秘密保護法案 疑問の根源は変わらぬ

朝日新聞 2013年10月26日

特定秘密保護 この法案に反対する

安倍政権はきのう、特定秘密保護法案を閣議決定し、国会に提出した。

法案は、行政府による情報の独占を許し、国民の知る権利や取材、報道の自由を大きく制約する内容だ。その影響は市民社会にも広く及ぶ。

政権は、いまの国会での成立をめざしている。だが、与党が数の力を頼みに、問題だらけの法案を成立させることに強く反対する。

北東アジアの安全保障環境の悪化に対応するため、国家安全保障会議(日本版NSC)と呼ばれる外交・安保政策の司令塔を新たにつくりたい。そこで米国などと機密情報を交換、共有するためには、秘密保全の仕組みが必要だ――。これが、政府・与党の言い分だ。

安全保障には国家機密が伴うだろう。そうした機密を守るために、自衛隊法などが改正されてきた。

今回の法案で示された秘密保護のやり方は、漏洩(ろうえい)を防ぐという目的を大きく踏みはずし、民主主義の根幹を揺るがすおそれがある。

具体的にみてみよう。

まず、特定秘密に指定され、保護される情報の中身。防衛、外交、スパイを念頭にした「特定有害活動」の防止、テロ防止の4分野が対象だ。法案の別表には、分野ごとに4~10項目が列挙されている。

限定されているようにも見えるが、例えば防衛分野には、「防衛に関し収集した電波情報、画像情報その他の重要な情報」との項目がある。「その他の重要な情報」と判断すれば、何でも指定できてしまう。しかも、何が指定されたのか、外から検証する手立てはない。

2007年には陸上自衛隊の情報保全隊が、自衛隊のイラク派遣に反対する市民らの情報を集めていたことが明らかになった。こうした個人の情報が、知らぬ間に特定秘密にされてしまう可能性だってある。

いったん特定秘密に指定されてしまえば、将来にわたって公開される保証がないことも大きな問題だ。

特定秘密の指定期間は最長で5年間だが、何度でも延長することができる。特定秘密を指定するのは、外相や防衛相、警察庁長官ら「行政機関の長」とされているが、何を指定し、どれだけ延長するかは実質的には官僚の裁量に委ねられる。

与党との調整で、30年を超えて秘密指定を続けるときは内閣の承認が必要との条件が加わった。それでも、第三者がチェックする仕組みはない。

要するに、情報を握る役所がいくらでも特定秘密を指定でき、何を指定したか国民に知らせないまま、半永久的に秘密を保持することができるのだ。

情報から遠ざけられるのは、行政を監視すべき国会議員も例外ではない。議員が特定秘密の提供を求めても、審議の場を「秘密会」とし、内容を知りうる者の範囲も制限される。疑問を感じても、同僚議員に訴えたり、秘書らに調査を命じたりすれば、処罰されかねない。

政府は、特定秘密も情報公開請求の対象になるという。ただ、何が指定されているかわからなくては、公開請求すること自体が難しい。

数々の批判を受け、安倍政権は「国民の知る権利の保障に資する報道または取材の自由に十分に配慮しなければならない」との一文を条文に加えた。

取材についても、「法令違反または著しく不当な方法によるもの」でなければ「正当な業務」だと規定した。

公明党は、これによって国民の権利には配慮したというが、まったく不十分だ。

「知る権利」を無理やり条文に入れ込んだものの、単なる努力規定で、実効性はない。「不当な取材方法」とは何かもはっきりしない。

特定秘密を扱う公務員や防衛関連企業の社員らは、適性があるかどうか個人情報をチェックされる。特定秘密を漏らせば最長で懲役10年が科せられる。故意でなくても罰せられる。

不正に特定秘密を得たり、漏らすことをそそのかしたりした者も、報道機関の記者に限らず罪に問われる。

社会全体に及ぼす威嚇効果は極めて大きい。ふつうの情報の開示でも、公務員が萎縮してしまうおそれが強い。

民主党はきのう、「知る権利の保障」を明記した情報公開法改正案を再提出したが、この法案は昨年末にいったん廃案になっていた。閣議などの議事録を保存し、一定期間後に公開するための公文書管理法の改正も手つかずだ。

政府がもつ情報は、本来は国民のものだ。十分とは言えない公開制度を改めることが先決だ。そこに目をつぶったまま、秘密保護法制だけを進めることは許されない。

毎日新聞 2013年10月26日

秘密保護法案 国会は危険な本質見よ

政府は25日、特定秘密保護法案を国会に提出した。安全保障に関わる国家機密を特定秘密として国民の目から遠ざけるものだ。国民の「知る権利」が大きく制約され得る。また、情報を得ようとする国民の活動自体が、罰則の対象になる危険性をはらむ。行政を監視する国会や国会議員の活動も大きく縛られる。

行政内の情報保全の徹底と、現行法の厳格な運用で情報漏えいは防げるはずだ。法案は、国民主権をはじめとする憲法の規定と根底でぶつかる。国会は審議でその危険な本質を明らかにし、廃案にすべきだ。

安全保障上、重要な情報を一定期間、機密として扱うことに反対はしない。問題は、特定秘密として指定された機密が、将来的に国民に公開される仕組みが、法案では担保されていないことだ。

閣僚ら「行政機関の長」による指定や、5年ごとの指定延長の妥当性を客観的にチェックできない。行政裁量に任せれば、早く公開されるべき情報や政府にとって都合の悪い情報が表に出ない懸念がある。

政府内の違法行為や失態が特定秘密の名の下に隠されないか。森雅子担当相は24日の参院予算委員会で「そういったことは特定秘密に指定されない」と述べたが、公開されない以上、検証しようもない。

30年たっても内閣の承認があれば、特定秘密は解除されない。公開を前提とした文書保存についての規定もない。まず、期限を定めて原則公開をうたう。さらに、独立性の高い機関が、機密の指定・解除の審査に当たる。これが先進国の常識だ。

国の情報は国民に帰属するという民主主義国家の基本理念が法案には根本的に欠けているのだ。

福島県議会は9日、法案への慎重対応を求める意見書を安倍晋三首相に提出した。福島第1原発事故の際、放射性物質の拡散予測システムSPEEDIの情報公開が遅れた例を挙げ、原発事故情報がテロ防止の観点で特定秘密に指定されることへの懸念を示した。もっともな心配だ。法成立が民主主義を根底から覆すとも表明した。この重い指摘を全国民で共有したい。

民主党は、特定秘密の公開訴訟が起きた際、裁判所が判断する情報公開法改正案を国会に提出した。だが、過去の例に照らすと裁判所が情報公開に前向きとは思えない。対策として不十分で、両法案を抱き合わせて成立させるような愚は絶対許されない。

国会へは、行政が「安全保障上、著しい支障を及ぼすおそれがない」と判断した場合、秘密会に限って特定秘密が提供される。これでは国政調査権が著しく制約されてしまう。一人一人の議員の真価が問われる。

読売新聞 2013年10月24日

秘密保護法案 国会はどう機密を共有するか

国民の「知る権利」を守りつつ、国の安全保障に関わる機密を保全する仕組みを構築することが肝要である。

機密情報を漏らした公務員らの罰則を強化する特定秘密保護法案について、自民、公明両党が政府の修正案を了承した。法案は25日、国会に提出される。

日本の平和と国民の安全を守るためには、米国など同盟国とテロや軍事関連の情報共有を進めることが欠かせない。その情報が簡単に漏れるようでは、同盟国との信頼関係が揺らぐ。漏えいを防ぐ法律が必要なゆえんである。

法案では、防衛、外交、スパイ活動防止、テロ防止の4分野で、特に秘匿性の高い情報を「特定秘密」に指定する。漏えいだけでなく、漏えいを働きかける行為も処罰の対象としている。

このため、取材・報道の自由が制約されるとの危惧がある。

修正案には、「国民の知る権利の保障に資する報道または取材の自由に十分に配慮する」との文言が明記された。懸念を払拭する上で確かな前進と言える。

報道関係者の取材行為についても、「違法または著しく不当でない限り、正当な業務とする」との規定が加えられた。通常の取材が罪に問われるのを防ぐ一定の効果が期待できよう。

ただ、漏えいに対する罰則は懲役10年以下で、国家公務員法の懲役1年以下より格段に重い。公務員が萎縮し、取材への協力をためらう可能性は否定できない。

行政機関が都合の悪い情報を安易に秘密指定する懸念も残る。

修正案では、政府が秘密の指定や解除に関する統一基準を定め、その際には有識者の意見を聞くことも義務づけた。

恣意(しい)的な運用を防ぐには、秘密指定の範囲を厳格に規定する基準作りが求められる。

行政機関に属さない国会議員への機密開示に関する検討も不十分だ。法案は、国会の委員会に、秘密会の開催などの条件下で特定秘密を提供できるとしているが、提供を受ける議員の範囲や、漏えい防止の具体策は手つかずだ。

安全保障に重大な影響がある機密を立法府や与党幹部が全く知らないで日本の針路を定めるのか、という問題は出てくるだろう。

米国の連邦議会では、秘密会を開催し、政府から機密の開示を受ける仕組みが機能している。

公権力が集めた情報は官僚の独占物ではない。立法府も機密を共有し、保護する制度を自主的に検討すべきではないか。

産経新聞 2013年10月22日

秘密保護法案 報道の自由踏まえ成立を

安全保障に関わる機密の漏洩(ろうえい)を防ぐ「特定秘密保護法案」が25日にも閣議決定され、国会提出の運びとなった。

安倍晋三政権が年内発足を目指す国家安全保障会議(日本版NSC)創設に欠かせない法制である。今国会での成立を図ってほしい。

制度の運用に当たって政府には、「国民の知る権利」を担保する「取材・報道の自由」への十分な配慮を強く求めたい。

中国の軍拡や北朝鮮の核開発など、日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増している。国の安全や国民の生命財産を守るため、情報の入手や保全の重要度が高まっている。

安倍首相が21日の衆院予算委員会で、「各国と情報交換を行う上で秘密の厳守は大前提だ。日本版NSCの機能を発揮させるためにどうしても必要だ」と述べ、早期成立を訴えたのは当然だ。そのためにも、制度として整えることは大きな課題だ。

一方で、「取材・報道の自由」を損なうのではないかとの議論があるのも事実だ。日本新聞協会などは法案の当初案に懸念を示し、政府に伝えてきた。

その結果、政府が与党との協議でまとめた最終案は「取材行為については、専ら公益を図る目的」であって、「法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限りは、これを正当な業務による行為とする」との表現に落ち着いた。

政府にとって都合の悪い情報が特定秘密として隠蔽(いんぺい)されないよう、指定や解除の基準を定め、変更する際には有識者の意見を聴取することも盛り込んだ。

最終案についても不十分だとの反対論はある。しかし、「取材・報道の自由」などと特定秘密の保護の両立を図るべく配慮したあとはうかがえる。

それでも、取材が「著しく不当な方法」だと公正に判断できるのか。政府が恣意(しい)的な解釈、拡大解釈を行う懸念は残る。特定秘密を扱う公務員が取材に対して萎縮し、結果として情報隠しとなる恐れもある。

「取材・報道の自由」が確保され、国民に必要な情報が提供されることが民主主義をはぐくみ、「強い日本」をつくる。その重要性を政府・与野党は肝に銘じ、国会では、運用面も含め、建設的な議論を進めてもらいたい。

朝日新聞 2013年10月18日

秘密保護法案 疑問の根源は変わらぬ

安全保障にかかわる秘密漏洩(ろうえい)への罰則を強める特定秘密保護法案について、政府と与党は「知る権利」や「取材の自由」を明記するなどの修正で合意した。内閣は近く閣議決定し、国会へ提出する予定だ。

政府の原案に対し、言論界や法曹界から国民の知る権利を制約するといった批判が出た。修正は、これを受けた公明党の主張を反映したものだ。

だが、チェックがないまま特定の情報が秘密にされ、後世の検証も保証されない法案に対する根本的な疑念は解消されていない。このまま国会に提出することには反対だ。

法案の骨格はこうだ。防衛、外交、スパイ活動の防止、テロ防止の4分野で、漏れれば国の安全保障に支障をきたすおそれがある情報を閣僚らが「特定秘密」に指定。漏らした公務員や民間の関係者には、最長で懲役10年の罰則が科せられる。

問題なのは、何が特定秘密に指定されているかさえわからず、指定が妥当かどうかの検証ができない点だ。秘密指定の有効期間は5年が上限だが、何度でも延長が可能だ。これでは永久に秘密とすることができる。

政府は与党側からの要求を受け、知る権利や報道、取材の自由に「十分に配慮しなければならない」と条文に明記。また、秘密指定の基準をつくる際には有識者の意見を聞くことを義務づけ、30年を超えて秘密指定を続けるには内閣の承認が必要とすることにした。

それでも、秘密指定が閣僚らの判断に委ねられていることに変わりはないし、30年目に内閣の承認が得られれば、その後も指定期間の延長は可能だ。

安全保障上、秘密にしなければならない情報があるのはわかる。だが、公務員の一般的な守秘義務や自衛隊法などによる防衛秘密保護の仕組みを超えて、新たな立法をする必要があるのかは疑問だ。

沖縄返還などにからむ米国との密約をひた隠しにしてきたことに代表されるように、情報公開にきわめて消極的な政府の姿勢を、私たちはさんざん見せつけられてきた。東日本大震災をきっかけに、政府の意思決定の重要会議の記録が残されていないことも表面化した。

こうした体質がある限り、政治家や官僚が、新たな法を錦の御旗に情報を独占しようとする傾向が強まる危惧はぬぐえない。そうでなくても、報道機関の取材に公務員が萎縮してしまうおそれが強い。

報道や取材の自由を明記しても、何の担保にもならない。

毎日新聞 2013年10月21日

特定秘密保護 この法案には反対だ

安全保障に関わる国家機密の情報漏えいに対する罰則を最長で懲役10年にまで強化する特定秘密保護法案について、政府・与党が最終合意した。今週中にも閣議決定し、今国会に提出する。

修正された最終案では、「国民の知る権利の保障に資する報道・取材の自由」への配慮をうたう。公明党の主張を受け入れたものだ。

だが、広く定義された特定秘密を行政機関の裁量で指定でき、指定が適切かどうかをチェックできないまま、半永久的に国民の目にさらされない恐れが依然残る。

特定秘密に接触する国会議員へ罰則の網も広くかけている。国会による政府への監視が利かない懸念があり、国会を国権の最高機関とする憲法の規定に照らしても疑問だ。

「知る権利」が条文上書かれていても、実質的に国民の「知る権利」が保障される内容にはなっていない。こうした骨格が変わらない以上、法案には反対だ。

国民の「知る権利」や「報道の自由」に配慮することは、憲法上当然のことだ。厳しい罰則のため、取材に対する萎縮効果が生まれる可能性は極めて強い。

日本と米国の軍事的協力関係が深まり、機密の共有化が進む。サイバー空間での情報戦が国際的に激しくなる中、情報を安全に管理することが信頼関係を保つためには欠かせない。それは責任ある国家の姿勢として当然のことだ。

だが、市民活動を通じ、情報を取得しようとする側も処罰の対象だ。公務員だけでなく、広く国民が刑事罰に問われかねない立法によって担保されるべきかどうかは別問題だ。

特定秘密の対象となる分野は、防衛はじめ外交、スパイ活動、テロ活動と4分野にわたり、別表で規定された項目は極めて広義だ。定義の仕方があいまいなものも含まれる。

防衛秘密については、米同時多発テロ事件後の2001年10月、自衛隊法が改正され、法的な手当てが既にされている。防衛省の職員などが指定された防衛秘密を漏らせば、5年以下の懲役が科せられる。

特定秘密保護法案が成立すれば、外務省が所有する外交文書、あるいは警察情報などが新たに次々と指定される。国民には何が特定秘密か分からない。5年ごとに更新可能だ。30年目に内閣の承認があればさらに延長でき、歯止めにならない。

政府・与党修正で、特定秘密の指定や解除に当たっての統一基準を定めることと、その際に有識者の意見を聞くことを義務づけた。

だが、あくまで統一基準作りに関与するだけで個別の指定の適否が判断できるわけではない。行政機関、特に官僚の判断で都合よく拡大解釈できる余地が残るのだ。

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