無形文化遺産 和食の真価は何か

朝日新聞 2013年10月25日

無形文化遺産 和食の真価は何か

和食が世界のWASHOKUになる。日本の「食」文化の真価とは何だろうか。

ユネスコ(国連教育科学文化機関)の事前審査で、無形文化遺産への登録が勧告された。

富士山が記憶に新しい世界遺産は遺跡や自然を選ぶ一方で、無形文化遺産は芸能や工芸、社会慣習などを対象とする。

その前身だった「傑作宣言」の時に日本からは能楽や人形浄瑠璃文楽、歌舞伎が選ばれた。09年に無形文化遺産に変わり、日本の21件が登録されている。

これまではすべて日本国内で指定された重要無形文化財と重要無形民俗文化財だ。その点で和食は異例の推薦だった。

世界遺産と違って、無形文化遺産には「顕著な普遍的価値」は求められない。重視されるのは、その文化を支えるコミュニティー(共同体)である。

ユネスコへの提案書は、和食を支える共同体を「すべての日本人」と広くとらえた。だが、食文化の伝承を意識する日本人はそう多くない。

和食を無形文化遺産に、という運動はもともと京都の日本料理業界から始まったとされる。世界遺産が観光資源となっている現状で、経済的な思惑がなかったとはいえないだろう。

だが、この運動に農林水産省が加わってから、会席など高級料理ではなく、日常的な「一汁三菜」を基本とする提案に転じた。韓国の宮廷料理が見送られたことが動機の一つとされる。

提案書は、「自然の尊重」の精神のもと、できるだけ食材の持ち味を生かす工夫に特徴があると説明。そのうえで健康・長寿や肥満の防止に役立つことを強調している。

保護策の柱としては「食育基本法」を挙げる。都市と農村の共生、消費者と生産者の信頼、環境と調和のとれた食料の生産などをうたっている。

こうしてみれば世界と共有すべき和食の価値とは、安全と健康にこそあるといえるだろう。実際、多くの日本人が心がけ、支える食文化はそこにある。

ただ、食品をめぐる問題は今もあとを絶たない。何も輸入品のせいだけではない。生産地や食材、消費期限、調理法など国内の偽装が相次いでいる。

「人と自然との融合のもとに食事を摂(と)る」と提案書に表現された食の光景が、私たちの暮らしにどれほどあるだろう。

農村の再生や環境の保全など「食」を守る社会づくりは、そもそも今の日本が息長く取り組むべき目標なのだ。WASHOKUの登録は、その誓いを再確認する契機と考えたい。

毎日新聞 2013年10月27日

和食、世界遺産に もっと魅力を味わおう

「和食」がユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界無形文化遺産として12月に登録される。政府は登録をきっかけに、和食を海外に積極展開し、日本産の農水産物の輸出拡大も図る考えだ。私たちも、その奥深さと可能性を再認識し、すたれさせることなく伝えていきたい。

日本の無形文化遺産は歌舞伎、結城紬(つむぎ)などに次ぎ22件目。食の関係ではフランスの美食術、イタリアやモロッコの地中海料理などがすでに登録され、今回は韓国の「キムチとキムジャン文化」も内定した。

和食が、世界に誇るべき特色はいくつもある。

まず、自然を大事にしている点だ。素材の旬にこだわり、地域の風土・気候に根ざし、材料を最後まで使い切ってむだにしない。

また、見て美しく楽しい。どこからながめても同じ姿の対称的な盛りつけではなく、四季のうつろいも取り込んで食べる人を喜ばす。

多様な調理法も例をみない。生のほか、焼く、煮る、蒸す、揚げる、あえる、発酵させる、干すと幅広い。この結果、包丁などの道具、食べ物を盛る皿や器も多彩だ。

さらに「だし」に代表されるうまみが味の土台をつくっている。うまみは5番目の味覚として、英語でも「UMAMI」と表現される。

そして、動物性脂肪が少なく食物繊維は多いので、健康にいい。

こうした特色に加え、「おせちと正月」など年中行事に深くかかわり、家族や地域の絆を生んできた文化的な側面も評価された。

国際的に和食は注目を浴びている。日本食レストランは各国で人気だし、欧米の料理人には「だし」を使ったり、ゴボウやカブ、ユズなどの食材を用いたりする動きがある。

こうした一方で、和食の未来を支える足元は危うい。

家庭でもアジアや欧米の料理が、手軽に食べられるようになった半面、和食に親しむ機会は減った。伝統野菜など地域独自の食材や昔ながらの料理法は、大量生産が進む中で途絶えかけているものもある。

食品会社が2011年に発表したアンケートによると、「昆布、かつお節、煮干しなどの素材からだしを取っている」との回答は2割にすぎない。一人きりで食べる「孤食」や、家族一緒でも各自がばらばらに好きなものを食べる「食卓崩壊」という現象も近年問題になっている。

世界への売り込みも大事だが、学校や地域で和食の魅力を味わい、特色を学び、食材や調理法を受け継いでいく取り組みが欠かせない。和食に育まれてきた私たち自らが、世界に向けて胸を張って、その価値を語れるようにしよう。

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