消費税8%へ 増税の原点を忘れるな

朝日新聞 2013年10月02日

17年ぶり消費増税 目的を見失ってはならぬ

安倍首相が、消費税の増税を決めた。5%の税率は来年4月から8%に上がる。

97年4月に3%から5%になって以来、17年ぶりの消費増税だ。これまでは所得税などの減税とセットだったが、今回はない。金額にして8兆円余り。わが国の税制改革史上、例のない大型増税である。家計への負担は大きい。

それでも、消費増税はやむをえないと考える。

借金漬けの財政を少しでも改善し、社会保障を持続可能なものにすることは、待ったなしの課題だからだ。

「社会保障と税の一体改革」という原点に立ち返ろう。

国債を中心とする国の借金の総額は国内総生産(GDP)の約2倍、1千兆円を突破した。今年度の一般会計では、新たな国債発行が40兆円を超え、予算の半分近くに及ぶ。

最大の原因は、高齢化に伴う社会保障費の伸びだ。医療や年金、介護の財源は、保険料や窓口負担だけでは足りない。国や自治体が多額の予算を投じており、国の社会保障費は年に1兆円ほど膨らみ続ける。

将来の世代に借金のツケを回しながら、今の世代の社会保障をやりくりする――。こんなことをいつまでも続けられるはずがない。社会保障を安定させ、財政の危機を未然に防ぐには、今を生きる私たちがもっと負担するしかない。

では数多い税金のうち、なぜ消費税なのか。

社会保障による給付は高齢者向けが中心だ。お年寄りの割合は上がり続けており、所得税など働く世代の負担だけに頼るわけにはいかない。

しかも、現役組は賃金が増えないなか、子育てや教育、住宅など多くの負担を抱える。支援を強化しないと、人口減少に拍車がかかりかねない。

こうした点を考えれば、国民が幅広く負担し、税収も安定している消費税が、社会保障の財源に最もふさわしい。

あわせて豊かな人たちを対象に、所得税や相続税を強化する必要がある。格差を縮めるためにも不可欠だ。ただ、これだけで消費増税に匹敵する財源を確保するのは難しい。

政府の責任は、規制改革などで経済を成長させつつ、税金をしっかり集め、むだ遣いせず効果的に配分することだ。この三つの課題に向き合わなければ、増税への理解は得られない。

ところが、安倍政権は増税で予想される景気悪化への対策を理由に、これに反するような政策を打ち出した。

5兆円の経済対策である。

所得の少ない人の負担が重い消費増税では、低所得者への支援策が必要だ。補正予算にその費用を盛り込むのはわかる。

しかし、対策の柱がなぜ、法人税の減税なのか。

政権は、与党内の根強い反対を押し切り、法人税の減税方針を打ち出した。東日本大震災の復興費にあてる上乗せ増税を予定より1年早く今年度で打ち切ることや、その先の税率引き下げの検討を急ぐという。

企業は経済成長の担い手であり、雇用の場でもある。国際的に法人減税の競争が続いているのも事実だ。

ただ、日銀の統計では、企業(金融を除く)は現金・預金だけで220兆円も抱え込んでいる。多くの企業は、収益が上向いても使おうとしない。

まず、こうした現状を改める必要がある。安倍首相は税率引き下げをテコに賃上げを迫る構えだが、財政への影響が大きい一律減税の前に、賃金や雇用、投資を増やした企業の税負担を軽くする手立てに集中すべきではないか。

経済対策は支出面でも疑問がある。代表例が公共事業だ。

老朽化した社会インフラの更新は急ぐべきだが、公共事業が足もとの景気を支える効果に飛びつき、「金額ありき」で上積みする姿勢がありありだ。バブル崩壊後、毎年のように補正予算を組んで財政を悪化させてきた愚を繰り返すのか。

消費税の制度そのものにも課題が残る。

国民が払った税金がきちんと税務署に納められることは税制の大原則である。業者の手元に一部が残る「益税」対策を徹底することが欠かせない。

業者間の取引に、税額を明示したインボイス(明細書)を導入すべきだ。商品やサービス自体の価格と消費税分の区分けがはっきりすれば、取引時の転嫁がしやすくなり、立場の弱い中小事業者が泣き寝入りすることも減らせる。

税金は安いにこしたことはない。それでも納税するのは、政府が暮らしに必要な政策に取り組むと信じるからだ。

消費増税の目的をはき違えていないか。安倍政権は、国民の厳しい視線が注がれていることを自覚すべきだ。

毎日新聞 2013年10月05日

増税と社会保障 制度の根幹を変えよう

消費税が来年4月から8%に引き上げられることが正式に決まったが、物価に連動して年金給付は下げられ、所得が比較的高い高齢者は介護保険の自己負担も増える。これでは泣きっ面にハチだと思われるかもしれないが、税と社会保障の一体改革の意味は制度の根幹を変えることにある。国民に十分説明し着実に実行すべきだ。

社会保障の充実が一体改革の目的とされているが、消費税を10%に引き上げた時点でも充実に回せる分は1%分(約2兆5000億円)に過ぎない。毎年10兆円も借金してきた異常事態をなくすための増税というのが実情なのである。

それでも高齢化による社会保障費全体の自然増は毎年1兆円と見込まれ、一体改革は生ぬるいとの批判さえ経済界にはある。「抜本改革」が必要というわけだ。しかし、負担を増やさず制度の持続性を高める魔法のような改革は可能だろうか。ビジネスの好機をもたらすものを「抜本改革」と称し、結果として国民の健康や負担に悪影響を及ぼしはしないか、注意深く見なければいけない。

社会保障の構造やルールの変更が一体改革の肝である。現在は年齢によって給付や負担軽減の措置が取られているが、これでは高齢化が進むにつれて自動的に費用は膨張する。高齢でも所得の高い人は応分に負担するというルール変更は不可避だ。

これまで社会保障といえば高齢者が主な対象で、消費税の使途も年金と医療、介護に限定されていた。子どもに関しては児童手当や子ども手当などの現金給付はあっても、子育ては家族がやるものという考えが強く、政府による対策は著しく遅れてきた。一体改革では消費税の使途に初めて子育てを加え、1兆円規模の財源を投じて保育所の整備などに乗り出す。どんな制度を作っても経済と少子化の動向に大きな影響を受ける。支え手である次世代の育成に社会保障の軸を移す発想は重要だ。

さらには医療の構造改革である。高コストの医療機関が何もかも抱え込むのではなく、介護に委ねられるものは介護サービスに移し、地域での互助や共助まで継ぎ目のないケアを構築する。また、大学病院から診療所まで機能による役割分担を進め、貴重な医療資源を効率的に配置するため病院の再編も促す。

わが国の社会保障の歴史で初めて試みることばかりだ。負担増の批判には低所得者の負担軽減策も盛り込まれている。その分費用膨張の抑制は相殺されるが、目に見える枝葉よりも根幹の改革の意義を政府はもっと説明すべきだ。高いハードルである。政治の実行力と国民の理解がなくては乗り越えられるはずがない。

産経新聞 2013年10月02日

消費税8%決定 日本再生へ確実につなげ 成長戦略の具体化が急務だ

安倍晋三首相が消費税率を来年4月から3%引き上げ、8%とすることを正式表明した。安定的な社会保障財源の確保と財政健全化に向け、確かな一歩を踏み出した意義は大きい。

安倍首相は1日の記者会見で増税の理由について「国の信認を維持し、持続可能な社会保障制度を次の世代に引き渡すため」として国民に理解を求めた。

景気への影響を懸念し、増税先送りを求める声は政府内にもあった。その中で、ぶれずに法律通りに増税の実施を決断した安倍首相の姿勢を支持したい。

消費税増税は17年ぶりとなる。日本は今、デフレから脱却し「失われた15年」を埋める過程にある。安倍首相は増税による景気の落ち込みを防ぎ、日本経済を上向かせる成長戦略の具体化を急ぐことが必要だ。増税による財政再建と成長は「日本再生」のために、どちらも欠かせない。

≪政治も身を切る覚悟を≫

一方で、国民に増税という負担を求める以上、政治も自ら身を切る覚悟を示すべきだ。予算削減などを通じた政府のスリム化を図ることも必要だ。安倍首相は選挙制度改革を通じた定数削減などを主導し、増税への国民の理解を求めてほしい。

日銀がまとめた9月の短観で、企業心理の大幅改善が確認された。今年4~6月期の実質国内総生産(GDP)も年率3・8%増に上方修正され、堅調な個人消費に加えて設備投資もプラスに転じた。来年4月の増税実施に向け、景気は着実に回復傾向にあるとの判断は妥当だ。

増税の目的は言うまでもない。高齢化に伴って増加が続く社会保障財源について、税収が景気に左右されにくい消費税の税率引き上げで確保することだ。

税収と同じ規模の国債発行に頼る、借金頼みの財政運営には決別しなくてはならない。

財務危機に見舞われた欧州をみても、財政に対する市場の信認を失えば国債価格は暴落し、金利は急騰する。そうなれば景気を直撃し、国の予算編成にも支障が生じる。持続可能な財政は国の成長を支える基盤と認識すべきだ。

その意味でも国際公約となった消費税増税の実施は、安定的な経済成長を果たす日本再生に舵(かじ)を切る意思表示と受け止めたい。

ただ、すでに政府の債務残高が1千兆円を超え、財政再建は増税のみでは達成できない。消費税を法律通りに平成27年10月に10%に再び引き上げても、国と地方の基礎的財政収支を32年度に黒字化させるとの政府目標はクリアできない。厳しい歳出削減にも同時に取り組む必要がある。

とくに、高齢化で膨張が続く社会保障費への切り込みは待ったなしだ。現行制度をこのまま続ければ、高齢化などの影響で年1兆円規模で必要な予算は増える。これを放置していては、財政健全化の道筋は描けない。社会保障制度改革国民会議が示した改革案の具体化を急いでほしい。

増税対策で検討するとした復興特別法人税の前倒し廃止は、日本経済に活力を与えることを目指すものだ。

被災地の復興財源の確保は当然だが、これによって税負担が軽減される企業は、積極的な設備投資や賃金引き上げなど、日本経済の成長に資する責務があることを忘れてはならない。

≪バラマキは許されない≫

消費税増税に伴う低所得者対策では、住民税の非課税世帯を対象に1人あたり年間1万~1万5千円を支給するという。増税の影響を強く受ける低所得者層への配慮は必要だが、単なるバラマキは許されない。

低所得者対策は、やはり軽減税率の導入を軸とすべきだ。

コメ、みそなど基礎的な食料品や新聞・雑誌などに消費税負担を抑える軽減税率は透明性が高く、低所得者に恩恵が広く行き渡る。欧州では付加価値税(消費税に相当)の税率が20%前後だが、生活用品を広く軽減対象と認めることで高い税率に国民の理解を得ている。日本も導入すべきだ。

産経新聞とFNNが9月実施した世論調査によると、来年4月から予定通りの消費税増税の実施を「支持する」と答えた人は、3分の1にとどまった。

生活に直結する消費税増税に反対する声は根強い。これからも丁寧な説明が欠かせない。

毎日新聞 2013年10月02日

消費税8%へ 増税の原点を忘れるな

安倍晋三首相が消費税率を来年4月から8%に引き上げることを表明した。

私たちは、増大する社会保障費と危機的な財政をふまえ、消費増税は避けて通れない道だと主張してきた。現在の経済状況を考慮しても、先送りする事情は見当たらない。昨年の自民、公明、民主各党による「税と社会保障の一体改革に関する合意」と、その後の関連法成立に沿った首相の判断は妥当と言える。

増税によって、社会保障の持続可能性は高まり、財政を健全化していく第一歩となる。その結果、国民、とりわけ若い世代が抱く将来への不安がやわらぎ、不透明感が解消されていくことも期待される。

しかし、これだけでは不十分である。政治が、民間が取り組まなくてはいけない課題は多い。すぐにでも、取りかかる必要がある。

安倍政権はこの2、3カ月、経済状況をみて引き上げを実施するかどうかを判断するという「景気条項」に基づいて、対応が揺れた。結局、景気への悪影響を抑えるとして、公共事業をふんだんに盛り込んだ5兆円規模の「経済対策」と、復興特別法人税の「前倒し廃止の検討」を決めた。

景気を考えた何らかの対策は必要かもしれない。だが、それを口実に政権や党の支持基盤強化につなげようと公共事業のばらまきなどに走るのは、国民の痛みにつけこむもので、何のための増税かわからない。

そんなことに精力を傾け、理屈付けに躍起になる前にやるべきことがある。

まず、増税と表裏の関係にある安心できる年金、医療、介護などの具体化だ。社会保障制度改革国民会議がまとめた改革策は、年齢を軸にした現行制度を見直し、所得に応じた負担と給付への転換を打ち出した。「抜本的な制度見直しは棚上げ」との批判もあるが、子育て支援策の充実などは評価でき、政治的困難さを克服して着実に実行に移してほしい。不備や課題は、そうした中で柔軟に対処していけばいい。

増税による財政のゆとりは、こうした社会保障策の充実にのみ使うのは言うまでもない。それが税率引き上げの原点である。

しかし、8%では借金の穴埋めにも不十分であり、2015年10月に予定通り消費税率を10%に引き上げる判断を迫られるだろう。持続的な社会保障制度の構築に責任を持ち、原点を守るうえで、それは当然の政治的決断と言える。

第二に、弱者への配慮は、さらに手厚くすべきだ。逆進性の強い消費税の増税は、経済的に苦しい人に強いしわ寄せが及ぶ。所得が低い層への効果的な対策に知恵を絞らなくてはならない。

そのためにも食品など生活必需品の税率を低く抑える軽減税率の導入を急がなくてはいけない。すぐに制度設計に取り組むべきだ。

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