米オバマ外交 アジアで揺らぐ超大国の威信

毎日新聞 2013年10月14日

東南アジア外交 海の秩序へ連携さらに

中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)の一部加盟国が領有権を争う南シナ海で、紛争防止のための国際的ルール作りが求められているが、道のりは遠そうだ。ブルネイで開かれた東アジア首脳会議(サミット)やASEAN関連首脳会議は、そんな印象を残して終わった。

ASEANを舞台に日米両国と中国がけん制し合う構図は従来と変わらなかったが、今回は米国の存在感の低下と中国の攻勢が目立った。安倍政権はASEANとの連携をいっそう強め、海洋の秩序づくりを後押ししてほしい。

南シナ海で、中国はベトナムやフィリピンと領有権を争っている。特にフィリピン沖のスカボロー礁=中国名・黄岩島(こうがんとう)=では、実効支配を強める中国に対し、フィリピンが国連海洋法条約に基づく仲裁を求め、両国の対立は激しさを増す。フィリピンの孤立化を図る中国が、アキノ大統領の訪中を事実上拒否する出来事もあった。

こうした中国の動きを懸念する米国は、スービック海軍基地などの再使用に向けた協定締結をフィリピンと協議している。東シナ海で沖縄県・尖閣諸島の領有権を巡って中国と対立する日本も、フィリピンの海上警備力向上を支援するため巡視艇を供与する準備を進める。

東アジアサミットでは、安倍晋三首相を含む11カ国の首脳らが、南シナ海での航行の自由確保や、法的拘束力のある国際的ルール「行動規範」策定の必要性に言及した。これに対し、中国の李克強首相は「当事国以外が口出しすべきではない」と日米両国の介入をけん制したという。

中国は、今年9月にASEANと行動規範の策定に向けた協議を始めたが、実際には海軍力増強を背景に実効支配を強める戦略を崩していない。行動規範づくりには慎重だ。

ところが肝心の米国は、オバマ大統領が政府機関の一部閉鎖に対応するため東南アジア歴訪を中止し、一連の会議にはケリー国務長官が代理出席した。アジア各国からは、米国が外交の重心をアジアへ移す「リバランス(再均衡)」政策への疑念が生じている。オバマ政権は、こうした声を真摯(しんし)に受け止めるべきだ。

一方、安倍首相は、11月にラオス、カンボジアを訪れれば、在任中にASEAN10カ国全てを訪問する初めての首相になる。中国の圧力を懸念するASEANとの連携は重要で、今後もASEAN重視外交を堅持してほしい。

日本と中国、韓国との首脳会談は今回の一連の会議の際にも実現しなかった。海洋の安全保障のためには中韓両国との関係改善に引き続き努力することも忘れてはならない。

読売新聞 2013年10月11日

東アジア会議 海洋安定へ秩序作りが急務だ

今年も中国の強引な海洋進出に多くの批判が出た。船舶が自由に行き交う平和で安定した海洋の秩序作りが急務だ。

日米韓中露などと東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国計18か国による東アジア首脳会議が、ブルネイで開かれた。

安倍首相が、海洋は国際公共財であり、「航行の自由」などの原則が尊重されるべきだと強調したのはもっともだ。ケリー米国務長官も「航行の自由は太平洋の安全保障の要」と歩調を合わせた。

計11か国の首脳らが、南シナ海問題や同海域での行動を法的に拘束する中国とASEAN間の「行動規範」に言及したという。南沙諸島問題などで揺れる南シナ海の安定には、ルールが不可欠という認識は確実に広がっている。

これに対し、中国の李克強首相は南シナ海について、「航行の自由は問題でなかったし、将来も問題にならない」とはねつけた。行動規範策定については、協議に応じているものの、具体的な策定日程には触れなかった。

中国が、海洋での勢力圏拡大を依然として狙っているのは、間違いないだろう。

習近平政権発足後、中国は表面的にはASEANに対して融和的な姿勢を示すようになった。領有権問題では譲歩しないまま、経済協力拡大や善隣友好条約締結を呼びかけ、経済力に裏打ちされた微笑外交を展開している。

ASEAN諸国の警戒心を解き、日米への接近を防ぐ狙いだろう。行動規範の問題などで、中国と真っ向から対立するのをためらう国も出てきている。

ブルネイとバリ島で行われた一連の国際首脳会議で、安倍首相と、習近平国家主席または李首相の中国首脳との会談は、結局、実現しなかった。日中関係改善のめどは立っていない。

中国には依然、日本と真摯(しんし)に向き合う姿勢が見られない。

崔天凱・駐米大使は米国での講演で、日本の一部の政治家は、第2次大戦の敗因は米国の原爆投下だと思っており、「米国の反発さえ買わなければ何をやってもよいと信じている」と述べた。事実を歪曲(わいきょく)した、的外れな発言だ。

菅官房長官が「自国の立場だけに立ったプロパガンダで、論評するに値しない」と切り捨てたのは当然だ。日本も中国の宣伝戦に手をこまねいてはいられまい。

中国が、戦後日本の平和国家としての歩みや国際貢献を無視し、何ら根拠のない主張を重ねているのは看過できない。

産経新聞 2013年10月11日

東南アジア外交 「対中国」で期待に応えよ

東南アジア諸国連合(ASEAN)関連の首脳外交で、安倍晋三首相が中国の海洋拡大阻止への連携を訴えた。

地域の平和と安定のため、日本の一層の貢献を求める声は少なくない。こうした期待に応えるため、首相は集団的自衛権の行使容認などの安保政策強化を急ぎ、日本が対中連携で米国とともに中心的役割を担えるよう努力すべきだ。

ブルネイでの首脳会議には、米国やオーストラリアを含むアジア太平洋の主だった国々が集まった。首相が2国間会談の場も含めて自ら進める安保政策を説明し、多くの理解を得たことには極めて重要な意味がある。

安倍首相は日本とASEANの首脳会議で、集団的自衛権のほか、国家安全保障会議(日本版NSC)創設や国家安全保障戦略の策定などについて語り、ASEAN側からは支持と期待が表明された。否定的な反応はまったくなかったという。

首相はまた、南シナ海の問題に言及し、「力による現状変更の動きを大変懸念している」と中国を牽制(けんせい)した。その上で、尖閣諸島(沖縄県石垣市)を念頭に「共通の課題として連携したい」とASEAN諸国に呼びかけた。

日本への期待の高まりの背景には、中国が地域で海洋進出を強める中で、米国の存在感が相対的に低下していることがある。オバマ大統領が東南アジア歴訪を取りやめ、一連の首脳会議を欠席したことも、その印象を強めた。

そうした状況を踏まえ日本は、具体的な形で地域に貢献していく必要がある。フィリピンに対しては、7月の安倍首相訪問の際、同国の海上警備能力の向上のため巡視艇10隻の供与を表明した。ベトナムにも巡視艇の供与を検討している。こうした要請には積極的に応じるべきだ。

軍事力、経済力の増大を背景とする中国に対して、日本はあくまで「法の支配」と「共通の価値観」を訴え、理解を広げていくことが重要だ。

安倍首相のASEAN諸国訪問はブルネイで8カ国目である。来月にもラオス、カンボジアを訪れ全10カ国の訪問を終える。

首相は会見で、ASEANとの関係について「一段の高みに持ち上げたい」と語った。中国の「力」に対抗すべく結束を固めてもらいたい。

毎日新聞 2013年10月08日

米国の政治対立 世界経済人質にするな

米政府機関の一部閉鎖から1週間となる。この間、議会上院の過半数を握る民主党と下院を制する共和党は、収束のための妥協点を探るどころか、非難合戦に終始した。

経済全般に影響が及び始めただけでなく、オバマ大統領がアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を欠席するなど、外交にも深刻なしわ寄せが生じているのに、である。

だが、この先待ち受けているのは、こうした影響と比較にならない緊急事態だ。現在の法律が16.7兆ドルと規定する国の借金の上限を引き上げることで両院が折り合わないと、17日ごろには連邦政府の資金が底を突く。追加の借り入れができなければ、最悪の場合、過去の借金の利払いが停止する。想像し難いほど世界経済を揺るがす債務不履行だ。

政治ゲームはもうたくさんだ。世界経済を人質に取るような脅し合いは危険すぎる。対立の長期化は米政治の劣化を印象付け、世界における米国の影響力をそぐことにもつながるだろう。愚かしいことだ。歩みよる勇気と知恵が求められている。

対立の焦点は、オバマ大統領の看板政策である医療保険改革だ。低所得や病歴のために無保険状態にある約4900万人を含め、国民すべてに保険加入を義務付ける歴史的改革である。低所得者は国の補助金で支えるが、加入を拒めば罰金を科す。

これに、個人の自由や選択を尊重し、国家権力の介入を嫌う共和党が根強く反発、暫定予算案や債務上限引き上げへの同意条件として、改革の撤回や棚上げを突きつけた。

だが、大統領が言うように、議会での審議・採決を経て3年半前に法律となったものである。重要争点となった昨秋の大統領選ではオバマ氏が再選され、最高裁判決も「合憲」の判断だった。今月1日には始動している。今になり、予算や債務の上限問題とからめ、棚上げを要求するのは乱暴に映る。こうした要求がまかり通れば、この先、予算や債務上限を決める度に、政策の大転換が議論になりかねない。

大統領にも責任はある。共和党につけ込まれた背景には、医療保険改革への国民の支持が広がっていない現実がある。狙いや恩恵、国民負担などを丁寧に説明し続けなければならない。

どの国の政治にも、それぞれの事情があるだろう。だが、米国には世界の基軸通貨国として、信用を維持する特別な責任がある。

リーマン・ショックに端を発した金融危機からまだ5年だ。再度米国発の世界経済危機を起こしてもらってはたまらない。5年前と異なり、今回の危機は政治の良識により回避できる。その良識が残っていることを、一刻も早く示してほしい。

読売新聞 2013年10月08日

米オバマ外交 アジアで揺らぐ超大国の威信

これでは、中国やロシアに外交の主導権を奪われかねない。国際舞台における米国の存在感が薄れることを懸念する。

米政府の一部機能停止でオバマ大統領が東南アジア歴訪を断念し、オバマ氏のいないまま、インドネシア・バリ島でアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が始まった。

オバマ氏のAPEC欠席は2年連続だ。米国が主導するAPECを通じた地域連携作りや、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の勢いは減速することになろう。

中国の習近平国家主席やロシアのプーチン大統領との会談も中止となり、北朝鮮やイランを巡る議論も大きく進みそうにない。

オバマ氏は今回、インドネシアのほか、ブルネイ、マレーシア、フィリピンと回り、就任以来掲げている「アジア重視」の外交路線を再確認する方針だった。大統領の代理を務めるケリー国務長官は路線に変化はないと強調した。

だが、最近のオバマ政権はただでさえも中東問題に忙殺され、アジアを顧みる余裕が少なくなっている。歴訪中止により、アジア重視路線の実効性にさらに疑問符が付くのは避けられないだろう。

オバマ氏のアジア関与には、急成長するアジアと経済連携を強化するほか、膨張する中国を牽制(けんせい)する狙いがあるとされる。

南シナ海の領有権問題で中国と対立し、米国の支援を頼みとする東南アジア各国は突然の歴訪中止に戸惑っているのではないか。

ブルネイでの東アジア首脳会議では、ケリー氏がオバマ氏に代わり、南シナ海の「航行の自由」を訴えると見られるが、大統領発言の重みは期待できない。

これに対し、中国は、習主席と李克強首相が手分けし、オバマ氏が訪問予定だった国を、フィリピンを除き全て回る。影響力を一層拡大する思惑がうかがえる。

気がかりなのは、アジアに限らず、オバマ氏の外交に最近、消極的傾向が見られることだ。

シリアの化学兵器問題では軍事攻撃を決断しておきながら、結局、ロシアの外交調停を受け入れた。米国民向け演説では「米国は世界の警察官ではない」と述べた。

イラクとアフガニスタンでの戦争で国民の間に厭戦(えんせん)気分がある上、財政難で軍事や外交に十分な予算を割けないためだろう。

だが、国際社会は、唯一の超大国である米国の指導力を依然必要としている。オバマ氏は、内政の財政危機を一刻も早く克服し、外交に本腰を入れてほしい。

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