打ち出している。だが、既存の建造物の基本的な保守・点検がおろそかなようでは心もとない。

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