米金融危機回避 綱渡りは今回を最後に

朝日新聞 2013年10月18日

米財政危機 先送りに終わらせるな

米国債は、米政府の借金の証文である。その利払いや返済が滞れば、リーマン・ショックを超える破局を招く。米財務省がそう警告した危機は、期限ぎりぎりで回避された。

議会が政府債務の上限を引き上げる法案を可決、暫定予算も成立させ、半月あまりに及んだ政府の一部閉鎖も解かれる。

共和党内の「ティーパーティー(茶会)」と呼ばれる強硬派らは最後まで抵抗した。だが、土壇場で党内の穏健派と民主党が協調して押し切った。

不毛な政争が招いた混乱は、共和党の敗北に終わった。米国民の暮らしや世界経済を人質にとる瀬戸際戦術は、多くの国民から見放され、国際的な米国の信用もおとしめた。

共和党は17年前の政府閉鎖でも同じ失敗をしている。自分の支持基盤しか考えない狭量な行動は国益どころか党益にもならない。責任ある大国の政治家としての良識を取り戻すべきだ。

米議会では2011年以降、上院を民主党、下院を共和党が支配している。そのねじれに起因する「決められない政治」は世界経済のリスクとなった。

今回の合意も当座の先送りでしかない。債務上限の引き上げは来年2月7日まで、暫定予算は1月15日まで、それぞれ期限がついている。その間、改めて与野党が赤字財政を中長期的に再建するための合意を探る。

だが、来年は選挙の年だ。妥協は一層難しくなる。最大の争点である医療保険改革は1月から本格運用へ動きだし、春夏の予備選を経て、11月の中間選挙まで活発な論争が続く。

その状況下では、次の期限の2月までにまた、同じ危機が再演される恐れがある。

各議員が選挙区の有権者の意向だけに縛られがちなのは、構造的な問題もある。各州で選挙区が政党の支持分布に従って区分けされ過ぎたために、個々の議員が全米の世論を必ずしも尊重しなくなっている。

米国の予算制度にも特徴がある。歳出入を管理して財政健全化を図る面では優れているが、決定権が議会両院と大統領に分断され過ぎている弱点がある。米政治はその制約を長年、良識による妥協で乗り越えてきた。

だが今では、「大きな政府」「小さな政府」の対立軸を超えた共通点を見いだす調整機能が細り、少数の極論が議会全体を振り回す傾向が強まっている。

問題の先送りと危機の繰り返しは米国のためにも、世界のためにもならない。米議会はその現実を直視し、健全な政治機能を早急に立て直す必要がある。

毎日新聞 2013年10月18日

米金融危機回避 綱渡りは今回を最後に

ひとまず、安堵(あんど)のため息である。米議会がようやく暫定予算案と国債の追加発行に必要な法案を可決した。新たな借金ができず、資金不足から過去の借金への利払いなどが滞る悪夢の事態、つまり債務不履行(デフォルト)は、期限目前で回避された。連邦政府機関の一部閉鎖も、17日ぶりに解除される。

だが今回の合意は、当面の時間稼ぎに過ぎない。暫定予算は来年1月半ばまで、連邦政府が追加の借り入れができるのも2月上旬までだ。「空き缶を数カ月先めがけて蹴飛ばしたようなもの」。そんな指摘も聞かれるが、数カ月後、また今回のような緊迫した状況に追い込まれる可能性は否定できない。

もう、勘弁してほしい、というのが米国民、そして混乱の巻き添えになる世界の人々の思いではないか。民主、共和両党には、稼いだ時間を無駄にせず、デフォルトが政治の駆け引きの人質となるのを防ぐ、恒久的な仕組みをつくってもらいたい。

米議会は1960年代以降、80回近く債務の上限を変更している。その間、大統領の出身政党、議会上下院を制する政党が違うことは珍しくなかったが、債務の上限問題でこれほどもめることはなかった。

大きく変わったのは、オバマ政権下の2010年、中間選挙で民主党が下院議席の過半数を共和党に奪われてからだろう。11年夏の上限引き上げの際も、今回のように債務不履行すれすれで妥協が成立している。

最終的に危機が回避されればよい、というものではない。世界一安全とされる米国債が頻繁にデフォルトの可能性にさらされることになれば、ドルの信頼低下はじわりと進むだろう。国民の連邦議会への支持は地に落ちてしまったが、国家の根幹部分が信用を失えば、その国家が発行する通貨の信用にも響く。

2大政党間の対立が近年激化した背景に、米政府の借金が急膨張している根本的問題があることも忘れてはならない。超党派委員会で中期的な財政計画を練る方向になったが、今回みられなかった財政健全化の実質的な議論に期待したい。

日本でも、ねじれ国会下の与野党対立により、昨年は赤字国債を発行するための法案が11月まで成立せず、予算の執行が抑制される異常事態になった。その反省から15年度分まで、予算案の成立と同時に赤字国債の発行も認める措置が決まった。

それ自体は前進だったが、日本の場合問題なのは、借金の増加に抵抗する、米共和党に相当する勢力が不在だという点だ。財政の規律を重んじ、通貨の信用を保つ重責を負っているのは、日本の政治家も同じだということを忘れてはならない。

読売新聞 2013年10月18日

デフォルト回避 火種を残す米議会の歩み寄り

米国議会の与野党が歩み寄り、政府が債務不履行(デフォルト)に陥るという最悪の事態は土壇場で回避された。

世界経済の最大の不安材料が解消したことは朗報だが、危機再燃の火種は残った。先行きは波乱含みと言えよう。

上下両院は16・7兆ドル(約1640兆円)の法定上限に達している連邦債務上限を来年2月初めまで引き上げる法案を可決した。オバマ大統領の署名で成立した。

上限を引き上げないと政府は新規国債を発行できない。資金不足で国債の返済や利払いも不能となるデフォルトの期限が17日に迫っていた寸前の決着だった。

新年度予算が成立せず、10月1日から政府機能の一部が停止した異常事態についても、与野党は1月半ばまでの暫定予算の編成で一致した。予算成立後、政府機関の閉鎖がただちに解除された。

ニューヨーク株価は大幅に上昇した。米国財政の信認を失墜させる二つの難題が同時に解決したことを好感したのだろう。

今回の大混乱は、来秋の中間選挙の前哨戦として、与野党が激突したために起きたものだ。

大統領は、内政の最重要課題として3年前に成立させた医療保険制度改革法(オバマケア)に沿って、具体的な政策を推進する方針を明確にしている。

野党・共和党の強硬派はこれに反発し、オバマケアを盛り込んだ予算成立を阻止したうえ、債務上限引き上げにも抵抗してきた。

だが、不毛な党派対立や自説を曲げない一部共和党議員への米国民の批判は根強い。国際通貨基金(IMF)や日本なども米国に警告し、収束を促した。

妥協が成立した背景には、共和党が強硬路線を修正せざるを得なかった事情がうかがえる。国内外の圧力に加えて、世論が大統領の追い風になった。

ただし、与野党の根本的な隔たりは解消されていない。むしろ対立が先鋭化する傾向にある。

巨額の財政赤字削減を目指し、「小さな政府」を掲げて歳出拡大に反対する共和党と、社会保障の充実を重視する与党・民主党の主張は基本的に異なるからだ。

上下両院で多数派が異なる「ねじれ」が生じ、合意形成が一層難しくなっている。来年、暫定予算切れや債務上限に達する際、対立が深まることに要警戒だ。

超党派で財政赤字削減策を協議する展望も不透明だ。政治の機能不全により、世界を何度も混乱させる米国の責任は重大である。

産経新聞 2013年10月18日

米デフォルト回避 これ以上威信を損なうな

世界経済を大混乱に陥れる米国債のデフォルト(債務不履行)危機が土壇場で回避された。

米議会の与野党が歩み寄ったためだが、到底、これを前向きに評価するわけにはいかない。政争に終始して世界経済を脅かした米国が、大国として単に混乱を防いだにすぎない。

米国の危機は経済のみならず、安全保障面でも世界を揺るがす。責任ある超大国としての自覚を新たにし、危機を絶対に起こさない決意と知恵を出すべきである。

政府債務の上限を引き上げる法案が成立したことで、とりあえず、来年2月までの借り入れは可能になった。このタイミングでの決着がなければ、米国債の利払いなどが滞る恐れがあった。

当面の危機回避にこぎ着けたことは世界を安堵(あんど)させた。

しかし、社会保障の充実などを目指す民主党に対し、政府支出の抑制を最優先に掲げる共和党の与野党間対立という構造は基本的に変わっていない。

米議会が上下両院で多数派が異なる、いわゆるねじれ構造にあることもあって、問題は先送りされたにすぎない。数カ月後に再び同様の政争が繰り返される可能性は否定できない。

米国では2年前にも同様のデフォルト危機があったが、こうした米国政治の機能不全により、世界経済が脅かされる事態はあってはならない。懸念されるのは、政治の混乱が米国のさらなる威信低下につながることだ。

欧州や新興国の景気が低迷する中、米国には世界経済の牽引(けんいん)役が期待されているのに、最近は、米国自身が世界経済のリスク要因となることも多い。量的緩和政策を縮小するとの観測が出た途端に新興国からの資金流出が加速したことはその典型だ。

政治哲学の違いが根底にあるだけに問題の根は深いが、基本的には国内で解決すべき問題だ。米国は、世界の深刻な懸念を真摯(しんし)に受け止める必要がある。基軸通貨国としての信認が失われれば、超大国としての存在感も低下することを忘れてはならない。

オバマ大統領は財政問題に対応するため、東南アジア歴訪やアジア太平洋経済協力会議(APEC)などへの出席を見送ったが、財政の混乱は外交や安全保障にも確実に波及している。米国には政争にかまけている余裕はない。

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