シリア化学兵器 廃棄には国際支援が不可欠だ

毎日新聞 2013年10月25日

視点 ロシアの役割…論説委員・大木俊治

ロシアはシリアの化学兵器を国際管理下で廃棄することで国際社会の合意を取り付け、米国の武力行使を回避した。迷走を続けたオバマ米大統領と対照的にプーチン大統領は評価を上げ、ロシア国内では来年のノーベル平和賞候補に推す声さえある。だがシリア内戦の出口は見えず、アサド政権の延命に手を貸しただけという批判もある。

「なぜプーチン大統領はアサド政権を擁護するのか」。9月中旬、有志による「日露学術報道専門家会議」の一員としてモスクワを訪れ、ロシアの識者らにこの疑問をぶつけた。回答はさまざまだったが、プーチン氏が米国を強く意識してシリア情勢への対応を考えているという見方はほぼ一致していた。

カーネギー国際平和財団モスクワセンターのトレーニン所長によれば、プーチン氏が初めて大統領に就任した2000年以来、ロシアの対米政策は振り子のように揺れ続けてきた。当初は対テロ戦争で協調を目指したが、03年のイラク戦争前後から対決姿勢に転換。09年に「リセット」で和解を探ったが、1年ほど前から再び対決色を強め始めた。日本などアジア太平洋地域との関係重視に軸足を置き始めたのも、この「米国との対決路線」への移行期に重なる。

ロシアでは経済成長の勢いが鈍り、次期大統領選でプーチン氏の続投を望まない声が6割という調査もある。だが新指導者の影は見えず、現体制が当面続くだろうという閉塞(へいそく)感も漂う。

米国主導の国際秩序に抵抗し「対等な関係」を迫るプーチン氏の手法は、ロシア国内では国民の「大国意識」をくすぐり、国外ではロシアの影響力を実力以上に大きく見せることができる。だがそれでどうしたいのかという明確な戦略は見えない。むしろ「ロシアは国際社会でどういう役割を求められているのか」と問いかける識者もいた。

日本はロシアにどのような役割を求めるのか。新しい対等な日露関係を築くために北方領土問題の解決が不可欠であることは言うまでもない。同時に中国や北朝鮮の動向が不安定要因となり得るアジアで、ロシアの果たすべき役割をともに考え、ふさわしい貢献を促していくことも必要なのではないだろうか。

プーチン氏は、アジア太平洋地域との関係をロシアが大国として生き残るカギの一つと考えている。ロシアの豊かなエネルギー資源や、欧州とアジアを結ぶ北極海航路などの潜在力をどう生かせるのか。11月に開かれる初の日露外務・防衛担当閣僚会議(2プラス2)でも、大いに議論してほしい。

読売新聞 2013年10月24日

シリア化学兵器 廃棄には国際支援が不可欠だ

化学兵器廃棄に向けた経済、外交両面での国際的支援を、シリア内戦の収拾にもつなげたい。

化学兵器禁止機関(OPCW)は、アサド政権が申告した23か所の関連施設の査察を近く終える予定だ。査察結果に基づき化学兵器廃棄の詳細な工程表を作成する。

シリアの首都ダマスカスでは、来年前半までの廃棄作業完了を目指し、OPCWと国連の合同派遣団が活動を開始した。

アサド政権に協力して廃棄作業に取り組むが、要員や資金は不足している。廃棄処理施設の整備もこれからだ。国際社会による早急な支援が不可欠である。

ノルウェーのノーベル賞委員会がOPCWへの平和賞授与を決めたのは、そのような支援を各国に呼びかける狙いもあろう。

シリアでの化学兵器廃棄が困難を極めるのは、内戦の中で作業を進めねばならないからだ。

一部の化学兵器関連施設は、政府軍と反体制派武装勢力の戦闘地域内に位置する。作業要員に危害が及ぶ懸念も拭えない。アフメト・ウズムジュOPCW事務局長は、予定通り廃棄作業を進めるには停戦が必要だと訴えている。

だが、停戦の早期実現は容易でなかろう。内戦勃発から2年を過ぎても戦闘はやむ気配がない。

犠牲者は10万人を超え、難民も200万人に上る。国際テロ組織アル・カーイダ系のイスラム過激派が、混乱に乗じて勢力を拡大しているのも深刻な問題だ。

和平に向けた国際会議の早期開催が望まれるが、反体制派の大半はアサド大統領退陣を会議参加の前提条件としている。

会議と停戦の実現に向け、反体制派に影響力を持つ米国と、アサド政権の後見役であるロシアは、最大限の努力をしてほしい。

日本は、米露などと並び、化学兵器廃棄の技術と経験を有する世界でも数少ない国の一つだ。

日本は中国で、旧日本軍の遺棄化学兵器の廃棄を進めている。地中に埋設された砲弾の発見に手間取り、作業は長期化しているが、2010年には日本製の移動式処理設備が稼働を始めた。

オウム真理教による地下鉄サリン事件では、猛毒のサリンを処理した経験もある。

安倍首相は国連総会で、シリア化学兵器廃棄への「(あた)う限りの協力」を表明している。

OPCWには、日本はこれまでも予算拠出や自衛官派遣で貢献してきた。シリア和平のため、一層の支援に努めてもらいたい。

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