再審開始へのハードルの高さを改めて印象づける決定である。
「名張毒ぶどう酒事件」の第7次再審請求で、最高裁が奥西勝死刑囚の特別抗告を棄却した。
この決定により、2005年の再審開始決定を取り消した昨年の名古屋高裁決定が確定し、再審は開かれないことになった。
三重県名張市の公民館で1961年、ぶどう酒を飲んだ女性5人が死亡、12人が中毒になり、毒物を混入したとして奥西死刑囚が逮捕された。1審は無罪、2審は死刑と判断が分かれ、72年に最高裁で死刑が確定した。
刑事訴訟法は、確定判決を覆す明白な証拠の存在を再審開始の要件としている。今回の決定は規定を厳格に適用したと言える。
第7次請求では、再審開始を取り消した名古屋高裁の決定を最高裁が差し戻し、事件直後と同様の条件で科学的な鑑定を行うよう求めた複雑な経緯がある。
犯行に使用された毒物は、奥西死刑囚の自白通りの農薬だったのか――。差し戻し審は鑑定結果から、「自白通りの農薬だとしても矛盾はない」と結論付けた。
鑑定に基づくこの高裁判断を支持した最高裁の決定は重い。
足利事件や東京電力女性社員殺害事件など、近年の再審公判ではDNA鑑定など科学的証拠を重視する傾向にある。この流れに沿った判断とも位置づけられる。
ただ、差し戻し審の鑑定は、事件当時と全く同じ条件で行われたわけではない。物証のぶどう酒や鑑定方法の詳細な記録が残されていなかったからだ。
後の科学的な再検証に堪え得るよう、捜査当局は証拠を適切に保管せねばならない。今回の再審請求を巡る教訓である。
第7次再審請求から、今回の最高裁決定まで、11年以上の時間を要した。あまりにも長いと言わざるを得ない。
最高裁によると、戦後、死刑か無期懲役の確定後に開かれた再審は、いずれも無罪になった。再審請求があった場合、裁判所は新証拠の評価に多くの時間を割き、再審開始の是非を判断してきた。
これに対し、新証拠が出た場合、まず再審を開始し、その評価をすべきだと主張する法曹関係者もいる。一考の価値があろう。
一方で、再審が増えれば、確定した判決への信頼性が揺らぎかねないという指摘もある。
再審開始のハードルをもっと低くするかどうか。司法が抱える大きな課題である。
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