日本版NSC 議事録作成は不可欠だ

朝日新聞 2013年11月28日

秘密保護法案 欠陥法案は返品を

特定秘密保護法案の参院での審議がきのう始まった。なんども指摘してきたとおり、これが「欠陥品」のたぐいであることは明らかだ。

まちがって欠陥品が届いたら返品するのが常識だろう。とりあえず使い始めて、事故が起きたら直そうか、というあまい話は通らない。

参院は返品、つまり廃案をためらうべきではない。

衆院で修正案を審議した時間はわずか2時間だった。まさに日程優先で、放り投げるように参院に送りつけた。

与党側は、実質8日間しか残っていない会期末までの成立をめざす。この修正案のまま数の力で成立させれば、参院はそれこそ衆院のコピーでしかない。

いま、与党を含めすべての参院議員に問いたい。本当にそれでいいのか。

参院は、まがりなりにも「良識の府」「再考の府」と言われてきた。

特に参院自民党は、ことあるごとに参院の独自性を強調し、衆院への対抗意識を燃やしてきた。絶大な力を誇った小泉政権の郵政民営化法案を、いったんは葬ったこともある。

参院が指摘すべき難点は、いくらでもある。

▼「第三者機関」はいつつくり、どんなメンバーで、どのような権限を持たせるのか。付則や首相答弁だけでは、実現性がまったく不透明だ。はっきりした担保がない。

▼「原則30年」だった秘密の指定期間が修正により、実質的に「原則60年」に延びてしまったのではないか。

▼秘密指定の権限をもつ行政機関が多すぎる。「5年経過後に特定秘密を保有したことがない行政機関は秘密指定機関から除く」と修正されたが、むしろ官僚は無理に秘密をつくろうとするのではないか。

▼知る権利を保障するため、情報公開法や公文書管理法をどう改正していくのか。

疑問は尽きない。米国などとの情報交換のために秘密保護法制が必要と言われるが、いまでも重要情報は日本に伝えられている。この法案の成立を急ぐ理由はまったくない。

日本版NSCと呼ばれる国家安全保障会議の設置法がきのう成立した。外交・安全保障政策の司令塔として米国などとの連携にあたる。

NSC発足にあわせて秘密保護法制の整備を急ぐとすれば、本末転倒ではないか。

特定秘密保護法案は民主主義の根幹にかかわる。参院で一から考え直すべきだ。

毎日新聞 2013年11月28日

秘密保護法案を問う 論戦スタート

特定秘密保護法案が参院で審議入りした。与党は来月6日の今国会会期末までの成立を目指すが、主な野党は徹底審議や廃案を求めており、対立を深めている。

審議が尽くされたとは到底言えない段階で衆院で採決を強行したうえ、1週間程度の参院審議で成立させることなどあってはならない話だ。法案の市民生活への影響など問題点を一層、掘り下げるべきだ。

安倍晋三首相は衆院通過を受けて「参院審議などを通じ(国民の)不安の払拭(ふっしょく)に努めたい」と語った。ならばまず、強引に成立を急ぐような姿勢を取るべきではあるまい。

衆院の駆け足審議ですら約20日を要した。これだけ欠陥が指摘されながら来週中の決着に固執するのであれば参院軽視も甚だしい。

参院でも法案の幅広い問題点が解明されるべきだ。とりわけ、指摘したいのは法案が公務員やメディアのみならず、市民生活に及ぼしかねない影響である。

同法案では一般の人が特定秘密の漏えいを共謀、そそのかし、扇動した場合、実際に情報が漏れなくても最高懲役5年の処罰を受ける。仮に裁判になっても、秘密の内容が明らかにされないまま有罪になる可能性がある。しかもどんな行為や事例があてはまるかが、いまだに明確でない。市民の情報公開要求の脅威にもなり得るだけに重大な論点だ。

また、特定秘密の取扱者は公務員のみならず企業の労働者など提供を受けた民間人も含まれ、プライバシーも含め徹底した適性評価の対象となる。その対象となる範囲や取得した個人情報の漏えい対策、適性に問題ありと判断された場合に企業の人事や異動に影響を与えかねない懸念などの議論も尽くされていない。

衆院でわずか2時間しか審議されていない日本維新の会とみんなの党の修正合意も改めて点検すべきだ。秘密指定を検証、監察するという第三者機関について首相は「設置すべきだ」と語る。だが確約ではないうえ、独立性や設置時期は不明だ。

修正合意には維新の党内に批判が根強く、衆院採決は審議が不十分だとして棄権した。みんなの党も3議員が造反するなど、当事者ですら足元が揺れている。与党が採決に踏み切る要因になっただけにその合意の中身が厳しく問われよう。

衆参のねじれ状態は参院選で解消した。だからといって結果ありきの審議を急ぐようでは2院制の意義や参院の存在意義すら問われる。「抑制の府」の役割を果たしてほしい。

読売新聞 2013年11月27日

秘密保護法案 指定対象絞り「原則公開」確実に

◆参院で文書管理の論議を深めよ

日本にも他の先進国と同様の機密保全法制が必要だとの意思が、明確に示されたと言えよう。

安全保障に関する機密情報を漏えいした公務員らへの罰則を強化する特定秘密保護法案が、衆院本会議に緊急上程され、自民、公明の与党とみんなの党など議席の7割もの賛成多数で可決、参院に送付された。

法案修正で合意していた日本維新の会は採決に反発し、退席した。維新の会が賛成票を投じなかったのは残念だが、与野党の枠を超えた多くの支持によって、衆院を通過したことは評価できる。

◆日本版NSCと両輪だ

ただ、与党とみんな、維新がまとめた修正案に対する審議は十分ではない。「知る権利」が制限されることなどへの国民の懸念が払拭されたとも言い難い。

政府・与党は参院審議で、幅広い支持を目指し、制度の運用のあり方も丁寧に説明すべきだ。

北朝鮮の核・ミサイル開発や中国の軍備拡大など日本の安全保障環境は厳しさを増している。

衆院国家安全保障特別委員会で、安倍首相が「国民の安全を守るため情報収集が極めて重要だ」と述べたのはもっともだ。

安倍政権は、外交・安全保障政策の司令塔となる国家安全保障会議(日本版NSC)を創設する方針だ。同盟国や友好国と重要情報の交換・共有を進めるには、機密が漏えいしない法制を整えることが必要である。

日本版NSCと機密保全法制は、政府の戦略的な意思決定に欠かせない車の両輪と言える。

法案を巡る最大の論点は、政府が恣意(しい)的に秘密指定を拡大し、都合の悪い情報を秘匿し続けるという懸念が拭えないことだった。

首相は、それを誤解だとし、指定範囲が法案の別表に限定され、かつ指定基準も有識者の意見に基づくなど恣意性を排除する「重層的な仕組み」だと主張した。

特定秘密は原則30年で解除される。内閣の承認を得て指定が継続されたとしても、暗号や情報源など7項目の例外を除いて「60年は超えられない」と修正された。

首相は、30年を超えて指定を継続する情報は「7項目に限ることを基本とする」とも表明した。

審議を通じて、政府の考え方が明確になり、指定期間もより限定的になったのは確かだろう。

◆恣意的判断の排除を

それでも官僚機構は、「事なかれ主義」の発想で秘密指定の対象を拡大し、解除にも慎重になることが予想される。

現在、政府が保有する特別管理秘密文書は42万件に上っている。その9割は日本の情報収集衛星に関する情報だというが、特定秘密に移行する際は、さらに対象範囲を絞る努力をすべきである。

特定秘密が大量になれば、政権交代や内閣改造によって「行政機関の長」が代わっても、秘密指定をいちいちチェックし、解除することは、物理的に難しい。官僚が特定秘密を抱え込まない仕組みを工夫することも肝要だ。

秘密指定の妥当性を検証する「第三者機関」設置について、首相は、米国の国立公文書館にある情報保全監督局などを参考に、「設置すべきだと考えている」と踏み込んだ答弁をした。

部外者が特定秘密をチェックするのは無理がある。情報漏れのリスクも生じる。第三者機関を設けるならば、米国にならって、行政の内部組織の方が適切だ。

修正案で、秘密が解除された情報は一定期間後に「原則公開」とされ、後世の検証が可能になるように改善されたと見ていい。

文書の公開や保存、廃棄のあり方は大きな課題となる。民主党が主張するように情報公開のルールを整備し、機密を巡る訴訟で裁判所が対象文書を見ることを可能にするのも一案ではないか。

国会の特定秘密への関与については、与野党が秘密会の運営など議員立法で規定すべきだ。

◆「知る権利」どう担保

法案には、取材・報道の自由への配慮が明記された。報道関係者の取材行為は違法または著しく不当でない限り、罪に問われないとした点は前向きに評価できる。

一部の野党がこの法案を「国民の目と耳、口をふさぐ」「国家の情報を統制し、日米同盟への批判を封じ込める」と声高に非難しているが、これは的外れである。

だが、公務員が萎縮して取材に応じず、報道機関が必要な情報を伝えられなくなる恐れは残る。

安全保障のための機密保全と、「知る権利」のバランスをどうとっていくか。この問題も参院で掘り下げるべきテーマだろう。

産経新聞 2013年11月27日

秘密保護法案 成立に向け大きな前進だ

特定秘密保護法案が与党とみんなの党の賛成多数により、衆院本会議で可決された。

日本維新の会は審議が不十分だとして、衆院特別委員会の採決を棄権し、本会議でも採決時に退席した。

党派を超えてより多くの勢力が賛同する形にならなかったのは残念だ。だが、与党と維新、みんなの4党はすでに、法案修正で合意しており、その内容を実現に向けて進めるべきだった。「与党の強引な採決」との批判はあたらない。

国として安全保障の機密を守る法整備は欠かせない。その認識は維新も含め今後とも共有できるはずだ。知る権利や報道の自由が損なわれないかとの懸念を払拭するため、政府には参院審議でも丁寧な説明を求めたい。

与党は、みんなや維新、民主との修正協議を重ね、維新との間でも秘密指定の状況をチェックする第三者機関の設置を検討することなどで合意に達した。これに基づいて、維新は与党やみんなと共同で修正案を提出した。にもかかわらず、採決に応じないというのは分かりにくい。

党内で修正への異論が強かったため、政府・与党になお抵抗する姿勢を見せる必要があるのか。衆院通過が遅れると、12月6日までの会期を延長する必要性も出てくる。そこにつけ込み、日程闘争をしているようにもみえる。

維新の橋下徹共同代表は「何でも反対の野党なら、国民に愛想をつかされる」と繰り返してきた。ならば、採決拒否ではなく参院審議で主張すべきだろう。

「全面的に民主党案を受け入れなければ修正に応じない」姿勢に終始した民主党は、本気で合意を目指したのかさえ疑わしい。

26日の衆院国家安全保障特別委での答弁で、安倍晋三首相は第三者機関について、米国で機密文書の公開を審査する省庁間上訴委員会などを参考にする考えも示しながら「私は設置すべきだと考えている」と語った。

これまでより踏み込んでおり、審議を通じて修正の方向がより明確になった一例といえる。60年の秘密指定期間について、必要がなくなれば、それを待たずに解除することもはっきりさせておく必要がある。

参院審議でも、政府や与野党は制度の適切な運用などについてよりよい姿を模索してほしい。

朝日新聞 2013年11月27日

特定秘密保護法案 民意おそれぬ力の採決

数の力におごった権力の暴走としかいいようがない。

民主主義や基本的人権に対する安倍政権の姿勢に、重大な疑問符がつく事態である。

特定秘密保護法案が、きのうの衆院本会議で可決された。

報道機関に限らず、法律家、憲法や歴史の研究者、多くの市民団体がその危うさを指摘している。法案の内容が広く知られるにつれ反対の世論が強まるなかでのことだ。

ましてや、おとといの福島市での公聴会で意見を述べた7人全員から、反対の訴えを聞いたばかりではないか。

そんな民意をあっさりと踏みにじり、慎重審議を求める野党の声もかえりみない驚くべき採決強行である。

繰り返し指摘してきたように、この法案の問題の本質は、何が秘密に指定されているのかがわからないという「秘密についての秘密」にある。これによって秘密の範囲が知らぬ間に広がっていく。

大量の秘密の指定は、実質的に官僚の裁量に委ねられる。それが妥当であるのか、いつまで秘密にしておくべきなのかを、中立の立場から絶え間なく監視し、是正を求める権限をもった機関はつくられそうにない。

いま秘密にするのなら、なおのこと将来の公開を約束するのが主権者である国民への当然の義務だ。それなのに、60年たっても秘密のままにしておいたり、秘密のまま廃棄できたりする抜け穴ばかりが目立つ。

こうして「情報の闇」が官僚機構の奥深くに温存される。

「これはおかしい」と思う公務員の告発や、闇に迫ろうとする記者や市民の前には、厳罰の壁が立ちはだかる。

本来、政府が情報をコントロールする権力と国民の知る権利には、適正なバランスが保たれている必要がある。

ただでさえ情報公開制度が未成熟なまま、この法案だけを成立させることは、政府の力を一方的に強めることになる。

「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」という文書がある。

この6月、南アフリカのツワネでまとめられた。国連や米州機構、欧州安全保障協力機構を含む約70カ国の安全保障や人権の専門家500人以上が、2年にわたって討議した成果だ。

テロ対策などを理由に秘密保護法制をととのえる国が増えるなか、情報制限の指針を示す狙いがある。

国家は安全保障に関する情報の公開を制限できると認めたうえで、秘密指定には期限を明記する▽監視機関はすべての情報にアクセスする権利を持つ▽公務員でない者の罪は問わないなど、50項目にのぼる。

法案は、この「ツワネ原則」にことごとく反している。

安倍首相は国会で、欧米並みの秘密保護法の必要性を強調したが、この原則については「私的機関が発表したもので、国際原則としてオーソライズされていない」と片づけた。

これだけではない。国会での政府・与党側の発言を聞くと、「国家ありき」の思想がいたるところに顔を出す。

町村信孝元外相はこう言った。「知る権利は担保したが、個人の生存や国家の存立が担保できないというのは、全く逆転した議論ではないか」

この発言は、国民に対する恫喝(どうかつ)に等しい。国の安全が重要なのは間違いないが、知る権利の基盤があってこそ民主主義が成り立つことへの理解が、全く欠けている。

一連の審議は、法案が定める仕組みが、実務的にも無理があることを浮き彫りにした。

いま、政府の内規で指定されている外交・安全保障上の「特別管理秘密」は42万件ある。特定秘密はこれより限られるというが、数十万単位になるのは間違いない。

これだけの数を首相や閣僚がチェックするというのか。

与党と日本維新の会、みんなの党の修正案には、秘密指定の基準を検証、監察する機関を置く検討が付則に盛り込まれた。

首相はきのうの国会答弁で第三者機関に触れはしたが、実現する保証は全くない。

有識者会議の形で指定の基準を検証するだけでは、恣意(しい)的な指定への歯止めにはならない。役所が都合の悪い情報を隠そうとする「便乗指定」の懸念は残ったままだ。

独立した機関をつくるならば、膨大な秘密をチェックするのに十分な人員と、指定解除を要求できる権限は不可欠だ。

この法案で政府がやろうとしていることは、秘密の保全と公開についての国際的潮流や、憲法に保障された権利の尊重など、本来あるべき姿とは正反対の方を向いている。

論戦の舞台は、参院に移る。決して成立させてはならない法案である。

毎日新聞 2013年11月27日

秘密保護法案衆院通過 民主主義の土台壊すな

あぜんとする強行劇だった。

衆院国家安全保障特別委員会で特定秘密保護法案が採決された場に安倍晋三首相の姿はなかった。首相がいる場で強行する姿を国民に見せてはまずいと、退席後のタイミングを与党が選んだという。

与党すら胸を張れない衆院通過だったのではないか。採決前日、福島市で行った地方公聴会は、廃案や慎重審議を求める声ばかりだった。だが、福島第1原発事故の被災地の切実な声は届かなかった。

審議入りからわずか20日目。秘密の範囲があいまいなままで、国会や司法のチェックも及ばない。情報公開のルールは後回しだ。

国民が国政について自由に情報を得ることは、民主主義社会の基本だ。法案が成立すれば萎縮によって情報が流れなくなる恐れが強い。審議が尽くされたどころか、むしろ法案の欠陥が明らかになりつつある。

この法案について首相はさきの参院選で国民に十分説明せず、今国会の所信表明演説でも触れなかった。ところが今、成立ありきの強硬路線をひた走っている。衆参のねじれ状態が解消して4カ月での与党のおごりである。

一部野党が安易な合意に走ったことも消せぬ汚点だ。日本維新の会、みんなの党両党との修正合意は法案の根幹を何ら変えていない。維新の会と「検討する」と合意した秘密指定の妥当性を判断する第三者機関の設置も確約されたとは言えない。

秘密指定の最長期間が60年となるなど、改悪となりかねない部分すらある。これではまるで与党の補完勢力ではないか。

衆院は通過したが、法案の必要性を改めて吟味する必要がある。

国の安全が脅かされるような情報を国が一定期間、秘密にするのは理解できる。

情報漏えいを禁じる法律は、国家公務員法、自衛隊法、日米相互防衛援助協定(MDA)秘密保護法があり、懲役の最高刑はそれぞれ1年、5年、10年だ。一方、政府は、過去15年で公務員による主要な情報漏えい事件が5件あったとの認識を示した。この三つの法律の枠内で、起訴猶予になったり、最高刑を大幅に下回る刑の言い渡しを受けたりしている。

現行法の枠内で、情報が漏えいしないような情報管理のシステムを各行政機関内で構築して規律を守ることが先決だ。

法案では、防衛・外交情報のほか、テロ活動防止などの名目の公安情報も特定秘密の対象となる。監視活動が中心の公安捜査は、国民の人権を制約する。

情報を知ろうとする国民が処罰されるような強い副作用を覚悟の上で、新たな法律を今作る必要が本当にあるのか。

「知る権利」に対する十分な保障がなく、秘密をチェックする仕組みが確立されていないなど問題点や疑問はふくらむばかりだ。

読売新聞 2013年11月23日

秘密保護法案 与野党の修正案は評価できる

自民、公明両党が、安全保障の機密情報を漏らした国家公務員らの罰則を強化する特定秘密保護法案について、日本維新の会、みんなの党とそれぞれ法案の修正で一致した。

安全保障戦略の司令塔となる国家安全保障会議(日本版NSC)が機能するために欠かせない法制である。与党が数で押し切るのではなく、野党と協議を重ね、合意したことは評価したい。

維新の会やみんなの党も、政権を担えば、秘密の指定や解除に携わる。安全保障に関する分野で、与野党が協力し合って制度を構築することの意義は大きい。

修正内容は、首相が特定秘密の指定を監督し、有識者会議に報告して意見を聴くなど、内閣による情報管理を強めた。法施行から5年()っても特定秘密がない府省は、指定の権限を失う。

上限5年で更新可能という特定秘密の「有効期間」は、30年を超えても内閣が承認すれば延長できるとなっていたが、「60年は超えられない」と書き加えた。例外は、暗号や防衛装備、人的情報源など7項目に限られる。

30年超の延長が認められなかった文書は、すべて国立公文書館に移管することも条文化された。

首相の関与強化が実効性を伴うものになるかどうか、疑問もある。だが、「原則公開」とその例外項目、重要文書の保存を明確にしたのは適切な判断だ。

政府が、特定秘密の対象を恣意(しい)的に拡大したり、都合の悪い情報を永久に秘匿したりしかねないといった懸念は、一定程度払拭されるのではないか。

秘密指定の妥当性をチェックする「第三者機関」については、検討することを付則に明記した。

第三者によって、政府を牽制(けんせい)しようという趣旨はわかる。だが、安全保障の機微に触れる、専門性の高い大量の情報を部外者が的確に判断できるのか。特定秘密に関与する人が多くなれば、情報漏えいのリスクは増すだろう。

起用する人材や仕組みをよほど慎重に考えないと、形骸化した組織になる恐れがある。

民主党は、独自の対案が受け入れられなければ、特定秘密保護法案に反対する方針を決めた。

民主党の対案は、秘密の範囲をより限定し、指定期間は原則30年、罰則を懲役5年以下などと規定している。国会への秘密提供については、国会法の改正で対応するとした。検討に値しよう。

与野党間で、さらに議論を深める努力をすべきである。

産経新聞 2013年11月22日

秘密保護法案 最後まで丁寧に議論せよ

自民、公明、維新、みんなの与野党4党が「特定秘密保護法案」の修正で合意した。

国の安全保障にかかわる機密の漏洩(ろうえい)を防ぐ法整備は、日本の主権や国民の生命財産を守る上で必要だ。法案が今国会で成立する見通しとなったことを評価したい。

与党が採決を急がず、みんな、維新や民主との修正協議に応じ、法案成立へ幅広い賛同を得ようとしているのは妥当だ。

知る権利や報道の自由が損なわれないかといった懸念も根強い。政府は今後の審議でより丁寧に説明を尽くし、国民の疑問に答える必要がある。

与党と維新の協議では当初、特定秘密の指定を行う省庁をどこまで絞り込むかや、恣意(しい)的な指定が行われるのを防ぐための第三者機関設置をめぐって、大きな開きがあった。

しかし、維新側は「法案そのものは国民にとって必要」との判断から、大幅な修正は断念し、合意を優先させたといえる。

維新内部には不満も残るが、日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中で、野党としてぎりぎりの判断をしたといえよう。

衆院特別委などの法案審議では、政府側が自分に都合の悪い情報を隠すため、必要のない情報まで特定秘密に指定することへの懸念が示された。

また、国民が何が秘密か分からないまま摘発される恐れがないか、との疑問もあった。

これに対し、安倍晋三首相は20日の参院特別委での答弁で、特定秘密を「一般の国民が知ることはまずあり得ない」として、一般の国民が情報漏洩で罰せられる事態はないと説明した。

4党で共同提出する修正案は、特定秘密の指定期間について、暗号など7項目を除き、最長60年を原則とすることになった。

これをもって、すべての特定秘密の指定期間を60年としてはいけない。30年を超えて指定を延長する場合、内閣の承認が必要になる条項も修正案に残されている。

政府の情報は本来、国民の財産である。安全保障上、やむを得ない項目のみ秘密指定が許されるのだ。必要性がなくなれば、60年でも30年でもなく指定を解除することが可能であり、情報は公開されなければならない。

政府はこのことを、はっきりと国民に約束してほしい。

朝日新聞 2013年11月26日

秘密保護法案 福島の声は「誤解」か

特定秘密保護法案を審議する衆院の特別委員会がきのう福島市で地方公聴会を開いた。

福島第一原発の事故は日本にとって近年最大の危機だった。その恐ろしさを肌身で知る福島の人たちは公聴会で、口々に法案への懸念を語った。

秘密より情報公開が重要ではないか――。そんな意見が相次ぎ、自民党の推薦者を含む全員が法案に反対した。

与党である自民、公明両党は、この事実を重く受けとめるべきだ。

「情報公開がすぐに行われていれば低線量の被曝(ひばく)を避けることができた」

浪江町の馬場有(たもつ)町長は、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)の情報が適切に公開されず、町民が放射線量の高い地域に避難した問題を取り上げた。

自民、公明両党の委員は「誤解がある」「今回の法案の対象ではない」と反論したが、そう単純な話ではない。

危急の時にあっても行政機関は情報を公開せず、住民の被曝につながった。その実例を目の当たりにしたからこそ、秘密が際限なく広がりかねない法案のあり方に疑問を投げかけているのではないか。

法曹関係者は公聴会で「(秘密の範囲について)拡張解釈の余地をきちんと狭めるべきだ」と指摘した。

特別委員会の審議で明らかになった、こんな事実もある。

福島第一原発の事故直後、現場の状況を撮影した情報収集衛星の画像を、政府が秘密保全を理由に東京電力に提供しなかったというのだ。

東電には秘密保全措置がないから、画像は関係省庁だけで利用した。代わりに商業衛星の画像55枚を4800万円で購入して東電に提供したという。

情報収集衛星は災害目的にも使われるはずだった。それが肝心のときに「秘密」にされた。

公聴会の出席者に自民党議員は「どうぞ信頼していただきたい」と述べた。どう信頼すればいいのか。反対意見を真摯(しんし)に受け止めるべきだ。

地方公聴会を、みんなの党、日本維新の会を含めた4党による衆院通過に向けたアリバイづくりにしてはならない。

福島県議会は10月、法案への慎重対応を求める意見書を出した。「もし制定されれば、民主主義を根底から覆す瑕疵(かし)ある議決となることは明白である」と訴えている。

与党はもう一度、考えたほうがいい。福島の人々の懸念は、ほんとうに「誤解」なのか。

毎日新聞 2013年11月26日

秘密保護法案 不十分な審議、強引な採決は許されぬ

政府・与党は、特定秘密保護法案について、みんなの党や日本維新の会との修正協議がまとまったことを受け、26日にも衆院通過を図る可能性がある。緊迫した状況だ。

だが、法案の審議はまだ尽くされていない。ましてや、修正協議は密室で行われており、国会で十分に議論されたわけではない。

国民の「知る権利」など、憲法上要請される大切な権利を侵害する恐れのある法案だ。徹底的に国会で審議を重ねるのは、国民の代表者としての国会議員の責務だ。会期末の近い今国会での成立に突っ走り、強引に採決するのは到底許されない。

25日に福島市で開かれた衆院特別委員会公聴会では、地元の首長や学識者、弁護士ら7人が意見を述べた。萎縮効果で情報が流れなくなることや、国民に必要な情報が隠されることへの懸念が示され、「まず情報公開を進める法制を」との声も強かった。今国会成立への賛成はなく、大半の人が廃案か慎重審議を求めた。

東京電力福島第1原発事故の際、放射能の影響を予測するSPEEDIが当初非公開だったため、地元住民は避難の方向を誤った。テロ活動防止の観点から、原発の警備実施状況も特定秘密に指定される可能性が大きい。それ以外の原発情報も隠されはしないか。そういった福島の人たちの心配は、もっともだ。

公聴会の意見を重く受け止めれば、審議に時間をかけるしか道はない。そうでなければ、意見を聞く場をアリバイ的に設けただけだと批判されてもやむを得ない。

法案がやっと国民に浸透し始め、反対や疑問の声がじわじわと広がりつつある。21日夜、東京都千代田区の日比谷野外音楽堂で開かれた反対集会には、主催者発表で約1万人が参加した。入りきれなかった多くの人が音楽堂を取り囲んだ。年配の人が目立った。軍事秘密を守るために過酷な取り締まりをした軍機保護法や治安維持法など戦前戦中の法制と、特定秘密保護法案を重ね合わせる人は少なくない。杞憂(きゆう)というのならば、政府は、もっと丁寧に説明すべきだ。

ジャーナリストや弁護士会だけではない。NGOや市民団体、学者、作家など、反対の意見表明は日を追うごとに増えている。世界100カ国以上の作家やジャーナリストで作る「国際ペン」も、「政治家と官僚が、市民の情報と言論の自由を弱体化させようとしている」と、異例の声明を出した。他の地方や中央での公聴会も開き、謙虚に国民の声を聞くべきだ。

読売新聞 2013年11月17日

秘密保護法案 将来の「原則公開」軸に修正を

安全保障戦略の司令塔となる国家安全保障会議(日本版NSC)の機能を充実させる上で、欠かせない法整備だ。

国民から疑念を抱かれぬよう、与野党は議論を尽くし、合意点を探ってもらいたい。

自民、公明両党は、機密情報を漏らした公務員らの罰則を強化する特定秘密保護法案について、日本維新の会、みんなの党とそれぞれ修正協議に入った。与党時代に同様の法制を検討した民主党も、修正協議に参加すべきだろう。

日本を巡る安全保障環境が厳しさを増し、情報漏えいのリスクも高まっている。外国と重要情報を交換し、共有するには、機密漏えいを防止する仕組みが必要だ。

修正協議は、そうした基本的な認識を踏まえてのものだ。この動きを注視したい。

衆院国家安全保障特別委員会での審議や修正協議では、防衛、外交、スパイ活動防止、テロ防止の4分野とした特定秘密の範囲が、大きな論点になっている。

政府が特定秘密の対象を際限なく拡大し、都合の悪い情報を秘匿しかねないとの懸念は根強い。

特定秘密の有効期間は上限5年で更新可能だが、内閣が承認すれば30年を超えても期間を延長できるため、半永久的に情報が秘匿されるといった批判もある。

重要なのは、一定期間後に特定秘密情報を「原則公開」すると明示することではないか。後日あるいは遠い将来でも、公開するとなれば、政府の恣意(しい)的な指定に歯止めをかける効果が期待できる。

相手国のある場合や、暗号など例外的に秘密指定を解除できない情報もあろう。一律解除を法案に盛り込むのは、無理がある。

特定秘密の指定の妥当性をチェックするため、第三者機関の設置が論議されている。だが、大量の秘密情報を部外者が適切に判断できるのか疑問だ。行政機関の長が、国家戦略や国益を考慮し、自らの責任で判断するしかあるまい。

安倍首相は、特定秘密を含む文書を指定解除後、国立公文書館に移管し、公開する意向を示した。後世の検証を可能とするようなルール作りが不可欠である。

「知る権利」の保障も論議になった。特定秘密が流出した場合、報道機関が捜査対象になるかどうかに関し、谷垣法相は「一概に言うことは難しい」と答弁した。

仮に、捜査当局の判断で報道機関に捜査が及ぶような事態になれば、取材・報道の自由に重大な影響が出ることは避けられない。ここは譲れない一線だ。

産経新聞 2013年11月08日

NSC法案通過 超党派にこそ意義がある

「国家安全保障会議(日本版NSC)」創設関連法案が7日、衆院を通過し、今国会成立へ前進した。NSCの創設により、戦後の日本が外交・安全保障政策の司令塔を初めて持つ意義は極めて大きい。

とくに、自民、公明、民主など与野党5党が法案に賛成した点に注目したい。

議席数は衆院の9割を超える。外交・安保政策には、政権が交代しても継続性が求められる。党派を超え、国の針路を定める仕組みを作る必要性について一致がみられたことは評価できる。

参院における審議は、内外の情報を的確に集められるかどうかなど、NSCが十分な機能を発揮するにはどのような態勢が必要かという観点から、さらに論議を深めるべきだ。

衆院採決では、民主党が求めていたNSCの「大臣会合」の議事録作成をめぐって、「速やかに検討し、必要な措置を講ずる」との付帯決議が可決された。

大臣会合では、特定秘密に該当する機密が取り上げられる。有事の際の具体的な対処方法など、外部に出ては大きな問題となる議論が交わされることもあろう。そのため、政府内には議事録作成に慎重な意見がある。

しかし、記録を残すことによって、首相や閣僚がより責任ある決定に努める効果も期待できる。後世の首相や政府関係者が教訓を得るためや、国民が歴史の真相を知る上でも役立つ。国家の貴重な財産という意識を持ってほしい。

付帯決議は、議事録が「現実の安全保障を損なわない形で」あることを条件としている。これを踏まえ、政府は公開の時期や範囲を工夫して対応してほしい。

首相は衆院国家安全保障特別委員会で、「脅威に外交、軍事的にどう対応するかを含め、常にシミュレーション(模擬演習)して政策的な選択肢を用意する」と、NSCの役割を説いた。

NSCには制服自衛官が多く加わる。その軍事的知見が生かされることが重要だ。一日も早く始動させなければならない。

衆院で審議入りした特定秘密保護法案は、米国などから重要な機密情報の提供を受ける大前提ともいえる。同時に知る権利、報道の自由にも配慮している。充実した情報があってこそ、NSCは機能すると強調しておきたい。

朝日新聞 2013年11月24日

秘密保護法案 自己規制の歴史に学ぶ

帝国議会会議録を開き、戦前の秘密保護法制の審議を読む。

時代背景も法の中身も、いまとは違う。けれど、審議の様子はこの国会とよく似ている。

1937年の軍機保護法改正ではやはり、秘密が際限なく広がらないか、が焦点だった。

軍機保護法では、何を秘密とするか、陸軍、海軍大臣が定める。これでは国民が、そうと知らないまま秘密に触れ、罰せられないか。

追及を受けた政府側は「秘密とか、機密とかは、普通の人の手に渡らないのが通常」「機密と知らずにやった者は犯罪を構成しない」と説明した。

議員らは、付帯決議でくぎを刺す。不法な手段でなければ知り得ない高度な秘密を守る。秘密と知って侵害する者のみに適用する。政府は、決議を尊重すると約束した。

だが、歯止めにはならなかった。軍港で写真を撮った、飛行場をみたと知人に話したといった理由から、摘発者は3年間で377人にのぼった。

98歳のジャーナリスト、むのたけじさんは、直接の取り締まりよりも国民の自己規制が大きかったと指摘する。

「怖そうな法律ができた、ひどいめにあうかもしれないと思うだけで効果は十分なのです」

朝日新聞記者だったむのさんは当時の様子をこう振り返る。

朝日新聞も自ら二重、三重に検閲をした。互いに警戒して、友達がいなくなる。話の中身がばれたとき、だれがばらしたのか疑わなければならないのがつらい。だから2人きりなら話せても、3人目がくると話が止まる。隣近所も家族も、周りの全員に監視される恐怖感。「一億一心」のかけ声をよそに国民はバラバラになった――。

いまの法案はどうか。

秘密がどこまで広がるかわからない不安は、かつての法に通じる。

矛先が市民に向かないか。政府答弁は戦前をなぞるようだ。

安倍首相「一般国民の方が特定秘密を知ることはまずありえない」、森担当相「秘密と知らずに内容を知ろうとしても、処罰の対象にならない」。

確かに、軍機保護法より、一般市民を罪に問う可能性を狭めてはいる。刑罰の重さも違う。それでも、秘密を漏らすよう公務員をそそのかしたなどと適用されるおそれはある。

公務員が、メディアが、市民が自己規制を始めれば、民主主義や国民主権は空洞化する。

そのおそれは修正協議をへてなお消えない。

歴史をみても廃案しかない。

毎日新聞 2013年11月25日

秘密保護法案を問う ツワネ原則

国家機密の保護をめぐる規定は各国さまざまだが、一つの指針として今年6月にまとまった50項目の「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」が注目されている。国連関係者を含む70カ国以上の専門家500人以上が携わり、2年以上かけて作成された。発表の場が南アフリカの首都プレトリア近郊ツワネ地区だったため「ツワネ原則」と呼ばれる。人権問題などを協議する欧州評議会の議員会議が10月、この原則を支持する決議を採択した。

ツワネ原則は、国家機密の必要性を認めながらも、国が持つ情報の公開原則とのバランスに配慮すべきだと勧告している。公開の規制対象は国防計画、兵器開発、情報機関の作戦や情報源などに限定し、(1)国際人権・人道法に反する情報は秘密にしてはならない(2)秘密指定の期限や公開請求手続きを定める(3)すべての情報にアクセスできる独立監視機関を置く(4)情報開示による公益が秘密保持による公益を上回る場合には内部告発者は保護される(5)メディアなど非公務員は処罰の対象外とする−−などを盛り込んだ。

また、情報を秘密にする正当性を証明するのは政府の責務であり、秘密を漏らした公務員を行政処分にとどめず刑事訴追できるのは、情報が公になったことが国の安全に「現実的で特定できる重大な損害」を引き起こす危険性が大きい場合に限るとしている。

日本の特定秘密保護法案をめぐる審議に、この新しい国際的議論の成果は反映されていない。

法案の狙いである違反者への厳罰化も疑問だ。欧米では敵国に国家機密を渡すスパイ行為は厳罰だが、これに該当しない秘密漏えいの最高刑は英国が禁錮2年、ドイツが同5年までだ。日本の法案と同じ最高懲役10年の米国は、欧州諸国と比べて厳しすぎるとの指摘がある。

欧米は近年、むしろ情報公開を重視する方向に進んでいる。米国では2010年、機密指定の有効性を厳格に評価する体制作りなどを定めた「過剰機密削減法」が成立した。秘密情報が増えすぎて処理能力を超えたことが逆に漏えいリスクを高めているという反省もある。また英国では3年前、秘密情報公開までの期間が30年から20年に短縮され、議会監視委員会の権限が今年から強化された。こうした世界の流れから日本は大きくはずれている。審議中の法案は廃案とし、国家機密保持と情報公開の公益性のバランスについて十分な議論を尽くすべきだ。

読売新聞 2013年11月08日

秘密保護法案 後世の検証が可能な仕組みに

◆国民の懸念払拭へ審議を尽くせ◆

国の存亡にかかわる安全保障上の機密は、守らなければならない。国民の「知る権利」に配慮しつつ、情報保全法制を整備することが肝要だ。

特定秘密保護法案の国会審議が7日から始まった。

防衛、外交、スパイ活動防止、テロ防止の4分野で特に秘匿性の高い情報を、「特定秘密」に指定し、漏えいした公務員らの罰則を強化する内容である。

◆安保戦略に欠かせない◆

法案の狙いは、国の安全保障に関する重要情報が簡単に漏えいしない仕組みを構築することだ。

北朝鮮の核・ミサイル開発や中国の軍備増強など、日本を取り巻く情勢は厳しさを増している。

日本の平和と安全を確保するため、安倍政権は、外交・安全保障政策の司令塔となる国家安全保障会議(日本版NSC)の創設を目指している。設置法案は7日、衆院を通過した。

日本版NSCを機能させるには同盟国や友好国と重要情報を共有することが欠かせない。漏えいの恐れがある国に、機密は提供されにくい。「特定秘密保護法」は、米国などとの信頼関係を強める上で大きな意義がある。

法案によると、秘密の指定や解除は、防衛相や外相など「行政機関の長」が行う。国家戦略や国益を踏まえた総合判断が求められる以上、妥当な手続きと言える。

ただ、省庁が自らに都合が悪いというだけで、情報を秘密指定する事態は避けねばならない。法案は、政府が有識者の意見を聞き、指定や解除の統一基準を定めるとしている。指定の範囲を必要以上に広げない基準とすべきだ。

◆恣意的運用の防止図れ◆

秘密指定が永久に続き、公開されないのではとの危惧もある。

法案は、秘密指定の期間を最長5年とし、必要性がなくなれば、解除すると規定している。延長も可能で、内閣が承認すれば、30年を超えることもできる。

重要なのは、一定期間を過ぎれば、原則公開し、後世の歴史的検証を受けるという視点である。将来公開されるとなれば、行政機関による恣意(しい)的な秘密指定を相当程度、排除できるのではないか。

無論、将来も開示が困難な秘密もあろう。政府は、30年を超えて秘密指定を延長する場合の要件を検討している。自衛隊で使用する暗号や武器の性能などだ。

他国からの提供情報には、細心の注意を払う必要もある。

文書の保存・管理も課題だ。

公文書管理法は、すべての行政文書に保存期間を定めるよう求めている。その上で、歴史的価値のある文書は国立公文書館へ移管し、廃棄する場合には首相の同意を得ることも義務づけている。

だが、現在、自衛隊法に基づく防衛秘密は公文書管理法の適用除外とされている。2011年までの5年間に、保存期間の過ぎた防衛秘密の文書約3万件が防衛省幹部の判断で廃棄された。

特定秘密保護法案が成立すると、防衛秘密は特定秘密に統合される。小野寺防衛相が法施行まで、防衛秘密の文書を廃棄しないよう指示したのは適切である。

特定秘密も、公文書管理法の下で厳格に管理すべきだ。

国民に対し、説明責任を果たすのは、民主主義国家における政府の当然の責務である。

法案が国民の知る権利を制約する懸念は、7日の衆院本会議で与党議員からも指摘された。

◆「知る権利」への配慮を◆

自民、公明両党の修正協議の結果、取材・報道の自由への配慮が法案に明記された。報道関係者の取材行為についても、「違法または著しく不当でない限り、正当な業務とする」と規定され、原則、罪に問われないとされた。

しかし、秘密を漏えいした公務員らは処罰対象となる。罰則も現行の国家公務員法の懲役1年以下、自衛隊法の懲役5年以下より格段に重い懲役10年以下だ。

公務員が萎縮して取材に応じず、報道機関が国民に必要な情報を伝えられない恐れがある。こうした事態を防げるのか、与野党は議論を深めてもらいたい。

国会がどう特定秘密に関与するかという論点も放置できない。

法案は、秘密会の開催を条件にして、国会の委員会などに秘密を提供できるとしている。ただ、提供するかどうかの判断は、行政機関の長に委ねられている。

国会議員が安全保障上の重要情報を知らずに、日本の針路を決めていいものか。行政に対する立法府の監視機能が働かない可能性もある。国会としても、秘密を共有する仕組みを検討すべきだ。

朝日新聞 2013年11月23日

秘密保護法案 これで採決などできぬ

特定秘密保護法案は、表現の自由という基本的人権にかかわる法案だ。たった2週間あまりの審議ですませるなど、とうてい認められない。

自民、公明両党と修正案で合意した日本維新の会も含め、野党側は、与党が求める26日の衆院通過に反対している。当然である。

仮に、採決を1日や2日延ばしたところですむ話ではない。さらに時間をかけた徹底審議が必要だ。

与党と維新、みんなの党の4党修正案には、あまりに不可解な点が多い。

特定秘密の指定期間について、与党は「原則30年」といっていたのが、いつの間にか実質的に60年に延びてしまった。しかも、60年を超えられる幅広い例外が認められている。

また、法施行から5年の間に秘密指定をしなかった役所には指定権限をなくすという。秘密指定ができる役所を絞るためだというが、これでは逆に多くの役所に秘密づくりを奨励するようなものではないか。

こんな矛盾や疑問を4党はどう説明し、政府はどう運用しようとしているのか。一つひとつ明らかにしていくだけでも、相当の時間がかかる。

加えて、民主党が独自の対案を5本も出しているのだ。時間をかけるのは当たり前だ。

審議入りから約10日後の民主の対案提出に、与党は「遅すぎる」と批判する。だが、審議にたえる法案をつくるには時間がかかる。この批判こそ、与党の性急さをかえって浮き彫りにしているのではないか。

与党が各党と修正協議をしている間、特別委員会での審議は、たるみ切っていた。

与党側には空席が目立ち、野党の質問に森雅子担当相は「修正協議の内容にかかわるので控える」と繰り返す。議場での質疑より密室での取引のほうが大事だと言わんばかりである。

こんな茶番が続く一方、国会の外ではこの法案に反対する声が強まっている。

東京・日比谷でおととい開かれた集会には、主催者発表で約1万人が集まり、法案への反対を訴えた。同様の集会は、大阪、名古屋でもあった。

この法案が単に取材をめぐる政府と報道機関の関係にとどまらず、市民社会にも大きく影響する問題をはらんでいるとの認識が広まっている表れだ。

衆院特別委は来週、福島市で公聴会を予定している。これだけに終わらせず、中央公聴会も開いて一人でも多くの国民の声を聴くべきだ。

毎日新聞 2013年11月22日

秘密保護法案 まるで擦り寄り競争だ

またもや「陥落」である。特定秘密保護法案の修正協議で今度は日本維新の会が妥協、与党と合意した。

法案の根幹が変わらないのは、与党とみんなの党の合意と同様だ。競い合うように野党が与党に擦り寄る状況は異様と言わざるを得ない。

そもそも最初から決裂という選択肢などなかったのではないか。そんな疑念すら抱かせる腰砕けだ。

「都合の悪いものを隠すのは人間のさが。特に権力機構になれば動機は強まる」。維新の橋下徹共同代表はこう語り、懸念を強調していた。

修正協議で維新は(1)秘密を指定する行政機関の限定(2)秘密指定が妥当かを判断する第三者機関の設置(3)秘密指定を最長30年とすることなどを求め、与党に「丸のみ」を促すなど意気軒高だった。これらが重要な論点であることは確かだ。

ところが指定期限は60年となり、しかも、非常に広範な例外が設けられた。第三者機関の設置は付則で検討が盛られるにとどまり、秘密を指定する行政機関の範囲にも事実上歯止めはかからなかった。みんなの党と五十歩百歩の大幅譲歩である。

改悪になりかねない要素もある。指定期限を60年とすることは逆に「30年を超えるときは内閣が承認」のルールを形骸化させ、あらゆる情報を半世紀以上封印するおそれがある。5年間特定秘密を保有しない行政機関は指定権限を失うとしたが、逆に各官庁を秘密指定の実績作りに走らせはしないか。

大幅譲歩の要因とみられるのが、与党とみんなの党が先行合意したことへの焦りだ。交渉の席を蹴ることはできないと足元をみた与党から強気で揺さぶられ、ぐらついたのが実態ではないか。

維新は22日に党の正式対応を決めるがこんな合意に党内からも不満が出るのは当然だ。橋下氏は「非常に不本意でも少しでも変えるのが野党の使命だ」と容認したが、重大な問題を抱える法案の根幹を変えず、成立に力を貸すマイナスの方が大きい。みんなの党も含め、議員一人一人の信念が問われる場面でもある。

対案を示し、与党と合意していない野党は民主党だけになった。「よりましな法案にするため譲歩も検討すべきだ」との意見も党内にあるようだが、安易な妥協は欠陥法案を恒久的に固定化させる道を開く。

肝心の衆院での法案審議は与党議員の大量欠席で空席が目立つなど、たるんだ光景が演じられている。審議入りからまだ2週間、民主案も含め徹底議論を尽くすべきだ。

朝日新聞 2013年11月22日

秘密保護法案 「翼賛野党」の情けなさ

巨大与党の前に、あまりにも情けない野党の姿である。

このままでは自民党の「補完勢力」どころか「翼賛野党」と言われても仕方あるまい。

日本維新の会が、自民、公明の与党と、特定秘密保護法案の修正に合意した。

みんなの党に続く妥協だ。

いずれの修正も実質的な意味は乏しく、問題の根幹はまったく変わっていない。

与党は、4党で修正案を共同提案し、26日の衆院通過をめざすという。野党はこれを許してしまうのか。

愕然(がくぜん)とするのは、維新との修正合意で、特定秘密の指定期間が後退したことだ。

維新は当初、「30年以上延長できない」と主張していた。ところが、合意では「60年たったら原則として解除」と期間が2倍に延びてしまった。

しかも60年を超えても延長できる7項目の例外まで、できてしまった。

まるで与党側の焼け太りだ。これでは、維新もみんなの党も利用されるだけではないか。

維新は秘密指定できる行政機関を絞り込む案も主張したが、与党にはねつけられた。「首相が有識者の意見を聴いて政令で限定できる」との合意では、およそ実効性に乏しい。

秘密指定のチェックについても、大きな疑問符がつく。

法案の付則に「第三者機関の設置検討」を盛り込むことで合意したが、付則に書いても実現の保証はない。どんな機関になるかも不明確で、期限も区切っていない。

与党とみんなの党との合意では、首相が「第三者機関的観点」からかかわることで客観性が担保されるとした。最大の当事者を「第三者」とする意味不明。与党が真剣に問題を受けとめているとは思えない。

維新の内部からも「後退している」などの批判が噴出している。当然だ。今からでも対応を見直すべきだ。

野党ではほかに、民主党が対案を出している。

秘密の範囲は外交や国際テロに限る▽国会が委員を指名する第三者機関「情報適正管理委員会」を設置し、個々の秘密指定が適当かどうかも調べる▽罰則は政府案が最長懲役10年だったのを懲役5年以下とする――などの内容である。

政府案との隔たりは大きい。そこを埋める努力もせず、4党の修正案で突き進むのでは、巨大与党にすり寄っているとしか映らない。

与党に都合のいい修正をするのが野党の役割ではない。

毎日新聞 2013年11月20日

秘密保護法案を問う 与党・みんな合意

特定秘密保護法案について、与党の自民、公明両党とみんなの党が、修正で合意した。首相が特定秘密の指定、解除などの基準を作成して閣議決定し、「行政機関の長」に秘密の指定について指揮監督したり、必要に応じて資料の提出を求めたりする権限を持つという内容だ。第三者的な観点から首相のチェックを働かすと、みんなの党は説明する。

だが、条文上、「政府」となっている基準を決める主体を「首相」に変えるに過ぎない。そもそも政府のトップである首相が第三者であるはずもない。修正の名に値しない。

国会での議論は不十分だ。採決を急ぐべきではない。

首相が膨大な量の特定秘密を個々にチェックするのは現実には不可能だ。修正案によっても、行政側の裁量で秘密指定が行われる根幹は変わらない。首相が「行政機関の長」を指揮監督するのは当たり前で、条文に明記するまでもない。

また、秘密指定の実施状況について、政府が毎年、国会へ報告し公表する規定も条文に盛り込むという。だが、個々の秘密指定の中身を国会がチェックできる仕組みではない。行政監視という国会の役割を担保する内容とはほど遠い。

国会審議で指摘された問題点に応える内容になっておらず、法案の本質は何ら変わらない。

与党は、日本維新の会との協議で、秘密の指定を恣意(しい)的にさせないよう第三者機関の設置検討を法案の付則に盛り込む考え方も示した。だが、このこと自体、本気で設置を目指しているのか甚だ疑問だ。

一方、民主党は、特定秘密の範囲を外交や国際テロに限定し、さらに指定の是非をチェックする独立性の高い第三者機関の設置などを柱とする対案を衆院に提出した。

公文書管理法や情報公開法の改正も併せて行い、特定秘密は原則30年で公開とする。延長する場合は、第三者機関の承認を必要とする。また、秘密を漏らした公務員への罰則も、政府案の最高懲役10年から懲役5年に引き下げる。

現行法の枠内で一定の秘密保全がされている現状に照らせば、民主党案もさらに精査が必要だ。ただし、国民の知る権利を大きく侵害する恐れのある政府案に比べ、懸念材料が少ない内容に改善されているのは確かだ。

政府案の概要公表は9月になってからだ。民主党案の提出が遅いとの批判は当たらない。民主党案を吟味もせず、政府案を強引に採決することは許されない。

朝日新聞 2013年11月20日

特定秘密保護法案 この修正はまやかしだ

自民、公明の与党とみんなの党が、特定秘密保護法案の修正に合意した。与党は、日本維新の会とも修正協議を続けている。安倍政権はこれらの党の賛成を得て、週内にも衆院を通過させたい考えだ。

この法案は重大な問題を抱えている。何が秘密に指定されているのか分からないという「秘密についての秘密」が、知らぬ間に広がりかねない点だ。

いち早く合意したみんなの党との修正は、法案のこんな危険な本質を改めるものではない。これをもって「秘密の際限ない広がりに歯止めがかかった」というみんなの党の言い分は、理解できない。

修正の柱は、特定秘密を指定する外相や防衛相らに対する首相の指揮監督権を明記することだという。

首相は、秘密の指定と解除などの統一的な基準をつくる。運用について必要があれば閣僚らに説明を求め、改善を指示する。こうした状況を有識者会議に報告し、意見を聞く。これで「第三者機関的観点からの客観性」を担保するそうだ。

首相と閣僚という身内同士に形式的規定を設けたところで、一体どんな「客観性」が担保されるというのだろう。

また、特定秘密に該当する情報として法案別表に列挙された23項目のうち、幅広い解釈を許す余地がある「その他の重要な情報」との表現を一部削る。

代わりに「国民の生命及び身体の保護に関する重要な情報」といった、やはり広く解釈できる文言を入れるという。

これでは、賛成の理由をつくるための、まやかしの修正だと言われても反論できまい。

日本維新の会は、独立したチェック機関の設置と指定期間の上限を30年とすることを要求している。一方、民主党は秘密の範囲を限定したり、第三者機関を設けたりするための複数の対案を国会に出した。

野党は、「法案に問題あり」との一点で共闘するにはいたらなかった。そもそも個別に与党と協議するやり方で、抜本的な修正をのませることは難しい。結局、「議論は尽くした」という口実を与党に与えているだけではないか。

日弁連や日本新聞協会、外国特派員協会、歴史や憲法の研究者、そして多くの市民団体が反対や懸念を表明するなか、安倍政権はたった2週間の審議で衆院を通過させ、成立を図ろうとしている。あまりに性急だ。

それが「1強時代」の与党の流儀なのか。とても受け入れることはできない。

毎日新聞 2013年11月19日

秘密保護法案を問う 修正協議

特定秘密保護法案の審議が重要な局面を迎えている。与党は週内の衆院通過を目指す構えだ。民主党を含む3野党の修正案や対案が19日に出そろう。与党は日本維新の会、みんなの党と修正協議を進めている。

法案への疑問や懸念は国会審議でむしろ深まるばかりで、付け焼き刃的な修正でカバーできるものではない。与党による強行採決など数頼みの手段は許されない。野党側も将来に禍根を残しかねない中身での妥協は厳に慎むべきである。

森雅子特定秘密保護法案担当相の揺れる答弁ぶりが問題だらけの法案を象徴するようだ。秘密指定が妥当かを判断する第三者機関の設置や報道機関への強制捜査をめぐる答弁は他の閣僚らと食い違い、「改善を法案成立後にも尽くしたい」と成立後の見直しにまで言及した。これでは政府自ら欠陥を認めたに等しい。

だが、どんな閣僚が受け持っても答弁は森氏と似た状況になろう。何が秘密であるかが明らかにされないうえ情報公開のルールもなく、国会や司法のチェックも及ばない。質疑を重ねるほど法案の構造的な問題を露呈しているのではないか。

そんな法案を2週間ほどの審議で通過させるなど論外だ。参院選で国会のねじれが解消して4カ月ばかりで数まかせの手段を行使するようでは選挙結果を有権者からの「白紙委任」とはき違えているに等しい。

修正協議の行方が週内に衆院を通過するかのカギを握る。民主党は19日に同党案をまとめるが短期での与党との合意など実際には困難だ。性急な採決への反対を徹底すべきだ。

焦点は日本維新の会とみんなの党の動向だ。維新の会は秘密の指定解除に期限をつけることや第三者機関による検証を求めている。与党は秘密の指定期間を「原則30年」とすることや第三者機関や国会への指定基準の報告などで応じる構えのようだが本質的な修正とは言えまい。

不可解なのがみんなの党の柔軟姿勢だ。同法案は官僚による情報独占、立法府や司法に対する行政優位を強めかねない大きな問題がある。

ところが渡辺喜美代表は「総論賛成」と早々に言い切り、安倍晋三首相との会食で修正案まで示したという。官僚支配に反対した党の理念とどう整合するのか。同党の主張に沿い秘密指定への首相の関与が強化されたとしても恣意(しい)的な指定のおそれなどが解消するとは言い難い。

安易な妥協で与党に採決の口実を与えてしまえば、その責任は重い。政党の真価が試される場面だ。

朝日新聞 2013年11月20日

特定秘密保護法案 外交の闇を広げる恐れ

特定秘密保護法案が成立すれば、過去の重要な外交文書はどう扱われるのか。

それを暗示するような裁判がある。

韓国と1965年に国交正常化するまでの記録をめぐる訴訟だ。14年にわたる韓国との交渉の内容を開示するよう市民団体が外務省に求めている。

裁判の経緯を振り返ると、いまでもひどい外務省の隠蔽(いんぺい)体質は、秘密保護法の下で、さらに強まると危惧せざるを得ない。

韓国側の交渉記録は韓国政府が8年前に公開している。国交正常化のときに結んだ請求権協定をめぐる解釈が日韓で異なるため、市民団体は交渉過程で日本側ではどんな議論があったのかを見たいと求めている。

外務省は表向きは、30年たった外交文書は公開することを原則としている。だが、実際には消極的な対応に終始してきた。

「韓国や北朝鮮との今後の交渉で不利になる」というのが開示を拒む理由である。

そもそも関連文書は全体でどれぐらいあるのか。国交がない北朝鮮はともかく、韓国との今後の交渉で不利になるとはどういった記録なのか。

わからないことだらけだ。

そんななか、東京地裁は昨年10月、非開示とするならその理由を説明せよと指摘し、請求があったうち約3分の2の開示を義務づける判決を言い渡した。

政府は判決を不服として控訴したが、その一方で、それまで非開示としてきたものから大量の文書を自主的に開示した。

外務省がかたくなに守り続けた秘密の一端が明るみに出た。市民団体の人たちはその中身を見て仰天した。黒塗りの下からは、思いもかけない「機密」が次々に出てきたからだ。

たとえば竹島に関する文書で黒塗りされていたのは「アシカの数が減少した現在、経済的にはあまり大きな意義を有しないとみられる」だったという。

そんな秘密の実態がわかったのは、政府の外からの圧力で、文書が公開されたためだ。

もちろん外交には、一定の秘密がやむを得ないときはある。だが、この秘密保護法案が成立すれば、何が秘密にされているのかさえわからなくなる。

秘密の範囲も秘匿の期間も、際限がなくなり、政府の閉鎖性にお墨付きを与えてしまう。

外交の記録はすべて、のちの国民の目にさらす。それは当然の前提とすべきだ。

政府は、後世の検証に耐えるような対外交渉を常に意識せねばならない。それで初めて外交力が鍛えられるのである。

毎日新聞 2013年11月18日

秘密保護法案を問う 刑事裁判

何が秘密なのかも秘密、というのが特定秘密保護法案の最大の特徴である。安全保障に関する情報が行政機関の判断だけで特定秘密に指定され、秘密は国民にその内容を知られることなく、半永久的に秘密のままであり続けることができる。

こうした制度設計のもとで、特定秘密を知ろうと情報入手を試みた人が罪に問われ、刑事裁判の被告になったらどうなるのか。特定秘密は法廷でも公開されず、秘密の中身が明らかにされないまま有罪とされる可能性がある。憲法が保障する刑事裁判の適正手続きや裁判の公開に反する疑いがあり、被告の人権が守られない懸念は大きい。

法案によれば、刑罰に問われるのは、特定秘密を漏えいした公務員や脅迫・不正アクセスなどによって特定秘密を取得した人だけではない。未遂も処罰されるほか、漏えいや取得をめぐって共謀したり、そそのかしたり、あおったりした人は、実際に情報が漏れなくても懲役5年以下の罰則が適用される。それは記者に限らず、知る権利に基づき情報を得ようとする市民も対象になる。

法案は、特定秘密を行政側が捜査・公判のために検察側に提供したり、公判が始まる前の整理手続きで裁判所に提示したりするケースは認めているが、被告・弁護側への提示は認めていない。とりわけ問題になるのは、被告がそそのかしなどに問われ、特定秘密を入手していないケースで起訴された場合だ。被告・弁護側は秘密の内容を知らないまま争うことになり、大きな不利益を被る。

立証のあり方も課題だ。国会審議で政府側は、特定秘密の中身を公開の法廷で明らかにすることはできず、代わりに「外形立証」という方法で立証可能と強調している。

外形立証は秘密の内容をそのまま明らかにしなくても、秘密に指定された手続きやその種類、指定の理由などを立証して「外堀」を埋める方法。それによって、単に指定されたから秘密だというだけでなく、実質的にも秘匿するに値する内容だと推認できるとするものだ。

1967年に摘発された外務省職員によるスパイ事件の判決などで外形立証が認められた例はある。だが、推認のレベルで有罪にできるのかとの疑問は法学者の間にも根強い。

そもそも特定秘密の範囲があいまいなうえ、行政が恣意(しい)的に指定できる余地がある仕組みだ。そうした中で、秘密が秘密のままに裁判が進むことは極めて危うい。将来に禍根を残すと危惧せざるを得ない。

朝日新聞 2013年11月16日

特定秘密保護法案 成立ありきの粗雑審議

特定秘密保護法案の審議が衆院の特別委員会で続いている。自民、公明の与党は、来週中に衆院を通過させる構えだ。

審議を聞くにつけ、この問題だらけの法案を、こんな粗雑な審議ですませるつもりなのかという疑念が募るばかりだ。

あぜんとするしかない答弁があった。

法案担当閣僚の森雅子氏が与党議員の質問に、「さらなる改善を今後も、法案成立後も尽くしていく努力もしたい」と答えたのだ。これでは法案に欠陥があるのを自覚しながら、まずは成立ありきの本音を認めたのと同じではないか。

菅官房長官は記者会見で、「法案成立後、運用の段階で不断の見直しを行っていくのは、ある意味で当然のこと」と森氏をかばった。

だが、国民の権利を制限し、民主主義のありように大きな影響を与えかねない重要法案である。そんな一般論で片づけるのはあまりに強引だ。

森氏の答弁には、ほかにもぶれが目立つ。

秘密漏洩(ろうえい)で報道機関が強制捜査の対象になるかと問われ、森氏は「ガサ入れ(家宅捜索)が入るということはない」といったんは明言。ところが谷垣法相は「具体的事例に即して検察が判断すべきものだ」と答えた。

また、この法案作成にからむ政府文書がほぼ全面墨塗りで開示されたことに対し、野党議員が全面開示を求めると、森氏は「開示できると思う」。これには内閣官房の官僚がすぐさま「検討する」と言い直す。

どちらが政府の見解なのか、わからない。いずれにせよ、その場しのぎの答弁と言われてもしかたあるまい。

来週中の採決をにらみ、与党は日本維新の会などとの間で修正協議に入っている。

与党は、秘密指定の期間を「原則30年」とする程度の譲歩には応じる構えだ。とはいえ、外部からの検証メカニズムがないまま、実質的に官僚の裁量で幅広い情報を秘密に指定できるという法案の骨格を動かすつもりはなさそうだ。

修正したとしても、残り数日間の審議で採決しようというのでは、乱暴きわまりない。

与党は野党の要求を聞き入れた、野党は与党に法案の欠陥を認めさせた。こんなことを示す国会戦術のための微修正なら、まったく意味はない。

それではすまない重たい問題をはらんだ法案だ。この短い臨時国会で議論が尽くせるわけがない。ここはやはり、廃案にするしかない。

毎日新聞 2013年11月15日

秘密保護法案を問う…報道の自由

報道の最大の使命は、国民の「知る権利」に応えることだ。私たちが取材や報道の自由を訴える根拠も、そこに根ざしている。

特定秘密保護法案の国会提出直前、「報道や取材の自由への十分な配慮」が条文に加わった。だが、法案には、捜査当局による捜査手法に限定を加える規定はない。強制捜査を含め、最終的には捜査側の判断次第なのだ。「知る権利」を脅かす恐れが強いと指摘せざるを得ない。

一つ例を挙げたい。報道機関が特定秘密に指定された情報を入手し、国民に知らせるべきだと判断すれば、報道に踏み切るだろう。その場合、取材源は明かせない。取材源を守ることで、国民の信頼を得ることができ、自由な取材も可能になる。

一方、捜査側はどう対応するか。家宅捜索で記者のパソコンや携帯電話を押収し、漏えいした公務員を割りだそうとする可能性が高い。そうなれば、多くの取材先に迷惑が及ぶ。記者や報道機関の信頼は地に落ちる。たとえ刑事訴追の段階で、法案の配慮規定に従い記者が起訴されなくてもダメージは大きい。取材先を守れなければ、その後の取材活動は続けられないかもしれない。

報道機関に家宅捜索が入る可能性が今週の国会審議で取り上げられたが、政府答弁は一貫性に欠けた。森雅子特定秘密保護法案担当相は当初、配慮規定を理由に「入ることはない」と述べたが、谷垣禎一法相や古屋圭司国家公安委員長は、捜索の可能性を否定しなかった。

実は捜索をめぐる事件が2005年、ドイツで起きた。国家秘密とされるテロリストの情報が月刊誌に掲載されたのだ。ドイツの法律では、記者に証言拒絶権を認めている。だが、捜索を禁じる規定はなく、当局は捜索を行った。その是非が争われ、憲法裁判所は違憲と判断した。

ドイツでは昨年、刑法や刑事訴訟法が改正され、秘密漏えいがあっても記者本来の仕事である情報の入手や公表ならば、刑事責任は問われず、取材源割り出しを目的とした捜索もできないことになった。

一方、日本では取材源を秘匿するための記者の証言拒絶権や、差し押さえ禁止の規定が刑事法令にない。そうした状況下で、「そそのかし」のようなあいまいな規定で罰せられる可能性がある。森担当相は後に、「(取材が)著しく不当な方法と認められない限り、捜索は入らない」と述べたが、不当かどうか捜査当局が決める根っこは変わらない。やはり法案は問題だ。

朝日新聞 2013年11月16日

特定秘密保護法案 身近な情報にも影

国家秘密なんて大それたものに自分がかかわることはまずない。特定秘密保護法案は遠い世界の話だ。そう考えている人は多いのかもしれない。

でも、本当にそうだろうか。この法案は、一歩間違えれば生活にかかわる情報が市民に明かされなくなる危険をはらむ。

法案のいう「特定秘密」には「テロ防止のための措置」が含まれる。重要施設への警察の警備態勢などがこれに当たる。

問題は、テロ防止の必要性をもちだせば、何でも秘密にされかねないことだ。

今でもこんなことがある。

電磁波による健康被害を心配した神奈川県鎌倉市の市民が、携帯電話の中継基地局の場所の公開を求めた。市は昨年、「破壊活動を誘発する恐れがある」として非開示を決めた。

社会の基盤となる施設を守る必要はわかるが、外から見える施設である。これで法案が通ったら、全国でどれだけ多くのインフラ情報が伏せられるのか。

国がテロを防げと情報秘匿を強めれば、自治体も住民への周知よりセキュリティー優先に傾く。法案は自治体の情報公開を後退させ、やみくもな情報隠しを招きかねない、と情報公開に詳しい弁護士らは懸念する。

原発や基地に限らず、さまざまな生活インフラにも事故や健康被害のリスクはある。市民生活と無縁ではない。

警察情報を除けば、自治体の持つ情報は「特定秘密」には当たらない。が、多くの自治体の情報公開条例には、法令の定めや国の指示があれば情報を非公開にできる規定がある。

秘密保護法に対応するため、自治体が条例にテロ防止関連の規定を新設する可能性もある。

国が秘密にするつもりのない情報まで自治体が伏せてしまう「過剰反応」も起こりうる。

前例がある。個人情報保護法ができたときだ。災害時に自力で逃げられない要援護者の情報を、消防や自治会に提供しない自治体が問題になった。

このときは国が過剰反応を防ぐよう自治体に通知したが、今回は国が自ら秘密のハードルを下げるとは期待できない。そもそも何が秘密にあたるか例示もろくにしていないのに「そんなことまで秘密にしなくていい」と啓発のしようもない。

情報は本来、社会のみんなのためにある。大原則は公開であり、秘密が許されるのは安全上やむをえない場合に限られる。

この法案はその原則と例外をひっくり返し、秘密の範囲を際限なく広げかねない。そこに根本的な欠陥がある。

毎日新聞 2013年11月13日

秘密保護法案を問う 強まる反対世論

国会議員、とりわけ与党議員はこの世論の動向をどう受け止めているのだろう。毎日新聞が9、10日に実施した全国世論調査では特定秘密保護法案に反対と答えた人は59%に上り、賛成の29%を上回った。

衆参のねじれがなくなった今の国会では与党の自民、公明両党が当初方針通り賛成すれば法案は成立する。だが、審議を重ねるほど問題点が浮き彫りになっているのが実情であり、今回の世論調査もそうした状況を反映したものだろう。与党議員は国民の疑問、不安に対し、謙虚に耳を傾けるべきである。

それにしても、なぜ与党内でほとんど異論が出てこないのか。むしろそれが不思議でならない。かつての自民党はもう少し世論に敏感で、かつ多様な意見が存在していたのではなかったろうか。

例えば中曽根康弘政権時代の1985年、今回と似た法案を自民党が提出したことがあった。「スパイ防止法案」と呼ばれた、この法案は当初、防衛上の国家機密を漏らした場合、最高刑を死刑とする内容だった。後に修正はされるが、当時野党だけでなく自民党の若手議員も反対論を唱え、結局法案は廃案となった。

反対した一人が谷垣禎一・現法相だ。谷垣氏は当時、月刊誌に論文を発表し、こう書いている。

「国政に関する情報は、主権者たる国民に対し基本的に開かれていなければならない」「刑罰で秘密を守ろうという場合は、よくよく絞りをかけておかないと、人の活動をいたずらに萎縮させることになりかねない」「(スパイ防止法案は)国家による情報統制法としての色彩を持つことは避けられない」−−。

その指摘は今回の法案にもほぼそのまま当てはまる。ところが谷垣氏は今、「情報公開をめぐる状況が大きく変わり、言論に対する萎縮効果がないように、いろんな工夫がされてきている」などと語るのみだ。

自民党では、当時谷垣氏とともにスパイ防止法案に反対した村上誠一郎氏が今回も「本当に国民の知るべき情報が隠されないか。基本的人権の根幹に関わる問題だ」と反対姿勢を表明したが、ごく少数にとどまっている。当初は慎重姿勢だった公明党も同様だ。「知る権利」が法案に記されたことなどから賛成に転じたが、その後明らかになった問題点についてどう考えているのか、きちんと答えているとはいいがたい。

与党であっても国会審議を通じて考えを改めるのは決して恥ずかしいことではない。再考を求めたい。

朝日新聞 2013年11月12日

秘密保護法案 極秘が支えた安全神話

「極秘」のスタンプが押された文書に、侵入センサーなどの防護措置が列挙され、自衛隊、警察、海上保安庁などの対応要領も記されている――。

原発テロ対策を検討した16年前の政府の資料を朝日新聞社が入手して報じたことがある。同じ内容の「現代版」があれば、特定秘密になるだろうか。

特定秘密保護法案で原発がどういう取り扱いになるか。国会審議の焦点の一つである。

森雅子担当相は特定秘密の例として「警察による原発の警備の実施状況」を挙げた。だが、警備の実施状況とはどこまでを指すのだろう。

森氏は「原発の設計図は対象とならない」と述べた。では、それ以外はどうなのか。安全性にかかわる様々な情報が指定される可能性が残る。

特定秘密の指定については、外部の有識者が「基準づくり」に関与するが、個々の指定まではチェックが利かない。

秘密扱いになる警備情報はあるだろう。だが法律ができてしまえば、国会や裁判所も含め、第三者が指定の是非を検証することは極めて難しくなる。

何が秘密かの判断を事実上、官僚の手に委ねるのが、法案の特徴だ。そこに恣意(しい)的な判断の入り込む余地はないか。

こんな例がある。

外務省は84年、原発攻撃を受けた場合の被害予測を極秘に研究していた。「緊急避難しなければ最大1万8千人が急性死亡する」という結論だったが、反原発運動への影響を恐れて部外秘扱いにしてしまった。

そこには、送電線や原発内の電気系統が破壊され、全電源喪失になる想定も含まれていた。福島第一原発の事故を見通すような内容だ。

仮にこの研究が公表されていれば、安全対策が進んでいたかもしれない。ところが秘密扱いになったことで、情報は政府内ですら共有されなかった。

結果として大きな問題が放置された。原発の「安全神話」を支えたのは、秘密をつくりたがる官僚体質と、それを許した政治の不作為ではなかったか。

国の原子力委員会の専門部会が、原発テロ対策の強化など「核セキュリティー」の確保について報告書をまとめたのは、福島の原発事故後の11年9月。同部会による報告書の作成は約30年ぶりだった。

これまでも肝心なことが覆い隠され、先送りされてきた。法案が通れば、なおさらだ。

ほんとうに「特定秘密」が日本を守るのか。根底から考え直すべきだ。

毎日新聞 2013年11月12日

秘密保護法案を問う 歴史研究

特定秘密保護法案は、国民の共通の財産であるべき公文書の保管、公開を著しく阻害する恐れがある。これでは、政府は後世の歴史的審判を逃れてしまいかねない。

歴史の検証に欠落ができてしまうのは、すべての国民にとっての損失だ。私たちは、政治や社会の有りようを将来の歴史的審判にゆだねなければならない。それでこそ、人類は歴史から教訓を学びとり、未来を思い描くこともできるのだ。

歴史学の6団体の代表がこのほど、特定秘密保護法案に反対する声明を出した。同時代史学会代表の吉田裕(ゆたか)・一橋大大学院教授は、公文書にアクセスしにくくなるうえ、廃棄される危険を指摘する。

また、「オーラル・ヒストリー」(政治家や官僚に直接に話を聞き、記録する手法)もやりにくくなると懸念する。聞き取りの対象者は慎重になり、研究者も萎縮しかねない。

近年盛んになった「オーラル・ヒストリー」は文書史料では得にくい歴史的真実を浮き彫りにする成果を収めている。たとえば、「聞き書 野中広務回顧録」(御厨貴(みくりやたかし)、牧原出(まきはらいづる)編・岩波書店)もその一つだろう。歴代内閣を裏で支えた元自民党幹事長の証言は、新しい事実も交えて、生々しく政治状況を描き出している。こうした貴重な記録を残せないのでは、大きな損失だ。

一方、民主党政権によって、日米密約に関する外交文書がなくなってしまった問題が調査された。不自然な欠落があることが外務省の有識者委員会で報告された。そのうえ、元外務省条約局長は国会で、核持ち込みなどの関連文書の一部が破棄された可能性を指摘した。

こんなことを繰り返すと、歴史研究が偏ったものになってしまう。

アメリカや英国では国家秘密も一定期間を過ぎれば公開される原則がある。日本で公文書が公開されないと、歴史家は外国の史料を中心にして、日本の外交を検証するしかない。それでは見方が一方的になりかねない。歴史とは多角的に光をあてることで、全体像が見えてくるものだ。

こういった懸念を払拭(ふっしょく)するには、特定秘密も一定年数を経ると公開する原則を定めることや、秘密指定の妥当性について第三者機関がチェックする仕組みが必要だ。

歴史研究が妨げられることは単に専門家たちの問題ではない。研究の積み重ねが、やがて教科書にも生かされ、国民全体に共有されていく。現代の専門家が困ることは、未来の国民が困ることにつながる。

朝日新聞 2013年11月08日

特定秘密保護法案 市民の自由をむしばむ

安全保障にかかわる秘密を漏らした公務員らに厳罰を科す特定秘密保護法案がきのう、衆院で審議入りした。

安倍首相は、「秘密保全に関する法制を整備することは喫緊の課題」だと訴えた。だが、この日の首相らの答弁を聞く限り、これまで私たちが社説で指摘してきた数々の懸念は解消されていない。

むしろ、役所だけの判断で特定秘密に指定される情報の範囲が広がりかねないこと、いったん特定秘密に指定されるとチェックのないまま半永久的に隠されてしまうおそれが改めて浮き彫りになった。

この問題の影響は、情報を扱う公務員や報道機関の記者に限られたものではない。

例えば、米軍基地や原子力発電所などにかかわる情報を得ようとだれかと話し合っただけでも、一般市民が処罰されかねない。社会全体にそんな不自由や緊張をもたらす危うさをはらんでいる。

未曽有の原子力災害に見舞われた福島県議会は先月、原発事故に関する情報がテロ活動防止の観点から特定秘密に指定される可能性があるとして、慎重な対応を求める意見書を出した。

その指摘は決して杞憂(きゆう)ではない。やはり、この法案に賛成することはできない。

特定秘密は、防衛、外交、特定有害活動(スパイなど)の防止、テロ防止の4分野で、法案別表に定めた23項目に該当するものが指定される。

首相はきのうの質疑で、特定秘密はこの23項目に限定されると強調したうえで、これに該当するかどうかは、「行政機関の長が、専門的、技術的に判断することになる」と答えた。

23項目といえば限られているように思えるが、多くの項目には「その他重要な情報」とのただし書きがついている。幅広い解釈の余地がある。

法案が成立すれば、政府全体で万単位の情報が特定秘密に指定されるとみられる。

それだけの情報を「行政機関の長」である閣僚らが一つひとつ判断することは不可能だ。結局は官僚の裁量に委ねられることになる。

そしてその是非を、外部から検証する仕組みはない。首相は「一定期間の経過後、一律に指定を解除し、公開することは困難と考える」と答弁した。

安全保障にかかわる機密は存在するだろう。それを一定の期間保護する必要性も理解できる。それを主権者である国民の目からいったん遠ざけるにしても、後世の検証を担保することが最低限の条件である。

そうした仕組みづくりをかたくなに拒む姿勢を見せつけられると、この国では政府が集めた情報は国民のものであるという意識があまりに低く、情報を共有する制度的な基盤が極めて弱いと言わざるを得ない。

この根本的な構造に手をつけないまま幅広い秘密保護の仕組みを入れてしまえば、国民の知る権利はますます絵に描いた餅になるだけだ。

本来、知る権利を確保するための市民の武器となるのが、情報公開法と公文書管理法だ。

ただ、いまの情報公開法のもとで市民が情報を求めても、明確な理由がわからないまま拒否されたり、ようやく開示された文書が墨塗りだらけだったりすることはしばしばだ。

民主党は、制度の不備を補うため、政権時代に提出して廃案となった情報公開法改正案を再提出した。秘密保護法案とともに審議される。

改正案の柱は、公開の可否をめぐる訴訟で、裁判官がその目で文書を調べて開示すべきかどうかを判断する「インカメラ審理」を盛り込んだことだ。

だが、役所は裁判所への文書の提出を拒むことができる。民主党は、秘密指定の乱用に一定の抑止効果があるというが、政府が国民との間に築こうとしている分厚い壁を突き崩すには、あまりにも不十分だ。

秘密保護法案とセットで成立させればいいというものでは、決してない。

一方、公文書管理法は、公文書の作成、保存、一定期間後に歴史的文書として公開するまでのルールを定めている。

法が施行された11年度に、このルールによって国立公文書館に移された政府文書は、保存期間が終わった約234万件の文書の1%に満たなかった。残りは内閣府などのチェックをへたうえで、未公開のまま捨てられているのが現状だ。

日本に秘密保護法制を求める米国では、公文書館の情報保全監察局長に機密解除の請求権を与えるなど、政府の恣意(しい)的な運用に幾重もの歯止めがある。

こうした手立てのない特定秘密保護法案はまず取り下げる。真っ先に政府がやるべきは、情報公開法や公文書管理法の中身を充実させることだ。

毎日新聞 2013年11月10日

秘密保護法案を問う テロ・スパイ捜査

特定秘密保護法案では、防衛や外交分野だけでなく、テロ活動防止とスパイ活動防止に関する捜査や調査の情報も特定秘密の対象となる。その指定を担うのは主に警察庁と公安調査庁で、指定の権限を持つ「行政機関の長」は、警察庁長官と公安調査庁長官だ。両者の判断で特定秘密の指定に加えて5年ごとの延長が決められる。それは内閣の承認が必要となる30年まで続く。

監視活動が主体の公安捜査はともすれば行き過ぎる傾向にあり、国民の人権上の観点からも看過できない。両庁の指定は問題が大きい。

2001年の米同時多発テロ以降、テロ捜査での国際協力が推進され、外国の捜査機関との情報共有が進んだ。テロ防止に関する情報漏れを防ぐ必要性も強調された。

08年に当時の自民党政権が、秘密保全法制について検討チームを作った。具体的な内容を検討する作業チームには、内閣官房や外務、防衛両省のほか、警察庁と公安調査庁のメンバーが加わった。今回の法案作成に関して、両庁が当初から主導的な役割を担っていたのだ。

そもそも、テロ・スパイ活動防止のために特定秘密の指定が不可欠なのか。警視庁公安部の国際テロ捜査に関する内部資料が10年、インターネット上に大量流出した事件があった。外国情報機関からの提供情報も多数含まれ、警視庁は面目を失った。だが、内部とみられる犯人の逮捕に至らず、先月時効を迎えた。

漏えいの罰則を最高懲役10年に引き上げたところで、抑止力になるとは限らない。情報取扱者の限定と厳重な警戒など、まず部内での情報管理を徹底させる方策に力を入れるのが最優先だ。

特定秘密を隠れみのに、公安捜査が暴走し、歯止めが利かなくなる恐れはないか。そちらの方が心配だ。

流出した国際テロ捜査資料には、在日イスラム教徒や捜査協力者約1000人分の名前や住所、顔写真、交友関係などの個人情報も含まれていた。法案別表の規定によれば、特定秘密への指定が可能だ。問題なのは、こうして集められた個人情報にテロとは無関係のものが多数含まれていたことだ。国際結婚したり、イスラム教徒だったりしただけでテロリストと結びつけられた例があった。

スパイ活動の防止にも同じことが言えるが、人を監視することによって得られる情報は、国民の人権やプライバシーと衝突する危険性をはらむ。両庁以外の目が入る仕組みがなければ、市民生活が脅かされる。

朝日新聞 2013年11月07日

日本版NSC やはり議事録は必要だ

日本版NSCと呼ばれる国家安全保障会議の設置法案がきょう衆院を通過する。

だが、大きな課題が残されている。NSCの議事録を作るかどうかが不明確なままだ。

民主党は、付帯決議に議事録作成を盛り込むことで賛成にまわったが、法案には明記されていない。付帯決議は「速やかに検討し、必要な措置を講ずる」としているだけだ。

外交・安全保障の司令塔となるNSCが、政治家に都合のいい隠れみのになってしまうか否かの分かれ目である。

きのうの衆院特別委員会では民主党の議員から、こんな注文が相次いだ。

「(議事録が)自由闊達(かったつ)な議論を妨げると言うが、責任ある議論が必要だ。真剣な議論は国民の利益につながる」

「政府部内で事後的に検証したり、国民が外部から検証したりするため記録は残すべきだ」

安倍首相も「なるほど、というところはある」と応じた。機密保全との兼ね合いを指摘しながらも議事録作成を「しっかり検討していきたい」と語った。

ならば、議事録作成を法案に明記すべきだ。民主党が付帯決議で収めたのは理解に苦しむ。

NSCの中核となる「4大臣会合」などが、国の行方を決定づける重要な舞台であればこそ、歴史的な検証のため議事録を残すのは当然だ。ときどきの政権の対応から教訓を導くためにも、後世の目は欠かせない。

菅官房長官は「議事録は作らない」と答弁していた。NSCには機微な情報があり、自由闊達な議論を確保するため、という主張だ。

だが、この理屈を認めればどうなるか。密室の中で少人数の政治家が、公開されない機密をもとに議論を進め重要な方針を決める。国会もチェックのしようがなく、歴史家による考証もままならない。

それでは話にならない。

すぐに公表する資料ではない。数十年後、日本の外交・安全保障政策を振り返ったとき、首相や官房長官、外相、防衛相らが、何を根拠に、何を主張し、どのような判断で方針決定に至ったのか。具体的なやりとりをもとに、厳しく検証される必要がある。

それすら受け入れられないようでは、自衛隊を動かし、国の存立にかかわるような決断をする資格はあるまい。

自分たちが議論したことを、胸を張って後世に示せないのか。NSCの必要性を唱えるのなら、政治家として歴史に耐える矜恃(きょうじ)を持ってもらいたい。

毎日新聞 2013年11月08日

秘密保護法案を問う・審議入り 重ねて廃案を求める

特定秘密保護法案が7日、衆院で審議入りした。安倍晋三首相は本会議で、情報漏えいの脅威が高まる中、国家安全保障会議(日本版NSC)を効率的に運営するためには、秘密保全体制の整備が不可欠だとして、法案の意義を繰り返し強調した。

だが、この法案は、憲法の基本原理である国民主権や基本的人権を侵害する恐れがある。憲法で国権の最高機関と位置づけられた国会が、「特定秘密」の指定・更新を一手に行う行政をチェックできない。訴追された国民が適正な刑事手続きを受けられない可能性も残る。憲法で保障された「表現の自由」に支えられる国民の「知る権利」も損なわれる。

7日の審議でも根本的な法案への疑問に明快な答弁はなかった。法案には反対だ。重ねて廃案を求める。

国の安全保障上欠かせない情報はあり、日米同盟に基づく高度な機密は保全すべきだろう。そのために、2001年に自衛隊法が改正され、防衛秘密の漏えいに対し最高懲役5年が科せられた。また、米国から供与された装備品情報の漏えいは最高懲役10年だ。防衛秘密が現行法の下で基本的に守られている中で、新たな立法の必要性はないと考える。

もちろん、防衛以外にも秘密とすべき情報はあるだろう。だが、この法案では、防衛のほか、外交、スパイ防止、テロ防止の各事項について、行政の裁量で際限なく特定秘密が指定できる。さらに、その漏えいだけでなく、取得行為にも厳罰を科す。あまりにも乱暴な規定だ。

行政に不都合な情報が特定秘密に指定される恐れはないのか。安倍首相は、別表での細かい規定や、指定の基準を作る際に有識者に意見を聞くことを挙げ「重層的な仕組みになっている」と述べたが、全く不十分だ。国会を含む第三者が個々の指定の妥当性をチェックする仕組みは法案にない。民主党は情報公開法の改正で、裁判所にその役割を担わせる考えだが、実効性が伴わない可能性が大きい。

7日の審議で、森雅子担当相は、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)などの通商交渉や原発事故対応などの情報は、特定秘密の対象にならないと答弁した。ただし、原発でも警備の実施状況は、特定秘密に該当すると述べた。行政任せの根本が変わらなければ線引きは意味がない。

法案概要が公表されたのは9月である。今から議論を始めてこの国会で成立を図ろうとすること自体、土台無理な話だ。まずは徹底審議で問題点を明らかにしてほしい。

朝日新聞 2013年11月06日

秘密保護法案 社会を萎縮させる気か

秘密をつかんでいなくても、だれかと秘密を得ようと話し合った。それだけで処罰される。

国民の知る権利を侵す懸念が強い特定秘密保護法案には、そんな内容も盛り込まれている。共謀罪といわれるものだ。

この法案は、秘密に接する人たちだけを監視の対象にするわけではない。ふつうの市民の暮らしをめぐる調査活動も違法となりかねない。法案そのものが社会を萎縮させてしまう。

とりわけ共謀罪は、犯罪が起きていなくても、複数の人が合意すれば成立する。秘密保護法案の場合、政府が指定した情報の漏洩(ろうえい)や取得を「共謀」することを、未遂、教唆、扇動とともに処罰の対象にしている。

日本の刑事法は、犯罪は実行されて初めて罰することを原則にしている。予備、陰謀の罰則規定はあっても、内乱罪などの重大な犯罪に限られてきた。

だが、今回の法案にある共謀は、未遂や予備よりさらに実行から遠い段階の行為だ。しかも何をもって共謀があったと判断するか線引きは難しく、恣意(しい)的に使われかねない。

人が意思を通じ合ったことをもって処罰する手法は、戦前、戦中は、政府と違う考え方を持つ人たちへの弾圧に使われた。心の中のことで人を処罰できれば、権力に都合の悪い人を訴追するのはいとも簡単だ。治安維持法下の苦い教訓であり、だからこそ戦後の社会は共謀を犯罪とすることに抑制的だった。

だが、政府は2003年以降、国際的な組織犯罪を防ぐ条約の批准に向け、600以上の犯罪に共謀罪をつくる法案を3回、国会に出した。野党や市民団体の反対だけでなく自民党の一部にも乱用への懸念があり、すべて廃案に終わった。

秘密の保護をめぐる共謀罪に前例がないわけではない。01年の自衛隊法改正の際に設けられた。だが、その対象は狭い防衛秘密の漏洩(ろうえい)に限られている。今回の法案のもとで秘密指定される情報の範囲はずっと広い。

たとえば、原発の安全性や、在日米軍の事故の調査など、安全や人権にかかわる情報や真実に近づこうとする営みは市民の間でも日常的に行われている。

共謀罪の規定のもとでは、そうした重要な事実に迫ろうと打ち合わせた段階で法に触れることになりかねない。

当局が実際に法をどう適用するかは見通せない。はっきりしているのは、秘密をめぐるさまざまな罰則をあれこれ張り巡らせることが、国民が真実を知ろうとする動きを牽制(けんせい)し、鈍らせる悪弊を生むことだ。

毎日新聞 2013年11月07日

秘密保護法案を問う…国政調査権

議員自ら、その手足を縛るのだろうか。特定秘密保護法案の持つ危うさを立法府である国会はもっと深刻に受け止めるべきだ。

憲法62条は「両議院は各々国政に関する調査を行い、これに関して証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる」と国政調査権を定めている。

国会法や議院証言法は政府が国会への報告、証言や資料提出を拒否した場合、最終的には理由として「国家の重大な利益に悪影響を及ぼす」との声明を内閣が出さない限り国会の要求に応じるよう手続きを定めている。議会が行政を監視する権限を踏まえたものだ。

ところが特定秘密保護法案は情報提供の有無、提供された場合の取り扱い両面にわたり行政優位の統制に置くため立法府の国政調査権行使に重大な支障を来すおそれがある。

法案は行政機関の長が国会に特定秘密を提供する場を非公開の秘密会に限定する。しかもそれは「我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがないと認めたとき」との条件つきで「支障を及ぼすおそれがある」と判断すれば提供を拒める。安全保障をはじめ広範な情報から国会が遮断されかねない。

秘密会で情報が提供されても厳重な統制が加えられる。国会議員が故意に漏えいした場合は5年以下の懲役刑などに処せられ、過失でも罰せられる。その議員に漏えいを働きかけた第三者も処罰対象だ。

議員が知った情報は同僚議員や政党職員、秘書らと自由に共有できず政党や議員の活動を萎縮させるおそれがある。秘密保護に必要な措置は内閣の政令で定められ、特定秘密指定は有効期間5年を経て行政が更新できるという行政主導である。

一方で憲法51条は「両議院の議員は議院で行った演説、討論または表決について院外で責任を問われない」と定めており、国会討論や質疑で秘密を開示しても刑事免責されるとみられる。だが、秘密保護法が制定されるとこの条項を逆手に取り、行政側が情報もれのおそれがあるとして情報の提供を拒む懸念すらある。

国会議員の守秘義務のあり方は本来、議院自らルールを決めるべきものだ。自民党の石破茂幹事長はここにきて国会が秘密指定を監視するための機関づくりなどに言及しているが、そんな肝心な議論も尽くさぬまま政府が法案提出になぜ踏み切ったのか、はなはだ疑問だ。議会政治に禍根を残しかねない重大な局面だと国会議員一人一人が心得てほしい。

毎日新聞 2013年11月06日

日本版NSC 議事録作成は不可欠だ

政府の外交・安全保障政策の司令塔となる国家安全保障会議(日本版NSC)を設置するための法案が、衆院を通過する見通しになった。関係省庁のNSCへの情報提供義務を明記するなど、組織の骨格に関わらない部分で、政府・与党が民主党の修正案を一部受け入れた。会議の議事録作成の義務づけについては、法案の付帯決議に盛り込むことで折り合った。議事録の作成は不可欠だ。早急に検討し、きちんと法案に明記し、より多くの国民の支持が得られるようにすべきだ。

日本版NSCは現在の安全保障会議を改組し、首相官邸主導で外交・安全保障政策を企画、立案することを目指す。中核となるのは、首相、官房長官、外相、防衛相による「4大臣会合」だ。事務局として関係省庁の出身者ら約60人でつくる国家安全保障局を内閣官房に新設する。

厳しさを増す安全保障環境を踏まえ、省庁の縦割りを排して一元的に外交・安全保障政策を収集し、機動的に対応しようという趣旨は理解できる。しかし今回の法案は、問題点が少なくない。

まずNSCは米国などから提供された機密情報を扱うため、特定秘密保護法案を一体で成立させる必要性があると政府は主張する。特定秘密保護法案は、安全保障で特に重要な情報を特定秘密に指定し、情報漏えいに厳罰を科すものだ。この法案が成立すれば、特定秘密に関わるとの理由でNSCの政策決定まで明らかにされない可能性が出てくる。

情報漏えいへの対応は現行法の活用で可能だ。NSC法案は、特定秘密保護法案と切り離すべきだ。

またNSC法案は、政府の政策決定が適切だったか否かを、検証する仕組みが担保されていない。会議の議事録作成が義務化されていないからだ。付帯決議では心もとない。

安全保障に機密があることは理解できる。支障があるものは、時間をおいて公表すればいい。しかし議事録が作成されなければ公表もできず、検証しようがない。

日銀の金融政策決定会合は、約1カ月後に議事要旨、10年後に議事録を公開している。参考にすべきだ。

安倍晋三首相は、閣議の議事録作成を義務づける公文書管理法改正に前向きな考えを示している。一方、菅義偉官房長官は審議の中で、現在の安全保障会議が「自由闊達な議論」などのために議事録を作成していないとして、NSCでも「議事録は作らない」と話していた。矛盾していないか。

NSCはただ組織を作ればいいのではない。国民の理解を得ながら、効果的に運用する制度設計が肝心だ。抜本的な見直しを求めたい。

毎日新聞 2013年11月06日

秘密保護法案を問う 国の情報公開

特定秘密保護法案は、国民の知る権利を支える情報公開や公文書管理の理念から大きくかけ離れる。情報公開法は「国民主権の理念にのっとり、情報の一層の公開を図る」ことを目的とし、公文書管理法は「国の諸活動や歴史的事実の記録である公文書は、健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」とうたう。

ところが、法案が成立すると、国の安全保障に著しい支障を与える恐れがあるとの理由で、行政機関は大量の情報を恣意的に特定秘密に指定することが可能になる。政府にとって「不都合な真実」も国民の目から隠蔽されかねない。

政府の「隠蔽体質」を如実に物語るのが、1972年の沖縄返還に伴う密約問題だ。日本が米国に財政負担することを両政府が合意した密約について日本政府は一貫して否定し続け、2000年以降に米国立公文書館で密約を裏付ける文書が見つかった後も、その姿勢を変えていない。

西山太吉・元毎日新聞記者らが密約文書の開示を求めた訴訟で11年の東京高裁判決は、「沖縄を金で買い戻す」との印象を持たれたくない政府が国民に隠す必要があったと認定し、ばれないように01年の情報公開法施行前に秘密裏に文書を廃棄した可能性を指摘した。開示請求は退けたが、密約文書を「第一級の歴史的価値を有し、永久保存されるべきだった」と国の姿勢を批判したのだ。

密約のような行為も行政の思惑次第で指定がまかり通り、外部からのチェックは不可能になる。5年の指定期間は行政の判断だけで更新でき、内閣の承認があれば30年を超える指定も可能だ。国民は半永久的に知ることができなくなってしまう。

特定秘密に指定される情報も、情報公開法や公文書管理法の対象になる見通しだ。ところが、国の安全が害される恐れがあるなどと行政側が判断すれば公開を拒否できるので、特定秘密は事実上開示されないことになる。公文書管理法も、各省庁で保存期間が満了した行政文書は国立公文書館などに移管するか、または首相の同意を得て廃棄することを認めており、廃棄される懸念は消えない。

民主党は、訴訟の段階で裁判所が対象文書を調べる仕組みを導入する情報公開法改正案を提出し、知る権利の充実を強調する。しかし、国の防衛や外交上の利益などに重大な支障を及ぼす場合は行政側が法廷への文書提出を拒否できるとの条文があり、実際には機能しない可能性が強い。この改正案と引き換えに法案の成立を許すわけにはいかない。

毎日新聞 2013年11月05日

秘密保護法案を問う 国民の知る権利

国民が自由に情報を得る機会を持つことは、民主主義の基本だ。知る権利に奉仕するのは報道だけではない。国民は多様なルートで国政についての情報を集める。

だが、特定秘密保護法案が成立し、特定秘密にいったん指定されれば、その取得行為が幅広く罰せられる。国民も例外ではない。

法案は、社会の情報流通を妨げ、国民の日常生活を脅かす危険性に満ちていると、改めて指摘したい。

憲法や刑事法を専攻する学者300人近くが10月28日、法案に反対する声明を連名で発表した。

特定秘密は安全保障に関わる国家機密で、防衛、外交、スパイ活動防止、テロ活動防止の4分野が対象だ。別表で規定された項目は広くあいまいで、行政の判断でいかようにも拡大できる。一方、情報を得ようとする側は、何が特定秘密か分からないまま、取得行為が罰せられる。

法学者は、こうした基本的な枠組みに危惧を表明した。国民の人権を侵し、憲法の国民主権の原理に反するというのだ。もっともな指摘だ。

声明では、特定秘密の指定が、市民の関心事に及ぶ具体例を二つ挙げた。一つは、原発事故だ。安全性に関わる情報がテロ活動と結びつけられ、特定秘密に指定される可能性が大きいと法学者はみる。

もう一つが基地問題だ。防衛省は普天間飛行場の移設先に予定している沖縄県名護市辺野古のジュゴンの環境調査結果を公にしていない。こうした調査でさえ、基地移設と関連づけ特定秘密になり得るという。

原発や基地は全国に点在する。地元住民のみならず国民の共通関心事である。そうした重要テーマについて、個人やグループが情報を集め、議論をし、行政対応を求めるのはごく日常的な光景だ。

だが、いったん特定秘密に指定されれば、情報に近づくことは、刑事罰に直結する。漏えいや取得についての共謀、そそのかし、扇動行為には、最高で懲役5年が科せられる。未遂の処罰規定もあるから、結果的に情報提供がなくても罰せられてしまう。

また、万が一、逮捕・起訴されて裁判になっても、特定秘密の内容が法廷で明らかにされないまま有罪になる可能性を法学者は指摘する。刑事裁判の適正手続きという観点からも大いに疑問が残るのだ。

法案が成立すれば、国民の知る権利は守れなくなる。

      ◇        

特定秘密保護法案の審議入りが近い。問題点を明らかにしていく。

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