堺市長選敗北 存立基盤が揺らいだ維新の会

朝日新聞 2013年10月01日

維新の敗北 「ノー」が示したヒント

大差の敗北だった。大阪維新の会が掲げる「大阪都構想」の是非が争点となった堺市長選で、維新の候補が、都構想に反対する現職候補に退けられた。

大阪の主要選挙で負け知らずだった維新の「不敗神話」は崩れた。

同じ都構想が争点となった2年前の大阪ダブル選では、代表の橋下徹・大阪市長への「改革の期待」が得票を押し上げた。しかし、維新の勢いが弱まるとともに「改革への不安」が大きくなっている。

橋下代表は敗北の主な原因を、都構想を市民にきちんと説明できなかったことだと分析した。だが、そうだろうか。

大阪都構想は、大阪と堺の両政令指定都市を特別区に分割する。広域行政を「大阪都」に一本化し、思い切った政策を展開して、首都圏やアジアと競い合える都市をつくる。低迷する大阪の再生を目指して、維新が掲げた結党の原点でもある。

これに対し、現職候補は「堺をなくすな」というキャンペーンを繰り広げた。

構想に参加すれば、市は解体され、中世以来の「自治都市・堺」が消える。指定市としての財源や権限も都に吸い上げられ、住民サービスが低下しかねない。そんな主張が市民の共感を集めた。

「なくなるのは堺市役所で、堺の伝統や文化はなくならない」「堺だけで発展していける時代ではない」――維新側の反論は響かなかった。

経済成長が終わった今、自治体の財政はどこも苦しい。自分たちの税金がどこにどう使われるのか、住民の目はかつてないほど厳しくなっている。

そういうときであればこそ、住民の疑問や不安に丁寧に答えるのはもちろんのこと、場合によっては計画を見直す姿勢がなければ、大きな変革に対する共感は広がらない。

橋下代表は、大阪市での都構想実現を目指し、来秋の住民投票をめざす計画は変えない考えを示した。だが、今回の選挙は、民意にひそむ不安を浮き彫りにしたともいえる。立ち止まり、構想に欠けているものを点検するときではないか。

現職側に回った既成政党にも注文したい。

低迷する大阪の現状を打開できず、既得権益に切り込めない政党への失望が、維新への熱狂をもたらした事実を忘れてはならない。

都構想にノーなら、別の手段で打開する具体策を示さないと、民意のいらだちは再び既成政党にぶつけられるだろう。

毎日新聞 2013年09月30日

堺市長再選 橋下構想に厳しい審判

「大阪都構想」への参加の是非が争点となった堺市長選で、参加に反対する現職の竹山修身(おさみ)氏が、都構想推進を訴える大阪維新の会公認の新人を破り再選を決めた。

橋下徹大阪市長が唱える都構想にとって大きな打撃だ。このまま堺市抜きで進めるのであれば、橋下氏は住民が納得できる「大阪都」の具体像を明確に示さなければならない。

大阪都構想は元々、大阪市と堺市の2政令指定市を廃止して東京都のように複数の特別区に再編する構想だ。二重行政を解消し、広域政策を府に一元化して大阪を国際競争力のある都市に再生する狙いがある。昨年8月には都構想を実現できる法律が成立した。

ところが堺市の竹山市長は「歴史ある市の解体につながる」と協議への参加を拒否し、大阪府と大阪市だけで調整が進められてきた。維新の会は堺市長選に対立候補を擁立し、堺市も参加する道を開こうとした。

竹山氏勝利は都構想への参加は望まないという堺市民の意思表示だ。中世から国際交易都市として栄えた歴史を持つ市が特別区に分割されることへの抵抗感や、維新の会側が都構想の利点を説得力ある形で説明できなかったことが主な要因である。

橋下氏は記者会見で、引き続き大阪府・市で協議を進めると強調したが、選挙結果は大阪市民にも影響を与える。大阪都のメリットが見えてこなければ「大阪市が解体されるだけでは」という疑念が広がるだろう。

都構想実現に向けたハードルは高い。目標とする15年春に大阪都を実現するためには、14年秋までに大阪府・市の議会での議決を経て、大阪市民を対象にした住民投票で過半数の賛成が必要だ。だが、維新の会は大阪市議会で過半数を持たないだけに、このままでは住民投票にまでこぎ着けられるかも疑問だ。

維新の会は党の浮沈を握る重要選挙と位置づけ、全国から国会議員らを動員して総力戦を展開した。そのうえでの敗北は、府内で無敵だった「橋下人気」の失速を意味する。

橋下氏が共同代表を務める国政での日本維新の会の迷走とも無縁であるまい。従軍慰安婦をめぐる発言など、橋下氏の言動はこのところ分権改革以外の分野で物議を醸し、参院選で伸び悩んだ。合流前の旧太陽の党、旧維新の会両勢力の不協和音も目立つ。与党寄りの対応も目につき、国民からは方向性がよく分からない政党だと見られ始めているのではないか。

こんな状況では分権改革の旗印も色あせるばかりだ。橋下氏は共同代表辞任を否定した。だが、原点であるはずの都構想が揺らぎ始めた今、大阪府民が期待する大阪再生という宿題と真剣に向き合う必要がある。

読売新聞 2013年10月01日

堺市長選敗北 存立基盤が揺らいだ維新の会

日本維新の会の共同代表を務める橋下徹大阪市長にとっては、手痛い結果である。

「大阪都」構想の是非が大きな争点となった堺市長選で、橋下氏率いる地域政党・大阪維新の会公認の新人候補が、構想に反対する現職の竹山修身氏に敗れた。

大阪維新の会に支援を受けた首長選候補が大阪府内で落選したのは、2010年の結党以来初めてだ。大阪での“常勝神話”が崩壊したと言える。7月の参院選で伸び悩んだ維新の会の退潮傾向が、一段と鮮明になった。

橋下氏の掲げる大阪都構想は、政令市の大阪、堺両市を廃止して特別区に分割し、大阪府と統合するものだ。だが、堺市長選の敗北によって、堺市の参加が見込めなくなったのは確かである。

橋下氏は、敗因に関して、自らの政治手法に対する批判や都構想を有権者に十分説明できなかったことを挙げている。

選挙戦で竹山氏は、都構想で「堺の自治が奪われ、地域がバラバラになる」と繰り返した。海外交易を通じて自治都市を形成し、経済、文化の拠点にもなった歴史のある堺市の有権者に、そんな訴えが響いたに違いない。

維新の会は、府と政令市の「二重行政」の弊害を解消できるとして都構想に理解を求めてきたが、堺市ではそれほど二重行政が問題になってはいない。有権者の多くは、都構想のメリットに共感できなかったのではないか。

都構想では、14年秋に大阪市の住民投票が予定されている。今後、大阪市でも区割りによって地域が分断されることに、市民の懸念が広がりかねない。

橋下氏が住民投票で必要な過半数の支持を得られるかどうか、予断を許さないだろう。

橋下氏は、敗北の責任は認めながらも、共同代表の辞任は否定した。地方政治と国政の二足のわらじをはき続ける考えだ。

橋下氏は、野党再編を唱えている。次期衆院選に向けて、自民、公明両党に対抗できる勢力の形成を考えている。

一方で、安倍政権にとって維新の会は、国会改革や憲法改正を進めるうえで、連携相手となり得る存在である。

地元大阪での存立基盤が揺らいでいては国政に対する維新の会の影響力に陰りが生じる。都構想に集中する意向を示す橋下氏には、そんな危機感もうかがえる。

橋下氏と維新の会は、果たして巻き返せるだろうか。

産経新聞 2013年10月01日

橋下維新敗北 「代わる」より「変わる」だ

大阪府堺市長選で「大阪都構想」に反対する現職の竹山修身(おさみ)市長が再選を果たした。

都構想を掲げ、大阪維新の会の新人候補を立てた橋下徹大阪市長にとっては大きな打撃だ。大阪府内の首長選では初の敗北でもある。

橋下氏は「代表として重大な責任がある」と語ったうえで、日本維新の会共同代表の辞任などは否定した。だが、自身の求心力低下に加え、国政レベルで維新の影響力が弱まることも避けられまい。

維新は野党再編の核としての期待も集めてきた。自民党の「1強多弱」と呼ばれる状況下で埋没するのではなく、党立て直しに取り組むことが急務である。

大阪都構想は理念の段階で、まだ具体的な制度設計も区割りもできていない。竹山市長の「堺がなくなる」という訴えが支持された形だ。橋下氏は「(都構想が)誤解された」と反論するが、説明不足や対抗馬擁立の手法が堺市民の反発を招いた面もあるだろう。

橋下氏は堺市抜きでも大阪府・大阪市の合体を進める方針だが、政令指定都市が不参加では意義が薄れる。堺市も交えた協議を模索すべきだ。あらためて二重行政を解消し、大阪の浮上をめざす原点に立ち返ることが求められる。

維新は、大阪維新の会と旧太陽の党との寄り合い所帯で、政党本部を大阪に置く。国会議員ではない橋下氏や松井一郎幹事長(大阪府知事)が司令塔となる特異な形態をとってきた。

選挙で看板となる橋下氏の存在が接着剤となっていたが、求心力低下は第三極を率いる党としてのまとまりを失わせかねない。

都構想についても、維新全体としてどれだけ重点を置いていたのか疑問だ。その他の政策面で、維新がどれだけイニシアチブを取れるかが問われよう。政策の練り直しや優先順位付けが重要だ。

維新は憲法改正の発議要件を緩和する96条改正に賛成するなど、自民党とともに憲法改正勢力の一翼を担う存在といえる。その方向性を維持し、国家を論じあう政党の姿を明確にすべきだ。

政治家としての橋下氏は、国歌斉唱時に教職員に起立を義務付ける国歌起立条例を成立させた実績もある。橋下氏は「僕の態度や政治手法に大きな批判がある」とも述べた。代表のまま出直しを図るなら、自身が変わるしかない。

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