国家安保戦略 抑止力強化への第一歩だ

朝日新聞 2013年10月23日

国家安保戦略 「軍事解禁」の危うさ

これが平和主義と呼べるのだろうか。

安倍政権が、日本の外交・安保政策の指針となる初めての国家安全保障戦略(NSS)の原案をまとめた。

新防衛大綱とともに、年末に閣議決定する方針だ。今後10年を想定した内容となる。

国の安全保障を考えるとき、防衛だけを突出させず、外交や経済をふくむ総合的な戦略を描くことには意味がある。

だが原案が示すのは、日本が軍事分野に積極的に踏み出していく方向性だ。外交努力への言及は乏しい。

日本が抑制的に対応してきた軍事のしばりを解く。ここに主眼があるのは疑いない。

原案には盛り込まれなかったが、憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認も、視野に入っているだろう。

それが首相の言う「積極的平和主義」だとすれば、危うい道と言わざるをえない。

紛争から距離をとり、非軍事的な手段で平和構築をはかってきた戦後日本の歩みとは根本的に異なるものだ。

きのうの衆院予算委員会で、民主党の岡田克也氏は「集団的自衛権まで認めるのなら憲法9条とは何か。『普通の国』になるのか」とただした。首相は「(有識者懇談会の)結論を待ちたい」と答弁したが、だれもが抱く疑問ではないか。

一方で、原案には武器輸出三原則の見直しの必要性が明記された。防衛産業の強い要請を受け、武器輸出の拡大をはかる。ここでも軍事のしばりを解く意図があらわになっている。

輸出後の目的外使用や第三国移転に事前同意を義務づけるといった「厳格な管理」の規定は防衛産業には不評だ。しかし、これを見直せば、三原則の空文化は一層進むだろう。

武器輸出に歯止めがなくなれば、日本製の武器が紛争を助長する懸念がぬぐえない。国際環境が変わっても武器は残り、日本の意図に反して使われる恐れすらある。

政権は今国会で、日本版NSCと呼ばれる国家安全保障会議をつくる法案の成立をはかる。首相のもとに情報を一元化し、外交・安保政策の司令塔とする試みである。

本来ならNSCで国際情勢を緻密(ちみつ)に分析し、時間をかけて安保戦略を練るのが筋だろう。しかし政権は、有識者の議論を追認する形で、年末の策定に踏み切ろうとしている。

平和国家の基本理念を、なし崩しに覆すようなことがあってはならない。

産経新聞 2013年10月23日

国家安保戦略 抑止力強化への第一歩だ

有識者会議「安全保障と防衛力に関する懇談会」が、「国家安全保障戦略」の概要をまとめた。「積極的平和主義」の立場から世界の平和と安定に一層寄与していくことなどが柱だ。

戦略は、国の基本理念や国益、国家安全保障の目標などを政府が初めてまとまった形で策定しようとするものだ。その一歩を進めた意味合いは大きい。

焦点となる安全保障の目標には「わが国の安全確保に必要な抑止力の強化」を掲げた。日本は交戦権などを否定する憲法9条の下で、極めて抑制的な防衛政策をとってきた。これをいかに転換し、真に国家や国民を守れる抑止力を持たせるかが最大の課題だ。

具体的には、集団的自衛権の行使を容認し、日米共同の抑止力を強化することが必要となる。

また、第一撃を受けやすい「専守防衛」を見直すなど、基本的な防衛政策を変えることが欠かせない。抑止力とは防衛力と攻撃力から成り、米軍に依存してきた報復能力が不十分なら、日本が自ら保有する必要もある。

概要はこれらにまだ踏み込んでいないが、従来の憲法解釈、政策判断にとらわれて課題を先送りすれば、厳しさを増す安全保障環境に対応することはできない。積極的平和主義を掲げても、国際社会で実を挙げるのは困難だろう。

武器輸出三原則の見直しを明記し、防衛装備品の国際共同開発を推進する姿勢を示したことは評価できる。12月の閣議決定までに、抑止力強化の方策を具体的に練り上げてもらいたい。

安倍晋三政権として、集団的自衛権の行使については与党の公明党との調整がつかず、最終判断していない事情もあるのだろう。だが、現状の問題点を放置したままでは、実効性をもった戦略にはなるまい。

有識者会議が国家安全保障の目標として、中国や北朝鮮の存在を念頭に置いているのは妥当だ。中国について「相対的な影響力の増大」と記述しているが、軍拡を進め、尖閣諸島周辺で威嚇を繰り返していることに対し、もっと強い表現で位置付けてもよかろう。

国家安全保障戦略は、米国や英国、オーストラリア、韓国なども持っている。日本も外交・安保の総合的な戦略を独自に持つあたり前の国家として、同盟国や友好国との関係強化を図るときだ。

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