イラン核問題 機逃さず解決へ土台作れ

朝日新聞 2013年09月29日

米国とイラン 対話の機運を逃すな

世界の和平と安定に影響力をもつ大国同士でありながら、35年近く絶縁状態を続けている。米国と中東のイランは、そんないびつな関係にある。

欧米の自由主義と厳格なイスラム教シーア派。両国が背負う文明の衝突は冷戦期から世界に数々のひずみを生んできた。

その首脳同士が、電話で直接会話を交わした。1979年のイラン革命での断交以来、初めてのトップ対話である。

わずか15分とはいえ、かつて「大悪魔」「悪の枢軸」と憎しみ合った宿敵の間柄だ。友好の意思を確かめた意義は大きい。

だが、むろん、この一歩は外交儀礼に過ぎない。実質的な関係の進展はまだ何もない。国際社会全体で、対話の芽を育てる辛抱強い構えが必要だ。

両国の対立は、諸悪の根源といっていい。イランが反米に転じた革命後、抗争は激化し、80年代のイラン・イラク戦争で米国はイラクに肩入れした。

それがのちにフセイン政権を強大化させ、米自身が打倒したのが03年のイラク戦争だった。世界に残した傷は深かった。

反イラン政策が自らの首を絞める。その構図は原油市場にも通じている。大産油国イランへの禁輸制裁は、米欧の石油大手の市場開拓にも足かせとなり、日本も油田権益を手放した。

一方のイランの疲弊も深い。テロの輸出ともいわれた極端なイスラム主義と反米政策のため孤立し、経済は細った。国民生活の困窮がこの夏、対話重視型の大統領を選んだ主因だ。

不毛な争いをやめるのが理にかなうことは明らかだ。双方の国内では今後も保守派が歩み寄りに抵抗するだろう。それでも今の不安定な世界には、この対話の機運を逃す余裕はない。

最大の争点は核問題である。イランの疑惑は、周りのサウジアラビアなどに連鎖する核開発のドミノ現象を起こしている。

イスラエルが軍事行動を起こせば、地球規模のテロ戦争にもなりかねない。そんな悪夢を防ぐ責務が、両首脳にはある。

イランがもし米国と歴史的な和解を果たすことがあれば、それは北朝鮮にも核放棄を迫る強力なメッセージとなろう。

まずは、核をめぐる国際交渉の前進を図ることが大切だ。濃縮ウランの国外処理などでは、ロシアが果たす役割が大きい。

折しも、シリア問題をめぐる国連安保理決議が米ロの粘り強い交渉と合意で実現した。

イランは、シリアのアサド政権の最大の後ろ盾でもある。米ロは引き続き、暗雲を吹き払う外交力を発揮してもらいたい。

毎日新聞 2013年10月03日

米・イラン そろそろ融和を考えよ

国交断絶が30年以上も続く米国とイランの関係改善への期待感が高まっている。イランのロウハニ新大統領が国連総会の演説で、核兵器開発疑惑の解消に積極的な姿勢を見せ、同大統領とオバマ米大統領の電話協議も実現したからだ。

双方の融和が進めば、米国の同盟国イスラエルがイランの核関連施設を空爆する危険性も、当面は遠のくだろう。化学兵器をめぐる交渉を通じて米国のシリア攻撃が棚上げになったのに続き、中東が緊張緩和に向かうなら歓迎すべきことである。

もともとイランは中東きっての親米国だったが、1979年の故ホメイニ師(最高指導者)によるイスラム革命後、米国を「大悪魔」と呼ぶ国に一変した。直後に起きた在イラン米大使館占拠人質事件は400日以上に及び、屈辱を味わった米国民にはイランとイスラムをめぐる深刻な「トラウマ」が残った。

これが米政界、ひいては世界に大きな影響を与えるのだが、雪どけの機運がなかったわけではない。クリントン政権は90年代末、ハタミ・イラン大統領が説く「文明間の対話」に強い関心を示し、控えめながらイランと文化交流を進めた。

石油産業と縁が深いブッシュ政権も、産油国イランとの関係改善をうかがった。2001年の米同時多発テロ後、イランを「悪の枢軸」と呼んだブッシュ大統領も、翌年の訪日では対イラン関係で日本の仲介を求めている。米国には「トラウマ」もあるが、少なからぬ企業がイランとの交易を望んでいるのも確かだ。

対イラン関係が良好な日本も、米国の圧力により油田の利権を手放した。米・イランの関係改善は日本の利益にもつながるはずである。

そろそろ両国は対立から融和に踏み出してもいい。イランは伝統的にシリアと親しく、フセイン政権後に発足したイラク政府との関係も緊密だ。イランと米国がいがみ合えば中東は一向に落ち着かないという判断もオバマ大統領にはあるだろう。

イスラエルは「地図から消される」とか、ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)は「作り話」などと公言したイランの強硬派、アフマディネジャド前大統領は去った。だが、米・イランの関係改善を阻むもう一つの障害、核疑惑の行方は不透明だ。国連安保理常任理事国(米英仏露中)とドイツは今月中旬、イランとの核協議を再開するが、濃縮ウランの国外搬出案も含めて、イランがどんな具体策を打ち出すかが焦点になる。

本当に核兵器を製造する意図がないなら国際社会が納得できる対応をすべきである。国連制裁に疲れての苦しまぎれの演出なら、イランの信用はさらに下落するだけだ。

読売新聞 2013年09月30日

米イラン会談 核問題の外交解決につなげよ

対話で終わらせてはなるまい。具体的な実績を粘り強く積み上げていくことが肝要である。

オバマ米大統領が、国連総会出席のため滞米中だったロハニ・イラン大統領と電話で会談し、イラン核問題の早期解決を目指すことで合意した。

米国とイランの首脳が言葉を直接交わすのは、1979年のイラン革命以来初めてだ。

革命でイスラム政権が誕生してから、米国とイランは断交し、敵対的な関係を続けてきた。首脳会談が行われたこと自体、外交上、大きな意味があるといえよう。

イランの核兵器開発疑惑が深刻化して以降、米国は国際社会を主導してイランに経済制裁を科し、疑惑の払拭を迫ってきた。

だが、疑惑解明は進まず、米国内では政権のイラン政策に対する不満が募っていた。オバマ氏は行き詰まった事態の突破口として、直接対話を選んだのだろう。

ロハニ師にとっては、会談で対米関係を打開し、制裁緩和を引き出す狙いがある。制裁でイラン経済は原油輸出が半減するなど悪化の一途をたどっているからだ。

ただ、ロハニ師は国連演説で核兵器を保有する意図はないと強調しつつも、ウラン濃縮は「譲れない権利」と訴えた。これでは従来のイランの主張と変わらない。

「核の平和利用」を隠れみのにして核兵器を開発するのではないかという疑いは晴れまい。

オバマ氏が記者会見で、イランが核兵器を開発しないことを示す「有意義、透明かつ検証可能な行動」を取らぬ限り制裁は解除できないと述べたのは当然である。

来月中旬には、イランと国連安全保障理事会常任理事国及びドイツによる、核問題を巡る協議が開かれる。イランは、核爆弾製造につながる濃縮度20%ウランの生産停止や国外搬出など、具体的な措置を提案するべきだ。

気がかりなのは、イラン国内に少なからず存在する対米強硬派の動向だ。最高指導者ハメネイ師の意向も今後の事態を左右する。ロハニ師は粘り強く国内対応を続ける必要がある。

イランの核開発は中東全体の不安定要因だ。イスラエルとの軍事緊張も高まっている。イランはまた、テロ活動を支援しているとの非難も受けている。

イラン核問題が収拾に向かえば、中東全体の緊張関係に好影響がもたらされるのではないか。オバマ氏にも、中東戦略を意識して、イランとの関係改善に取り組む姿勢が求められよう。

産経新聞 2013年09月29日

米イラン首脳対話 歴史的和解の一歩とせよ

国交断絶が30年以上も続いている米国とイランの大統領が断交以来初めて電話で協議した。

オバマ米大統領は協議について「困難な歴史を乗り越える展望を示すものだ」と述べ、関係改善に意欲を見せた。歴史的和解の第一歩となることを期待したい。

関係改善には、イランの核問題の平和的解決に向けた前進が欠かせない。イランは、核兵器を持たないという約束が口先だけではないことを示さなければならない。

イランのロウハニ新大統領は国連総会演説のため訪米した。米側は当初、両大統領の直接接触を模索した。イラン側は国内事情を理由に断り、ロウハニ師の米国滞在中の電話協議となった。

首脳間の直接対話は、穏健派のハタミ元大統領の時代にも実現しなかった。最高指導者のハメネイ師は今回、「英雄的な柔軟性」を口にし、ロウハニ師の対米姿勢の軟化に一定の支持を与えているとみていいだろう。

核問題をめぐり、両大統領はすでに書簡のやりとりをしている。首脳同士の信頼醸成は、関係改善を目指す上で有用だ。

米国は、イラン・イスラム革命の1979年に発生したテヘランの米大使館占拠事件をきっかけに翌年、イランと断交した。

米側は、イランを北朝鮮などと並ぶ「悪の枢軸」と位置づけもし、イラン側では米国はなお「大悪魔」である。関係改善の道は容易ではあるまい。

ロウハニ師は融和路線を強調し、総会演説でイランに核兵器保有の意思はないと表明した。米・イラン外相会談も実現させた。

こうした言動が、国連や欧米による経済制裁の緩和を狙った演出であっては困る。

核問題を話し合う米英仏独露中の6カ国とイランは国連本部で外相級協議を行った。10月中旬の実務者協議でイランは、核兵器疑惑を晴らすための具体案を示さなければならない。

両国関係の改善は中東の情勢全体にも大きな影響を与える。

国連安保理は、シリアの化学兵器全廃を義務づける決議案を全会一致で採択した。国際社会は内戦の終結も目指さねばならない。シリアのアサド政権に影響力を持つイランの果たすべき役割は小さくない。その意味からも、米・イランの歩み寄りは不可欠である。

産経新聞 2013年09月26日

イラン核問題 機逃さず解決へ土台作れ

イランのロウハニ大統領が国連総会で演説し、自国に核兵器保有の意思がないと言明して、核問題をめぐる協議に前向きな態度を示した。

ロウハニ師は8月、反米強硬路線のアフマディネジャド氏に代わり、国際融和を掲げて大統領に就任した。口約束に終わらないよう求めたい。

演説では、「イラン国防に核兵器などの大量破壊兵器が存在する余地はない」とし、「米国との緊張は望まない」とも表明した。

オバマ米大統領もそれに先立つ総会演説で、「核問題の解決はお互いの利益と信頼に基づく、違った関係への第一歩となる」と呼びかけた。すでに、ロウハニ師との書簡のやりとりなどを通じ、核問題の外交解決を促している。

イラン側に歩み寄る兆しが見えてきたこの機を逃すことなく、米国をはじめ国際社会は、イラン核問題解決への土台を再構築していかなければならない。

差し当たり注目されるのは、国連総会の場を利用して26日に開かれる、米英仏独露中6カ国とイランとの外相級協議だ。4月の前回協議は物別れに終わった。米国とイランは30年余も国交を断絶しているが、ケリー国務長官とザリフ外相の直接の顔合わせとなる。

核開発がイランの言う通り「平和目的」なら、軍事利用の恐れがないようにする措置が必要だ。その具体案に踏み込んでほしい。

イランに対しては、核疑惑を理由に、武器移転禁止などの国連安保理制裁に加え、欧米がイラン産原油の禁輸、イラン中央銀行との取引禁止などの制裁を科し、同国経済は窮地に立たされている。

イラン側の最大の狙いは、制裁緩和を引き出して、この虎口を脱することにあろう。核問題で最終決定権を有する最高指導者のハメネイ師も、柔軟姿勢への転換を支持しているとの見方もある。

制裁、特に金融制裁は効いている。締め付けを性急に緩めず圧力にして、外交でイランを核開発断念に追い込む必要がある。

中東地域大国、イランの核開発は、オバマ氏自身が認めているように、シリアの化学兵器保有・使用の問題とは比較にならないほどの戦略的な脅威である。

そのシリアの化学兵器使用問題では、オバマ氏は優柔不断を批判された。イラン核問題では、困難を克服して解決に導き、米国の強い指導力を発揮してほしい。

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