在外被爆者 救済に国境などない

朝日新聞 2013年10月25日

在外被爆者 救済に国境などない

被爆者救済のあり方が問われた裁判で、国側がまた負けた。

被爆者援護法により、国内の被爆者は治療を受けた場合、自己負担した医療費が原則、全額返ってくる。だが、海外に住む被爆者には適用されない。

在外の場合、代わりに医療費助成制度があるが、年18万円程度までという上限がある。

「これは差別」と韓国人被爆者が起こした裁判で、大阪地裁はきのう、国の方針に沿って医療費支給を拒んだ大阪府の措置は違法だ、と判決した。法律上、在外被爆者への支給を制限できる根拠はないとした。

外国人でも被爆者健康手帳がとれる道を開いた70年代の訴訟以来、在外被爆者の裁判で国側は敗北を重ねてきた。行政訴訟として極めて異例だ。なぜか。

援護法は、原爆放射線の影響に生涯苦しむ被爆者を援護するのは国の責任とうたう。「どこにいても被爆者は被爆者」が基本原則である。だが国は法の運用でこれを徹底してこなかった。そこに問題の本質がある。

広島、長崎では、日本国民とされた朝鮮半島出身者が、推定で数万人、被爆した。現在4500人いる在外被爆者のうち3千人が韓国在住だ。海外に渡った日本人被爆者も少なくない。

57年に制定された旧原爆医療法以来、国籍や居住国で援護に差をつける条項は法律にない。だが国は、在外被爆者に対しては通達や法解釈で救済の幅を狭めてきた。裁判で違法と指摘されると、部分的に制度を改める小手先の対応を繰り返した。

被爆者の老いは進む。国が法廷で争い続けるのは、時間かせぎとの批判も受けよう。基本原則に立ち返り、制度を改めるべきである。

韓国人被爆者たちは今年8月、日本政府に個人賠償を求める権利があることを確認するため、韓国で集団提訴した。

これに対し日本政府は65年の日韓協定で、個人賠償は「解決済み」との立場だ。韓国の被爆者には援護法に基づく手当を支給しているほか、91~92年度に「人道支援」として計40億円を拠出している。

日本側には「どこまで賠償を求めるのか」との声もあるが、被爆者たちの根底にあるのは、公平な対応をしてこなかった日本政府の姿勢への疑問である。

国によって医療保険制度が異なる事情はあるが、支給対象を自己負担分に限れば、極端な額にならないのではないか。要は、在外被爆者が「差別」と感じない策を実現することだ。国は被爆者団体、そして韓国政府とも協議していくべきだ。

毎日新聞 2013年10月26日

在外被爆者 公平な救済求めた判決

海外在住を理由に、被爆者援護法に基づく医療費支給の申請を却下した大阪府の処分は違法として、大阪地裁が処分を取り消した。

判決は、援護法について、前身の原爆医療法の趣旨を踏まえて「社会保障と国家補償の性格を併せ持つ特殊な立法」と定義した。それに基づいて、援護の規定は在外被爆者にも適用され、医療費の支給を国内在住の被爆者に限ることに合理性は認められないと判断した。援護法の精神に沿う救済の平等を求めた妥当な結論と言える。国は在外被爆者が救済されるよう制度を改めるべきだ。

約20万人の被爆者のうち、約4450人が韓国、米国、ブラジル、中国など海外に居住している。原告は、広島で被爆した男性と被爆者遺族ら3人で、4年間に肺炎などの治療で自己負担した費用は計約150万円に上った。

原爆放射線の影響で生涯健康不安を抱える被爆者にとって、医療費の経済的負担は重い。韓国と米国の在住者が広島、長崎地裁でも同様の訴訟を起こしている。

在外被爆者の医療費について、国は年間十数万円の上限を設けた助成事業で対応している。各国の医療保険制度が異なり、医療費の自己負担割合にも差があることなどから、援護法を適用してこなかった。

だが、判決は、自己負担分の支給に限れば、在外被爆者への支払額がそれほど増大するとは見込まれないと指摘した。厚生労働省は、国内被爆者であれば、海外旅行など一時出国した先での治療費の支給を認めている。公平な運用が必要だろう。

在外被爆者の救済は、国内在住の被爆者と比べて差別的な扱いが続いた。援護法に基づく健康管理手当の支給を海外に移住すれば打ち切るとした旧厚生省の通達は、それを違法として受給資格を国外在住者にも認めた2002年の大阪高裁判決が出るまで、30年近く廃止されなかった。裁判所が是正を命じ、政府や国会が対応に動くという事態が繰り返されてきた。

健康管理手当の海外申請も別の高裁判決を受けて認められるようになり、その後、被爆者健康手帳の申請も海外からできるようになった。改善されてきたとはいえ、無料健康診断や介護手当支給が認められていないという問題も残っている。

被爆者の高齢化が進み、原爆症認定基準の見直しなどを含め、早期救済の実現が迫られている。安倍晋三首相は8月、原爆症認定の見直しについて「最善を尽くす」と表明した。海外で暮らしている被爆者の実情にも目を向け、人道的な見地から法を狭く解釈することなく、柔軟な対応をとってもらいたい。

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