ストーカー殺人 見過ごせない警察の連携不足

朝日新聞 2013年10月12日

ストーカー事件 法改正の趣旨を生かせ

警察署の初動と連携に問題があったと言わざるをえない。

東京都三鷹市で、知人の男につきまとわれていた高校の女子生徒が殺害された。

事件4日前、生徒に話を聞いた教師が、学校に近い杉並署に電話で相談をしていた。杉並署は、生徒宅近くの三鷹署へ相談するよう勧めただけで、生徒の名や詳しい住所を聞かず、三鷹署にも連絡しなかった。

今月、改正ストーカー規制法が施行されたばかりだ。以前は加害者へ警告などを出せるのは被害者の住む街の警察署長らに限られていたのを、つきまとい現場や加害者宅のある地元の警察署長らにも広げた。

一昨年の長崎県でのストーカー殺人事件では、3県警の間で被害者の相談がたらい回しにされ、惨事を防げなかった。その反省から、相談をうけた署が積極的に動くよう促すねらいだ。警察庁も全国の警察へ同様の指示をしていたが、浸透していなかったのだろうか。

杉並署も「来てくれれば杉並署でも三鷹署でも対応する」と教師に伝えはした。が、まず自ら三鷹署へ連絡すべきだった。本人からの相談でなかったことが影響したのかもしれないが、本人を連れてくるよう促すなどやりようはあった。

男は関西方面から上京して数日前からつきまとい、「殺す」とメールもしていたという。杉並署が詳しく話を聴いていれば危険が迫っていることを早期につかめたはずだ。

事件当日に相談をうけた三鷹署も、男に電話連絡を試みただけで、生徒宅の巡回もしなかった。まず口頭で警告、しかる後に文書で警告、と手順をふもうとしたようだが、メール内容を考えれば脅迫容疑で直ちに動くことはできなかったか。相談を聴く生活安全課と、脅迫などを捜査する刑事部門の連携は取れていたか。検証すべきだ。

ストーカー被害者はしばしば家族や周囲にも言いづらい事情を抱える。知人を訴えることへのためらいもある。警察が被害者の安全確保を第一に考え、一歩前に出て対応することが求められる。同性の警察官が対応する、家族のいない所で話を聴くなどの工夫も要る。

とりわけ大切なのは、加害者から引き離すことだ。改正法には、被害者は公共施設や民間シェルターで一時保護を受けられることが明記された。2週間ほど身を隠すことができる。

警察や自治体は、相談に訪れた人にはもちろん、日ごろから広く周知してほしい。被害者にとって心強い武器になる。

読売新聞 2013年10月12日

ストーカー殺人 見過ごせない警察の連携不足

またも悲惨なストーカー殺人が起きた。

最悪の事態を防げなかったのか。警察は徹底検証せねばならない。

東京都三鷹市で私立高校3年の女子生徒が8日に刺殺され、京都市在住の元交際相手の男が逮捕された。

女子生徒は、かつて付き合っていた男との交際を拒んでいた。6月からは電話やメールの着信も拒否していた。だが、今月に入り、自宅付近に男が姿を見せたため、担任教諭が4日、高校に近い警視庁杉並署に対処法を相談した。

問題なのは、被害内容を詳しく聞き取らなかった杉並署の対応だ。女子生徒宅を管轄する三鷹署への相談を勧めただけだった。女子生徒は4日後、三鷹署に相談したが、その日に殺害された。

杉並署は、管轄外で起きた事案への当事者意識を持てなかったのではないか。即座に三鷹署に連絡していたら、展開は違っていた可能性もある。

三鷹署の対応も十分だったのだろうか。女子生徒の相談を受けてから、事件発生までの半日間、担当者が1人で対処した。

ストーカー事件は急展開しやすいという危機感を持ち、女子生徒宅の周辺をパトロールするなど、手厚い態勢を取っていれば、事件を防ぐ余地もあっただろう。

2年前に長崎県で起きたストーカー事件では、千葉、長崎、三重の3県警が情報を共有せず、相談をたらい回しにした結果、被害女性の家族2人が殺害された。

複数の県警が絡んで対処が遅れた苦い経験から、警察庁は、迅速な対応や被害者保護の徹底を全国の警察に指示した。

ストーカー規制法も、被害者の居住地以外の警察や公安委員会でも警告・禁止命令を出せるように改正され、今月3日に施行されたばかりだった。

しかし、長崎の事件を教訓にしたこうした対策の趣旨は生かされなかった。それどころか、今回は都内の警察署同士でさえ速やかに連携できなかった。

招いた結果の重大性を警視庁は深刻に受け止めねばならない。

ストーカー被害は増加傾向にある。警察が昨年1年間に把握しただけでも2万件近くに上る。警察の職務の中で、ストーカー対策は重要性を増している。

大半の加害者は警察の介入でつきまといなどをやめるという。

いかにして加害者に接触し、被害者を保護するか。全国の警察が事例を持ち寄り、対処方法を練り上げてもらいたい。

産経新聞 2013年10月10日

ストーカー殺人 少女は守れなかったのか

東京都三鷹市の自宅前で、高校3年の女子生徒が刺され死亡する痛ましい事件が起きた。ストーカー行為を警察に相談しながら凶行は防げなかった。被害者を守る方法は本当になかったか。

警察は被害者の立場に立って真剣に検証してもらいたい。警察は万能の存在ではない。さまざまなストーカー行為などの相談が寄せられ、事件の深刻さの判断も難しい。それでも、被害者が最後に頼れるのは警察なのだ。

凶器を持った容疑者から被害者を守ることができるのは、警察しかない。危険があれば、被害者や家族は躊躇(ちゅうちょ)せず、早急に警察に相談することが大事だ。警察も法にとらわれることなく、柔軟な積極対応で信頼に応えてほしい。

事件は8日の夕方に起きた。この日の午前、女子生徒は両親とともに、自宅近くの警視庁三鷹署にストーカー被害を相談していた。署は3回、容疑者に電話連絡を試みたが、応答はなかった。

前週の4日には、女子生徒の高校の担任教諭が高校近くの杉並署に相談していた。高校によると、女子生徒にはメールで「殺すぞ」などの脅しもあった。

杉並署は、早急に女子生徒の自宅がある三鷹署に相談するよう勧めたのだという。

警察の迅速で積極的な対応を促す改正ストーカー規制法は、今月施行されたばかりだった。

過去に「警察に相談しても動いてくれない」との批判があったことを受けた改正法では、被害者の住所地以外に加害者の住所地や、つきまとい現場の警察も警告や禁止命令を出せるようになった。

警察庁も昨年8月、都道府県警にすべての被害届を原則として即時受理するよう指示した。

杉並署では被害届を受理できなかったか。女子生徒の被害内容を把握して三鷹署に通報することはできなかったか。少女の命が失われた今、凶行を防げた可能性を、改めて検証すべきだ。

昨年11月、神奈川県逗子市の殺人事件では、被害女性が加害者から大量のメールを送りつけられていたが、規制法にメールについての規定がなく、警察はストーカー事案の対応ができなかった。

今回の改正法でメールの連続送信も規制対象に加えられた。犯行形態の変化に対応する法改正は必要だが、目の前の危険に対処する柔軟姿勢はさらに大事だ。

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