日露2プラス2 「領土」への信頼を醸成したい

朝日新聞 2013年11月04日

日ロ2+2 異例の仕組みを生かせ

冷戦の最前線できびしく対立していた時代には、考えられなかった試みだ。

日本とロシアによる初の外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)が開かれ、テロ・海賊対策の共同訓練開催などで一致した。会合は今後、定例化され、安全保障の分野で一層の協力の強化を図っていく。

日本は米国と豪州との間に2プラス2を持つが、日本も豪州も米国とは同盟国の関係だ。北方領土問題が解決せず、平和条約が結べずにいるロシアと、安全保障や防衛政策で同盟国なみに接するのは異例である。

背景には、アジア・太平洋を中心にした国際情勢の激変がある。中国の経済的・軍事的な大国化は、東・南シナ海での領土紛争など周辺諸国との間であつれきを生んでいる。太平洋に安保政策の軸足を移すという米オバマ政権の方針も、米内政の混乱で不透明さがつのる。

北朝鮮による核・ミサイル開発問題は手詰まりが続く。2014年に米軍が撤退予定にあるアフガニスタン情勢も、今後に大きな不安が残る。

こうした折、ユーラシアの巨大な大陸国家ロシアと太平洋の代表的な海洋国家である日本が、2プラス2で安保協力を深める意味は大きい。アジア太平洋から広く世界の安定にまで貢献できる存在へと育てたい。

これまでも日ロは、海上救難訓練やアフガニスタンでの麻薬対策などで協力してきた。今後は日ロが影響力を持つ北朝鮮やイランの核開発問題、サイバーテロなど新たな脅威への対応でも協力を強めるべきだ。

一方で中国との関係では日ロの立場にずれがある。

長大な国境を接する中国の強大化は、ロシアにとっても潜在的な脅威である。同時に中ロは戦略的パートナーをうたい、経済を中心に関係は緊密だ。日本との2プラス2が、中国を牽制(けんせい)することには警戒心が働く。

むしろ、航行の自由や安全のルールなどアジア・太平洋での新たな安全保障秩序づくりに中国をとりこんでいく方向性が、日ロには必要だろう。

安全保障分野に比べ、領土問題ではロシアの対応は鈍い。今年4月に再開で合意した平和条約締結のための外務次官級協議が、ロシア側の慎重姿勢から1度の開催にとどまる。

領土問題があるかぎり、日ロの間に不信は残り、安全保障分野で完全な形での協力を進めることも難しい。2プラス2の仕組みも、十分な機能は期待しにくい。ロシアは領土問題にも、真摯(しんし)に取り組むべきだ。

毎日新聞 2013年11月03日

日露2プラス2 重層的な関係を築こう

日本とロシアは、初の外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を開いた。経済だけでなく、安全保障も含めた協力を目指す試みを歓迎する。両国に重層的関係を築き、信頼を醸成することを通じて、北方領土問題の前進と解決につなげていきたい。

安全保障問題を協議する2プラス2は、日本は米国、豪州としか開いていない。平和条約が締結されていないロシアとの開催は異例だ。ロシアにとってはフランス、米国、イタリア、英国に続き5カ国目となる。

プーチン大統領側近のパトルシェフ安全保障会議書記が昨秋、安全保障協力の強化を呼びかけたのを受け、日本側が2プラス2を提案し、今年4月の日露首脳会談で開催が決まった。日露双方に安全保障協力を強化したい思惑があったといえる。

ロシア側は、プーチン政権になって東方重視戦略をとるが、中国一辺倒にはしたくない。極東・東シベリアは、中国の人口圧力にさらされており、日本の投資を呼び込んで開発を促進したい。中国が航路や資源を求めて北極海への進出意欲を示していることに不快感を持ち、日本を使ってけん制する狙いもありそうだ。

日本側も、沖縄県・尖閣諸島を巡って対立する中国をけん制したり、北方領土問題解決への環境整備を図ったりしたいと考えている。

2プラス2では、海上自衛隊とロシア海軍がテロや海賊対策の共同訓練を行うことや、サイバー安全保障協議の設置で合意した。

またロシア側は、日米が共同開発するミサイル防衛(MD)システムに懸念を示した。日本側は安倍政権が「積極的平和主義」と名づけた安全保障政策を説明した。日露の安全保障協力といっても、日米や中露関係を超えるものではなく、双方の隔たりは大きい。ロシア軍機による領空侵犯が繰り返される中、協力には限界があり、実質的内容よりも開催自体に政治的意味がありそうだ。

北方領土問題については、あわせて開かれた外相会談で、実務を担う外務次官級協議を来年1月末にも開くことで合意した。今年4月の首脳会談で交渉加速化で合意したものの、8月の次官級協議は進展がなかった。

両首脳は半年間で4回も会談した。プーチン大統領は最近「平和条約を夢見るだけでなく、実際の作業を行う条件を作り出している」と前向きな発言もしている。

だが、ロシアは「第二次大戦の結果、4島はロシアの領土の一部となった」との主張を崩していない。ロシアの交渉の出発点は「4島」や「2島」返還でなく「ゼロ」で、安易に妥協するつもりはないようだ。日本は日露協力を深化させ、焦らずに領土問題の進展を図っていきたい。

読売新聞 2013年11月03日

日露2プラス2 「領土」への信頼を醸成したい

日露が安全保障協力を強化することは、東アジアの平和と安定に寄与する。互いの信頼を醸成することで北方領土問題の解決にもつなげたい。

日露両政府が東京で、初の外務・防衛閣僚協議(2プラス2)を開催した。4月に安倍首相とプーチン大統領が首脳会談で合意したものだ。

日本にとって、米、豪に続く3か国目の2プラス2である。日露関係は新たな段階に入った。

協議では、海上自衛隊とロシア海軍が、極東で捜索・救難訓練を拡充し、ソマリア沖ではテロや海賊対策のための共同訓練を実施することで一致した。

「海洋強国化」を加速する中国は、尖閣諸島周辺や南シナ海で強硬姿勢を示している。北極圏にも関心を抱き、ロシアは神経をとがらせている。日露が安全保障で緊密に連携するのは、中国への牽制(けんせい)という観点からも意義がある。

北朝鮮のミサイル・核も共通の課題だ。意思疎通を良くすることは双方の国益に合致しよう。

日露は、高度化するサイバー攻撃に対応するため、安全保障協議を新設することでも合意した。

日本は既に米国と「サイバー対話」を実施している。国際ルールの確立に向けて、ロシアと議論を深めることも欠かせない。

安倍政権が掲げる「積極的平和主義」の理念や、防衛大綱の見直しなど具体的な安全保障政策にロシア側は理解を示したという。

一方でロシアは、日米が進めるミサイル防衛には「アジア太平洋地域の戦略的バランスを崩す」と強い懸念を表明した。米国が欧州で進めるミサイル防衛計画で、ロシアの核抑止力が弱まることへの警戒感と連動するからだ。

防衛相の相互訪問によって、一層理解を深める必要がある。2月と8月にはロシア機による領空侵犯があった。危険な衝突を防ぐためにも対話を重ねるべきだ。

2プラス2に先立つ日露外相会談では、北方領土問題について話し合う外務次官級協議を来年早々に開くことで一致した。来春には岸田外相が訪露する。

ラブロフ外相は記者会見で、「対話は建設的で感情的にならず、挑発的発言を避ける環境で行われるべきだ」と語った。日露関係が険悪になれば、北方領土は動かないのは確かである。

安倍首相が言うように、日露協力を多様な分野に広げる中で、領土交渉も進展させる必要がある。交渉の道のりは険しいが、2プラス2はその土台になるだろう。

産経新聞 2013年11月04日

日露2+2 「領土」置き去りにするな

日本とロシアが外務・防衛閣僚協議(2プラス2)を行い、テロ・海賊対策共同訓練やサイバー空間をめぐる話し合いの実施などで合意した。

日露の信頼醸成を図ると同時に、軍事的に台頭し海洋進出攻勢に出る中国を牽制(けんせい)するうえで協議初開催は評価できる。

しかし、北方領土問題では外務次官級協議を来年1月末にも開くと決定するにとどまったことには、失望させられた。

領土問題が解決へ動き出さない限り、2プラス2を重ねても日露関係の大きな進展は望めない。日本側はこの点をロシア側に徹底して認識させなければならない。

日本の対露不信は先の大戦終結時、ソ連が武力により北方領土を不法占拠し今日まで実効支配していることに専ら起因している。ロシア側はまずもって、領土交渉に真摯(しんし)な姿勢で臨み、不信の根を断つべく努めることが肝要だ。

外務省は、この半年間に日露首脳会談が4回行われ、「信頼関係が深まっている」と強調する。

だが、重要なのは、頻繁な接触を領土返還交渉に生かすことではないのか。残念ながら、領土問題の最近の流れからは、その効果が表れているようには見えない。

対露不信は他にもある。ロシアは今年に入り2度も日本領空を侵犯し、閣僚協議に先立つ外相、防衛相の個別会談の当日にも、露空軍機が領空に接近し、航空自衛隊機が緊急発進した。

小野寺五典防衛相が今回、ショイグ露国防相との会談で、こうした領空侵犯の発生に懸念を表明したのは、当然である。

日露のこのところの接近には経済的要因もある。とりわけロシアには、地下資源の輸出先として日本が魅力的に映っていよう。

しかし、ロシアにとって中国との関係が死活的に重要であり、中露連携の方が優先することを忘れてはならない。2プラス2への過大な期待は禁物である。

プーチン露大統領はこの10月、中国の習近平国家主席との間で、2015年の第二次大戦戦勝70年を共同で祝うことで合意した。10年には、ロシアが中国と「歴史の歪曲(わいきょく)は許さない」と訴え、北方領土不法占拠などの正当化を図ったことも記憶に新しい。

ロシアに対しては、そうした甘くない現実を踏まえ、長期的視野に立って、繰り返し、北方領土返還を迫っていく必要がある。

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