化学兵器決議 シリア和平への弾みに

毎日新聞 2013年09月29日

化学兵器決議 シリア和平への弾みに

国連安保理がシリアに化学兵器の全廃を義務付ける決議を全会一致で採択した。2年半に及ぶ内戦下、初めて安保理常任理事国(米英仏露中)が足並みをそろえた形である。だが戦闘はなお続き、数百万人が国内外で避難生活を送る。決議を弾みに、国際社会は和平会議の早期開催と内戦収拾に努めるべきである。

シリア混迷の一因は、新孤立主義といわれるほど米オバマ政権が紛争への関与を避け、「世界の警察官」の座からはっきりと降りる意思を示したことだ。他方、米国の影響力も関心も薄れた中東では、独裁体制への抗議活動(アラブの春)が次第に過激化しながら広がり、シリアに至って大詰めを迎えた感がある。

ロシアや中国にとって米国の影響力低下は悪いことではないが、イスラム主義の高揚や宗派対立は歓迎できない。多数のイスラム教徒が住む両国にも「春」が飛び火する可能性があるからだ。両国がシリア関連の安保理決議案に3回も拒否権を使った裏には、シリア情勢の波及を避けたい気持ちもあっただろう。

シリアは、アサド大統領自身が言うようにイスラム教の宗派や民族が入り組む「断層の国」だ。アラウィ派(イスラム教シーア派の一派)を基盤とするアサド政権が倒れれば、多数派であるスンニ派主導の政権が誕生する可能性が高い。だが、すんなり新政権ができればいいが、ソ連軍撤退後のアフガニスタンがそうだったように、今度は別の構図で内戦が始まる恐れがある。

これは米国も避けたいシナリオであり、米露それぞれの思惑で手を打ったのが「シリアの化学兵器の廃棄」だったのだろう。決議によると、シリアが義務を怠れば、国連憲章第7章による措置(武力行使など)を検討できるが、実際には来年前半の廃棄期限まで米国は見守るしかなさそうだ。しかも武力行使には新決議を必要とする。事実上、米国もアサド政権の存続を認めたと見える点で、ロシアは大きな得点を稼いだ。

だが、大国の駆け引きはともかく、シリアの一般庶民にとって、悲惨な現実は何一つ変わっていないことを再認識すべきである。シリアが化学兵器禁止条約に加入し、1000トン以上とされる同国の化学兵器が全廃されるのは意義深い。廃棄の技術を持つ日本が協力する余地もあろう。

ただ、最も重要なのは戦闘停止だ。決議には、アサド政権と反体制派の代表が参加する和平会議の早期開催や移行政府の樹立も盛り込まれた。これを歓迎し、潘基文(バン・キムン)国連事務総長が言った通り和平会議が11月に開かれるよう期待したい。開催が遅れれば、それだけ内戦の死者と難民が増えていくことを忘れてはなるまい。

読売新聞 2013年10月01日

シリア化学兵器 安保理決議の実効性を示せ

国際社会が結束してシリア内戦収拾に取り組む第一歩である。化学兵器の一掃へ決議の実効性を示すことが重要だ。

国連安全保障理事会がシリアに、化学兵器の製造や移動を禁じ、来年前半までにすべての化学兵器を廃棄するよう求める決議を採択した。

シリア内戦を巡って、安保理では、米国や英仏の主導によりアサド政権を非難する決議案が3度提出されたが、政権を支えるロシアや中国の拒否権行使でいずれも阻まれてきた。

シリア政府に特定の行動を義務付ける安保理決議が、露中も同意して採択されたのは初めてだ。決議の持つ意義は重い。

ただ、一連のシリア外交で、最も指導力を期待されたオバマ米大統領の政策は一貫性を欠いた。結果として、アサド大統領の延命を図るロシアに主導権を取られてしまった。

8月に化学兵器攻撃が発覚した際、オバマ氏はシリアに懲罰的な軍事攻撃を行う方針を表明した。にもかかわらず、米議会による攻撃承認のメドが立たぬうちに、化学兵器廃棄を求めるロシアの提案を受け入れ、攻撃を見送った。

今回の決議は、アサド政権が違反した場合、経済制裁や軍事行動を定めた国連憲章第7章に基づく強制措置をとるとしている。米国などの主張を反映したものだ。

だが、第7章の措置を実行するには新たな決議が必要とみられ、実際には、ロシアの意向が今後も鍵を握ることになろう。

シリアにある化学兵器は、約1000トンと言われ、国内各地に分散して保管されている。内戦下の査察や廃棄の作業には、極めて大きな困難が伴うと懸念される。

決議を受けて、化学兵器禁止機関(OPCW)は今月から査察を開始し、11月中旬までに廃棄の手段や場所を決める予定だ。

わずか9か月程度で完全廃棄という目標を達成するためには、OPCWの要員、資金、装備などを一層増やす必要がある。日本も協力を惜しむべきでない。

決議は、アサド政権、反体制派、関係国の代表が和平を協議する国際会議の早期開催も呼びかけた。潘基文国連事務総長は、11月中旬の開催を目指すとしている。

シリア内戦の犠牲者は10万人を超えた。化学兵器攻撃による死者はその一部に過ぎない。人道上の悲劇をこれ以上看過してはなるまい。国際会議を通じて停戦を実現し、内戦終結に向けた道筋をつける努力が世界に求められよう。

産経新聞 2013年10月03日

シリア査察 内戦終結こそが最重要だ

シリアの化学兵器全廃に向け、化学兵器禁止機関(OPCW)による査察活動が始まった。

廃棄を義務付けた国連安保理決議は、2年半に及ぶシリア内戦への初の拘束力を持つ内容で、全会一致で採択された。常任理事国(米英仏露中)が足並みをそろえ、国際社会が結束した意味合いは大きい。化学兵器の使用、拡散を封じると同時に、これを内戦終結への第一歩とすべきだ。

シリアの化学兵器の国際管理下での全廃は、アサド政権の後ろ盾であるロシアが米国の軍事介入を嫌って提案した。

決議によると、シリアは来年半ばまでに化学兵器を全廃し、不履行の場合、国連憲章7章に基づく措置(経済、武力制裁)を講じるとされている。その場合には新たな決議を必要とすることで、米国などとロシアが折り合った。

仮に不履行が濃厚になった場合、ロシアは制裁、武力行使回避のため、新決議作りに難色を示したり、拒否権をちらつかせたりすることがあってはならない。化学兵器全廃の提案者として責任を貫いてもらいたい。廃棄を進めるため、オバマ米大統領も軍事圧力を緩めるべきではない。

OPCWは査察団の先遣隊20人をシリア入りさせた。内戦下での査察活動は大きな危険を伴う。シリア政府は「決議順守」を繰り返し強調している。査察団の身の安全を保証するのはもとより、化学兵器の偽りのない詳細なリストを提出し、生産設備、保管場所を明らかにするなど、廃棄に全面協力しなければならない。

シリアでは通常兵器による戦闘が続いている。化学兵器が使われなくても、内戦の惨状は変わらない。死者は増加の一途で11万人を超えたとの指摘もある。内戦を終わらせることが安保理の責務だ。国際社会は内戦収拾に可能な限り協力しあうことが必要だ。

政府側、反政府側、関係各国による国際会議の開催が急がれる。サウジアラビアやカタール、トルコは、支援している反政府側を交渉のテーブルに着かせるよう影響力を行使してもらいたい。

安倍晋三首相は国連総会演説で、シリアの化学兵器全廃への支持と協力を約束した。日本はすでにシリア難民への支援を行っており、廃棄の技術提供で貢献する余地もある。和平に向けた政治的役割を模索すべきだ。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1555/