減反見直し 政治主導で競争力強化を図れ

毎日新聞 2013年10月30日

減反の見直し 農業自立へ改革を急げ

政府はコメの生産調整(減反)や一律補助金の見直しに向け、検討を始めた。さらに、担い手のいない農地を集約して生産者に貸し出す「農地中間管理機構」を創設するため、関連法案を国会に提出した。いずれも営農規模を拡大し、産業として自立できる力を養うのが目的だ。

政府・与党は環太平洋パートナーシップ協定(TPP)もにらみ、農業の構造改革を急ぐ必要がある。

安倍晋三首相は、今後10年間で農家の所得を倍増させるという目標を掲げた。しかし現状は厳しい。農家の平均年齢は66歳、地域の中心的な農家にしても9割は50歳以上だ。後継者難で耕作放棄地も広がり滋賀県の広さに匹敵する。このままでは産業としての基盤が失われかねない。

体質強化には、規模拡大が欠かせない。農地面積が2ヘクタール程度の平均的な農家の農業所得は年122万円にとどまる。コメだけに限れば約50万円しかない。それが20ヘクタール規模になれば1000万円を超える。しかし、農地の集約はなかなか進まない。離農するにしても農地を売却して手放すことへの抵抗感が根強いからだ。

そこで、農地中間管理機構はおおむね賃貸借に特化する。都道府県ごとに設置し、引退予定の農家などから農地を借り、大規模農地に整備した上で大手生産者や企業に貸し付ける仕組みだ。

農地の利用希望者は公募する。新規参入する企業も公平に借りられる機会を確保するためだという。一方で政府は、地域の中で担い手を選び営農の将来像を自主的に描いてもらう政策も進めている。貸付先を選ぶ際には、そうした政策との整合性にも配慮すべきだ。

もっとも、こうした仕組みを作っても農地の貸手が増えなければ絵に描いた餅に終わる。その意味で、コメの減反制度と戸別所得補償の見直しが重要だ。

減反は政府が需給見通しに基づいて生産量の目標を決める制度だ。過剰生産による米価下落を防ぐため1970年に本格導入された。しかし、生産性の低い零細農家の温存につながり、規模拡大を目指す農家の意欲もそいでいる。

戸別所得補償も、減反への協力を条件に耕作規模の大小に関わらずに農家を支援する制度であるため、規模拡大には逆行する。

どちらも廃止すべき政策といえるが、廃止に伴って一時的に農業経営の悪化を招くおそれがある。米価急落時に一定の収入を補償する仕組みを導入するなど激変を緩和し、意欲ある農家を育てる制度設計を工夫してほしい。条件の不利な山間地域などには農地の多面的な機能を守るための助成も検討する必要がある。

読売新聞 2013年10月30日

減反見直し 政治主導で競争力強化を図れ

貿易自由化に備え、農業の競争力強化が急務である。中核農家を重視した農業政策への転換が求められよう。

政府・与党は、コメの生産目標を国が定め、農家に割り当てる生産調整(減反)制度の段階的な見直しに着手した。廃止も視野に検討する。

減反は、コメの生産量を抑えることで価格の低下を防ぎ、農家の収入を安定させる狙いがある。コメ余りを背景に、1970年代に本格的に導入された。

だが、割高なコメ価格がコメ離れを加速し、農地が縮小するという悪循環を招いた。零細農家も手厚く保護される農政を続け、中核農家の生産意欲を減退させ、農業の活力を奪ってきたと言える。

減反が見直されると、意欲的な農家は国の目標に縛られず、市場動向や消費者の好みを見極め、生産量を独自に決める。生産性の向上も期待できよう。

環太平洋経済連携協定(TPP)交渉が本格化している。日本が一層の市場開放を迫られれば輸入農産物との競争は激化する。減反見直しで大規模化に道を開き、農家の経営努力を促すのは適切だ。

安倍政権が見直しに踏み込むのは、国政選挙まで最大3年近く時間があるからだろう。2009年にも、当時の石破農相が減反改革を唱えたが、農業団体や自民党内の反発で実現しなかった。

減反を廃止すれば、生産量が増えて米価が急落するとの見方は根強い。「収益が下がり、かえって農業の競争力が低下する」といった反対論がくすぶっている。

こうした不安を和らげ、打撃を最小限に抑えるには、一定の移行期間を設け、減反に協力する農家への補助金を段階的に減らす激変緩和策が有益だろう。

直ちに見直すべきなのは、民主党政権が導入した戸別所得補償制度である。減反農家へ一律に補助金を支給するもので、これを継続すると、零細農家が補助金を目当てに農地を手放さず、大規模化を目指す政策と矛盾するからだ。

一律支給をやめ、生産性の高い中核農家を重点的に支援する仕組みに改めてもらいたい。

自民党は、「国土保全」を名目に山間地などの農村を支援する新制度も検討中だ。地域振興や環境保全は大切だが、バラマキとならぬよう制度設計に工夫が要る。

安倍政権は農業を新たな成長産業と位置付けている。減反見直しに加え、企業参入を促す規制緩和など、政治主導で農業の活性化策を加速しなければならない。

産経新聞 2013年10月27日

減反見直し 競争力強化へ避けられぬ

農業の競争力を強くするには、農地の集積化を促すとともに、担い手として意欲ある中核農家を育てていくことが何より重要な意味を持つ。

そのためにはまず、コメの生産を抑えて価格を維持する現行の生産調整(減反)制度を見直す必要がある。担い手の自由な経営判断を阻害し、効率的な生産を妨げる要因は早急に取り除かなければ、日本農業の再生はおぼつかない。

環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉が大詰めを迎える中で、政府は、この減反制度を、廃止をも視野に入れて抜本的に見直す検討に入った。改革に向けた正しい方向であり、実現に向けて全力を傾注してもらいたい。

減反は四十数年来、兼業・小規模農家を保護する名目で続けられてきた政策だけに、こうした農家を票田とする自民党の一部にも反対論は根強い。減反による価格維持の恩恵を受けてきた農業団体などの反発も必至だ。

安倍晋三首相は、農業を成長戦略の主要分野と位置づけ、これまでも「産業として伸ばしていく」と再三、言明してきた。首相にはこうした抵抗勢力にひるむことなく、改革姿勢を貫いてほしい。

減反に応じることを条件に、国はコメ農家に各種の補助金を支給している。民主党政権が導入した戸別所得補償制度は、自民党政権下でも経営所得安定対策と名称を変えて基本的に今も続いている。作付面積10アール当たり1万5千円の一律支給方式には、国民からバラマキとの批判が強い。

林芳正農林水産相は25日の記者会見で、平成26年度予算案では、支給額の削減も含めて見直すと約束した。当然である。

農水相はまた、減反政策の見直しに関連する法案を、来年の通常国会に提出する考えも示した。

首相を議長とする産業競争力会議の農業分科会では、民間議員から、28年度には減反を廃止するよう要求も出ている。政府は、こうした提言にも、しっかりと耳を傾けるべきだ。

農業改革にあたっては、中山間地の棚田保全といった環境保全の観点などから配慮すべき農地があるのも事実だ。農業の多様な側面に目配りする知恵は不可欠だ。

だが、生産性を無視した改革は成功しない。競争を避ける政策は結局、農家から創意工夫をこらす意欲を奪うだけだ。

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