毎日新聞 2013年10月12日
福岡医院火災 ずさんだった防火体制
ずさんな防火体制が次々と明らかになってきた。
11日未明、福岡市の整形外科医院から出火し、逃げ遅れた10人が死亡した。消防によると、通報が遅かったうえ、初期消火も遅れた。各階の防火扉も閉まっていなかった。
医院は地下1階、地上4階で、2階以上は入院患者の病室や医師・看護師の住まいになっていた。死亡者の多くは高齢の入院患者だ。
消防や警察は、出火原因はもちろん、法令で定められた設備の有無や、適切な避難誘導が行われたのかなどについて、しっかり解明してもらいたい。責任の所在をはっきりさせて、今回の大惨事を再発防止につなげなければならない。
消防によると、6月に医院を査察した際、消防法で義務づけられている防火管理者が院長の高齢の母親で今回の火災で亡くなった女性だったため、是正を指導した。だが、変更の届け出は出されていなかった。
万が一、火災が発生した時に備え、防火管理者は避難路の確保や、避難訓練の実施、夜間当直の計画作りなどを担う。人命を守る重責を持つのだ。もし名前だけあてがっていたとすれば、防火対策を甘くみており、あまりにも無責任だ。
消防庁によると、2011年度末時点で、防火管理者の設置義務のある建物が全国に約107万件あるが、約2割で選任されていないという。今回の惨事を他山の石として、しっかり体制を整えるべきだ。
医院には、スプリンクラーが設置されていなかった。20床未満の医院は、消防法で延べ床面積6000平方メートル以上に設置義務があり、この医院はその基準に満たなかった。
大量の散水で一気に消火するスプリンクラーは、犠牲者を生まないための重要な手段だ。グループホームや特別養護老人ホームといった福祉施設は、相次ぐ火災でスプリンクラーの未設置が問題化し、基準を厳しくする法改正が行われてきた。現在の基準では275平方メートル以上の施設に設置義務がある。また、基準に満たなくても厚生労働省が補助金を出して設置を促してきた。
医療施設の設置は、20床以上でも床面積3000平方メートル未満ならば義務はなく基準が緩い。長年、大火災がなかったことも背景にあるとみられる。
だが、比較的小規模なビルに多数の高齢者の入院患者がいた今回のような火災を見れば、病院にもより厳しい規制が必要だ。早急に基準を見直すべきだ。
大規模な火災が起きるたびに小出しで法改正が行われてきたのが、これまでの実態だ。政府は、高齢者など要援護者の収容実態に即して、規制や支援を進めていくべきだ。
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読売新聞 2013年10月17日
福岡の医院火災 高齢者守る万全の防火態勢を
防火態勢の不備がいくつも重なったことが、惨事を招いたと言えるだろう。原因を徹底的に究明し、再発防止を図らねばならない。
福岡市の「安部整形外科」で11日未明、火災が発生し、入院患者8人を含む10人が死亡した。亡くなったのは、いずれも70~80歳代の高齢者だった。
火元は、4階建て医院の1階にあった医療器具周辺とみられ、火はタオルに燃え移ったらしい。
看過できないのは、自動的に閉まるはずの防火扉の多くが作動しなかった点だ。煙が短時間で病棟内に充満し、患者は逃げる間もなく死亡した。死因は一酸化炭素中毒とみられている。
無届けで増築した際、医院は旧式の防火扉を更新しないまま使用した。防火扉の点検は十分に行われていたのだろうか。
増築で建物が吹き抜け構造となったため、煙が瞬く間に広がったとの指摘もある。
患者の命を預かる医療機関として、防火意識が、あまりに低かったと言わざるを得ない。
ほかにも問題点は多い。
元院長の妻(火災で死亡)が防火管理者だったが、高齢のため消防から交代を求められていた。夜間の初期消火や避難誘導のマニュアルを作成していなかった。
初期消火に欠かせないスプリンクラーも設置されていなかった。この医院のようにベッド数19床以下の小規模な「有床診療所」には、設置義務がない。
過去に火災で多数の犠牲者が出たグループホームなどの高齢者施設について、総務省消防庁は、スプリンクラー設置の義務付けを決めている。大規模病院にも、既に設置が義務付けられている。
これに対し、有床診療所の対策は置き去りにされてきた。今回の悲惨な火災を踏まえれば、有床診療所にも、スプリンクラー設置が必要なのは明らかだ。
経営が厳しく、多額の費用を要するスプリンクラーを設置する余裕がない有床診療所もあるという。廃院や病床閉鎖に追い込まれる施設が出れば、地域医療に影響を与えかねないとの声もある。
だが、万全の防火対策を講じ、患者を守るのは医療機関の責務と言えよう。スプリンクラー設置の義務付けも検討すべきだろう。
避難誘導を円滑に行うため、当直など、夜間の人員配置の規定を設けることも必要だ。
今回の火災を教訓に、高齢者を抱える小規模医療機関の防火態勢の強化を急いでもらいたい。
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産経新聞 2013年10月12日
福岡の医院火災 悲劇を何度繰り返すのか
福岡市中心部の医院で11日未明に火災が発生し、入院患者ら10人が死亡した。医院の前院長夫婦を含む、犠牲者の全員が70歳以上の高齢者だった。医院にスプリンクラーはなく、初期消火は行われなかった。防火扉も機能しなかった。
多くの犠牲者が出る火災ではほとんどの場合、防火体制に不備がある。高齢者施設などで惨事が起きるたびに改善の重要性が叫ばれるのに、悲劇は繰り返される。患者や入所者の命を守る覚悟がないなら、経営を続ける資格はない。コストの問題は言い訳にならない。
福岡市消防局などによれば、今年6月の調査で、消防法が定める「防火管理者」が70歳代の前院長の妻だったことが分かり、高齢を理由に交代するよう指導した。その後も変更届はないまま、火災は発生し、医院の3階に居住していたこの妻も亡くなった。
4階建ての医院にはエレベーターがなかった。高齢や下半身を痛めた患者らの避難が困難だったことは、容易に想像できる。
出火の発見や通報が遅れて消防の消火活動が遅れ、医院自身による初期消火活動も行われなかった。院内に7カ所ある防火扉は1枚も作動せず、煙は入院病室に広がったとみられる。
医院のベッド数が19床以下だったことなどから、スプリンクラーの設置義務はなく、実際に設置されていなかった。義務はなくても、入院患者に高齢者が多い医院の特性を考えれば、設置すべきだった。改善点は多々あった。起きるべくして起きた悲惨な火災だったともいえる。
平成21年3月には、群馬県渋川市の高齢者施設の火災で10人が死亡した。22年3月に札幌市のグループホームで7人、今年2月には長崎市のグループホームで5人が死亡した。いずれのケースでもスプリンクラーの設置義務はなく、設置されていなかった。
総務省消防庁の有識者部会は今年6月、認知症の高齢者が暮らすグループホームの火災被害を防ぐため、原則として全施設にスプリンクラーの設置を義務づけるよう求めた。これが実現しても、今回のような医療機関に設置義務は課されない。
医院や施設には、法改正による義務化を待つのではなく、悲劇を防ぐための自らの意思こそが求められている。
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