学力一辺倒から人物本位へ。大学の入試をそんなふうに改革する機運が生まれている。
その方向性はわかる。ただし実現のハードルは高い。まず意欲のある大学を支援し、風穴をあけることから始めるべきだ。
提言をしたのは、安倍首相の肝いりでできた「教育再生実行会議」。その内容はこうだ。
大学入試センター試験を廃止し、「基礎」「発展」2レベルの達成度テストを導入する。
「基礎」は高校在学中に基本教科の基礎学力を測る。ペーパーテストをしない推薦入試などで、学力をみる資料にも使う。
「発展」はセンター試験を改編した1次試験。1点刻みをやめ、段階評価に変える。
そして各大学には、2次試験に面接などをとりいれ、学力以外も多面評価する「人物本位」への転換を促す。
さきの国際成人力調査の結果をみると、今の日本の強みは、能力が粒ぞろいであることだ。日本は読解力も数的思考力も1位だった。学歴や職種にかかわらず得点が高かった。
だが、近年は学力試験のない推薦入試などが増えたことで、学力の底抜けが心配される。基礎テストの導入は、日本の強みを守るうえで有効だろう。
一方の弱みは、個々の高い力を社会として生かせていないことだという。課題解決の力が弱いとの指摘もある。
日本はいま、少子高齢化時代の社会保障、原発事故後のエネルギー政策転換と、前例のない難題を解決できずにいる。
独創性や統率力のある人材がほしい。それには、受験を気にせず部活や生徒会、地域活動など何かに打ち込むような子に、門戸を大きく広げたい。
ただ、全大学や学部が人物重視に転換するのは難しい。
一部コースで討論や面接の入試をしている大学は、採る学生数より多くの教員を選考につぎ込んでいる。改革の手本である米国の大学は、教員以外の専従スタッフを置いている。
うちは人を見るために人を割き、手間をかける。そういう大学に財政支援し、取り組みの広がりを待つのが現実的だ。
人物重視にも負の面はあろう。願書に書くための課外活動がはびこり、こつこつ勉強する子や、障害などで対話が苦手な子が報われなくなっても困る。
客観的な点数で合否を決める方が公平だとの考え方は社会に根強い。今までの2次試験を続ける大学もあっていい。あくまで多彩な人材を育てる目的だ。学生に個性を求めるなら、むしろ大学も横並びではおかしい。
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