日本の安全保障環境が厳しさを増す中、首相に直結した外交・安保政策の司令塔を創設する意義は極めて大きい。
国家安全保障会議(日本版NSC)設置法案が、衆院本会議で審議入りした。
政府は年内に、初の国家安全保障戦略や新しい防衛大綱を策定する予定だ。有識者会議を中心に、集団的自衛権の憲法解釈を見直すための議論も進んでいる。
安保戦略や新防衛大綱を充実させるためには、法案の成立を急ぎ、NSCの体制を早期に整える必要がある。政権党時代にはNSC創設に前向きだった民主党も、法案審議に協力してもらいたい。
NSCでは、首相と官房長官、外相、防衛相による「4大臣会合」や、国土交通相ら5閣僚を加えた「9大臣会合」が、有事への対処や安全保障の基本方針などを決定する。突発事案への対応は「緊急事態大臣会合」で協議する。
現在も、関係閣僚の会議は随時、開かれているが、会合を法制化して定期的に開催し、当面の案件だけでなく、中長期的な課題の議論を重ねることに意味がある。
首相や閣僚が安全保障に関して共通認識を持ち、具体的な政策に反映させることが大切だ。
安全保障担当の首相補佐官を常設するほか、NSC事務局として60人規模の国家安全保障局を新設する。現在の内閣官房の安保担当部局より体制が拡充され、自衛隊幹部も10人前後起用される。
日本は従来、自衛官の活用に慎重すぎた。ミサイル発射や海外での邦人人質事件などの緊急事態に効果的に対処するには、軍事的知見を持つ人材が欠かせない。
肝心なのは、外務、防衛、警察など関係省庁の縦割りを排し、閣僚と官僚が「オール日本」で協力する体制を構築することだ。
サイバーや宇宙、海洋での安全保障は、特定の省庁だけでなく、政府全体の連携が不可欠だ。NSCの総合調整能力が問われる。
自衛隊の国連平和維持活動(PKO)参加の是非を検討する際、外務省は積極的だが、防衛省は慎重で、時に対立し、国益より省益が優先される例もあった。
NSCが発足しても、この構図が直ちには解消しないだろう。だが、普段からNSC内で関係省庁が緊密に意思疎通を図り、問題意識を共有することで、首相官邸の主導の下、より迅速かつ的確な政策判断ができるようにしたい。
国際協力も重要だ。米英両国のNSCなどとの定期協議や情報共有を積極的に進めるべきだ。
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