毎日新聞 2013年10月08日
米国の政治対立 世界経済人質にするな
米政府機関の一部閉鎖から1週間となる。この間、議会上院の過半数を握る民主党と下院を制する共和党は、収束のための妥協点を探るどころか、非難合戦に終始した。
経済全般に影響が及び始めただけでなく、オバマ大統領がアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を欠席するなど、外交にも深刻なしわ寄せが生じているのに、である。
だが、この先待ち受けているのは、こうした影響と比較にならない緊急事態だ。現在の法律が16.7兆ドルと規定する国の借金の上限を引き上げることで両院が折り合わないと、17日ごろには連邦政府の資金が底を突く。追加の借り入れができなければ、最悪の場合、過去の借金の利払いが停止する。想像し難いほど世界経済を揺るがす債務不履行だ。
政治ゲームはもうたくさんだ。世界経済を人質に取るような脅し合いは危険すぎる。対立の長期化は米政治の劣化を印象付け、世界における米国の影響力をそぐことにもつながるだろう。愚かしいことだ。歩みよる勇気と知恵が求められている。
対立の焦点は、オバマ大統領の看板政策である医療保険改革だ。低所得や病歴のために無保険状態にある約4900万人を含め、国民すべてに保険加入を義務付ける歴史的改革である。低所得者は国の補助金で支えるが、加入を拒めば罰金を科す。
これに、個人の自由や選択を尊重し、国家権力の介入を嫌う共和党が根強く反発、暫定予算案や債務上限引き上げへの同意条件として、改革の撤回や棚上げを突きつけた。
だが、大統領が言うように、議会での審議・採決を経て3年半前に法律となったものである。重要争点となった昨秋の大統領選ではオバマ氏が再選され、最高裁判決も「合憲」の判断だった。今月1日には始動している。今になり、予算や債務の上限問題とからめ、棚上げを要求するのは乱暴に映る。こうした要求がまかり通れば、この先、予算や債務上限を決める度に、政策の大転換が議論になりかねない。
大統領にも責任はある。共和党につけ込まれた背景には、医療保険改革への国民の支持が広がっていない現実がある。狙いや恩恵、国民負担などを丁寧に説明し続けなければならない。
どの国の政治にも、それぞれの事情があるだろう。だが、米国には世界の基軸通貨国として、信用を維持する特別な責任がある。
リーマン・ショックに端を発した金融危機からまだ5年だ。再度米国発の世界経済危機を起こしてもらってはたまらない。5年前と異なり、今回の危機は政治の良識により回避できる。その良識が残っていることを、一刻も早く示してほしい。
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読売新聞 2013年10月08日
米オバマ外交 アジアで揺らぐ超大国の威信
これでは、中国やロシアに外交の主導権を奪われかねない。国際舞台における米国の存在感が薄れることを懸念する。
米政府の一部機能停止でオバマ大統領が東南アジア歴訪を断念し、オバマ氏のいないまま、インドネシア・バリ島でアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が始まった。
オバマ氏のAPEC欠席は2年連続だ。米国が主導するAPECを通じた地域連携作りや、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の勢いは減速することになろう。
中国の習近平国家主席やロシアのプーチン大統領との会談も中止となり、北朝鮮やイランを巡る議論も大きく進みそうにない。
オバマ氏は今回、インドネシアのほか、ブルネイ、マレーシア、フィリピンと回り、就任以来掲げている「アジア重視」の外交路線を再確認する方針だった。大統領の代理を務めるケリー国務長官は路線に変化はないと強調した。
だが、最近のオバマ政権はただでさえも中東問題に忙殺され、アジアを顧みる余裕が少なくなっている。歴訪中止により、アジア重視路線の実効性にさらに疑問符が付くのは避けられないだろう。
オバマ氏のアジア関与には、急成長するアジアと経済連携を強化するほか、膨張する中国を牽制する狙いがあるとされる。
南シナ海の領有権問題で中国と対立し、米国の支援を頼みとする東南アジア各国は突然の歴訪中止に戸惑っているのではないか。
ブルネイでの東アジア首脳会議では、ケリー氏がオバマ氏に代わり、南シナ海の「航行の自由」を訴えると見られるが、大統領発言の重みは期待できない。
これに対し、中国は、習主席と李克強首相が手分けし、オバマ氏が訪問予定だった国を、フィリピンを除き全て回る。影響力を一層拡大する思惑がうかがえる。
気がかりなのは、アジアに限らず、オバマ氏の外交に最近、消極的傾向が見られることだ。
シリアの化学兵器問題では軍事攻撃を決断しておきながら、結局、ロシアの外交調停を受け入れた。米国民向け演説では「米国は世界の警察官ではない」と述べた。
イラクとアフガニスタンでの戦争で国民の間に厭戦気分がある上、財政難で軍事や外交に十分な予算を割けないためだろう。
だが、国際社会は、唯一の超大国である米国の指導力を依然必要としている。オバマ氏は、内政の財政危機を一刻も早く克服し、外交に本腰を入れてほしい。
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