診療報酬増額 医療再生へ大胆な配分を

朝日新聞 2009年12月27日

診療報酬増額 医療再生へ大胆な配分を

来年度の予算編成で焦点だった診療報酬の改定問題は、総額を0.19%引き上げることで決着した。

病院や診療所で受ける治療や薬の価格に当たる診療報酬は、小泉政権時代から引き下げが続いた。今回は10年ぶりの引き上げになる。

報酬引き上げは、保険料負担や患者の窓口負担の上昇にもつながる。デフレが進み、賃金も下がる厳しい経済状況のもとで、引き上げが妥当なのか。厚生労働省の審議会でさえ、意見が割れた中での政治主導による決着だ。

来年の参院選をにらんでの思惑もあるに違いない。だが、それ以上に大きかったのは、これまでのような医療費の抑制を続ければ「医療崩壊」に歯止めがかからない、という危機感だったといえよう。

財政状況は厳しいが、わずかでもプラス改定に転じたことは、鳩山政権が医療現場の再生に向けて踏み出すという意思の表れとして評価したい。

ただ、まだ診療報酬の総枠が決まったに過ぎない。大事なのは、限られた財源をどこにどれだけ配分するかということである。年明けから始まる中身の議論だ。

薬価や医療材料価格の引き下げを加味すれば、医師の技術料である「本体部分」は1.55%の引き上げとなり、医療費が5700億円増える。

だが厚労省の政務三役はもともと、病院勤務医の負担軽減や、産科、小児科、救急医療の立て直しのためには6300億円程度の増額が必要だと主張してきた。今回の引き上げ分だけでは、十分な施策が出来なくなってしまうという理屈になる。

このような状況下で期待したいのは、本体部分の中での開業医と病院、診療科間の配分を思い切って見直し、メリハリをつけることだ。

たとえば、病院より高い開業医の再診料の引き下げは、これまでの改定でも課題とされてきたが、日本医師会などの抵抗で実現しなかった。こうした既得権にも大胆に切り込み、財源を生み出すことが必要だ。

長妻昭厚労相は今回、議論の舞台になる中央社会保険医療協議会のメンバーから日本医師会の代表をはずし、思い切った配分の見直しをする構えを見せている。期待通りの結果を出してもらいたい。

もちろん、開業医の報酬を削りさえすればいいというほど簡単な問題ではない。夜間や休日も診察に応じ、地域医療の担い手として貢献度の高い開業医には、むしろ報酬を手厚くすることで支援を強化すべきだ。

病院と開業医の役割分担、連携も大切で、それが進まなければ、勤務医の過剰な負担も解消されない。

この診療報酬の改定を医療再生につなげなければならない。

毎日新聞 2009年12月28日

診療報酬 医療崩壊は止まるのか

10年度の診療報酬が引き上げられることになった。全体の改定率は0・19%と微増ではあるが、10年ぶりのプラス改定である。医療費抑制を主張する財務省に厚生労働省が猛反発し交渉は難航していたが、薬価を大幅に下げ、医師の技術料を1・55%引き上げることで決着した。大幅アップを求めていた厚労省や医療関係者にすれば不満だろう。日本医師会(日医)は「全国の医師を失望させた」と記者会見で主張した。

ただ、診療報酬が上がれば患者の窓口負担や保険料も上がる。これまで比較的余裕があった健保組合ですら今年度は6150億円の赤字が見込まれ、さらに後期高齢者医療にかかわる協会けんぽの国庫負担を肩代わりする案が来年度予算案に盛り込まれている。財源がないままマニフェストとのつじつまを合わせる一方で、民間の健保組合に負担を押しつけるやり方に批判が強いこともこの機会に指摘しておきたい。

それでも今回の診療報酬改定によって産科や小児科などの医師不足が解消するのであればまだいい。だが、赤字に苦しむ病院の多くは増収分を借金返済や設備投資に回すだろう。地方の医療崩壊を防ぐには一定の効果はあるのかもしれないが、本質的な解決にはほど遠い。また、たとえ医師の報酬が少しアップしたとしても、それで激務の病院勤務を希望する医師がどれだけ増えるだろう。

土日祝日、夜間に訪れる軽症の患者の対応や、本来は看護師や別の医療スタッフに任せるべき仕事まで担い疲弊している医師は多い。そうした現場に財源を投じて医師を増やそうとする前に、仕事量の偏在を解消すべきではないか。今回の改定では急性期の入院医療に重点配分されたが、急性期病院で治療した後の患者の受け皿がないために、ずっとその役割を病院が担っているという側面もある。やはり在宅医療や訪問看護・介護など地域の受け皿を充実させることが必要である。

今後の焦点は報酬の具体的な配分をどうするかに移る。プラス改定でかろうじて面目を保てた長妻昭厚労相は「メリハリを付けて医療再生に結びつけたい」と意欲的だが、開業医が中心の日医は警戒を隠さない。最近は医科と歯科の改定率は同水準だったが、今回は歯科の診療単価が2・09%増と高かった。日本歯科医師連盟が総選挙後いち早く民主党に接近した効果ではないかとも指摘される。長年、自民党を支持してきた日医は配分見直しにおいても冷遇されることを恐れているのだ。

安心できる医療は国民の願いである。政治的な思惑は排し、医療危機の真の原因を見誤らずに「メリハリ」を付けることを望む。

読売新聞 2009年12月28日

診療報酬改定 医療費の配分を大胆に変えよ

保険医療の価格である診療報酬が来年度から引き上げられる。

医師の技術料など本体部分を1・55%上げる。薬価部分で1・36%下げるため、総枠では0・19%のアップとなる。

2年ごとに行われる診療報酬改定は過去4回、社会保障費の抑制路線によって、マイナス改定が続いていた。小幅ながら10年ぶりの引き上げである。

診療報酬の本体は5700億円増加する。厚生労働省はその多くを救急医療や産科、小児科といった厳しい勤務を強いられる分野に振り向ける方針だ。

勤務医不足などで医療現場の疲弊は深刻の度を増している。その改善に真剣に取り組むという政治の姿勢を示す意味でも、必要なプラス改定だったと言えよう。

報酬総枠を拡大するだけでは、医療の疲弊を食い止め、充実へと向かわせるのは困難だ。

診療報酬の細かな配分は年明けから中央社会保険医療協議会(中医協)で議論される。だが、従来の配分実績を微調整するだけでは手厚くすべき分野に十分な報酬がつけられない。“医療予算”も大胆な組み替えが必要だ。

地域医療に粉骨砕身する開業医にはきちんと報いるとの前提で、基本的には開業医の報酬を切り詰め、病院勤務医に手厚くなるような配分改革が要る。

長妻厚労相は中医協から、開業医の既得権を守ってきた日本医師会の推薦委員を排し、大学の医学部長らを入れた。この人事の意義が問われることになろう。

診療報酬の改定率を「医科」と「歯科」で分けて見ると、通例では同率で上下していたのに今回は歯科のアップ率を大きくした。

長妻厚労相は否定しているが、日本歯科医師連盟がいち早く自民党支持を見直し、民主党へ接近した“効果”と見られている。こうした政治力が診療報酬に影響するなら、前政権と同様に、思い切った配分改革はおぼつかない。

民主党は自公政権による医療費削減を強く批判してきた。それだけに医療関係者の間では、アップ率が小幅にとどまったことに失望感が大きいようだ。

財源を確保せずに子ども手当を創設したことで、診療報酬や健康保険の財政支援などに、期待されたほどの予算は回らなかった。子ども手当を、公約通り再来年度から倍増すれば、社会保障の予算編成はさらに厳しくなるだろう。

社会保障施策の優先順位を再検討すべきではないか。

産経新聞 2009年12月28日

診療報酬 勤務医改善に重点配分を

診療報酬が来年度、10年ぶりに総額で0・19%引き上げられる。医師の技術料などにあたる「本体部分」は、医薬品などの「薬価部分」を減らすことで、1・55%の大幅増となった。

過酷な労働条件に耐えかねて辞める勤務医や医療スタッフは後を絶たない。地域の中核病院でさえ閉鎖に追い込まれる診療科がある。診療報酬全体は自公政権下で4回連続マイナスとなっており、医療現場からは「一連の引き下げが医療崩壊を招いた」との声が上がっていた。

だが、診療報酬引き上げは患者の窓口負担と保険料の増加にもつながる。デフレで物価は下落傾向にある。給料が減った国民も少なくない。0・19%とはいえ、総額を引き上げたことには「なぜ医師だけ待遇改善なのか」との批判も出ている。引き上げよりも、医療の効率化や恵まれた開業医の報酬を下げて勤務医の待遇改善に回すことを優先させるべきではなかったのか。

年明けから、中央社会保険医療協議会(中医協)で診療報酬の配分をめぐる議論が始まる。限りある財源を有効に使うためにも、救急医療など疲弊した分野の労働環境や待遇の改善につながるようメリハリの利いた大胆な配分見直しを行うよう求めたい。診療科間の収入格差是正も急務だ。

改定率の内訳では、医科の1・74%増に対し、歯科は2・09%増と異例の差がつけられた。厚生労働省は「同率で改定した場合、医科の方が歯科よりも配分が多くなるため」と説明するが、「参院選で民主党との関係強化を図る日本歯科医師連盟への論功行賞ではないか」との見方もある。疑念を晴らすためにも、政府はさらに丁寧な説明をすべきだろう。

報酬引き上げは待遇改善の大きな要件ではあるが、医師不足がただちに解消するわけではない。勤務医の待遇にどう反映させるかは病院経営者の判断だ。病院の収入増分の大半が設備投資などに回ったのでは元も子もない。

報酬引き上げで、本当に医師不足が解消するのかの検証も大切だ。産科や小児科不足の背景には、医療事故などで訴訟を起こされるリスクを嫌うなど、給与面だけでは解決できない問題も存在する。報酬による誘導策には限界がある。政府は、抜本的な医師不足と診療科偏在への対策を急がねばならない。

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