100日迎える鳩山政権 いら立ちと変革の期待と

朝日新聞 2009年12月26日

鳩山政権の予算案 仮設住宅を百年建築へ

鳩山政権が来年度の政府予算案を発表した。

官僚を中心に進んだ過去の編成作業は一変し、各省の大臣や副大臣が「政治主導」の主役を演じた。

事業仕分けを駆使して要求を削り、公共事業は前年度より2割近く減らした。この変革は自公政権下では望めなかった。政権交代の意味を目の当たりにさせる師走の光景だった。

紆余(うよ)曲折もあった。藤井裕久財務相は当初、閣僚に「要求大臣でなく査定大臣になれ」と呼びかけたが、現実には大臣らは各省の立場を主張し、要求額は膨れあがった。

それでも9月の政権発足から100日あまりで年内編成にこぎつけた。精力的な作業ぶりには、及第点をつけていいのではないか。

中身はどうだろうか。各省の概算要求総額が95兆円まで膨らんだため、最低限の財政規律が守られるかどうかがひとつの焦点になった。仕上がりは92兆円台で、「新たな借金」である国債発行は目標の44兆円枠をかろうじて守った。

毎日新聞 2009年12月26日

来年度予算案 財源「綱渡り」の危うさ 中長期の戦略作り急げ

鳩山政権下で初となる予算案がまとまった。総額92・3兆円の超大型である。金融危機を受けた世界同時不況のさなかに組まれ、史上最大規模に膨らんだ09年度当初予算でさえ88・5兆円だった。概算要求段階の約95兆円からは縮小したものの、景気の現状を考慮しても驚くべき巨額さである。

では、奮発した92兆円の買い物で我々は何を得るのだろう。規模に見合った対価を期待できるだろうか。「幾分は」が、その答えだろう。

初めての経験ずくめであることを思えば、初年度から満点を望むのは非現実的だ。予算編成をめぐるある程度の混乱もやむを得まい。例年なら編成作業が本格的に始まる9月半ばに政権が誕生し、普天間飛行場の移設問題など、他にも重大案件に直面する中で手がけた予算だった。

安全優先の道を選ぶこともできただろうが、あえて公約した主要政策を初年度から野心的に実行しようとした姿勢は、評価したい。野党時代に描いた構想をその通り実現する難しさは国民もある程度、理解するだろう。

ハンディを負っての初編成を、政権誕生から約100日で終えたこと自体、一定の成果といえそうだ。

予算案の中身を見ても、子ども手当や公立高校の実質無償化など、民主党のマニフェスト(政権公約)で目玉政策とされた項目が完ぺきではないにせよ盛り込まれた。「所得控除から手当へ」に向けて、大きな一歩を踏み出したともいえる。

また、地方交付税を積み増すなど、財源が限られた中で地方配慮の姿勢も強く打ち出した。一方で公共事業費は前年度比で大幅に減少し、「コンクリートから人へ」もそれなりに実行に移した形だ。

何とか及第点は確保できたのではないだろうか。

だが、危うい及第点であることは間違いない。歳入の約半分(48%)を借金でまかなう異常さである。さらに税収と借金でも足りない分は、「埋蔵金」など税外収入に頼ってしまった。これが10・6兆円にも上る。大半は一度使えば、なくなってしまうお金だ。

今回の予算編成はなんとかクリアできたものの、来年以降、同じ手に期待することには無理がある。しかも、来年度予算に組み入れた子ども手当は、公約に掲げた額の半分程度だ。満額にするにはさらに財源が必要になる。マニフェスト関連の出費が11年度以降さらに増大する一方、埋蔵金に頼り続けられないとなると、今後のやりくりは一層、困難を極めよう。

借金が膨らんだ分、その利払いも不安要因だ。政府は年2%の金利を想定しているが、国債の大量発行を受け投資家が将来に不安を募らせたら、金利は想定を上回りかねない。0・1ポイントの上昇で約1700億円の負担増になるという。

政府は11年度以降の予算をどのように安定的に組み立てていくのか早急に作戦を練る必要がある。同時に、財政健全化に向けて、市場が納得するような具体的な中長期計画を一刻も早く提示しなければならない。時間との競争だ。

来年度予算案のもう一つの大きな欠陥点は、経済を活性化したり強くしたりするための方策が見えないことだ。子育てや高齢者、地方財政を支援する対策はふんだんに盛り込まれているものの、どのようにして国の経済が今後伸びていくのかをうかがわせる将来像が実感できない。

財源面の制約や費用対効果を考えると、政府の資金で直接、特定の産業を育てる発想は非現実的だ。経済のグローバル化も意識した、戦略的な規制改革とセットで対策を打ち出す必要があろう。

持続性が危ぶまれる予算になった背景には、中長期的な戦略をしっかり描くことなく編成に着手したことがある。大きな目標や政策の優先順位が閣僚や副大臣らに共有されていなかったため迷走を招いた。これは、国家戦略室が機能しなかったことが原因といっていい。

安定的な財源を確保するため、消費税の引き上げを早急に検討すべきだとの声も今後高まるだろう。確かに真剣な議論を始める時に来ているのは間違いない。しかし、まずは、政府が税金を本当に無駄なく使い、将来世代のためにきちんとした計画を立て、それを実行に移す能力があることを示すのが条件だ。この政権に託せば国がよい方向に向かうだろう、といった国民の信頼なしに、増税を急いでも支持されまい。

初の事業仕分けは、税金の使われ方に国民の広い関心を引き寄せた画期的な試みだった。とはいえ、あの程度で、無駄を根絶したとはとてもいえないはずだ。信頼を得るための道はまだ半ばである。

今回の予算初編成を通して政権が何を学んだかが肝心だ。来年の予算編成からは、「政権交代したばかりだから」の言い訳は通用しない。

鳩山政権は戦略室の機能を強化し、直ちに戦略作りに着手すべきだ。

読売新聞 2009年12月26日

来年度予算 公約優先では財政がもたない

政権交代で予算編成の過程は様変わりした。だが、出来上がった来年度予算案は、国債と税外収入に頼る構図が相変わらずで、借金体質は例年に増して強まった。

◆税収はわずか37兆円◆

政府は25日、2010年度予算案を閣議決定した。一般会計の歳出総額は92・3兆円と、当初予算では過去最大である。

具体的な政策の実行にあてる一般歳出は53・5兆円に膨らんだ。国債の利払いや償還に使う国債費は20・6兆円で、地方交付税は17・5兆円だった。

一方の歳入は、税収が37・4兆円と、第2次補正後の09年度予算とほぼ同じであり、26年も前の水準まで落ち込む。

財政投融資特別会計の積立金や外国為替特会の剰余金など、いわゆる埋蔵金をかき集めた10・6兆円の税外収入と、44・3兆円の国債発行で不足分を補う。

歳入全体に占める国債への依存度は48%と、ほぼ半分を借金で賄う計算だ。

景気は財政出動で下支えしなければ危うい状況である。このため、国債の増発はある程度やむを得ないが、中長期的には、借金依存の財政を放置出来ないのも明らかである。

◆政権公約墨守で迷走◆

今回の予算編成を難航させた最大の原因は、政権公約(マニフェスト)に掲げた政策の実現に鳩山内閣がこだわったことである。

内閣が発足するや、自公政権が決めた概算要求基準(シーリング)を廃止し、各府省に概算要求を出し直させたことが、迷走の始まりだった。

概算要求の総額は95兆円と、09年度当初予算を6・5兆円も上回った。子ども手当、高校授業料の実質無償化や高速道路料金の一部無料化など、政権公約の関連項目が並んだためだ。

これらの取り扱いについて議論するうち、鳩山内閣は二つの“誤算”に見舞われた。

一つは税収の大幅な落ち込みである。景気の低迷で、09年度は法人税を中心に、予想より9兆円以上減少することがわかった。10年度も税収の回復は期待できず、前年度並みの水準を見込まざるを得なくなった。

二つめは、予算の無駄減らしによる財源の確保が、期待はずれに終わったことである。

民主党は、一般会計と特別会計を見直せば、10兆円や20兆円の財源を確保するのは容易だと主張してきた。政権公約には、政権奪取から4年後に、年間17兆円近い財源を捻出(ねんしゅつ)すると明記した。

ところが、鳴り物入りで始めた事業仕分けでは、無駄の洗い出しが進まなかった。当初は3兆円の削減を目指したが、実際には1兆円程度にとどまった。

民主党が想定したほどには、無駄がなかったということである。それなのに、財源はあると言い続けた鳩山政権の責任は重いと言わざるを得ない。

鳩山首相は、深刻な財源不足に直面してもなお、政権公約の実行にこだわり、税制改正大綱のとりまとめは大幅に遅れた。

結局、小沢幹事長が出した民主党の要請を受け入れ、暫定税率廃止の撤回など政権公約の一部を修正した。この結果、予算案の年内編成になんとかこぎ着けた。

だが、農家への戸別所得補償など、来年の参院選を意識したと思われる党主導の政策に多額の予算をつけたのは問題だった。

景気低迷が続く中、公共事業関係費を前年度比18%、1・3兆円も削り、5・8兆円に縮減したことも懸念材料である。

◆財政再建は待ったなし◆

10年度予算案の決定で、新たな数字が浮かび上がった。国と地方の長期債務が10年度末で862兆円程度と、国内総生産(GDP)の1・8倍にも及ぶ見通しになったことだ。欧米の主要国に比べると、日本が突出して高い。

日本には1400兆円を超す個人金融資産があり、「国内だけで国債などの消化が可能だから大丈夫」という見方がある。

だが、住宅ローンなどの借金を除けば、残りは1000兆円余りだ。長期債務との差が年々縮小している現実を見れば、やはり国として安定した税収の確保を考えねばなるまい。

鳩山内閣は、最有力の財源である消費税について、次の衆院選まで税率引き上げを封印した。しかし、こうした状態では、財源不足でまともな予算が組めないことがよくわかったはずだ。

仮に消費税で方針転換しても、社会保障の財源として必要なことなどを丁寧に説明すれば、国民は理解を示すのではないか。

来年夏の参院選後には消費税率引き上げの議論を始め、景気が回復すれば直ちに実施できるよう、鳩山内閣は準備に入るべきだ。

産経新聞 2009年12月26日

鳩山政権の初予算 破綻が現実化する不安 正直に財政再建目標を示せ

鳩山由紀夫政権が初の来年度予算案を閣議決定した。92・3兆円に上る一般会計の規模、44・3兆円の国債発行額とも過去最大である。財源の裏付けなき公約と財政規律なき政策決定プロセスの混乱が生み出した結果といえる。

予算編成は初めから終わりまで迷走の連続だった。それは政策決定の司令塔として創設された国家戦略室が、自民党の編成手法を否定するために概算要求基準を廃止し、それに代わる基本方針を示せなかったことから始まった。

子ども手当に象徴される政権公約はもちろん、その他の歳出も抑えられず、概算要求は95兆円に膨らんだ。これを行政刷新会議の事業仕分けなどで削減しようとしたが、目標に遠く及ばなかった。

すると今度は歳入面で政権公約の見直しに入った。国債発行を前政権の44兆円以内にとどめるとの基本的枠組みが崩れるためで、その代表例が揮発油税などの暫定税率の維持である。

民主党は昨春、福田康夫政権の暫定税率維持法案に反対して一時的にガソリン価格を引き下げさせ、今夏の総選挙でも廃止が目玉公約だった。それを鳩山政権は小沢一郎党幹事長の要望を受け入れる形で放棄したのである。

◆問われる政権能力

政権発足時から指摘されていたこととはいえ、これは鳩山政権の土台である政策決定の内閣一元化と財源なき政権公約の崩壊を意味する。これだけでも財政規律と政権運営能力が問われるが、それは既存の歳出分野でも顕著だ。

例えば医師不足解消を理由に、医師の人件費に当たる診療報酬を引き上げたのがそれだ。引き上げ幅は1・55%だが、物価や民間給与が下がっている中で診療報酬だけを上げることに国民の理解が得られるとは思えない。

優遇されすぎている開業医の報酬を大幅に削り、それを勤務医や不足する診療科に配分すれば、引き上げずに済んだはずだ。これから行われる配分見直し作業が小手先であってはならない。

地方交付税もばらまきと言ってよい。国税5税の税収減に伴って減少する分を補填(ほてん)しただけでなく、さらに1兆円を加算し17・5兆円に膨らんだ。地方よりはるかに財政が悪化している国が支援するのは逆さまである。

地方向けでは農家の戸別所得補償や高速道路無料化などの政権公約に加え、整備新幹線の財源まで手当てされた。高校無償化の公約実施も考えると、来夏の参院選対策と見られても仕方あるまい。

一方で来年度予算に最も求められる景気対策はほとんど見られない。子ども手当や農家の戸別補償に消費刺激効果はまず期待できないし、緊急経済対策と称した今年度第2次補正予算も雇用対策と地方支援が柱だ。これらは経済対策というより社会政策であり、成長と税収には結びつかない。

◆埋蔵金は来年度限り

その来年度税収見込みは37・4兆円と25年前の水準に落ち込む。国債発行額がこれを上回るのは、戦後の混乱期を除けば初の事態である。しかも、これだけ国債を大量発行しても10兆円以上の財源が不足し、特別会計の積立金などいわゆる“埋蔵金”で埋めた。

だが、これらは埋蔵金ではない。例えば財政投融資特別会計の積立金も財投債の安定償還のためだ。しかも、恒久財源ではなく1回使えばなくなってしまう。子ども手当にしろ来年度は半額実施だが、もはや再来年度以降の公約実施財源はない。

来年度の国債残高は国内総生産(GDP)比134%の637兆円と、先進国では例のない水準まで悪化する。いよいよ国債の消化不安が頭をもたげかねず、成長を決定的に阻害する金利急騰の危険性と隣り合わせになる。

鳩山政権にはその危機感がないのではないか。今回の予算案もそうだが、前政権が策定した中長期の財政再建目標を白紙にしながら、新目標の策定を来年前半まで先送りしたことが、何よりもそれを物語る。

先進各国とも同時不況の出口戦略として目標を示している。鳩山政権が目標に背を向けるのは、任期の4年間、消費税を封印しているからにほかならない。来夏の参院選を控え、まともな新目標が策定できるかも疑わしい。

消費税を封印したまま税収に結びつく成長戦略もなく、無理な政権公約で歳出だけを膨らませるなら財政は破綻(はたん)するしかない。この国民の最大の不安を鳩山政権は認識せねばならない。

朝日新聞 2009年12月25日

首相元秘書起訴 「続投」で背負った十字架

鳩山由紀夫首相の政治団体に提供されてきた約4億円もの政治資金の処理が違法だったとして、経理を担当した元公設第1秘書らが起訴された。

違法献金の原資に絡んで、実母から受け取った12億円を超える資金が、首相の所得申告から漏れていた事実も明らかになった。

100日を迎えたばかりの政権を痛撃する事態である。

「ご迷惑をかけた方々や国民におわびする。だが、違法献金の事実については、秘書を信頼して任せきりにしていたので、自分はまったく知らなかった。国民から見ると不自然に見えるだろうが、これが真実だ」

そう鳩山首相は会見で繰り返した。だが、毎月1500万円ともいう資金を実母からもらっていて、本当に何も知らなかったのか。政治資金も私的な支出もみんな秘書任せだったのか。

多くの国民は、そんな疑問を今後も持ち続けるだろう。

若手議員時代から政治改革や政治資金の透明化を唱えてきたのは鳩山首相自身である。本人は不起訴であっても、国民の信頼を裏切ったことについて、政治家としての責任は極めて重い。

違法献金の出どころは実母らであり、特定の企業や団体との癒着は東京地検の捜査でも判明しなかった。首相は「私腹を肥やそうとしたのではない」と強調した。

動機はどうあれ、長年うそを書いてきたことは、政治家とカネの関係を国民の監視の下に置くために作られた政治資金規正法を空洞化するものだ。

巨額の資金がどのような政治活動に使われたのかについて、首相は積極的に公表する責任がある。

さらに、提供された資金を長年にわたって申告していなかったことは、納税者からみると、脱税に類する行為とみられても仕方がない。首相は修正申告して6億円を納税するとは言う。しかし、首相はいずれ国民に消費税をはじめとする増税問題を訴えなければならない立場にある。

「政権交代という勇気ある選択をされた国民への責任を放棄することになる」。首相は辞任しない決意をそう述べた。政権交代で就いたばかりの首相をすぐには代えたくない。そういう国民の心情に今後を託したいのだろう。

一方で、首相は「鳩山やめろという声が圧倒的になった場合、やはり国民の声は尊重しなければならない」とも語った。この言葉は重い。

たとえ世論が続投を許すとしても、違法献金事件と所得申告漏れという重い十字架を背負う。全力を傾けて政治の変革を願う有権者の期待に応え、また政治家としての倫理を実践することで傷ついた信頼を取り戻さなければならない。

毎日新聞 2009年12月25日

首相の元秘書起訴 説得力欠いた鳩山会見

予想されていたとはいえ、現職首相の元秘書が起訴されるのは極めて異例で深刻な事態だ。折しも発足以来100日を迎えた鳩山政権にとってやはり大きな打撃である。

鳩山由紀夫首相の資金管理団体をめぐる偽装献金事件で、首相の元公設第1秘書が24日、政治資金規正法違反(虚偽記載など)で在宅起訴された。首相は同夜、記者会見して謝罪する一方、辞任の考えはないと表明したが、事件に関しては「秘書にすべてを任せ、実態をまったく知らなかった」「私腹を肥やしたわけではない」の繰り返しだった。

首相も認めた通り、これでは国民は納得できない。野党は年明けの通常国会で厳しく追及する方針だ。これで一件落着とは到底いかない。

東京地検特捜部はこのほか元政策秘書を略式起訴し、鳩山首相本人は容疑不十分として不起訴となった。それにしても改めて驚くのはでたらめな献金処理だ。

元公設秘書は04~08年分の収支報告書などに記載した収入のうち故人らの名を使うなどして計約4億円分を虚偽記載(一部は不記載)したとされる。なぜ、そんな処理をしたかといえば「個人献金額を増やし国民から支持されている政治家に見せたかった」と供述しているという。

一方、首相は実母からの巨額な資金提供も再度「知らなかった」と釈明したが、「カネの話をすることがなかった」という裕福な家庭だったからというだけでは、「首相に国民生活の苦しさが分かるだろうか」と疑問を感じる人の方が多いだろう。

巨額資金を何に使っていたかも疑問が残る。会見では政治活動だけでなく、プライベートな支出までもすべて秘書任せだったと認めたが、そこには相当な公私混同があったのではないか。また、首相は実母からの資金提供を贈与と認め、修正申告して贈与税を支払う考えも示したが、事件が発覚しなければ、結果的に税金逃れになっていた可能性がある。納税者意識の低さを指摘されても仕方がない。

首相は野党時代「秘書が犯した罪は政治家が受けるべきだ」と語っていた。この発言も今後野党の追及材料となろう。

毎日新聞が先に実施した世論調査では、この問題で首相は辞任する必要がないと答えた人は54%で、辞任すべきだと答えた40%を上回った。政治を変えてほしいとの期待の方が大きいということだろう。だが、この会見を受け、世論が変わる可能性がある。今後、仮に従来の首相説明と矛盾が出てくるようなことがあれば状況はさらに一変するはずだ。その際には首相の進退につながることになると指摘しておく。

読売新聞 2009年12月25日

元秘書2人起訴 鳩山首相の政治責任は重大だ

元秘書の不正行為を放置したうえ、国民に真実を語ろうとしなかった。鳩山首相は不起訴だったとはいえ、政治的責任は極めて重大である。

首相の資金管理団体などの収支報告書に虚偽を記載したとして、実務担当者だった元公設第1秘書が、政治資金規正法違反で在宅起訴された。会計責任者だった元政策秘書も略式起訴され、罰金の略式命令を受けた。

元公設秘書は、首相や母親からの資金などを個人献金やパーティー収入に偽装した。元政策秘書は元公設秘書に任せ、注意を怠る重大な過失があったという。

◆「知らぬ」は通用しない◆

現職首相の元秘書の訴追は異例だが、虚偽記入の総額は5年間で約4億円にも上っており、刑事責任が問われるのは当然だ。

鳩山首相は記者会見で、「政治家としての使命を果たすことが、私の責任だ」と述べ、自らの辞任を否定した。

だが、首相は野党時代、加藤紘一自民党元幹事長や鈴木宗男衆院議員の秘書らが逮捕された際、何度もこう明言していた。

「秘書の犯罪は議員の責任だ」「私なら議員バッジを外す」

この言葉が今、自身の進退に向けられていることを、厳粛に受け止める必要がある。

首相は記者会見で、母親からの巨額の資金提供について「全く承知していなかった」と改めて強調した。首相がいかに裕福な家庭環境で育ったとしても、この説明は信じがたい。

仮に「故人献金」問題が発覚した6月までは知らなかったとしても、その後、元公設秘書から事情を聞き、弁護士に調査までさせている。計12億円超の資金提供に気づかないことはあり得ない。

当時は、衆院選が迫っていた。自らの保身と、選挙への悪影響を避けるため、母親からの資金提供を隠していたのなら、国民に対する背信行為である。

元公設秘書はなぜ虚偽記載を行ったのか。母親の資金をどんな活動に使ったのか。資金提供は相続税対策だったのではないか。

こうした多くの疑問に対して、首相の記者会見での説明は極めて不十分だった。首相は改めて機会を設け、一連の問題の全体像を自ら丁寧に説明すべきだ。それなくして国民の信頼は回復しない。

◆「贈与税申告」は疑問だ◆

鳩山首相は、政治とカネについてクリーンな政治家との印象を持たれてきた。だが、実際は政治資金の管理を元公設秘書に丸投げし、巨額の虚偽記載を見過ごしていた。監督責任は免れない。

首相は「私腹を肥やしたわけではない。不正な利得も受けていない」と述べた。今回の原資が企業献金でなく、身内からの資金提供なので悪質性は低いとの意見もある。だが、そんなことはない。

首相は、母親からの資金提供を「贈与」と認め、贈与税を申告する意向を示した。資金提供が発覚しなかったら、6億円以上の納税を逃れていたことになる。

こうした行為がまかり通れば、まじめに納税しようとする国民の気持ちを踏みにじり、申告納税制度の根幹が揺らぎかねない。

資産家が巨額の資金を自由に政治団体に繰り入れて使えるようでは、政治活動の公平性が担保されない、との指摘がある。政治資金規正法が個人献金の上限額を定めているのは、こうした観点も踏まえたものと言えよう。

民主党では、小沢幹事長の秘書も西松建設の違法献金事件で起訴され、初公判で検察側からゼネコンとの癒着を指弾された。

それなのに、党内から、鳩山首相や小沢氏に詳しい説明を求める声さえ出ていないのは、現在の民主党の体質や自浄能力に問題がある、と見られても仕方がない。

首相の資金管理団体は小口の個人献金の大半が虚偽記載だった。政治資金規正法で、年5万円以下の献金は寄付者名を記載する必要がないことを悪用したものだ。

現行法では、政治団体の1円以上の支出については、すべて領収書を用意しなければならないが、収入面は規定が甘く、バランスを欠く。収入の透明性を高める制度を検討していいだろう。

◆捜査は尽くされたのか◆

東京地検は首相や母親の事情聴取を見送り、上申書で済ませた。本人を聴取せず、本当に全容を解明できたのだろうか。

一般国民が検察に疑いを持たれたならば、聴取を受けずに済むことはまずない。今回、時の最高権力者への配慮はなかったか。

最近は、検察の不起訴処分が妥当かどうかを国民が審査する検察審査会の権限が強化されるなど、国民の司法参加が進んでいる。

検察は、社会的な関心の高い事件については、公判の場だけでなく、記者会見などでもっと説明する必要がある。

産経新聞 2009年12月25日

元秘書起訴 首相の政治責任は明白 「脱税」の疑い徹底解明せよ

鳩山由紀夫首相は24日夜、資金管理団体「友愛政経懇話会」の偽装献金事件で、元公設第1秘書と元政策秘書の2人が政治資金規正法違反罪で起訴されたことを踏まえ、記者会見して謝罪した。

政治資金の透明化や金額の制限などを求める規正法の趣旨を損なう悪質な行為と言わざるを得ない。首相の関与は嫌疑不十分で不起訴とされたものの、その政治責任は明白である。

最大の問題は、母親からの約12億6千万円に及ぶ資金提供である。首相は6億円を超える贈与税を払う意向を示したが、これは修正申告して済む問題ではない。国政の最高責任者が、国民の義務である納税を怠り、発覚しなかったら知らん顔を通す−という脱法行為が問われているのである。

「秘書が犯した罪は政治家が罰を受けるべきだ」と、首相が以前に口にした言葉に従えば、進退が問われる事態だろう。

首相は会見で、国民の辞めろという声が圧倒的になれば辞任を考慮するとまで表明した。一方で、政権交代を実行することが自らの責任だと語ったが、問題の所在がよく分かっていない。政治的かつ道義的な責任をどう取るかを明確にすべきだ。

◆進退に言及した会見

首相は7年前、加藤紘一元自民党幹事長の秘書の脱税事件に際し、秘書の責任は国会議員の責任だと主張し、加藤氏に議員辞職など厳しい身の処し方を求めた。

しかし、会見では「今回の件では私腹を肥やしたとか、不正な利得を受けたことはない」とした。過去の発言は自分には該当しないと釈明したのは、あまりにもご都合主義ではないか。

資金管理団体の会計実務を担当していた勝場啓二元公設第1秘書は虚偽記載で在宅起訴され、会計責任者を務めていた芳賀大輔元政策秘書は、収支報告書のチェックに重大な過失があったとして略式起訴となった。

東京地検特捜部は元秘書2人の立件で十分だと判断した。しかし、知らないうちに巨額の資金が母親から届き、一部は偽装献金に回ったが、「すべて秘書任せだった」という首相側の不自然な説明を、検察側はそのまま受け入れたのだろうか。

資金を提供した母親や首相本人の聴取を見送った点には疑問が残る。現職首相をめぐる犯罪という異例の事態に、捜査が抑制的になったとすれば残念だ。

また、ずさんな資金処理の背景に、身内からのカネなら悪質でないとの考えがあるのだとすれば、大きな誤りだ。衆参両院が定めた政治倫理綱領でも、政治不信を招く公私混同を断つことが重要課題に挙げられている。

首相は「払うべきものは払う」と贈与税を支払う意向を示しているが、国税当局は首相側の対応が悪質で相続税法違反(贈与税の脱税)にあたるものでなかったかどうか、厳正に調べる必要がある。鳩山家内部の巨額の資産移動についても、徹底した調査を行うべきだろう。

◆民主は自浄能力発揮を

首相の偽装献金問題が節目を迎えた一方で、民主党の小沢一郎幹事長をめぐっては、西松建設の違法献金事件で元公設第1秘書に対する公判が開始されていることに加え、小沢氏の資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐる疑惑が浮上している。

東京地検特捜部はこの問題で事務担当だった石川知裕衆院議員を規正法違反容疑で立件する方針を固めたとされる。平成16年に東京都内の土地を購入した資金の出所が不透明な点を問われており、小沢氏の元秘書に対する任意の事情聴取も行われている。

重機土木大手「水谷建設」から計1億円の裏献金が小沢氏側に渡っていた疑いもある。

政権発足から100日を迎えた首相は、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設問題で迷走したのに加え、公約実現に向けた政府内の調整でも指導力不足を露呈した。内閣支持率は最近1カ月で10ポイント以上急落した。

首相を支える小沢氏の影響力が一層強まっている中で、政権の頂上に位置する2人の責任者がそろって「政治とカネ」で国民の信を失わせている。

民主党は企業献金廃止のための法改正を掲げるが、2人に対する自浄能力は何ら示していない。きわめて遺憾だ。これでは実効ある改革を実現できるとは思えない。現実に起きている疑惑解明への姿勢を国民は注視している。

朝日新聞 2009年12月22日

100日迎える鳩山政権 いら立ちと変革の期待と

残暑の中の政権交代劇から、明後日でちょうど100日になる。

鳩山由紀夫首相は就任会見で「日本の歴史が変わるという身震いするような感激」を語った。あの高揚感は、政権を取り巻くいまの空気にはない。

朝日新聞社の世論調査によれば、内閣支持率は5割を割り込んだ。下落が止まらない。とりわけ鳩山首相のリーダーシップに厳しい評価が下された。

米軍普天間飛行場の移設問題への対応をはじめ、この間のもたつきを見れば当然の反応といわざるをえない。

歴史を変えるとの首相の思いが、まったく実現していないわけではない。

「事業仕分け」の作業は、税金の使い道をオープンな場で吟味するという民主政治の最も根っこにある役割を、国民に改めて思い起こさせた。「官僚丸投げ」もなくなってきた。「戦後行政の大掃除」は緒に就きつつある。

しかし、「コンクリートから人へ」の政治、「『居場所と出番』のある社会」の創造といった大きな物語は、なお具体像を結んでいない。

なにより、日米同盟の管理や来年度予算編成という眼前の勝負どころで、連立への配慮などから「決められない首相」という姿をさらしてしまった。

その理由ははっきりしている。

民主党政権の核心となるはずだった「政治主導」の確立をないがしろにしたまま走っているからである。

本来なら首相、副総理、官房長官ら官邸勢を核に、財務相、外相らが緊密な「チーム鳩山」を形成するべきところ、連携があまりに足りない。

各省庁の縦割り脱却についても、主役が政務三役に衣替えしただけで温存されている感が強い。

「政府与党一元化」にいたっては、選挙と国会に専念するはずだった小沢一郎民主党幹事長が政策でも発言権を増すにつれ、ほごと化しつつある。

「官」を抑え込んだ後、「政」がどうものごとを決めていくのかというルールを見いだせていないところに、迷走の最大の原因がある。

「透明な政治」「説明する政治」も、掛け声倒れである。

首相の虚偽献金問題はもとより、マニフェストに掲げた政策の手直しを考えるにあたっての説明ぶりも、不十分というほかない。

政権交代が「未知との遭遇」の連続であることは理解するが、だからといっていつまでも国民の「ご寛容」(首相)をあてにすることは許されない。

内閣支持率が下がる一方で、民主党支持率は4割を超え、高水準を保っている。自民党への民意の支持は低迷したままだ。この数字をどう読み解くべきだろうか。

私たち有権者が政治を評価するときの物差しが、変わりつつあるのではないか。そんな視点を提示してみたい。

二つの要因を指摘できる。

第一に、民主党政権は有権者が総選挙を通じ、じかに名指しした政権である。自民か民主かという選択肢から、国民は自覚的に政権交代を選んだ。

繰り返すまでもなく、明治以来の近代政治史上初めての事件である。

「大命降下」や国会での議員投票で首相になった人を、総選挙で追認するという過去の多くの例とは、わけが違う。まして、「小泉後」の3代にわたる政権たらい回しとは、民主的な正統性の点で比べものにならない。

だからこそ、有権者の多くは自分で選んだ責任を自覚しているに違いない。首相の実行力不足は歯がゆいが、民主党政権を取りかえなければとまでは考えない。そこには、「お任せ」の民主主義から、みずからかかわっていく民主主義への脱皮が兆している。

第二に、マニフェスト選挙がすっかり根を張ったという事実である。

政策パッケージである政権公約の競い合いの中から、有権者は選択する。

それは、「国民との契約」であり、次の総選挙までの最長4年間、政権党を基本的に縛ることになる。

かつての自民党政治では総選挙とかかわりなく首相をすげ替え、政策路線を転換することが日常茶飯事だった。党内抗争あり、談合もあり。マニフェスト選挙の時代には、それは契約違反との批判を免れない。

民主党の支持率が持ちこたえているのは、もろもろの政治的決着は次の総選挙でつけるものだという流儀が有権者の間に定着しつつあるからだろう。

このような政治意識の成熟の芽を、ぜひとも大切に育てたい。

気にかかるのは、来年の参院選勝利に向けた小沢幹事長の強い姿勢である。自民党を解体にまで追い込もうとしているかのような執念すら感じる。

政党が選挙に勝とうとするのは当然だ。まして民主党は参院で単独過半数を持たない。しかし、有権者が望むのは、民主党が永久与党になることでも、新たな一党優位体制が築かれることでもあるまい。

理念、政策の実現か、権力の追求か。ゼロか一かで割り切ることはできないが、あからさまに後者に傾いて理念や政策がゆがめられるなら、歴史的な政権交代も幻滅に終わる。

まだ100日である。年明けには初の通常国会が始まる。

政権の力量が本当に問われるのはこれからである。

毎日新聞 2009年12月25日

首相の元秘書起訴 捜査は尽くされたのか

首相の資金管理団体をめぐる偽装献金事件の捜査は24日で一応終結したことになる。ただし、捜査が尽くされたのか割り切れなさも残る。

東京地検特捜部は当初、勝場啓二元公設第1秘書を略式起訴とすることも検討したとされるが、公判請求に踏み切った。関連団体分も含め4億円を超える虚偽記載・不記載があり、当然の判断である。

特捜部が、首相を不起訴処分にしたのは、虚偽記載への関与を証明する十分な証拠がなかったためだ。

首相の聴取を見送り、上申書で済ませたことに批判がある。だが、証拠がない以上、形式的な聴取にさほど意味はない。ただ、資金提供した実母も上申書で済ませたのは甘くはないか。

一連の捜査を任意で終えることにも、捜査の均衡性の点から議論の余地が残りそうだ。特捜部は今年3月、当時民主党代表だった小沢一郎氏の公設第1秘書を同じ政治資金規正法違反容疑で逮捕し、資金管理団体を捜索した。起訴されたのは、献金3500万円の虚偽記載である。

今回の虚偽記載額はその10倍以上だ。また、首相の政治資金収支報告書の記載の多くが虚偽だったことも判明した。ずさんな報告書だったわけである。

なのに一方は逮捕され、他方は強制捜査なしの在宅起訴である。

主たる判断の根拠は金の出所だろう。つまり、特定のゼネコンではなく、身内の金だということだ。世論をそんたくしたともいえる。

政治資金規正法は、政治家の資金の流れを国民の目にオープンにするためにある。資金の出所で適用が左右されていいのか。

憲法上、国務大臣は在任中、内閣総理大臣の同意がなければ訴追されない。自らの訴追権を握った現職首相が絡むだけに、特捜部が難しい判断を迫られたことは理解できる。

だが、国民が最も知りたいのは、首相は本当に知らなかったのかということだ。勝場元秘書は首相の認識を否定し続けたとみられる。必要な証拠を集めるための捜査は十分だったのだろうか。

首相は、実母からの資金12億6000万円について贈与税を払う意向だ。当面、ボールは国税当局に投げられた。修正申告を受け、追徴分も含め相当額の納税義務が生じる。申告遅れの背景に不正があれば脱税の疑いが出てくる。納税者である国民の目が光っている。厳正に対処してほしい。

いずれにしろ、脱税などでの刑事告発があれば、検察が改めて調べることになる。捜査はいったん決着するが、火ダネは残る。問題の幕引きとはならないだろう。

毎日新聞 2009年12月24日

鳩山内閣100日 政治主導の足元固めよ 首相は政策軸を明確に

鳩山内閣は、発足100日を迎えた。衆院選の民主党圧勝による歴史的な政権交代から3カ月余、政治の変化を実感させる場面が見られる一方で、政策の決定過程には混乱も目立つ。総じて、改革の試みは迷走し始めている。

毎日新聞の最新の世論調査でも、内閣支持率は55%と発足直後に比べ22ポイント下落した。国民の期待が失望に転じつつあるシグナルだろう。内閣が本来の政治主導を発揮するためにも鳩山由紀夫首相は態勢の立て直しを急ぎ、政策の軸足をより明確に打ち出さねばならない。

100日の節目を迎えたが、首相はなかなか胸を張る心境になれないのではないか。政権の現状を象徴したのが、さきの衆院選で掲げたマニフェストの見直しである。公約の実現に不可欠な財源対策の甘さが露呈したうえ、ガソリン税の暫定税率問題で道筋をつけたのは党の実権を掌握する小沢一郎幹事長だった。首相が主導しマニフェストを実現する姿には遠い決着だった。

さきの衆院選で民主党に300を超す議席を与え、自民党が与党であり続けた「55年体制」に終止符を打った原動力は、政治に変化を求める切実な民意である。期待を背に、鳩山内閣がさまざまな新機軸に挑んでいることは評価できる。特に、行政刷新会議が行った事業仕分けは予算の決定過程を国民に開示する画期的試みだった。外務省が対米密約の検証を進めるなど、情報公開を意識した運営は歓迎したい。

しかし、やはり国民に強い印象を与えたのは沖縄の基地問題や、経済対策を通じて表面化した政権の迷走ぶりではないだろうか。

年内決着をめぐり混乱した米軍普天間飛行場の移設問題は収拾の方向性を示さず、決着を先送りした。「緊密で対等な日米関係」の旗を掲げ名護市辺野古に移す現行計画の見直しを探るのであれば、相当の覚悟で政治力を発揮しなければならない。にもかかわらずその努力を尽くさず展望が開けぬまま、日米関係全般への影響が危ぶまれる事態を招いた。失点と言わざるを得ない。

経済対策もそうだ。危機的な財政の下、景気の下支えと財政規律を両立させることは確かに難しい。だが、閣僚の意見が食い違ったまま財政支出を迫られ「コンクリートから人」への政治という、当初の理念もかすみがちだ。安全保障問題で社民党、経済対策をめぐる国民新党という連立2党の発言力の強さも、鳩山内閣の政策の軸足が定まっていないことに起因する。

混乱の背景には、政治主導が軌道に乗っていないことがある。内閣が掲げた「脱官僚」の実現に向け、閣僚、副大臣、政務官の「政務三役」による政策調整が各省で始動した。だが、官邸で経済対策などの企画・立案を行う機能が稼働していない。特に、菅直人国家戦略担当相、平野博文官房長官による調整力の発揮が不十分だ。これでは各省の負担が増して消化不良を来し、実態は従来の官僚主導のまま、ということになりかねない。

官邸が調整に二の足を踏み、首相自身の判断も示されない中、目立ち始めたのが小沢氏が発言力を強める「党高政低」の構図である。いったい、誰が本当の決定権者なのか--。国民の多くが首相の指導力に疑念を抱いたとしても無理はない。

どう、立て直すか。内閣への権限集中に向け、態勢を再構築すべきである。政策の参謀となる国家戦略室に明確な権限を与え、内閣に副大臣、政務官など、より多くの国会議員スタッフを送りこめるよう、制度を改める必要がある。本来、さきの臨時国会で真っ先に措置すべきことを先送りしたツケが回っている。必要な法整備を次の通常国会で、予算と同等の重視度で急がねばならない。

小沢氏主導による政権のいわゆる「二重権力」問題は、小沢氏の意向を過剰に意識し、なかなか決断に踏み切れない党の体質にむしろ、問題がある。そもそも「政策は首相、党務は小沢氏」という分業自体に無理がある。努めて意思を疎通し、政権運営に停滞を来さない責任が両氏にある。廃止した党政調を復活させ、内閣と党の政策決定の一体化を図ることもひとつの方策であろう。

首相自身の政治献金の虚偽記載疑惑をめぐる捜査は、間もなく当局による処分が決まる。米軍基地問題、公約修正も合わせ、自民党からの攻勢もさすがに次期国会では強まろう。首相が党首討論を避けるような逃げ腰では到底、乗り切れまい。

低下傾向とはいえ、支持率55%はなお比較的高い水準だ。国民の多くには、政権選択で自らが投票し鳩山内閣を生み出したという、参加意識があるのではないか。政治の変化を期待する底流に変化はないはずだ。

だからこそ、首相はマニフェストの原則を軽んじず、さまざまな課題について国民に語りかけ、理解を得る必要がある。自らが政策実現の気概と覚悟を示すことが今、何よりも肝心である。

毎日新聞 2009年12月23日

政権初の税・予算 決定過程に透明さ欠く 改革本番へ体制再構築を

「子ども手当」など来年度予算に盛り込む主要政策について鳩山政権の方針が決まり、税制改正大綱も固まったことで、予算編成は大きな山を越えた。政府予算案が決まらないまま、ずるずる越年するという最悪の事態は避けられる見通しだ。

意見調整が難航した項目の中で最大の焦点の一つになっていたのが、子ども手当への所得制限だった。厳しい財源不足の中、「金持ち世帯まで手当を出すのはおかしい」との声もあり、民主党が受給に所得制限を付けるよう求めたが、最後は鳩山由紀夫首相が、「制限なし」を決めた。

親の所得に関係なく、すべての子どもを社会全体で育てる、という民主党マニフェスト(政権公約)の根幹理念を党自ら崩そうとした過程は問題だったが、最終的に政権が守った。正しい決断として評価したい。

これに対し、ガソリンの税率維持を決めたことは、「公約違反」の批判を免れないだろう。鳩山首相は陳謝したが、決定過程や根拠などについて、国民へのていねいな説明が不可欠だ。

しかしながら、マニフェストに、もともと矛盾があったのも事実だ。「地球温暖化対策を強力に推進する」とうたいながら、もう一方では温室効果ガスの排出増加を促しかねないガソリンの暫定税率廃止を盛り込んでいた。

このため私たちは、来年度からの暫定税率廃止を見送ったうえで、環境税については徹底した議論と入念な制度設計を行うよう提案してきた。今回の政府決定は、それにおおむね沿った内容といえよう。鳩山政権には、これを単なる問題の先送りとせず、環境税について国民全体を巻き込んだ議論を主導するよう期待したい。

暫定税率など個々の問題とは別に、政権が果たせなかった大きな約束がある。自民党長期政権を経て築き上げられた既得権益の実態を白日の下にさらし、それにメスを入れ、国民の目に見える意思決定の仕組みを新たに作り上げる、というものだ。

鳩山政権はそのためにいくつかの舞台装置をこしらえた。政府税制調査会はその代表だ。自民党政権時代の不透明な「党主導」の税制改正から脱却しようと党税調を廃止し、意思決定を政府税調に一本化する画期的な構想だ。新生税調のメンバーは、かつてのような有識者ではなくすべて政治家である。大臣、副大臣、政務官ら政府の幹部で構成し、事業仕分けと同様に、議論の過程が国民に見えるよう、全体会合の模様はインターネットで公開した。

しかし、残念な結果に終わった。メンバーはそれぞれ代表する省の主張を訴え、意見がしばしば対立、調整は非公開の場に委ねられた。

税調の発足当初掲げていた高い志も次第に色あせていった。租税特別措置(租特)がその代表例である。企業の研究開発促進や住宅取得の支援など、政策目的のため課税の例外を設けているのが租特だ。大半は減税や非課税措置で、一度導入されると常態化し、税収減は国税だけで7・4兆円にも達していた。

税調は「聖域を設けず見直す」とスタートを切ったが、各省からの要望に押され、「廃止」や「大幅見直し」が次々と「継続」に覆されていった。

「事業仕分け」は税金の無駄遣いを省くことで財源の捻出(ねんしゅつ)を狙ったが、効果が疑問視される租特を廃止し、税収増を目指したのが税調だ。4年間で1兆円の確保を目指すものの、今回の成果は差し引きで1000億円規模にとどまった。

その結果、ガソリン税の水準維持に追い込まれたというのが実情だろう。その決定にしても、税調は独自に行うことができず、結局、民主党、特に小沢一郎幹事長の采配(さいはい)を仰いだ。小沢氏が最終局面で「暫定税率の維持」「子ども手当への所得制限」など党の要望を政府に突きつけ、存在感を印象付けたが、「真の主役」であるはずの政府税調が、難題を自ら解決できなかったところに最大の責任がある。猛省が必要だ。

鳩山首相は、政府税調や国家戦略室が本来の役目を果たすには何を改善すべきか、また政府と与党との関係など、これを機にきちんと見直すべきである。

政権が目指している改革はむしろこれからが本番だ。税に関するテーマだけでも、来年以降、議論を詰めて実行に移していかねばならない難題が山ほどある。今回、積み残した環境税や租特の抜本見直しはもちろん、法人税や相続税の改革がある。民主党が訴えてきた所得控除から手当への移行、そのために不可欠な納税者番号制度の導入もそうだ。さらに、消費税の税率引き上げ問題がある。難易度は今回の税制改正や予算編成の比ではない。

暗礁に乗り上げるたびに小沢氏の采配を仰ぐ、というつもりではなかろう。鳩山首相も小沢幹事長も、今回の混乱を教訓とし、国民に納得のいく意思決定の仕組みを再構築してもらいたい。

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