薬のネット販売 やむを得ない最低限の規制

毎日新聞 2013年11月07日

薬ネット販売解禁 安全面の重視は当然だ

政府は一般用医薬品(市販薬)のインターネット販売について審査中の23品目の解禁を決めた。劇薬指定されている5品目を除きほとんどの市販薬のネット販売が認められることになる。全面解禁ではないことに批判もあるが、市販薬による副作用被害は毎年多数が報告されており、安全面を重視した結論は妥当だ。

薬には医師の処方箋が必要な医療用医薬品と処方箋なしで販売できる市販薬がある。焦点になっていたのは医療用医薬品から市販薬に転用された23品目。厚生労働省は安全面から慎重姿勢を崩さず、現在「店頭販売から4年間」となっている副作用審査期間を「3年間」に短縮した上でネット販売を認めることにした。

薬のネット販売解禁は安倍晋三首相が成長戦略の看板として約束していた。全面解禁を求めてきた産業界からは反発が強い。政府の産業競争力会議議員の三木谷浩史・楽天社長は「違憲であり、遺憾だ」と批判し、医薬品ネット販売大手「ケンコーコム」の後藤玄利(げんり)社長は「このまま法案が成立すれば提訴せざるを得ない」と記者会見で訴えた。ケンコーコムは最高裁が1月に、ネット販売を一律に禁止した厚労省令を違法とする判決を出した訴訟の原告だ。

たしかに、過疎地に住む人にはネット販売は便利に違いない。小さな薬局が淘汰(とうた)され、郊外の大型薬局チェーン店が主流になると、足腰の弱ったお年寄りの中にもネット販売を歓迎する人は増えるだろう。しかし、利便性の向上と、成長戦略にどれほど効果があるのかという点とは別ではないか。薬局からネット販売事業者に利益が移るだけではないかとの疑問は当初から強かった。そもそも首相が成長戦略の看板に掲げたところに問題の根がある。

厳しい承認審査を経て認可された医薬品も市販後になって新たな副作用が見つかることは珍しくない。市販薬でも重い後遺症を残す副作用はいくつも起きている。薬には予測不可能な要素があることが一般の商品とは違う点だ。安易に成長戦略に位置づけるのではなく、安全性確保を重視した施策を求めたい。

利便性が高まることは評価しつつ、薬の安全性をどう確保していくのかについて原点に戻った議論が必要だ。

既存の薬局での対面販売でも薬剤師が薬の効用や安全性についてほとんど説明していない、というのがネット販売推進派の主張だった。高齢化の進展に伴って複数の慢性疾患を持った人が増えていく。いくつもの薬を服用する人にとって薬剤師は重要な存在であるはずだ。地域医療・福祉の担い手として看護師や介護士と並び、薬剤師が自らの専門性を発揮していくことが求められる。

読売新聞 2013年11月07日

薬のネット販売 やむを得ない最低限の規制

市販薬購入の利便性と安全性のバランスを重視した判断である。

政府は、市販薬のインターネット販売に関し、医療用医薬品から切り替えた薬の場合、3年以内に解禁する方針を決めた。これにより、市販薬の99・8%はネット販売が認められることになる。

今の臨時国会に薬事法改正案を提出し、来春の実施を目指す。

最高裁は1月、市販薬のネット販売について、一部を除いて禁じた厚生労働省令は違法、との判断を示した。その後、ネット販売は野放し状態だっただけに法的な措置がとられるのは評価したい。

「3年以内」の適用対象になる市販薬は23品目ある。このうち、鎮痛薬のロキソニンSなどは来春までに安全性の評価が終わり、法施行後ただちにネット販売が解禁される可能性が高い。劇薬指定の5品目の販売は禁止される。

政府決定の根拠になったのは、医学・薬学の専門家による厚労省の検討会の見解だ。

医師が処方する医療用医薬品からの転用薬について、新たな健康被害が起きかねないとして、「薬剤師が使用者の症状などを直接判断すべきだ」と指摘した。

市販薬でも、数は少ないものの副作用による死亡例はある。特に転用薬は効果も副作用も強い。

ネット販売で問題がないか確認するため、一定期間、販売規制を続けるのはやむを得まい。

その間は、薬局での対面販売でしか購入できない。薬剤師が、副作用の説明や症状の確認をきちんと行うかどうかも問われよう。

厚労省は、転用薬の安全性の評価を迅速に行い、規制期間の短縮に努力すべきだ。

市販薬のネット販売の是非は、政府の規制改革の焦点だった。

ネット通販大手、楽天の三木谷浩史会長兼社長は「ネットこそ安全に薬を販売できる販路だ」と政府決定に反発し、法案が成立すれば提訴する構えだ。この問題を議論した政府の産業競争力会議の民間議員は辞任する意向という。

だが、利便性やビジネスを優先するかのような姿勢は疑問だ。

課題は、いかに副作用被害を防ぐかである。厚労省は、ネット販売を行う業者に対し、薬局・薬店として許可された店舗を持つよう求めている。大量購入を防ぐ手段をとることも必要とした。

偽サイトや偽造薬など悪質業者の監視も強化したい。

利用者は、副作用などの情報をネットで十分に確認したうえ、購入することが大切である。

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