安倍首相演説 汚染水への危機感薄い

朝日新聞 2013年10月16日

所信表明演説 1強のおごりはないか

長い休みをへて、きのう臨時国会がようやく開会した。

7月の参院選で衆参両院の「ねじれ」が解消してから初の本格論戦の舞台だ。成長戦略の実行、福島第一原発の汚染水対策、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への取り組み。議論を尽くすべき課題は多い。

それなのに、その幕開けとなった安倍首相の所信表明演説は、拍子抜けするほど素っ気ないものだった。各党とまともに議論する気があるのかどうか、疑わしい。

首相がいま最も力を入れているのは、消費税率引き上げに伴う成長戦略だ。演説では「起業・創業の精神に満ちあふれた国を取り戻すこと。若者が活躍し、女性が輝く社会を創りあげること。これこそが私の成長戦略です」と打ち上げた。

ただ、具体策となると「企業実証特例制度」をつくるほか、今後3年間を「集中投資促進期間」として税制や規制改革など「あらゆる施策を総動員する」というぐらいだ。

汚染水漏れには「国が前面に立って、責任を果たす」。TPP交渉では「攻めるべきは攻め、守るべきは守り、アジア・太平洋の新たな経済秩序づくりに貢献する」というだけだ。

「知る権利」との関係が焦点となっている「特定秘密保護法案」には一言も触れなかった。

首相は就任直後の通常国会での演説では、「丁寧な対話を心がけながら、真摯(しんし)に国政運営にあたっていくことを誓います」と強調していた。

ところが今回は、参院選で自公両党を支持した国民への感謝はあっても、野党との熟議による合意形成を求める言葉は消え失せた。あまりにも現金な態度ではないか。

会期は53日間しかない。このなかで政権が成立をめざすのは、前国会で廃案になった電気事業法改正案をはじめ、産業競争力強化法案、国家安全保障会議(日本版NSC)設置法案、議員立法の国民投票法改正案など盛りだくさんだ。

短期間をいいことに、政権側が重要法案をスピード審議で乗り切ろうとしているのなら、考え違いだ。

両院を制し、衆院では3分の2を占める圧倒的な与党だからこそ、いっそう丁寧な国会運営が求められる。

首相が演説で強調したように、政策を前に進めることには賛成だ。だが、国民が増税などの痛みを強いられるなか、権力が集中する「1強」のおごりが見えるようでは、信は失われるだろう。

毎日新聞 2013年10月16日

安倍首相演説 汚染水への危機感薄い

東京電力福島第1原発の汚染水問題に対する危機感が足りないのではないか。そんな疑問を抱く安倍晋三首相の所信表明演説だった。この問題を解決しない限り、首相がアピールする「成長戦略の実行」も前には進めないはずだ。やっと開会した国会のスタートにあたり、まずそれを指摘しておきたい。

「状況はコントロールされている」という国際オリンピック委員会(IOC)総会での自身の発言に批判が集まっていることへの反論でもあったろう。首相は演説で汚染水問題に伴う風評被害に触れ「食品や水への影響は基準値を大幅に下回っている。これが事実だ」と断言した。

しかし、問題は風評被害だけではない。汚染水漏れの深刻な事態はIOC総会後も日ごと明らかになり、この危機的状況が収拾するめどは立たない。これでは廃炉もままならない。今の態勢では不安がむしろ増幅していることが大きな問題なのだ。

首相は「東電任せにすることなく、国が前面に立って責任を果たす」と強調したが、国と東電が中長期的にどう役割分担していくのか、具体的には語らず、あいまいだった。

当然、今国会での大きなテーマとなる。自民党内にも東電を分社化し、汚染水処理や廃炉に専念する機構を設置するなどの案が出ている。それらを含めて、与野党あげて検討を始めないと手遅れになる。

一方、首相は「日本は、もう一度、力強く成長できる」「意志さえあれば、必ずや道はひらける」と改めてプラス思考を強調した。首相に返り咲いて9カ月余。自信の表れではあろう。「起業・創業の精神に満ちあふれた国を取り戻し、若者が活躍し、女性が輝く社会をつくる」という首相の言葉に私たちも異論はない。

ただし、「景気回復の実感はいまだに全国津々浦々まで届いていない」のは首相も認めるところだ。

演説では成長戦略について新技術開発に取り組む企業に特例的に規制を緩和する「企業実証特例制度」創設などの案を網羅した。大事なのは「実行」であり「もはや作文には意味がない」とも語った。果たして目標としている労働者の賃金アップに本当につながるかどうか。結果が問われる時期が近づいている。

社会保障改革も待ったなしだ。首相は消費税率引き上げと経済再生による税収増で財源を確保する一方、「受益と負担の均衡がとれた制度」への改革を進めると語った。これもまた「作文」ではない明快な方向性をこの国会で示してもらいたい。

無論、これら以外にも難題は山積している。与野党には長きにわたった「夏休み」の分を取り戻す密度の濃い議論を期待したいものだ。

読売新聞 2013年10月16日

所信表明演説 「意志の力」を具体化する時だ

日本経済の再生を目指す「意志」は伝わってくるが、肝心なのは結果である。成長戦略をいかに具体化するのか、政権の実行力が問われる。

安倍首相が衆参両院で所信表明演説を行った。デフレ脱却を最優先する方針を再確認し、「この道を迷わずに進むしかない」と言明した。困難な課題を克服する「意志の力」の重要性も強調した。

この臨時国会を「成長戦略実行国会」と位置づけ、政策を総動員して、「経済の好循環」を実現したいとしている。

首相の問題意識と追求する方向性に異論はない。ここ数年、歴代首相は様々な成長戦略を掲げたが、いずれも成果を上げる前に1年前後で退陣に追い込まれた。

安倍首相は、7月の参院選圧勝で衆参ねじれ国会を解消し、長期政権への足掛かりを築き、成長戦略に本格的に取り組む体制を整えた。数多くの外遊時にも、日本経済の復活をアピールしてきた。

今、求められているのは、きちんと実績を示すことである。

「意志の力」を成果に結びつけるためには、具体的な政策の裏付けが重要だ。政府は今国会で、産業競争力強化法案や国家戦略特区法案などの成立を図る。

経済再生の主体は民間である。政府がどんな経済政策を講じても、企業や家計が自律的に動かないと、実効性は限定される。

政府は、政労使協議など対話を深め、民間のニーズを的確に把握して政策に反映するとともに、その活力を最大限活用すべきだ。

首相の演説では、こうした成長戦略の各論が具体性を欠き、物足りなかった。民間企業に設備投資や研究開発、賃上げを促す以上、今後の国会論戦では、より説得力のある政策とメッセージを積極的に発信してもらいたい。

外交・安全保障分野で首相は、「積極的平和主義」の立場から国家安全保障会議(日本版NSC)の創設を急ぐ考えを示した。

世界平和に貢献し、米国など関係国との連携を強化することは、日本の平和と安定の確保だけでなく、日本の発言力を高め、経済再生にも良い影響を及ぼす。

経済再生や財政再建が進めば、政府開発援助(ODA)増額など日本外交の強化も可能になる。

このような経済と外交の「好循環」も実現したい。

政府は、日本版NSC設置法案の早期成立に加え、初の国家安全保障戦略や新防衛大綱の策定、集団的自衛権の憲法解釈の見直しなどを着実に進める必要がある。

産経新聞 2013年10月16日

所信表明演説 有言実行で国民に安心を

安倍晋三首相は所信表明演説で、召集された臨時国会を「成長戦略実行国会」と名付け、「『新しい成長』の幕開け」を図ると語った。

消費税率の8%への引き上げを最終決断してから初の国会となる。景気の腰折れを防ぎつつ、経済成長の道筋をつけることを国民は望んでいる。首相は「有言実行」で期待に応えることを求められている。

国民は7月の参院選で与党に軍配を上げ、衆参ねじれは解消した。安倍政権は政策を着実に実行する力を与えられた。先の通常国会までとは異なる政治環境を政策推進に生かさねばならない。

臨時国会の会期は53日間しかない。成長戦略を軌道に乗せるために、丁寧な説明を行いながら関連法案の迅速な成立を図り、早急に実行してほしい。それが国民を安心させることにもつながる。

成長戦略をめぐり首相は、演説で多くの政策に言及した。先進的な技術開発に取り組む企業に特例的に規制緩和を認める制度や、農地を集約して競争力を高める「農地集積バンク」の創設などだ。電力システム改革でビジネスチャンスを創出する重要性も訴えた。

それらは理解できるとしても物足りなさも残った。

原発問題では、福島第1原発の汚染水対策で国が前面に立つ考えを改めて表明した。だが、原発の再稼働問題には触れなかった。電力の安定供給は経済成長に欠かせない。再稼働を進める決意と道筋を明確に語る必要がある。

「現実を直視した外交・安全保障政策の立て直し」を進めるという首相の方針は極めて妥当なものだ。国家安全保障会議(日本版NSC)の設置がその具体策となるが、会議の運用に欠かせない特定秘密保護法案について言及してほしかった。

首相は「積極的平和主義」を21世紀の日本の看板にする。その実行に必要な集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈の変更についても語るべきだった。今国会では憲法改正のための国民投票法改正を目指すが、その先の憲法論議の方向性に触れることも避けた。

直ちに今国会で結論を出す課題ではないとの判断もあったのだろう。だが、憲法をはじめとする「安倍カラー」について、最高指導者として常に国民に語り続ける必要があるだろう。もう安全運転からは脱するときだ。

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