福島原発汚染水 政府と東電はどう封じ込める

毎日新聞 2013年10月30日

柏崎の審査凍結 東電は福島に集中せよ

東京電力福島第1原発で汚染水漏れが相次ぐ事態を受け、原子力規制委員会の田中俊一委員長が東電の広瀬直己社長と面談し、「長期的な視点で、ドラスチック(抜本的)な改革をしてほしい」と要請した。東電が再稼働に向けて9月に申請した柏崎刈羽原発6、7号機(新潟県)の安全審査は、福島第1原発の現状が改善されたかどうかを見極めたうえで開始時期を検討するという。

東電は柏崎刈羽原発の再稼働を経営再建の切り札に据える。だが、最優先すべきは福島の汚染水対策だ。規制委が柏崎刈羽の安全審査を事実上凍結したのは妥当な判断である。

東電は今月、汚染水対策と再稼働の両立は可能とする報告書を規制委に提出したが、委員からは「福島の状態を見たとき、柏崎は十全だといえるのか」などの疑問が出た。当然だ。汚染水の制御もままならない会社に原発の運転を託すことができるのか。東電は人材や資金を福島に集中投入しなければならない。

ボタンの押し間違えでポンプが停止した。配管を誤って外し、作業員が汚染水を浴びた。福島第1原発ではこんなミスが続発している。放射性物質を吸い込まないようマスクを装着しての作業が続くなど、現場の環境は厳しい。被ばく線量限度に近づいたベテラン作業員が離脱するケースも出ている。現場の士気が落ちていることは、容易に想像がつく。

広瀬社長は面談で、作業員の確保が困難になっている現状を明かした上で、福島第1原発の作業環境の改善や東電全体で同原発に人を回すことを田中委員長に約束したという。速やかに実行に移す必要がある。

原子力規制庁の池田克彦長官は「これからもミスが出るようでは(同原発の現状の)改善とは言えない」と述べている。規制委には、妥協することなく、東電の改善の取り組みをチェックしてもらいたい。

政府の一層の関与も欠かせない。

汚染水対策で、安倍晋三首相は「国が前面に出て責任を果たす」と繰り返している。470億円の国費投入は決まったものの、地下水の流入を防ぐ遮水壁の建設や放射性物質除去装置の増設など技術的難度の高いものに使途は限定されている。

政府は汚染水の貯留や処理などに関する技術提案も公募した。汚染水処理対策委員会で実現可能性を検討し、年内にまとめる汚染水対策の全体像に盛り込む方針だ。しかし、東電と政府の費用負担のあり方などは決まっていない。

汚染水対策や廃炉を着実に進めるには、どのような体制が望ましいのか。東電の経営形態の変更も視野に入れつつ、政府は具体案を提示し、国会で徹底的な審議を行うべきだ。

読売新聞 2013年10月30日

福島原発汚染水 政府と東電はどう封じ込める

東京電力福島第一原子力発電所の汚染水対策は待ったなしだ。政府と東電は、実効性ある対策をまとめねばならない。

原子力規制委員会の田中俊一委員長が広瀬直己東電社長と会談して、汚染水問題は「極めて憂慮すべき状態」と指摘し、抜本的な改善を求めた。

作業ミスや貯蔵タンクの欠陥などで、汚染水の漏出が相次いでいる。遅きに失した感はあるが、規制当局のトップが直接、事業者に注文するのは当然のことだ。

これに対し、広瀬社長は、東電の組織全体から福島に要員を派遣し、体制を強化する当面の対策を説明した、という。

現場の除染などを進め、顔を覆うマスクなしで作業できる環境を整える。現場付近に宿泊施設を造り、作業員の移動量も減らす。

問題収束のめどが立たない中、社員らの士気低下を懸念する声がある。作業環境の改善をテコにミスをなくすことが必要だ。

現状では周辺の海に汚染の影響は出ていない。放射性物質の量は飲料水の基準をも下回っている。大切なのは、今後も、外部への影響を抑えていくことである。

汚染水は、1日平均で400トンずつ増え続けている。敷地内に設置した貯蔵タンクはすでに約1000基に上り、いずれ増設する場所はなくなるだろう。

汚染水増加の主な原因は、原発建屋内に流れ込む地下水だ。放射能を含む冷却水に触れ、汚染水となる。雨水にも、地表の汚染物質が混入している。

建屋に入る前の地下水をくみ上げて海に流す計画については、漁業者の了解を得られていない。

試運転中の汚染水浄化装置がトラブル続きなのも問題だ。安定稼働すれば、汚染水が漏出した時のリスクを軽減できる。浄化後の水は海に流しても危険性はかなり低いと指摘する専門家は多い。

政府は前面に立って対処する姿勢を示している。地元関係者への説明を含め、汚染水を減らすための取り組み強化が求められる。

政府の汚染水処理対策委員会は年内に包括的な対策をまとめる。対処案を公募したところ、779件が寄せられた。有力な手法はできる限り採用し、国費投入をためらうべきではない。

規制委の責任も重い。汚染水問題を理由に、東電柏崎刈羽原発の再稼働に向けた安全審査を1か月以上、放置していることが懸念される。再稼働問題を前に進めるためにも、規制委として汚染水対策に積極的に関与すべきだ。

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