化学兵器廃棄に向けた経済、外交両面での国際的支援を、シリア内戦の収拾にもつなげたい。
化学兵器禁止機関(OPCW)は、アサド政権が申告した23か所の関連施設の査察を近く終える予定だ。査察結果に基づき化学兵器廃棄の詳細な工程表を作成する。
シリアの首都ダマスカスでは、来年前半までの廃棄作業完了を目指し、OPCWと国連の合同派遣団が活動を開始した。
アサド政権に協力して廃棄作業に取り組むが、要員や資金は不足している。廃棄処理施設の整備もこれからだ。国際社会による早急な支援が不可欠である。
ノルウェーのノーベル賞委員会がOPCWへの平和賞授与を決めたのは、そのような支援を各国に呼びかける狙いもあろう。
シリアでの化学兵器廃棄が困難を極めるのは、内戦の中で作業を進めねばならないからだ。
一部の化学兵器関連施設は、政府軍と反体制派武装勢力の戦闘地域内に位置する。作業要員に危害が及ぶ懸念も拭えない。アフメト・ウズムジュOPCW事務局長は、予定通り廃棄作業を進めるには停戦が必要だと訴えている。
だが、停戦の早期実現は容易でなかろう。内戦勃発から2年を過ぎても戦闘はやむ気配がない。
犠牲者は10万人を超え、難民も200万人に上る。国際テロ組織アル・カーイダ系のイスラム過激派が、混乱に乗じて勢力を拡大しているのも深刻な問題だ。
和平に向けた国際会議の早期開催が望まれるが、反体制派の大半はアサド大統領退陣を会議参加の前提条件としている。
会議と停戦の実現に向け、反体制派に影響力を持つ米国と、アサド政権の後見役であるロシアは、最大限の努力をしてほしい。
日本は、米露などと並び、化学兵器廃棄の技術と経験を有する世界でも数少ない国の一つだ。
日本は中国で、旧日本軍の遺棄化学兵器の廃棄を進めている。地中に埋設された砲弾の発見に手間取り、作業は長期化しているが、2010年には日本製の移動式処理設備が稼働を始めた。
オウム真理教による地下鉄サリン事件では、猛毒のサリンを処理した経験もある。
安倍首相は国連総会で、シリア化学兵器廃棄への「能う限りの協力」を表明している。
OPCWには、日本はこれまでも予算拠出や自衛官派遣で貢献してきた。シリア和平のため、一層の支援に努めてもらいたい。
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