ヘイトスピーチ 差別許さぬ当然の判決

朝日新聞 2013年10月08日

ヘイトスピーチ 司法からの強い戒め

朝鮮学校近くで、差別的な言動を繰り返した団体や会員らに、京都地裁がきのう、計1200万円を超す損害賠償を命じた。学校周辺での今後の同様な活動も禁止した。

判決は、団体側の言動が、学校の名誉を傷つける民法上の不法行為であるとともに、日本も18年前に加盟した人種差別撤廃条約が禁じる「人種差別」にあたる、と判断した。

条約が「効果的な救済措置」をとるよう裁判所に求めているとして、あえて高額な損害賠償額を算定した。

外国人らへの差別感情をあおるヘイトスピーチが社会問題化しているなか、裁判所が法に照らして、「人種差別」と断じた意義はきわめて大きい。各地でヘイトスピーチを展開している人たちには、司法からの強い戒めと受け止めてもらいたい。

朝鮮学校は以前、隣接する公園を京都市の許可なく占用していた。団体側はこれへの抗議という公益を図る目的があったとし、言動も憲法が保障する表現の自由の範囲内で違法性はない、と主張した。

だが判決は「公益目的とはとうてい認められず、免責される余地はない」と一蹴した。

社会の中の少数者を動物や虫とあざけり、「たたき出せ」などと連呼する言動は、聞く人の心情を傷つける。多様な人々が共生する現代社会の基盤を揺るがす。自由を最大限尊重するこの社会においても、許されていいはずがない。

ユダヤ人排斥を唱えたナチスの台頭が大量虐殺につながった記憶が鮮烈な欧州では、ヘイトスピーチそのものを処罰対象にした法規を持つ国が多い。

日本にはこうした規制はない。法制化の議論もあるが、「表現の自由が制約されかねない」という消極論も強い。

表現行為の規制は「どこまで許されるか」という線引きが難しい。恣意(しい)的な運用の恐れもあり、慎重に考えていくべきだ。

大事なのは、人種差別撤廃条約が持つ普遍的価値を尊重することだ。条約は1965年の国連総会で採択された。「すべての人間が法律の前に平等」で、いかなる場所でも「人種差別は正当化できない」とうたう。

人が人を差別する考え方が、いくたびも悲劇を繰り返してきたことへの反省を踏まえた、人類の到達点である。

「差別は絶対に許さない」という認識を社会全体で共有し、あおるような言動には厳しい姿勢でのぞむ。そういう積み重ねを通じ、憎悪の増幅を私たち自身で抑えていきたい。

毎日新聞 2013年10月08日

ヘイトスピーチ 差別許さぬ当然の判決

特定の人種や民族への憎しみをあおるヘイトスピーチ(憎悪表現)と呼ばれる言動の違法性を認める初めての司法判断が示された。東京や大阪などの在日韓国・朝鮮人が多く住む地域などで繰り返され、社会問題化しているこうした行為の歯止めにつながることを望みたい。

朝鮮学校を運営する学校法人が、「在日特権を許さない市民の会(在特会)」や会員らに損害賠償などを求めた訴訟で、京都地裁は1226万円の賠償を命じ、学校周辺での街宣活動も禁止した。「密入国の子孫」「朝鮮学校をぶっ壊せ」と怒鳴り上げ、その様子を撮影した映像をインターネット上で公開したことが業務を妨害し、名誉を傷つける不法行為と認めた。当然の判断だ。

判決はさらに、一連の言動が国連の人種差別撤廃条約が禁止する「人種や民族的出身などに基づく区別、排除」に該当すると認めた。このような差別行為であれば条約に基づき、損害も高額になるという判断も示した。

在特会側の街宣活動は、学校が隣接する公園を、管理者である京都市の許可を得ないまま運動場として使っていることを非難するものだった。しかし判決は、事実を示す内容が含まれていたとしても、在日朝鮮人に対する差別意識を世間に訴える意図があることは明らかで違法とした。演説も公益目的のない侮蔑的発言としか考えられないと述べ、「政治的意見を述べる自由は保護される」という在特会側の主張を退けた。

表現の自由は基本的人権の中でも重要な権利であり、デモによる意見表明は尊重されるべきだ。しかし、ヘイトスピーチは、攻撃の対象となる在日韓国・朝鮮人らの尊厳を傷つけ、外国人に対する偏見と排外主義的な感情も助長しかねない。

韓国や中国では、日本でのデモなどの様子がネット上で紹介され、反日感情を刺激している。一部の人たちの言動が日本と韓国や中国との関係悪化を助長することは避けなければならない。

日本も加盟する人種差別撤廃条約にはヘイトスピーチに対する処罰規定がある。ヨーロッパなどには刑事罰を科す国もあるが、日本はその部分を留保している。新たな法規制をすれば、表現の自由をおびやかし、行き過ぎた言論統制を招く恐れがあるためだ。判決は現行法でもヘイトスピーチに対応できることを示した。

判決は、人種や民族などの違いに基づく差別は許されないという常識を改めて強調した。個人の尊厳を傷つける言動はいけないという社会的合意を広げていくことが大切だ。教育の場などを通じて人権感覚を育てる取り組みを充実させたい。

読売新聞 2013年10月09日

ヘイトスピーチ 民族差別の言動を戒めた判決

民族差別をあおる侮蔑的な街頭宣伝は不法行為にあたる――。常識的な司法判断と言えよう。

京都市の朝鮮学校周辺で街宣活動を繰り返した「在日特権を許さない市民の会」(在特会)と会員らに対し、京都地裁が計約1200万円の損害賠償などを命じた。

在特会側は、朝鮮学校が無許可で近隣の公園を使用したことを非難し、街宣は公正な論評や意見表明だと主張してきた。

判決によると、街宣では「ゴキブリ」「朝鮮人を日本からたたき出せ」などと叫んだ。地裁が意見表明とは見なさず、「差別的発言」と判断したのはもっともだ。

判決は、在特会側の言動を「人種差別撤廃条約が禁じる人種差別に該当する」とも断じた。高額賠償は、朝鮮学校が被った名誉毀損(きそん)、業務妨害に加え、民族差別の実態を深刻にとらえた結果である。

在特会は、東京や大阪で、在日韓国・朝鮮人の排除を訴えるデモの中心となっている。ヘイトスピーチ(憎悪表現)と呼ばれる。

デモ参加者の言動は昨夏ごろから一層過激になったとされる。韓国の指導者が竹島を訪問したり、いわゆる従軍慰安婦問題で日本政府を批判したりして、日韓の緊張が高まった時期に重なる。

最近は、在特会側のデモに反発する集団との間でトラブルが発生し、逮捕者も出ている。

こうした感情のぶつけ合いからは、憎しみしか生まれまい。偏狭なナショナリズムに陥らず、冷静な対応が求められる。

一方で、ヘイトスピーチの規制には、慎重な配慮が必要だ。朝鮮学校を運営する特定の学校法人の請求を認めた今回の判決についても、不特定多数に向けた言動の規制に結びつけてはならない。

人種差別撤廃条約は、差別の扇動などを法律で規制するよう締約国に求めている。欧州などでは処罰法を制定している国もある。

だが、ナチスによるユダヤ人虐殺の記憶が色濃い欧州と日本では、歴史的背景が大きく異なる点に留意せねばならない。

日本政府は憲法が保障する「表現の自由」に抵触しかねないとして、法規制を留保している。

法で規制した場合、合法と違法の線引きは難しく、公権力による恣意(しい)的な運用を招く恐れがある。正当な言論活動を萎縮させる可能性も否めない。法規制に慎重な政府の立場は堅持すべきだ。

刑法の名誉毀損罪など、現行法令を適用し、行き過ぎた行為を抑えるのが現実的な対応だろう。

産経新聞 2013年10月09日

ヘイトスピーチ 正当な批判と侮蔑は別だ

批判すべきなら、普通の言葉で、堂々とすればいい。ことさらに憎しみをあおるような発言は、批判や意見とは、まったく異なる。

朝鮮学校周辺で差別的発言を繰り返す街宣活動などを行った団体やメンバーらに、京都地裁は損害賠償などを命じた。

街宣活動では特定の国籍や民族などへの偏見を持つ、いわゆるヘイトスピーチ(憎悪表現)が繰り返されていた。

問題となった街宣活動は「在日特権を許さない市民の会」(在特会)などのメンバーらが京都市の朝鮮学校に対して行い、示威活動の映像をインターネット上にも流していた。

朝鮮学校が隣接の児童公園に朝礼台を置くなど不法占拠していることへの抗議を名目として始めたものだという。だが繰り返されたシュプレヒコールは、判決で言及されたものだけでも「朝鮮人を保健所で処分しろ」「日本からたたき出せ」など聞くに堪えない言葉が並んでいた。

街宣活動は朝鮮学校の授業中などに執拗(しつよう)に行われ、悪質だとして刑事事件にもなっていた。メンバーらの一部が授業を妨害した威力業務妨害容疑などで逮捕され、有罪判決を受けている。

判決は、街宣活動で繰り返された侮蔑的発言を国連の人種差別撤廃条約が禁止する「人種差別に該当し違法」だと認定した。

損害賠償額も約1200万円と高額にした。在特会側は街宣活動の発言を「意見の表明」などと主張したが、判決は「侮蔑的な発言(いわゆる悪口)としか考えられない」と断じ、「公益目的とはとうてい認められない」と違法性を厳しく指弾した。

憲法が保障する「表現の自由」との兼ね合いを問題視する声もある。だがこれは、それ以前の問題である。

ヘイトスピーチについては今年5月の国会審議で、安倍晋三首相は「結果として自分たちを辱めている」と指摘し、「日本人は和を重んじ、排他的な国民ではなかったはずだ」と述べた。

その通りだ。

中国や韓国の反日デモでは、多くの日の丸が焼かれた。侮蔑的な言動もあったが、その多くは放置された。日本と日本人は国内で、あらゆる国や民族へのそうした行為を許さない。そういう存在でありたい。

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