FRB新議長 出口戦略引き継ぐ重い責任

朝日新聞 2013年10月13日

FRB議長 「出口」で試される手腕

空前の金融緩和政策で、世界経済への影響力が一段と高まった米連邦準備制度理事会(FRB)のトップが交代する。

オバマ米大統領は任期切れが近づいたベン・バーナンキ議長の後任に、経済学者で現FRB副議長のジャネット・イエレン氏を指名した。

議会上院の承認を経て来年2月に就任する。FRB1世紀の歴史で、15人目にして初の女性トップだ。

リーマン危機後、地球規模にあふれさせたマネーを、世界経済に打撃を与えることなく、うまく収められるか。難しいかじ取りを担う。

学者としての研究分野は景気や雇用問題で、指名後の記者会見でも「雇用改善に努める」と抱負を語った。バーナンキ議長は雇用増のためなら異例の緩和も辞さない姿勢を貫いたが、これを後押ししたのがイエレン氏だ。議長以上に緩和に積極的な「ハト派」といわれる。

このため、金融証券市場では緩和継続への期待感も膨らんでいる。しかし、市場の言うままに緩和を続ければいいというほど状況は単純ではない。

金融緩和を終わらせるには時間がかかる。行き過ぎればバブルやインフレを招く。異常な緩和を徐々に縮小するのは、避けられない道だ。

いざ緩和策からの「出口」となると、マネーの動きが一気に複雑化し、実体経済の回復を妨げるさまざまなリスクが現実化する。

事実、緩和縮小の観測が流れるたびに市場は動揺し、新興国などからマネーが逆流する。FRBはいまだに政策転換に踏み切れないでいる。

バーナンキ議長は、政策の見通しを積極的に公表し、丁寧な説明を尽くす「市場との対話」を通じてマネーを誘導しようと腐心してきた。FRB改革の柱としてイエレン氏も進めてきたスタイルだが、政策の潮目と交代が重なり、のっけから対話力の真価が問われることになる。

ハト派議長の誕生で気がかりなこともある。たとえば、失業率そのものは、中央銀行が直接的に影響を与えることはできない。そのような経済指標まで厳格な数値目標として背負い込んで、行き過ぎた緩和に走らないかという懸念だ。

世界各国で政治が機能不全に陥り、中央銀行に難題を押し付ける傾向が続く。

だが、バーナンキ議長が言うように「金融政策は万能薬ではない」。金融緩和への過度な依存がいびつな経済をもたらすことを為政者は知るべきだ。

読売新聞 2013年10月13日

FRB新議長 出口戦略引き継ぐ重い責任

順当な人選で市場に(あん)()感が広がっているが、前途は多難だ。異例の金融緩和策を縮小する「出口戦略」に向け、新議長の手腕が問われよう。

オバマ米大統領は、来年1月末に任期が切れる米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長の後任として、イエレン副議長を指名した。

議会上院の承認を得た後、2月に就任する。FRB100年の歴史で初めての女性議長だ。

大統領は記者会見で、「雇用が最重要課題であることを踏まえると適任だ」と述べた。

イエレン氏は失業問題を専門とする経済学者で、リーマン・ショック後の大胆な金融緩和策を主導したバーナンキ氏を支えてきた。バーナンキ路線を継承し、大きな政策変更はないとみられる。

大統領は、議長交代に伴う市場の混乱を回避し、金融政策の安定を図るうえで、副議長の昇格が最善と判断したのだろう。

議会の与野党対立で新年度予算が成立せず、政府機能の一部停止に追い込まれている。連邦債務上限が引き上げられないと、債務不履行(デフォルト)に陥る財政危機も現実味を帯びる。

新議長を速やかに指名することで、市場の不透明感を払拭する狙いもあったと言えよう。

イエレン氏は記者会見で、深刻な失業問題に言及し、雇用拡大に全力を挙げる姿勢を示した。

株式や金融市場が好感しているのは、成長と雇用を重視し、金融緩和に積極的な「ハト派」のイエレン氏への期待の表れだ。

FRBは、米国債などを毎月850億ドル(約8・4兆円)購入する量的緩和第3弾(QE3)を昨年9月から続けている。

だが、QE3を恒久的に継続することはできず、いずれ政策を正常化する(かじ)取りが求められる。焦点は、購入ペースをいつから縮小し、緩和策を終了させるかだ。

FRBは先月に縮小を見送ったばかりで、縮小開始は12月が有力視される。雇用改善や景気回復ペースが緩慢な場合、開始時期が越年するとの観測もくすぶる。

拙速に出口戦略に踏み出せば、景気を腰折れさせかねない。逆にタイミングが遅れると、資産バブルなど副作用も懸念される。

「市場との対話」を工夫しながら、QE3終了へ、いかに軟着陸を図るか。難しい局面である。

米国経済の変調が、日本や新興国など世界の景気に悪影響を及ぼすことにも警戒しなければならない。女性議長の責任は重い。

産経新聞 2013年10月12日

FRB議長指名 世界経済牽引へ責務重い

オバマ米大統領が連邦準備制度理事会(FRB)の次期議長にイエレン副議長を指名した。上院の承認を得て来年2月に正式就任するが、初の女性議長誕生だ。

FRBの金融政策は、世界の市場にも大きな影響を与える。そのトップに就くイエレン氏には、回復への踊り場を迎えた世界経済のかじ取り役として一段と大きな期待がかかっている。

新議長にとっての当面の大仕事は、5年前のリーマン・ショックを契機に始まった金融の異例な量的緩和を、市場の混乱なく、いかに円滑に終わらせるかという「出口戦略」だ。市場との徹底した対話を通じ、世界経済の立て直しに全力をあげてほしい。

次期FRB議長には当初、オバマ氏に近いサマーズ元財務長官が最有力視された。だが、クリントン政権時代の強引な金融自由化が今日の経済不況の遠因とする見方もあり、起用には身内の民主党内にも異論が強かった。

これに対し、学者出身のイエレン氏はサンフランシスコ連銀総裁などを務め、現在のバーナンキ議長が進めた量的緩和を副議長として実務面から支えた。イエレン氏の起用で雇用安定などを重視するこれまでの金融政策は継続される可能性が高いとみられ、市場には一定の安心感も広がっている。

FRBは現在、米国債などを毎月850億ドル買い入れ、市場への資金供給を通じて景気の下支えを続けている。イエレン氏はまず、量的緩和を段階的に縮小するため、景気の回復具合を見ながら買い入れ額を減らすなど、きめ細かな政策が求められる。

新興国には量的緩和で生じた投機マネーが流入していたが、緩和縮小をにらんでその逆流が始まりつつある。その結果、先進国に代わり、世界経済の牽引(けんいん)役を一時期担ってきた新興国では通貨安などの影響が出ている。こうしたリスクについても十分な目配りが必要であろう。

2006年2月にFRB議長に就いたバーナンキ氏は、任期中、金融危機の対応に忙殺されたが、イエレン氏には危機回避後も米国を世界経済のリード役として復活させる責務がある。

そのためには、雇用創出を重視する現行の金融政策の見直しが必要になる場面もあろう。イエレン氏には果断な政策決定の手腕が問われている。

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