米軍無人機攻撃 民間人の犠牲拡大を阻止せよ

毎日新聞 2013年11月05日

米無人機攻撃 規制めぐる国際論議を

米国の無人機攻撃への批判が強まっている。国連人権理事会が調査を依頼したエマーソン特別報告者(英国)らの報告(10月)によると、パキスタンでは2004年以降、330回以上の無人機攻撃が行われ、約2200人が死亡した。うち民間人は少なくとも400人に上り、隣国アフガニスタンでは60人近い民間人が犠牲になったという。

また、国際人権団体は先月下旬の報告書で、イエメンでは09年から今年にかけての無人機攻撃で57人の民間人が殺されたと結論づけた。

とうてい見過ごせぬ数字である。

先月訪米してオバマ大統領と会談したパキスタンのシャリフ首相は、同国領内での無人機攻撃をやめるよう求めた。ノーベル平和賞の候補になった同国の少女、マララ・ユスフザイさんもオバマ大統領に無人機攻撃の停止を要望している。

実にもっともである。無人機攻撃は、アフガンとパキスタンに潜む国際テロ組織アルカイダやイスラム武装組織タリバンなどが標的であり、民間人殺傷は言語道断だ。戦闘の巻き添えになるパキスタンで反米感情が高まるのは無理もなかろう。1日にはタリバン側の幹部が無人機で殺され、タリバンとの和平協議をめざすパキスタンには打撃となった。

オバマ大統領は5月、無人機による民間人殺傷の対策として、中央情報局(CIA)が運用してきた無人機を米軍所管とし、テロ容疑者を暗殺するより身柄拘束や聴取を重視する方針を示していた。この方針が徹底していないのだろう。

無人機は米本土から遠隔操作で飛ばし、搭載したカメラやレーダーで前線の敵を識別して攻撃することが可能だ。米国にすれば軍事費や米兵の犠牲を減らせて重宝だが、協力者の現地情報(ヒューミント)がないまま運用すると誤爆を生みやすいとされる。遠隔操作である分、殺傷への心理的抵抗も薄れるはずだ。

エマーソン氏らは無人機を違法とはみなさなかったが、どんな場合に使用が認められるか明確な国際合意がないと指摘し、適切な規制を設ける議論を各国に呼びかけた。民間人の犠牲者が出た時は当事国が説明責任を果たすことも求めた。いずれも当然の提言である。オバマ大統領は5月の約束を思い出し、規制をめぐる国際論議を主導してはどうか。

パキスタンやアフガンでは有人の軍用機による誤爆例も多い。操縦士が乗っていようがいまいが、十分な情報を持たない攻撃は悲劇につながるということだ。国際部隊のアフガン撤退期限(来年末)を前に米国は焦っているかもしれないが、現地の人々の恨みを買えば「名誉ある撤退」はますます遠のくだけである。

読売新聞 2013年11月05日

米軍無人機攻撃 民間人の犠牲拡大を阻止せよ

無人機による民間人への誤爆が、米軍主導のテロ掃討作戦への反発を招いている。誤爆の犠牲者の拡大を食い止めなければ、作戦の遂行も危うくなりかねない。

対テロ作戦として米国や英国がパキスタンやアフガニスタンで進める無人機攻撃の実態に関し、国連に調査を依頼された専門家が国連総会第3委員会で報告した。

攻撃の巻き添えで死亡した民間人は、2004年以降、合計で450人を上回るという。

米国は01年頃から、対テロ作戦でミサイルなどを備えた無人機による攻撃を開始したとされる。

情報提供者の協力で敵の所在を突き止め、米本土の基地から遠隔操作で無人機を現場上空に送り込む。搭載したレーダーやカメラで標的を見極めて攻撃する。

米国側に人的損害が出ない上、パキスタンの部族地域のように陸上からは接近が難しい場所でも、上空からならたやすい。長時間の滞空が可能で即時攻撃能力があるので、潜伏中のテロ容疑者の掃討に威力を発揮している。

最近も「パキスタン・タリバン運動」の最高指導者を攻撃して、殺害したことが判明した。

国連報告が指摘しているように、無人機は本来、敵に接近して精密誘導兵器で攻撃を行う。誤爆はむしろ防ぎやすいはずだ。

だが、実際に誤爆が多いとすれば、地上の情報収集で敵の動静を的確に把握することが必要だ。

国連報告は、米国に対し、民間人誤爆に関する情報を公開するよう勧告した。米政府は、無人機攻撃の作戦情報をほとんど公開していない。誤爆と疑われる場合は、情報を開示すべきである。

パキスタンのシャリフ首相は先月、オバマ米大統領と会談し、無人機攻撃の中止を求めた。

だが、大統領は無人機攻撃は続行する方針だ。米軍のアフガン撤退が来年に迫っている。それまでに、アフガンからパキスタンに逃げ込んでいるテロ組織幹部をできるだけ排除したいのだろう。

テロとの戦いには、パキスタンも加わっている。米パ両国は地域の安定のため、協力してテロ勢力掃討に取り組んでもらいたい。

米国の無人機攻撃は10年をピークに減少傾向にある。大統領は攻撃規模を縮小し、透明性を高める意向を既に明らかにしている。

一方で、無人機を導入する国が増えているのは気がかりだ。秘密の殺人兵器として、野放しにしてはなるまい。情報開示など国際規範作りへの検討を急ぎたい。

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