2010年度予算の編成作業が、大詰めを迎えている。
国民生活や企業活動に深くかかわる来年度の税制改正大綱が22日に閣議決定され、子ども手当や農家への戸別所得補償など予算の主要項目の扱いも固まった。
一連の作業に影を落としたのが深刻な税収不足だ。09年度の税収は、当初の見積もりより9兆円余り少ない36・9兆円となる見込みだ。10年度についても同程度の額にとどまりそうだ。
このため、税制改正では、いかに税収を確保していくかが重要なテーマになった。だが、鳩山首相は巨額の予算計上や、大幅な税収減につながる政権公約(マニフェスト)の実現にこだわって決断できなかった。
最後は、小沢幹事長から出された民主党の要望を受け入れる形で大枠を決める迷走ぶりだった。
予算編成でも、同じような過程をたどっている。
10年度予算は、近く政府案が決まる予定だ。乏しい財源で、いかに景気を下支えし、国民生活に安心をもたらす予算を作り上げていくか。鳩山首相は、あと数日で答えを出さねばならない。
税制改正の迷走の象徴が、ガソリン税などの暫定税率だ。鳩山首相は政権公約の目玉として、来年4月の暫定税率廃止に固執したが、最終的には自動車重量税の一部引き下げにとどめた。
◆暫定税率維持は当然◆
国と地方で2・5兆円の税収がなくなれば、財政赤字はさらに膨らむ。この判断は当然だろう。
暫定税率の廃止などについて民主党は、「歳出の無駄の洗い出しで、財源はいくらでも出てくる」と主張していた。だがそれが空手形に終わるのは、最初から分かりきっていたことではないか。
マニフェスト政治の破綻を示すものだろう。廃止にこだわった首相の言動は、結果的に国民を欺いたと言わざるを得ない。
首相は、今回の方針転換は「国民の思いに沿ったもの」と述べるなど、責任を自覚していない。転換の経緯を、国民に詳しく説明しなければなるまい。
暫定税率の代わりに導入が検討された環境税については、今後1年程度かけて検討するとした。化石燃料などに幅広く課税する環境税は、産業界や家計に重い負担となる。慎重に扱うべきだ。
政府は、暫定税率の維持で得た税収などで、来年度予算に2兆円の特別枠を設け、雇用対策や地域活性化などに振り向ける方針だ。景気への配慮は妥当であり、使途は景気に即効性がある対策に絞り込むことが肝要だ。
もうひとつの焦点だった子ども手当については、所得制限を設けないことで決着した。中学生以下の子どもを持つすべての家庭に、子ども1人につき月1万3000円が支払われる。
◆子ども手当は見直せ◆
代わりに15歳以下の子どもがいる家庭の所得税の扶養控除が廃止される。高校授業料の無償化の財源として、16~18歳を対象にした特定扶養控除も減額される。
民主党の公約では、子ども手当の支給額は11年度から倍増され、必要な財源はさらに膨らむ。
新たな財源を確保するため、政府は、所得税の配偶者控除の廃止などを検討するという。しかし、子どものいない世帯の反発は必至であり、その程度では足りないこともはっきりしている。
やはり支給額の削減や所得制限の導入などが欠かせない。今後、真剣に検討すべきだ。
たばこ税の大幅引き上げも決まった。代表的な銘柄の小売価格は来年10月から1箱400円になり、政府は1200億円の税収増を期待している。
鳩山内閣は当初、今回の税制改正を、政権交代の成果を示すチャンスととらえていた。
改正作業は、一新された政府税制調査会が原則公開のもとで行うとし、租税特別措置(租特)の大胆な廃止・縮減や所得控除の抜本見直しを掲げてスタートした。
ところが、各論に入ると議論は難航し、租特や所得控除の見直しはなかなか進まなかった。
◆消費税で安定財源を◆
最大の問題は、社会保障費の財源確保に向けた手だてに踏み込まなかったことだ。
毎年1兆円規模で増え続ける社会保障費を賄うには、安定した財源が必要で、それには消費税しかないことは明白である。
欧州各国は、子ども手当に相当する子育て支援策を導入済みで、所得制限は設けていない。だが、各国の付加価値税(消費税)の税率は2けたを超えている。
消費税率の引き上げを封印していることこそ、政策実現の最大の障害といえよう。鳩山内閣は景気回復後、直ちに引き上げられるよう、議論を急ぐべきだ。
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