TPP交渉 政府の独断専行は困る

朝日新聞 2013年10月09日

TPPと日本 世界見すえた主張を

環太平洋経済連携協定(TPP)をめぐるインドネシアでの会合が終わった。

交渉を主導する米国のオバマ大統領は首脳会合を欠席し、「年内妥結」という目標の達成は一層厳しくなった。一方、日本では関税の撤廃・引き下げへの議論が熱を帯びてきた。

関税のあり方は主要テーマの一つであり、各国間の対立は激しい。と同時に、TPP交渉全体の行方は、難航している「新たなルール作り」の成否にもかかっている。

具体的には、医薬品の特許強化の是非などが争点の「知的財産」、経済活動を優先するあまり自然破壊を招かないようにする「環境」、国有企業が民間より優遇されるのを改める「競争政策」などである。

いずれも米国を中心とする先進国と、ベトナムやマレーシアなど新興国との利害が激しく対立している。今回とテーマは違うが、世界貿易機関(WTO)のドーハ・ラウンドが頓挫したのと同じ構図だ。

ここをどう乗り越えるか。その決着ぶりが今後、世界の通商交渉で基準になっていく可能性は小さくない。

日本政府はこの点を自覚し、世界を意識した主張をしてほしい。2国間での関税撤廃交渉への効果を期待して米国に追従するだけなら、情けない。

たとえば、新薬の特許をめぐる問題である。

米国政府は、自国の有力製薬会社の要求を受けて特許期間やデータ保護期間の延長を求めているが、新興国の反発は強い。特許などが切れてから作る後発薬が減りかねないためだ。

貧しい人たちも十分な医療を受けられるようにするには、安い後発薬の普及がカギとなる。米国をたしなめることが日本の役回りだろう。米国内でも貧困支援のNPOなどには、製薬会社への批判が根強い。

「環境」や「競争政策」では、先進国としての日本の立場は米国と共通する。

かたや、新興国にとっては、一気に先進国並みの環境保護を求められたり、数多い国有企業の手足を急にしばられたりすると、混乱が大きい。

激変を避けつつ、確かな道筋をつけられるかどうかが問われよう。日本は公害という負の歴史を抱え、公社などを民営化した経験も豊富である。アジアの一員としても、橋渡し役としての出番は多いはずだ。

国内では、TPPへの関心が農産物の関税問題に偏りがちだが、政府はルール作りにもしっかりと向き合ってほしい。

毎日新聞 2013年10月09日

TPP首脳会合 早期妥結の先導役担え

環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉の首脳会合は、年内妥結を目指すことで一致した。

推進役のオバマ米大統領が欠席したことで、声明に「大筋合意」という表現は明記できなかった。しかし、交渉の実態は元々「合意」からはほど遠かった。TPPは日本にとって重要な経済連携協定だ。政府は国内調整に意を尽くしながら、早期妥結の先導役を果たすべきだ。

首脳会合が当初、「大筋合意」を目指した背景にはTPP進展で来年秋の中間選挙に弾みをつけたいというオバマ大統領の思惑があった。その大統領の欠席で、交渉の推進力は損なわれたものの、年内妥結を目指すという最終的な目標は堅持した。

しかし、その目標の達成も危ぶまれているのが実態だ。焦点である農産品などの関税分野をはじめ、医薬品等の特許期間等に関する知的財産分野などで各国の利害は激しく対立している。早期妥結を目指す米国と国内事情を優先する新興国との温度差も広がりつつある。

このまま早期妥結の機運が失われ、交渉がずるずると長期化する事態は避けなければならない。人口が減少している日本が成長するためには、アジア・太平洋地域の活力導入が欠かせない。この地域の貿易・投資ルールを決めるTPP交渉の成功は決定的に重要だ。

TPPは日中韓自由貿易協定(FTA)や東アジア地域包括的経済連携(RCEP)などにも影響するだろう。それらの自由貿易交渉には中国も参加する。中国を高いレベルの自由経済圏に取り込むためにも、早期に決着させたい。

参加国中、米国に次ぐ経済大国である日本の役割は大きいはずだ。しかし農産品5項目を「聖域」として守りに徹していては期待に応えられない。5項目には計586の貿易品目が含まれる。すべての関税を維持するとTPPが目指す自由化率には到達しそうもない。「開国」を迫られる立場では議論は主導できない。

その意味で、自民党幹部が生産者への影響が少ない貿易品目の関税撤廃も視野に国内調整に入る考えを示したことは、政府を後押しするものとして評価できる。「聖域確保」を掲げた参院選公約との整合性を説明する責任はあろうが、国内調整が進めば政府の交渉カードは増え、存在感も高まるはずだ。

農業の競争力強化など国内対策に本腰を入れる契機にもなる。主食用のコメの輸入を初めて容認した関税貿易一般協定(GATT)ウルグアイ・ラウンドでは国内対策が後手に回り、約6兆円の国費をつぎ込んだが農業強化にはつながらなかった。その失敗を繰り返してはならない。

読売新聞 2013年10月09日

TPP首脳声明 交渉加速へ「聖域」絞り込みを

日米など参加国が目標にしてきた「大筋合意」は見送られた。年内妥結への道は険しく、戦略立て直しが課題だ。

12か国による環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の首脳会合がインドネシアで開かれ、首脳声明を採択した。

首脳声明は、「包括的でバランスの取れた協定を年内妥結するため、残された困難な課題の解決に取り組む」と強調した。

12か国は当初、年内決着に向け、インドネシアで大筋合意するシナリオだったが、知的財産権や競争政策などを巡って、米国と新興国の対立が解けなかった。関税撤廃の交渉も棚上げされた。

大筋合意の断念は、複雑に利害が絡む交渉の難しさを浮き彫りにした。推進役であるオバマ米大統領の突然の欠席も、交渉の勢いを減退させた一因だろう。

今後の焦点は、交渉を加速できるかどうかである。

安倍首相が「アジア太平洋の大きな自由経済圏の第一歩にしなければならない」と述べたのはもっともだ。アジアの活力を取り込み、成長に弾みをつけたい。

避けて通れないのは、自民党が関税撤廃の「聖域」として求めているコメ、麦、乳製品など農産品5項目の扱いだ。

同党の西川公也TPP対策委員長が、「(関税維持対象から)抜けるか抜けないかを検討する」と述べたことで、党内の一部や農業団体などが反発している。

だが、聖域の精査は、日本として当然の対応ではないか。

TPPでは関税撤廃を原則としながらも、全貿易品目のうち関税を撤廃する割合を示す自由化率が議論されている。日本は90%台後半を求められる可能性が高い。

農産品5項目は関税分類でコメ58品目など計586品目あるが、これらをすべて維持すれば、自由化率は93・5%にとどまる。

交渉加速に備え、586品目の「聖域」を絞り込まないと、交渉力も十分に発揮できまい。優先的に何を守り、何を譲ることが国益に資するのか。政府は具体的な検討を急がねばならない。

守るだけでなく、知財で新興国市場を攻略するなど、攻めの姿勢を強化することも重要だ。

東アジア包括的経済連携(RCEP)も動き出し、より広いアジア太平洋自由貿易地域(FTAAP)作りが将来の目標になる。

韓国に経済連携で出遅れた日本は、貿易自由化を主導して挽回しなければならない。複数構想を使い分ける交渉力が問われる。

産経新聞 2013年10月09日

TPP首脳会合 早期妥結へ日米が主導を

インドネシアのバリ島で開かれていた環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)首脳会合で、年内の妥結に向けて困難な課題に取り組むとの声明を採択した。

首脳会合が当初目指した個別交渉の決着の道筋を示す「大筋での合意」には至らなかったが、日米協調でTPPを早期にまとめ上げ、貿易・投資のルールづくりを主導してほしい。

交渉の難航は、米オバマ大統領の首脳会合欠席も響いた。米国では議会の対立で新年度予算の成立が遅れ、政府機関が一部閉鎖に追い込まれている。

会合の議長を務めるはずだった大統領が混乱を収拾するために出席できず、交渉のリード役を欠くことになったのは残念だ。

日米など12カ国が参加するTPP交渉は年内妥結が目標だが、難航必至の関税撤廃交渉が控えるなど、最終的な決着の姿はみえていない。このため、今回の首脳会合で大筋合意にこぎ着け、年内妥結に弾みをつける予定だった。

今回の声明では、「交渉はここ数カ月で大きく進展し、交渉が完了に向かっている」と強調した。会合に出席した安倍晋三首相も「年内妥結に向けて大きな流れができた」と述べた。

だが、米国と新興国の間では、国有企業への補助や、特許の保護期間延長を定める知的財産権などで対立が激しくなるばかりだ。現状では年内の妥結は難しい。

米国も新興国に自らの要求を押しつけるばかりでは、交渉がまとまらないことを自覚すべきだ。全体の利益を見据えた姿勢を示さねばならない。

日本も聖域としてきたコメや麦など、農産物の「重要5品目」をめぐる関税を含め、柔軟な交渉姿勢で臨む場面も必要となろう。国益とのバランスを考え、ねばり強く協議にあたるべきだ。

今回のTPP首脳会合は、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせて開催され、APEC参加国などとの連携も確認した。中国や韓国もTPP参加に意欲を示している。

アジア太平洋地域で自由貿易を推進するTPPは、海外市場の開拓を目指す日本の成長戦略にとっても欠かせない。そのためにも日本は交渉の妥結に向けて、米国から譲歩を引き出すなど、その存在感を発揮するための知恵を出してほしい。

毎日新聞 2013年10月04日

TPP交渉 政府の独断専行は困る

環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉は、8日の首脳会合で「大筋合意」する公算が大きい。ところが、参加国間の秘密保持義務もあって、交渉の実態はほとんど表に出てこない。

国内にはTPPを巡ってなお、根強い不安がある。アジア・太平洋地域の貿易・投資ルールを決める交渉であり、国民の生活や経済活動に大きな影響を与えるからだ。大筋合意は、大きな節目といえる。政府の独断専行は認められない。

交渉は2日までの首席交渉官レベルに続いて6日まで閣僚会合を行い、7、8両日の首脳会合で大筋合意を目指す。もっとも、焦点である関税分野や医薬品の特許期間等に関する知的財産分野など、各国の利害対立が深刻なために本格交渉が今後に持ち越されそうな分野も多い。その意味で今回は、あくまで各国首脳が最終合意への決意を確認し合う意味合いが強いようだ。

それでも首脳同士が「合意」する意義は大きい。日本政府は交渉参加に際して、「国益を損なう場合は離脱できる」と説明してきた。しかし、参加12カ国中で米国に次ぐ経済大国である日本が離脱する影響は大きい。「合意」後に離脱する選択肢は事実上、取り得ないだろう。

一方で、国民の間には農業はじめ医療保険制度や食の安全への悪影響、外国に進出している企業がその国の政府を訴えられる「ISDS条項」の乱用などを心配する声が根強く残っている。

ところが、交渉に参加して以降、政府からそうした不安に応える情報はほとんど出ていない。閣僚会合に先立って甘利明TPP担当相は「攻め込まれたら『倍返しだ』という場面もあろうかと思う」と述べた。しかし、「倍返し」の決意で何を攻め何を守るのか、基本的な戦略は明らかにしていない。

与党自民党などはコメ、麦、乳製品などの農産5項目を「聖域」として、その関税を守り抜くよう求めている。政府は「最大限の国益を追求する」という方針は示しているものの、何が「国益」なのか、国民には判然としないままだ。

確かに、秘密保持義務の壁はある。各国の思惑が交錯する外交交渉で、手の内をさらすわけにはいかないことも理解できなくはない。

しかし、今回の首脳会合で「大筋合意」を目指す背景には、来年秋に中間選挙を控える米オバマ政権が、経済政策での実績を強調したいという政治的な思惑がある。

何の説明もなしに合意し、対米追従との批判を受けては、今後の交渉にも支障が出るはずだ。政府に国民の理解を得る努力を求めたい。

読売新聞 2013年10月06日

TPP交渉 前途に影落とす米大統領欠席

年内妥結へ道筋を付けられるかどうか、不透明である。オバマ米大統領の欠席が交渉に影を落とすのは避けられまい。

日米、豪州、カナダなど12か国が、インドネシアで8日開く環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の首脳会合に、オバマ大統領が欠席する。

大統領は年内妥結を最優先課題に掲げ、インドネシアでの「大筋合意」を目指してきた。だが、議会の与野党対立で新年度予算が成立せず、政府機能の一部停止に追い込まれたため、外遊を断念せざるを得なくなった。

首脳会合の議長を務め、交渉を主導するはずだった大統領の不在は、予想外の展開と言える。

首脳会合の前哨戦としてインドネシアで開かれている閣僚会合では、米国と新興国の対立が改めて浮き彫りになってきた。

「知的財産権」について、米国が新薬特許の保護強化を求めているのに対し、特許切れ後の安価な後発薬が普及するマレーシアなど新興国は反発を続ける。

米国などが新興国による国営企業への補助金を禁止し、民間企業との対等の条件を求めた「競争政策」も膠着(こうちゃく)状態だ。

一方、「環境」で米国が要求した漁業補助金の原則禁止については、これに反対していた日本の主張が容認される方向という。

米国が強硬姿勢で臨んでも、支持が広がらなければ、米国ペースで決着できないことを示す。

今回、最大の焦点である関税撤廃交渉が先送りされるのも、前途多難を予感させる。

通関手続きの簡素化など、各国が一致できた点を中心に「大筋合意」にこぎつけたとしても、難航分野や争点を外した内容では、真の大筋合意とは言えない。

自民党はコメ、麦など農産品5項目を関税撤廃の聖域とするよう主張している。いずれ、日本の農業分野の市場開放を米国などから強く求められる見通しだ。

政府は関税をなくす品目の割合を示す自由化率を90%超とする方向で模索しているが、ギリギリの攻防はこれからだろう。

無論、守勢に立つだけが日本の国益ではない。アジアの活力を取り込み、成長に弾みをつける戦略を練る必要がある。自由化する品目の国内調整や、農業の競争力強化策も急がねばならない。

早期決着を焦る米国から日本が譲歩を引き出したり、米国と新興国の対立を仲裁したりして、したたかに交渉する好機でもある。日本は存在感を示したい。

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