東京電力福島第一原子力発電所の事故による除染は当面、どのレベルまで実施すべきなのか。
国際原子力機関(IAEA)の調査団は、徹底除染により年間被曝線量を「1ミリ・シーベルト以下」にすることについて、「必ずしもこだわらなくてもよい」との見解を示した。
適切な指摘である。環境省にはIAEAの見解に沿い、除染を加速させることが求められる。
調査団は今月、第一原発周辺の現地調査を実施して除染状況をチェックし、報告書をまとめた。
注目すべきは、報告書が、国際的基準に照らし、「年間1~20ミリ・シーベルトの範囲内のいかなるレベルの個人放射線量も許容し得る」と明記した点である。
避難住民の帰還に向け、政府が設けている「20ミリ・シーベルト以下」という目安を補強するものだ。早期の帰還実現への弾みとしたい。
政府は、除染の長期目標として「1ミリ・シーベルト以下」も掲げる。
だが、1ミリ・シーベルト以下にならなければ帰還できないと思い込んでいる住民が少なくない。民主党政権が、徹底除染を求める地元の要望を受け、1ミリ・シーベルトを当座の目標としたことが尾を引いている。
ゼロリスクにとらわれると、除染完了のめどが立たなくなる。住民の帰還は遅れるばかりだ。
IAEA報告書も、1ミリ・シーベルトについて、「除染のみで短期間に達成できるものではない」と結論付けた。政府には、その事実関係を丁寧に説明するよう注文した。
政府は、1ミリ・シーベルトが安全と危険の境目ではないことを住民に周知する必要がある。
環境省は、第一原発周辺の11市町村で除染を実施しているが、汚染土を保管する仮置き場の確保などが難航し、作業は大幅に遅れている。現在、7市町村の除染計画を見直している。
汚染レベルが比較的低い地域で重要なのは、除染と併せ、住民の生活再建に必要なインフラ整備を進めていくことだ。
1ミリ・シーベルトを一気に目指さず、段階的に取り組めば、除染からインフラ復旧に、より多くの費用を振り向けられる。報告書のこの提言は、除染計画の参考になろう。
政府は除染費用として、今年度までに約1兆3000億円を計上した。要した費用は東電に請求する仕組みになっているが、経営が悪化している東電に支払う余力はない。電気料金の値上げなどで国民の負担となる可能性が高い。
いかに効率よく的確に除染を進めるか。喫緊の課題である。
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