福島の除染 国費投入で遅れ取り戻せ

毎日新聞 2013年11月09日

事故処理に税金投入 やはり脱原発しかない

原発を国策として推進しながら、事故が起きたら民間の電力会社がその処理費用をすべて負う。そんな無理な政策が行き詰まった。政府は原発政策を早急に見直し、原発に依存しない社会への見取り図を描く必要がある。

自民、公明両党が近く、東京電力福島第1原発事故からの復旧・復興を加速するよう安倍晋三首相に提言する。汚染土を保管する中間貯蔵施設の建設や除染への国費投入を求める。政府もその方向で検討する。事故処理費用を全面的に東電負担としてきた政府方針の転換を意味する。

提言は原発事故被災地の復旧・復興が遅れている現状への強い危機感を示し、汚染水対策や除染などに国費投入を求める。その規模は数兆円に上るとみられる。

首相は「福島の復興が最重要課題」と宣言してきた。しかし政府は、財政負担がどこまで膨らむか見通せないことなどから、東電の陰に隠れ続けてきた。その結果、汚染水対策は遅れ、被災地の復旧・復興は進んでいない。

事故の後始末を東電だけに任せておけないことははっきりしている。国策として原発を推進し、立地や建設費調達が円滑に進むよう支援してきた政府が、責任逃れを続けることは許されない。国費投入は避けられない選択といえる。

国民の税金である国費を投入する以上、同じ過ちを繰り返すことがあってはならない。政府は原発政策の誤りを認め、見直す必要がある。原子力損害賠償法は原発を運営する電力会社に無限責任を負わせている。しかし、業界最大手の東電でさえ、その負担に耐えられなかった。今の仕組みは、現実性のないことがはっきりした。

だからといって、電力会社の賠償責任に上限を設けても問題は解決しない。上限を超える被害の救済は、国費でまかなうしかないからだ。つまり、重大事故が起きれば膨大な国民負担が生じることは避けられないということだ。

全国で、原発の代替電源として火力発電がフル稼働し、天然ガスや石油などの燃料費が年間3兆円以上余計にかかっている。それだけ原発は割安だ、というのが原発推進論の根拠の一つになっている。首相の経済政策アベノミクスで、デフレから脱却する兆しが見え始めたばかりの日本経済にとって、足元の経済性は無視できないだろう。

しかし、それは原発で重大事故は起きないという「安全神話」を前提にして成り立つ話である。神話が崩壊した以上、経済性でも原発の優位性は崩れたといえる。

そうであれば、再生可能エネルギーなど代替電源の開発・普及や省エネを進めながら、できるだけ早く脱原発を進めるべきだ。政府は、その道筋をきちんと描く必要がある。

産経新聞 2013年11月09日

福島の除染 国費投入で遅れ取り戻せ

自民、公明両党が東京電力福島第1原子力発電所事故への対応を抜本的に見直すべきだとする提言をまとめた。

福島の早期復興のためにこれまでの東電任せを転換して国が前面に立ち、除染などに国費を投入することも求めた。

政府も提言に沿って対応を検討するという。遅きに失した感はあるが、国の積極関与は当然だ。なぜなら、わが国の原子力発電は、国策民営で進められてきた経緯があるからだ。

事故は、千年に1度という規模の巨大津波で原発が被災したことに端を発した。炉心溶融や爆発を伴う事故により、放射性物質が外部に飛散して環境を汚染した。2年8カ月が経過した今も15万人が避難生活を送り、農水産物の風評被害も続く。

大変な事故であるがゆえに多くの困難が立ちはだかる。だが、それを考慮しても完全収束に至るべき歩みは極めて緩慢だ。発電所の汚染水対策などはトラブルの連続で後退感さえ漂っている。

最大の原因は、事故当時に国政を担っていた民主党政権の失策にある。事故の責任は東電だけでなく、国も重いはずだが、当時の菅直人政権は東電に全責任を押しつけた。政府に批判が向かわないようにするためだろう。

原子力損害賠償法に定められている特例条項も無視した。原発事故が異常に巨大な天災地変で生じた場合、電力会社の責任を免じると明記されている。東電の責任はあるにせよ、これを適用して最初から国が前面に立っていれば、汚染水対策もここまで後手に回ることはなかったはずだ。

自公提言では、国費の投入で除染作業の迅速化に加え、汚染土などの中間貯蔵施設の整備を求めた。そして「全員帰還」との方針も改め、移住を希望する住民への生活再建補償も盛り込んだ。

東電はこれまで通り事故賠償にあたるが、除染などで国が前面に立つことで、市町村がばらばらに進めてきた作業の効率化が期待できる。その際には、除染の効果と費用負担のバランスを考えた現実的な対応も欠かせない。

東日本大震災で大きな被害を受けた東北3県で福島の復興が遅れているのは、原発事故の対応が進んでいないからだ。汚染水対策を含めて国が事故収束に責任を持つ体制を築くことで、これまでの遅れを取り戻してほしい。

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