毎日新聞 2013年10月10日
国際成人力調査 「世界一」におごらずに
これを教育改革の一つのヒントにもしたい。
経済協力開発機構(OECD)が初めて実施した「国際成人力調査」で日本が好成績を上げた。
16歳から65歳までを対象に、日常生活のさまざまな状況で情報を生かす力を見るものだ。数学の公式など教科書的知識は問われない。
3分野のうち、ホテルの説明書を読んで指定の相手に電話するといった力「読解力」と、商品生産量を見てグラフを作るといった力「数的思考力」の2分野で日本は24カ国・地域中、平均得点がトップだった。
もう一つの分野「IT(情報技術)活用力」では、一定の基準を超えた回答者の割合で、日本は10位だったが、コンピューター使用の回答者にしぼると、平均得点は1位だった。
文部科学省は、日本の義務教育のあり方、就職後の企業研修などが奏功したとみている。
確かに日本の成績の上位と下位の幅は相対的に小さく、中学卒業者の読解力はOECD平均の高校卒業者と同程度、といった結果は、平準化を旨としてきた義務教育の成果とみることが可能だろう。
明治に近代学制を敷いて以来、義務教育は均質一斉の授業を基本にし、その基礎的学力は、殖産興業を支える優秀な労働力になった。
これは第二次世界大戦後の復興、経済成長にもつながった。
だが今回調査で課題も示された。
一つは、IT活用力。習熟度の高い人の割合でみると、日本はほぼOECD平均並みで、IT学習機会がまだ十分整備されていないことを示している。また、読解力と数的思考力でみると、親の学歴が高いと得点が高い傾向が日本でもOECD平均でもうかがえた。
この格差的な状況は以前から指摘されているが、教育・学習の機会均等をより充実し、状況を改善する方策を国際的な課題として協力して取り組むべきだろう。
今回の調査は、3分野に限って行われた。このことを忘れてはならない。表現力、討論の力、多様な語学力、広い知識、リーダーシップなどといった、さまざまな能力はまた別である。
日本の教育改革論議の多くは、画一教育を否定し、個性重視、少人数学級などを追求してきた。近年は世界に通じる「グローバル人材」育成を掲げている。
この調査の「成人力」が基礎として必要であることはいうまでもない。その力が相対的に高いという結果を一つの自信としたい。そのうえに新たな人材育成の方策を進めるとともに、中高年世代の学習継続意欲に応える公的な生涯学習システムの充実を求めたい。
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読売新聞 2013年10月10日
国際成人力調査 「読解力」世界一は誇らしいが
日本の教育水準の高さが示されたと言ってもいいのではないか。
経済協力開発機構(OECD)が、16歳から65歳を対象に初めて実施した国際成人力調査(PIAAC)の結果を公表した。
日本は「読解力」と「数的思考力」の平均点で1位となった。
一昨年から昨年にかけ、欧州各国や米国、韓国など、先進国を中心とした24か国の約15万7000人が参加した大規模調査だ。仕事や日常生活で必要な能力の水準を測る目的がある。
OECDが15歳を対象に3年ごとに行っている国際学習到達度調査(PISA)では、一時、日本の子供の成績が落ち込み、教育関係者に衝撃を与えた。大人を対象にした今回の調査での好成績は、ひとまず明るい材料と言える。
成人力調査によると、日本は他国に比べ、成績下位層の割合が少なかった。特に読解力では、日本の中学卒の人は、米国やドイツの高校卒の成績を上回るなど、学歴を問わず好成績が目立った。
「読み・書き・計算」という基礎をしっかり習得させる日本の義務教育が、成人の能力の底上げにつながっているのだろう。
しかし、読解力と数的思考力の成績の最上位層に入った人の割合で比較すると、トップはともにフィンランドで、日本はそれぞれ4位、6位だった。
経済や科学技術など様々な分野で、日本が国際的な競争力を高めていくには、優秀な人材の育成が欠かせない。豊かな才能をさらに伸ばす工夫が、企業や教育現場には求められる。
一方、成績が思わしくなかったのが、パソコンを操作して課題を解決する「IT活用能力」だ。習熟度が高いとされた人の割合を見ると、日本は35%で、国別では10位にとどまった。
パソコンに不慣れで、この調査に応じなかった人が他国より多かったことが影響している。
そうした人が16歳から24歳の若い世代でも目立ったのは意外だ。携帯電話やスマートフォンの使用が中心で、パソコンに触れる機会が少ないのだろうか。
今やビジネスでは、パソコンを活用して、インターネットから知識を得たり、情報処理したりすることが日常的になった。研修などで社員のIT能力向上に努めている企業は多い。
学校や家庭でも、ネット中毒にならないよう配慮しつつ、情報機器を適切に使う習慣を子供たちに身に着けさせることが大切だ。
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