防衛指針改定へ 日本がより責任果たす同盟に

朝日新聞 2013年10月05日

防衛指針改定 日米にずれはないか

日米の外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)が東京であり、日米防衛協力のための指針(ガイドライン)を来年末までに見直すことで合意した。

ガイドラインは旧ソ連の侵攻に備え78年、最初につくられた。冷戦後の97年、朝鮮半島有事などを念頭に周辺事態の概念を盛り込んで改定された。

今回の再改定の動きは、中国の軍備拡張をにらみ、日本側が求めて実現した。これまでと意味合いが大きく違うのは、日本が、集団的自衛権の行使をめぐる憲法解釈の変更を反映させようとしている点だ。

過去2回のガイドラインづくりでは、憲法9条と対米協力の整合性をギリギリの線で図ってきた。それを安倍政権は一気に踏み越えようとしている。

実現すれば、専守防衛を掲げてきた日本の安全保障政策の大転換となる。

ガイドラインの再改定をテコに集団的自衛権の行使容認を推し進めてはならない。

憲法解釈の変更が決まってもいないのに、米国との間で見直しに触れるのは、ものの順序が逆ではないか。見直しに慎重な国内世論より、対米協力を重視するかのような進め方はおかしい。

米側は2プラス2で、集団的自衛権をめぐる動きを「歓迎する」と表明した。しかし、それは(1)日本自身が決定する(2)周辺国の理解を得る努力をする――ことが前提となっている。

米国には中国とやみくもに対立する意図はあるまい。静かに抑止力を高めつつ、経済などで中国との協力を模索している。

2プラス2で、米側は尖閣問題への直接の言及を避け、米国の後ろ盾を強調する日本側との対中認識のずれがあらわになった。日本の強硬姿勢がそのギャップを広げる可能性もある。

一方、自衛隊が敵のミサイル基地をたたく「敵基地攻撃」には触れなかった。自衛隊は「盾」、米軍は「矛」という役割分担を見直す日本側の動きだが、日本が海外への攻撃力を持つことになれば、隣国の韓国の反発を招きかねない。

むしろ米国が望むのは、日米韓の防衛協力の着実な進展だろう。2プラス2の直前、在韓米軍高官が憲法改正をめぐる安倍首相の発言などを指して「この地域の役に立たない」と批判した。本音ではないか。

米国は来年の環太平洋合同演習(リムパック)に初めて、中国軍を招待する。日米同盟の強化は、中国、韓国を含めた地域の多国間関係のなかで、緻密(ちみつ)に検討する必要がある。

毎日新聞 2013年10月04日

日米防衛協力 新思考の同盟像を探れ

日米同盟は大きな試練を迎えている。米国は日本に対して日米同盟の枠組みでもっと大きな役割を果たすよう求め、安倍政権は防衛費の増額や、集団的自衛権の行使容認を目指すことで、応えようとしている。経済的にも軍事的にも、中国が台頭し米国の力が相対的に低下していることや、米国の財政難が背景にある。

日米両政府が3日、東京都内で開いた外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)は、こうした環境下で行われた。有事の際などの自衛隊と米軍の役割を定めた日米防衛協力の指針(ガイドライン)を1997年以来、再改定し、2014年末までに策定することや、沖縄の負担軽減策に合意した。

日本側から岸田文雄外相、小野寺五典防衛相、米側からケリー国務長官、ヘーゲル国防長官が出席し、東京に4閣僚がそろうのは初めてという歴史的な会合となった。

北朝鮮の核・ミサイル開発の進展に加えて、中国は軍備拡張を続け、沖縄県・尖閣諸島など南西諸島周辺や南シナ海で海洋進出を活発化させている。サイバーや宇宙空間の協力など新たな分野への対処もある。

厳しさを増す日本の安全保障環境を考えれば、自衛隊と米軍の役割分担を見直し、ガイドラインを再改定するのは妥当な政策判断だろう。

ただ安倍政権は、集団的自衛権の行使を容認するため憲法解釈を変更し、ガイドラインに反映させようとしている。現状では集団的自衛権に関する政府の説明はあまりに不十分で、国民の理解も進んでいない。

今回の合意文書には、日本側の働きかけにより、集団的自衛権行使の検討など安倍政権の取り組みを米国が「歓迎する」との文言が盛り込まれた。だが実際には米政府は、日本が韓国や中国との関係をさらに悪化させることへの懸念を持っている。

日米は同盟強化では一致したが、具体像となると集団的自衛権の行使をどう考えるかなど、お互い必ずしも描き切れていないようにみえる。慎重で丁寧な協議が必要だ。

同時に重要なのが、日韓両国の連携や、豪州や東南アジア地域などを含む多国間協力の強化だ。

訪日前に韓国を訪れたヘーゲル長官は朴槿恵(パク・クネ)大統領に対し、日米韓3カ国の安保協力の重要性に触れて日韓関係改善を求めた。だが大統領は「歴史や領土問題について、時代に逆行する発言をする日本の指導部のせいで信頼が形成できない」と安倍政権を批判し、日米の政府関係者を失望させた。

日本を取りまく安全保障環境を好転させるには、防衛力整備だけでなく外交力の活用が不可欠だ。防衛・外交を両輪に10年、20年先を見通した新思考の同盟像を探りたい。

読売新聞 2013年10月04日

防衛指針改定へ 日本がより責任果たす同盟に

「より力強い同盟とより大きな責任の共有」に向けて、日本の安全保障上の役割を拡大することが肝要である。

日米両政府は東京で、外務・防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)を開き、日米防衛協力の指針(ガイドライン)を見直すことを決定した。来年末に改定作業を完了する予定だ。

1997年策定の現行指針は、朝鮮半島などの周辺有事の際に自衛隊が米軍を後方支援する枠組みを作った。その後の周辺事態法や武力攻撃事態法の整備への道筋をつけた画期的な内容である。

有事とはどんな事態か。政府や自衛隊・米軍はどう動くか――。安全保障に関する国民の認識や議論を深めた功績も見逃せない。

最近は、北朝鮮の核・ミサイル開発の進展や、中国の軍備増強と示威活動の拡大、サイバー攻撃の脅威の増大などで、日本の安全保障環境は一段と厳しくなった。

様々な危機に日米がより迅速かつ効果的に共同対処するため、指針を見直す意義は大きい。

現行指針は、平時、周辺有事、日本有事の3分野別に日米協力を定めている。改定で重要なのは、平時から有事への事態の進展に応じ、より早い段階から柔軟に協力できる仕組みを作ることだ。

2プラス2が発表した共同文書は、集団的自衛権の憲法解釈見直しや国家安全保障会議(日本版NSC)の創設など安倍政権の安保政策への「歓迎」を明記した。

オバマ米政権の「アジア重視」国防戦略に呼応し、自衛隊の役割を拡充することは、日米同盟を強化し、抑止力を高めるはずだ。

同盟関係を補完する日本の敵基地攻撃能力の保有や、サイバー・宇宙など新たな分野での日米協力についても検討を進めたい。

共同文書は地域情勢で、中国を念頭に、「海洋分野における力による、安定を損ねる活動」「宇宙及びサイバー空間における破壊活動」に言及した。中国を名指しし、国際規範の順守や軍事面の透明性向上を促す方針も明記した。

日米両国が様々な機会に、関係国と連携し、中国に粘り強く働きかけることが大切である。

米軍普天間飛行場の移設問題に関し、共同文書は、辺野古移設が「唯一の解決策」として、実現への「強い決意」を再確認した。

日米両政府は、米軍施設・区域の返還など沖縄県の基地負担の軽減を加速し、仲井真弘多知事が辺野古移設を受け入れやすい環境整備に全力を挙げる必要がある。

産経新聞 2013年10月04日

日米2プラス2 同盟強化へ主体的役割を

日米外務・防衛閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)は、日米同盟の能力の向上、とりわけ日本の同盟上の役割拡大を打ち出した。

軍事的に台頭する中国が、尖閣諸島奪取を狙って海洋進出攻勢をかける一方、北朝鮮も核・ミサイル開発を進めている。日本周辺の安全保障環境が一段と厳しさを増す中で、この合意の重要性は極めて大きい。

日本は役割拡大を着実に実現していかねばならない。それを下支えする集団的自衛権の行使容認などの決断は待ったなしである。

今回の合意で最も重要なのは、「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)の再改定に着手すると決定したことだろう。

ガイドラインは、日本や周辺での有事に備えて自衛隊と米軍の役割分担を定めたものだ。その1997年以来の再改定は、中国の海洋活動や北の核・ミサイル脅威に備えるためにも不可欠だ。

再改定を実効性あるものにするために、集団的自衛権の行使を容認すれば、例えば、日本が攻撃されていない段階で米軍艦船が公海上で攻撃された場合でも、自衛隊が応戦できるようになる。

日米同盟の信頼性は格段に強化され、それが尖閣危機など日本有事における米軍の出動を確かなものにするだろう。同盟の抑止力向上に直結するのである。

日本は並行して、防衛予算の増額、防衛力の強化、国家安全保障会議(NSC)創設なども進めていくべきである。

決断すべきことは他にもある。防衛出動に至らない状況下であっても、自衛隊が離島を防衛できるようにする領域警備の法整備や、敵基地攻撃能力の検討も必要だ。サイバー攻撃に対処するための専守防衛政策の見直しも当然、課題となる。

アジア太平洋地域に安全保障の重点を移すという、オバマ米政権のリバランス(軍事力の再均衡)戦略には、米国防費の大幅削減などから懸念も示されている。

そうした中で、同政権がケリー国務、ヘーゲル国防の両長官を初めて東京での2プラス2に派遣し、日本防衛やアジア太平洋地域の安定に積極的に関わる意思を示した意義は大きい。

安倍晋三首相は両長官に、「日米同盟の将来の方向性を示すことができた」と述べた。後は両国による実行あるのみである。

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