朝日新聞 2013年09月28日
柏崎稼働申請 やるべきことが違う
いったい、自分が置かれている立場をわかっているのか。それが、多くの国民の受け止め方だろう。
東京電力が、柏崎刈羽原発の6、7号機(新潟県)について原子力規制委員会に新規制基準への適合審査を申請した。広瀬直己社長は6、7号機以外の原発も順次、再稼働への準備を進める考えを示した。
論外だ。
東電は原発事故の当事者である。福島第一原発では、事故の収束どころか汚染水漏れなど新たな難題がのしかかる。いまは福島にすべてを集中すべきときだ。他の原発に人手を回す余裕などあるはずもない。
にもかかわらず、東電が再稼働にこだわるのは、このままだと再建計画が破綻(はたん)するからだ。
原発が動かず、火力発電の燃料費負担がかさんで3期連続の赤字になれば、「銀行からの融資が受けられなくなる恐れがある」という。
仮に時間がかかっても、再建計画に盛られた柏崎刈羽の再稼働に向けた手続きを踏んでいれば、資金手当ては何とかなる。そんな思惑ではないか。
しかし、事故に伴う損害賠償や除染、廃炉などすべての費用を東電に負担させることを前提とした再建計画がもたないことは、すでに明らかだ。
であれば、見直すべきは再建計画である。再稼働を急ぐことではない。
問題は、安倍政権の姿勢だ。
国は東電の大株主でもある。汚染水問題では、政府が前面に出る態勢へと改めたものの、東電の経営問題をめぐる議論はほとんど進んでいない。
再建計画の見直しは、東電では背負いきれない費用を、国費の投入や料金値上げでまかなうことにつながる。不満の声もあがるだろう。
目先には、消費税の増税も待ち構える。アベノミクスにみそをつけることにもなりかねない不人気な政策に手をつけるのは、後回しにしたい。そんな思惑が首相周辺にあることは想像に難くない。
だが、それでは汚染水問題でのリーダーシップ宣言も瞬く間に色あせるというものだ。
短期的な経済合理性や過去のしがらみから、必要な情報の共有や対策を怠り、原発を推進すること自体が目的化したことが福島事故を招いた。
今また、実体のともなわない再建計画にこだわっていれば、事態は悪化するだけだ。
原発をとりまく、そんな体質を改める。それこそ、事故の重い教訓であるはずだ。
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毎日新聞 2013年09月28日
東電再稼働申請 福島事故の収束が先だ
東京電力が柏崎刈羽原発(新潟県柏崎市、刈羽村)6、7号機の再稼働に向けた安全審査を申請した。同県の泉田裕彦知事が、条件付きで申請することを承認したためだ。
しかし、東電は福島第1原発事故の当事者である。再稼働の前提として、汚染水処理など事故の収束に真摯(しんし)に取り組み、企業としての信頼を取り戻す必要がある。
泉田知事が審査申請を認める条件にしたのは、地元自治体の了解なしにフィルター付きベント(原子炉の破損を防ぐため、放射性物質をできるだけ除去して排気する装置)を使わないことや、県との協議で改善する必要が出てくれば申請内容を修正するということだ。
東電に対する根強い不信感の表れといえる。東電は7月、審査申請することを地元の頭越しに決めた。そんな地元軽視の姿勢が、不信感を強めた。それから3カ月近くかけて申請容認にこぎつけたが、安全審査を通っても再稼働には県の同意が欠かせない。事故時に住民被ばくを避けるための防災計画などを巡り、地元自治体と協議を重ねて信頼回復に努めなければならない。
一方で、泉田知事の対応も納得できない。審査申請を厳しく批判してきた知事が、条件付きとはいえ容認に転じた理由がよく分からない。県民の安全にかかわることだけに、分かりやすく説明してほしい。
そもそも東電が原発を再稼働するには大きなハードルがあるはずだ。原発の安全神話は崩れた。稼働を認めるためには、事故が起きても適切な対応で住民の安全を守ってくれるという信頼感がなければなるまい。
ところが、福島の事故で東電の対応は後手に回り、大量の放射性物質をまき散らした。その後も不手際は続き、原子炉建屋の敷地内に流れ込んだ地下水が、汚染されて海に出た。高濃度の汚染水貯蔵タンクからも漏水した。地下水の敷地への流入はやまず、日々大量の汚染水が発生している。
東電は再稼働の前提として、事故収束に全力を傾けるべきだ。失墜した信頼を回復できなければ再稼働への理解は得られまい。
東電が今、前のめりになるのは、事業継続に不可欠な銀行融資を得るため経営計画の見直しを迫られているからだ。3期連続の赤字を避けるには、原発の再稼働か電気料金の再値上げが避けられないという。
今回の審査申請で、ひとまずはしのげる可能性が高まった。しかし、東電の経営は綱渡りが続く。安全性と経済性をはかりにかける事態は避けるべきだ。事実上国有化した政府は、東電の将来像について真剣に検討する必要がある。
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読売新聞 2013年09月28日
柏崎刈羽原発 再稼働への険しい道は続く
首都圏の電力安定供給に欠かせない東京電力柏崎刈羽原子力発電所の再稼働へ、ハードルを一つ越えた。とはいえ、今後の道のりは険しい。
東電が、柏崎刈羽原発6、7号機について、再稼働の前提となる安全審査を、原子力規制委員会に申請した。
申請に反対していた地元・新潟県の泉田裕彦知事が、住民の安全対策で協議を続けることなどを条件に容認したためだ。
世界で最も厳しいとされる新規制基準で、原発の安全性を確認するのは有益だろう。遅ればせながら泉田氏が申請を承認したのは、当然の判断と言える。
しかし、新潟県が一方的に承認を取り消せる点は問題だ。
事故時に原子炉の気体を外部に放出して破壊を防ぐ「フィルター付き排気設備」の設置に関し、安全協定に基づく新潟県と東電の協議が不調だった場合、承認を無効とする条件も付けられた。
法的拘束力のない安全協定をタテに、規制委の審査に待ったをかけるのは行き過ぎだろう。
原発の立地自治体が住民の安全を心配し、政府などに対応を求める姿勢は理解できる。
ただ、排気設備を含めて原発内の施設の安全性は、規制委が専門的に確認するルールになっている。法的権限のない自治体が、審査へ過度に介入すれば、無用の混乱を招くばかりである。
柏崎刈羽原発を再稼働できない東電は、燃料費の高い火力発電への依存度が高まり、経営が悪化している。今年度に経常利益を黒字化するという経営目標の達成は極めて困難な状況だ。
このままでは、福島第一原発の事故収束や電力安定供給にも支障が出かねない。
東電が再び大幅な料金値上げで収支改善を図る方法もあるが、管内の家庭や企業は大打撃を受けよう。日本再生のためにも、安全性をしっかり確認し、柏崎刈羽原発を再稼働するのが最善策だ。
規制委の安全審査をパスした後は、新潟県、柏崎市、刈羽村の3立地自治体が、再稼働を了承するかどうかが焦点となる。
泉田氏は政府や国会の事故調査委員会が行った福島第一原発事故の検証が不十分だとして、柏崎刈羽原発の再稼働前に、徹底して検証・総括するよう求めている。
事故の全容解明には、相当の年数を要しよう。それまで再稼働を一切、認めないつもりなのか。泉田氏は、真意を分かりやすく説明する必要がある。
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産経新聞 2013年09月30日
柏崎原発申請 再稼働へ迅速審査求める
東京電力が柏崎刈羽原発(新潟県)6、7号機の再稼働に向け、原子力規制委員会に安全審査を申請した。地元の泉田裕彦知事が条件付きながら、東電の申請を認めたことを受けた。
柏崎刈羽原発は首都圏に電力を供給する重要な役割を担う。規制委は迅速に審査を進め、早期の再稼働につなげてほしい。
再稼働にあたっては地元の了解も必要となる。安倍晋三政権も原発立地自治体の理解を得る努力をするとしてきた。政府は安全協定を根拠に東電と対立する泉田氏と調整し、原発の運転再開を主導する責務を忘れてはならない。
東電は、7月初旬の新安全基準の施行と同時に安全審査を申請する方針だったが、泉田氏の同意が得られなかった。宙に浮いたままだった申請にこぎ着けることができたのは一歩前進といえよう。
しかし、泉田氏は申請容認にあたり、原発事故時に放射性物質の放出を抑える「フィルター付き排気装置」を使用するさいには、事前に地元了解を取り付けることを条件にした。
だが、この条件は問題だ。一刻を争う緊急時の安全対策で、運用に法的根拠のない地元独自の煩雑な手続きを課すことになるからである。早急に見直さなければならない。
柏崎刈羽原発の審査は、敷地内を走る断層の評価も課題だ。規制委は予断を持つことなく、科学的な知見にもとづく客観的な審査に徹してほしい。他の電力会社の審査も進行中であり、必要なら人員などの体制を増強して遅滞なく作業を進めるべきだ。
東電は昨年9月、原発停止に伴って発電コストが上昇したため、電気料金を大幅に引き上げた。
一方、同社の再建に向けた経営計画では、今年度中に柏崎刈羽原発7基のうち4基の再稼働を予定している。これが大幅に遅れる事態になれば、追加値上げを迫られる可能性が強まる。
来年4月には消費税率が8%に引き上げられる。これに電気料金の追加値上げが加われば、中小企業などへのダメージは大きい。景気への影響も避けられまい。
福島原発の汚染水処理や被災者への事故賠償を円滑に進めるには、東電経営の持続性を確保しなければならない。そのためにも、政府が責任を持って再稼働に導く姿勢を示すべきだ。
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