公務員改革 情実、猟官生まぬよう

朝日新聞 2013年10月21日

公務員改革 情実、猟官生まぬよう

中央省庁の幹部公務員人事を内閣が一元的にとりしきる。

そんなうたい文句の国家公務員法改正案を、安倍内閣がこの国会に提出する。

官僚の人事は基本的に各省が差配してきた。首相官邸がかかわるのは次官・局長級のみ。それも、各省がつくった案を官邸の会議に諮る方式だった。

政府・与党で合意した改正案の骨格によると、官邸がかかわる対象を部長級にまで広げる。新設する内閣人事局で適格性を審査したり、首相や官房長官からも閣僚に幹部人事をもちかけられるようにしたりして、官邸の役割と権限を強める。

実現すれば、前向きな効果も生むだろう。官邸の人事権を強めれば、官僚の視線は省庁よりも官邸に向かう。省益優先のふるまいが減り、縦割りの弊害が薄まるかもしれない。

だが深刻な副作用を生みはしないか。政治家が官僚の人事にむやみに口を出し、官僚が政治家におもねる恐れがある。

閣僚は人事権を持つが、多くの場合、事務次官以下でまとめた人事案を尊重しているのが現状だ。今度の案では▽閣僚が民間人を含め、これはと思う人を推薦▽首相・官房長官と閣僚が協議――と、選考過程で政治家が果たす役割を明文化した。

近年の政治は2度の政権交代に加え、首相は毎年、閣僚はさらに頻繁に代わる不安定ぶりだった。もしも首相や閣僚がお気に入りを省庁の幹部に並べた揚げ句、ともに頻繁に代われば、行政は大混乱に陥る。

こんな時代だからこそ、政治には節度が求められる。

それでも政治の関与を強めるのなら、副作用を抑える仕組みが要る。

まず、内閣人事局による適格性審査を実効あるものに練り上げることだ。

審査を通った幹部候補の中から人選し、閣僚と首相・官房長官が協議する段階でも透明性が必要だ。抜擢(ばってき)や降格の理由を国会で説明したり、協議の記録を残して後日公開したりすることは可能なはずだ。

一元化は4度目の挑戦だ。麻生、鳩山、菅の3内閣が法案を出したが、廃案となった。

公務員の労働基本権回復をめざした民主党政権とは立場が違うため、安倍内閣は麻生内閣の法案を下敷きにした。人事の公正を図る第三者機関である人事院の意見を聴く規定を加えるなど、徐々に穏当な内容になりつつある。

だが、まだ不十分だ。情実人事や猟官運動がはびこらないよう、いっそうの工夫がほしい。

毎日新聞 2013年10月23日

公務員制度改革 人事の公正守る工夫を

4度目の挑戦である。中央官庁の人事体系を見直す国家公務員制度改革関連法案を政府は近く国会に提出する。幹部人事を一元管理する内閣人事局の設置が柱だ。

人事を官邸主導とすることで府省タテ割りの弊害を抑えこむ効果が期待できる一方で、公平さを欠く人事が横行する懸念も否定できない。客観性を損なわず、能力本位の人事管理を可能とする評価システムを政府は具体的に説明すべきだ。

2008年に国家公務員制度改革基本法が制定されて以来、その具体化が歴代政権の課題となってきた。自公政権下で1度、民主党政権下で2度関連法案が提出されたがいずれも廃案となる迷走ぶりで「決められない改革」の象徴だった。

内閣官房に置く内閣人事局の権限をめぐっては、管理対象となる官僚の範囲と人事院からの権限移譲の是非がポイントになった。政府・与党内の調整は難航したが、部長級以上約600人の人事を人事局が一元管理し、閣僚は幹部の任免にあたり首相や官房長官と協議することになった。同時に適格性審査や幹部候補の名簿作成を規定する政令について、人事院の意見を聞くことにした。

各省の給与ランク別定数を決める権限も人事院から人事局に移管するが、人事院の反対に配慮して同院の意見も尊重することで折り合った。目標とする来春の人事局発足にこだわり、決着を急いだと言える。

新制度下で官邸が人事ににらみをきかせ、人事交流を進めればキャリア官僚が省益ばかり代弁する風潮の歯止めとなるかもしれない。ただ、一部の官僚が政権に取り入り政治主導と異質の情実人事が横行し、逆に公務員のやる気をそぐ懸念に十分配慮する必要がある。

現在でも各省局長級以上の人事は官邸の人事検討会議の了承が必要だ。これですら各省への影響力は大きいだけに、600人規模の人事の公正さを確保し、能力主義を反映させるには人事評価基準の透明さと必要な体制整備が欠かせない。

今回、人事院が中途半端に関与するあいまいな決着となったのは、同院の位置づけが揺れ動いているためだ。基本法は国家公務員の労働基本権回復の方向を示しているが、安倍内閣はこの問題を放置している。

人事院勧告が労働基本権制限の代償措置である以上、人事院の権限維持には一定の配慮が必要だ。労働基本権を制限したままの改革にはおのずと限度がある。

労働基本権回復と人事院勧告制度の見直しに動かない限り、本当の意味での制度改革は実現できない。人事局設置で「事足れり」と済ますわけにはいかない。

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