復興法人税廃止 被災地への影響を避けよ

毎日新聞 2013年09月26日

復興法人税廃止 不公平感埋める説明を

安倍晋三首相は東日本大震災の復興財源である復興特別法人税を1年前倒しで廃止すると明言した。来年4月に消費増税することを前提とした経済対策の柱にする意向だ。

復興増税は個人の所得税にも上乗せされている。「法人税だけ廃止するのは不公平だ」との声が与党からも上がっている。安倍首相は企業を支援し賃金を上昇させると強調しているが、保証はあるのだろうか。この疑問を解消する説明が足りない。

復興に必要なお金は25兆円と見込まれている。このうち10.5兆円を企業と個人が負担し、歳出削減や政府の保有株売却といった税外収入などで14.5兆円を捻出する計画だ。法人税は2014年度まで3年間、所得税は37年まで25年間増税することになっている。法人税の増税を1年前倒しで打ち切れば、企業にとって9000億円の負担減になる。国税と地方税を合わせた法人に対する実効税率は東京都の場合、38.01%から35.64%に下がる。

復興増税は国民全体で被災地の復興を進めるものだ。課税対象を広くし、より公平感のあるものにしようとまとめられた。法人税だけ廃止されることに「企業優遇だ」との批判が出るのはもっともだ。個人に影響の大きい消費増税の対策としてであればなおさらだ。

安倍首相は法人減税を賃上げや雇用拡大の即効薬と位置づけ、「企業が活力を維持することによって、必ず賃金に反映させるようにしていく」と強調する。減税が所得増に結びつけば消費が増え、企業の売上高も上がり、景気の本格的回復に向かうとの主張だ。

アベノミクスで大胆な金融緩和を行い、円安が進み輸入品を中心に物価が上がっている。消費増税も予定されているなかで、賃金が今のままなら家計は苦しくなり、アベノミクスは行き詰まる。所得税減税すべきだとの主張もある。だが、安倍首相は企業支援を優先させる考えだ。

規制緩和などを通じて投資や雇用拡大をしやすい環境にするのが本来の政策だ。企業が減税分をため込んだり、海外投資を増やしたりすれば日本経済への恩恵は限られる。減税されるお金を何に使うかは企業に委ねられるはずだ。どうやって賃金や設備投資に回させる仕組みにするのか、納得のいく説明が必要だ。

復興財源は9000億円足りなくなるが、25兆円に影響させない考えだ。被災地を考えれば当然と言える。今年度税収が増える分などを回すようだが、本来は財政再建のためのお金だ。それを使うなら、持続的な景気回復につなげる筋道を具体的に描くべきだ。減税を一時だけの景気テコ入れ策にしてはならない。

産経新聞 2013年09月25日

復興法人税廃止 被災地への影響を避けよ

政府・与党が復興特別法人税を1年前倒しで廃止する方向で検討に入った。来年4月の消費税増税を控え、安倍晋三政権が景気の腰折れを防ぐ経済対策の一環と位置付けているものだ。

与党内には復興財源への影響を懸念して反対する声もあるが、日本企業の競争力向上にもつながる。前倒し廃止は必要だろう。

経済対策には、企業に対して賃金の引き上げや設備投資を促す減税も盛り込む方針だ。法人税減税で恩恵を受ける産業界は、日本経済の成長に向けて賃上げや投資拡大に取り組む責務がある。

所得税と法人税は現在、東日本大震災の復興に充てるため期限付きで増税されている。復興法人税は来年度末に廃止予定だったが、これを今年度末に1年前倒しすることで調整中だ。法人税は約9千億円の減税が見込めるという。

安倍首相は一方で、復興財源規模を19兆円から25兆円に拡大し、被災地の復興を加速させる考えを示してきた。首相が「前倒し廃止は、復興財源の確保が前提だ」と強調しているのは当然だ。

与党内には復興財源の減少などを心配し、前倒し廃止に反対の意見もある。廃止にあたっては、景気回復に伴う税収の上振れ分を復興財源に必ず充当することを明記するなどの工夫が欠かせない。

被災地の復興に影響させないとの基本方針を、安倍首相がしっかりと示し、国民の理解を求めなければならない。

安倍政権が進める成長戦略でも、企業による投資を喚起して日本経済を活性化させることを目指している。復興法人税の前倒し廃止は、日本をデフレ経済から抜け出させることにもつながる。

企業も余剰資金をため込んでばかりいては成長は見込めない。政府は経済界や労働界と雇用問題などを話し合う政労使協議を始めたが、賃上げする余裕のある企業は従業員に対する配分原資を増やすなど、企業自らが積極的な行動に移すことが求められる。

一方、国税と地方税を合わせた日本の法人実効税率は、主要国と比べても高い水準にある。復興法人税を廃止しても実効税率は30%台半ばと高止まりしたままだ。

経済界には引き下げを求める声が根強い。日本企業の国際競争力を強化し、雇用拡大などを進めるためにも法人税率を中期的に引き下げることも課題だ。

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