毎日新聞 2013年10月22日
貿易赤字の拡大 長い目で影響見極めよ
2013年度上半期の貿易収支は4兆9892億円と、半期では過去最大の赤字額となった。原発停止で火力発電の燃料の輸入額が膨らんだことと円安が主な理由だ。日本は長年、貿易黒字国だったが、東日本大震災を境に、31年ぶりに11年度に年間で貿易赤字国に転換した。それから2年半、赤字額は拡大している。
海外との投資のお金のやりとりを表す貿易外の所得収支は、証券投資の利子や海外子会社の配当などで毎年度約14兆円の黒字が続いてきた。貿易赤字は所得黒字で補われ、国全体の懐具合を示す経常収支は今も黒字を維持している。
だが、問題は、貿易赤字拡大で経常黒字額が減り、経常赤字国転落が現実味を増していることと、国債という借金で財政が危機的な状況にあることの二つが同時に起きていることだ。
経常黒字である今は、家計の1500兆円超の金融資産を背景に、国債の大半を国内投資家が購入している。しかし、経常赤字になると、国内だけで国債の消化ができなくなり、海外投資家への依存が強まることが避けられない。投機的な思惑で国債が暴落する危険度が増す。日本の通貨「円」が売られて欧州のような通貨危機に陥るリスクも高まる。
経常赤字と財政赤字という「双子の赤字」は避けなければならないのだ。そのため、政府は新たな国債発行をできるだけ減らし、財政健全化を加速する必要がある。来年4月の消費増税はその一歩だ。
一方で、貿易赤字の縮小に向け、火力発電の燃料の輸入を減らすため原発の再稼働を急げという議論があるとすれば短絡的だ。私たちは「脱原発依存」を主張してきた。エネルギーコストの低減は必要だが、再生可能エネルギー政策の加速や割安な燃料を求め調達先の多様化などに重点を置くべきだ。
米国も英国も貿易赤字を抱えている。貿易赤字だけ突出して増えるなら問題だが、赤字自体を「悪いことだ」と決めつけるのは良くない。輸出と輸入の両方が偏りなく伸び、貿易が活発になれば経済は拡大し、雇用も増え、国民は豊かになる。
貿易赤字は、欧州危機や対中関係悪化で輸出が急減したことも背景にある。この上半期は米国の景気回復などで、輸出入とも増加したのは朗報だ。日本も交渉に参加している環太平洋パートナーシップ協定(TPP)は貿易や投資を拡大する取り組みだ。これを成功に導くことも大事だ。
国の収支は一朝一夕に変えることはできない。長く広い目で貿易赤字の影響を測り、財政健全化や海外との収支のバランス確保に長期的に取り組むことが必要だ。
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読売新聞 2013年10月22日
貿易赤字15か月 原発再稼働で早期に歯止めを
貿易赤字の拡大に歯止めがかからない。国富の流出が続けば、日本経済再生への道は一段と険しくなるだろう。
政府は「貿易立国」の復活に向け、全力を挙げなければならない。
輸出額から輸入額を差し引いた9月の貿易収支は、9300億円の赤字だった。貿易赤字は15か月連続で、第2次石油危機時の14か月を超え、33年ぶりに最長記録を更新した。
今年度上半期(4~9月)の赤字も4・9兆円に達し、半期として過去最大となった。
貿易赤字の主因は、全国の原子力発電所が停止し、代替する火力発電所向けの燃料輸入が急増したことである。為替相場が円安・ドル高に振れたことも、赤字拡大に拍車をかけたと言える。
主力燃料である液化天然ガス(LNG)の輸入額は、東日本大震災前から倍増した。政府試算によると、LNGや石油など、原発停止による火力発電の追加燃料費は、2011~13年度の3年間で総額9兆円にのぼる見通しだ。
巨額の輸入代金が、中東などの資源国に流出し続けている異常事態を看過できない。
安全性を確認できた原発を再稼働し、火力発電への過度な依存を改めることが急務である。
燃料費の増大に伴う電気料金の上昇も深刻だ。東京電力の管内では、標準家庭の料金が震災前より約30%、月額で1800円近く値上がりした。
企業向けの電気料金は、家庭より値上げ幅が大きい。企業がコスト増を敬遠し、生産拠点を海外に移す「産業空洞化」が再び加速しかねない状況だ。空洞化で輸出が減り、貿易赤字がさらに拡大する悪循環も懸念される。
安倍首相は規制緩和など成長戦略を推進し、日本を「世界で一番企業が活躍しやすい国」とする考えを示している。その実現には、安価な電力の安定供給体制を確立することが不可欠だろう。
中国からの太陽光パネルやスマートフォンの輸入が増える一方、アジアなど新興国向け輸出が伸び悩んでいるのは気がかりだ。
政府は法人税実効税率を引き下げ、企業の競争力強化策を後押しすべきである。官民連携による、原発や高速鉄道などインフラ輸出の促進も求められる。
肝心なのは、民間企業が創意工夫で魅力的な商品やサービスを生み出すことである。チャレンジ精神を発揮し、国際競争を勝ち抜いてもらいたい。
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産経新聞 2013年10月23日
貿易赤字拡大 輸出回復で再生への力に
かつて貿易立国として世界を席巻した日本経済の様変わりを見せつけられたようだ。
平成25年度上期の貿易赤字が過去最大の約5兆円規模に達した。日本は東日本大震災後、赤字が続き、国富の流出が続いている。
日本経済の再生には輸出の力強い回復が欠かせない。企業は国際競争を勝ち抜く商品やサービスの提供に努める一方、政府も競争力強化に向けた法人税率の引き下げや電力の安定供給を図るなど、官民双方の取り組みが求められる。
過去最大の赤字となったのは、原子力発電所の相次ぐ稼働停止に伴い、火力発電の燃料となる石油や液化天然ガス(LNG)の輸入が膨らんだことが主因だ。
政府試算では、電力会社が今年度に支払う年間の燃料代は、原発停止の影響分だけで、震災前の22年度より3・6兆円増える。
これだけ巨額の日本の富が資源国に流出している事実は重い。安全性を確認した原発を早期に再稼働しなければならないことは当然である。
輸出をめぐり、安倍晋三政権下で過度の円高が修正されたことは追い風である。今年度上期の輸出金額が増加に転じたが、直近の輸出数量指数は低下していることなどには注意が必要だ。
新興国など海外経済の減速が響いたためだが、かつてのように円安の恩恵が経済全体に行き渡りにくくなっていることも確かだ。
輸出企業の多くは、これまでの円高への対応で海外生産を進めている。したがって、円安だからといって輸出が急に増える単純な図式にはなりにくい。韓国や中国などとの競争も激化している。
日本企業が円安を利用して輸出品の現地価格を値下げしても、すぐに販売増につながるわけではない。むしろ、スマートフォンや電子部品などの輸入が膨らんでいるのが実情である。
日本の輸出産業には、下請けも含めて幅広い裾野がある。日銀による10月の地域経済報告(さくらリポート)は、全国で9つあるすべての地域で景気判断を上方修正した。
中小・零細企業を含めて景気回復の実感をより確かにするためには、輸出増で復調傾向の見える自動車業界だけではなく、より多くの産業が力を取り戻さなければならない。
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